ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章4話 シャーリー、辿り着く!(4)
それは特務十二星座部隊、星の序列第9位、【人馬】の錬金術師であるフィルの固有錬金術だった。
二重の理由で動揺するシャーリー。1つはなぜ【土葬のサトゥルヌス】がフィルの固有錬金術を使えるのかが意味不明だったから、という理由で。もう1つは、その錬金術の効果がこの場、この時において、シャーリーにとって最悪の結果を生み出すから、という理由で。
【介入の余地がない全、つまり一、ゆえに完成品】――、その効果は分子間力の操作で、簡単に言えばありとあらゆる物理攻撃を無効化するという代物。
当然、シャーリーの斬撃も、首には触れたが切断することはできず、事実上の無効化をされてしまう。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい…………ッッ!
シャーリーの脳内でけたたましい生存本能という警音が鳴り響く。
完璧に油断していた。と、いうよりも、敵がフィルの固有錬金術をキャストできるなんて思いもしなかった。
「いくらおれが【介入の余地がない全、つまり一、ゆえに完成品】をキャストしても、ここなら誰も見ていないし、たった1人の目撃者であるお前さえ殺せば、証拠、証言はなにひとつ残らない。相違ないな?」
無感動な声音で告げると、【土葬のサトゥルヌス】は己が漆黒の大剣でシャーリーの極光の大剣に斬撃を喰らわせ、遥か遠くへ弾き飛ばした。まずは武装の解除。
挙句、次の瞬間には背中に展開していた翼を全て斬られる。武装の解除の次は機動力の喪失というわけだ。
必然、落下するシャーリー。それも、上空500mの座標から。
そして【土葬のサトゥルヌス】はシャーリーに逃げられても困るので、遥か上空から地面に激突する前に――、落ちるシャーリーに超高速で迫って――、漆黒の大剣を月に煌めかせながら振りかざすと――、
「これで終わりだねぇ……」
「同意――この殺し合い、私めの勝利」
「は?」
「嘆息――言わなきゃなにもわからない? 貴方様はまんまと私めの作戦に引っかかったということ!」
その瞬間、【土葬のサトゥルヌス】はシャーリーとは別の魔力の胎動を感知する。
先刻、撤退したロイの魔力ではない。彼なら別に問題視しなくていいし、最悪、ノーガードでやりすごしても問題ないのだが、しかし、今感じているこれは明らかに自分と同等の実力を誇る魔術師のモノだ。
そして――、
「――――詠唱破棄、【繰り返した消滅の果ては空っぽの世界】――」
その魔術の名前が響いた瞬間、【土葬のサトゥルヌス】に向かって空間を消滅させる球体型の虚無が奔った。
なにも見えないのに、全てを消滅させる虚無がこちらに向かっているのが見える。
なにも聞こえないのに、全てを無に還す攻撃が迫っている音が聞こえる。
躱さなければ絶対に死ぬ……ッッ!
いや、死ぬだけならまだいいが、亜空間に飛ばされでもしたら、魂のストックがなくなるまで餓死し続けるハメになってしまう……ッッ!
衝動的に【土葬のサトゥルヌス】は【人体錬成・零式】をキャストして、自分の身体を一度分解、別の場所に再構築、要するに疑似的な空間転移をしてみせた。
その次の瞬間、先刻まで【土葬のサトゥルヌス】がいた座標に空間消滅の魔術が到着し、そして無色透明の爆発が炸裂する。
しかもそれだけではない。
「使用――【限定的な虚数時間】! そしてもう一度【純白三対の天使翼】!」
「クッ……ッッ! 回復を許してしまったか……ッッ!?」
「オイ、テメェ、よそ見なんて余裕じゃねぇかァ!」
ハッ、と、声がした方向に【土葬のサトゥルヌス】が視線をやると――、
そこには――、
「――特務十二星座部隊の星の序列第3位、ロバートとやらか。なぜ意思疎通もなしにシャーリーとやらの援軍に馳せ参じたんだい?」
「アァ!? バカじゃねぇのか!? 時間が止まってんのに俺様だけ動けるんだぞ!? その事実そのものが援軍を待っていますのアピールじゃねぇか!? しかもシャーリーはバカスカと魔術の光を明滅させてやがる! ありゃァ、どっからどう考えても、自分はここにいますのアピールだっつーの!」
「なるほど、粗野であることと頭が悪いことは同義じゃなかった、ってことだねぇ」
「それでよォ? 全体は中途半端だが、一番大事なトコだけはきちんと聞こえていたぜ? ナァ、魔王軍最上層部の【土葬のサトゥルヌス】さんよォ?」
そこには【土葬のサトゥルヌス】が言ったように空属性魔術の天才、【双児】のオーバーメイジの竜人、ロバート・アポスト・ルディ・セントが滞空していた。
夕焼け色の短髪を夜風に遊ばせながら、同じく夕焼け色の双眸で【土葬のサトゥルヌス】に睨みを利かせる。
と、そこで【土葬のサトゥルヌス】はシャーリーのあまりにも単純で、子供にも思い付くような作戦内容を察してしまう。
「やられたよ……。よくよく考えてみればそのとおりだ……。エクスカリバーの使い手がこの時の流れが停止した世界で動けたんだ。なら当然、仲間の中の誰かをエクスカリバーの使い手と同じ状態、この世界でも動けるようにしておくのは自然だよねぇ……」
「まぁ、お前らが縦横無尽に動きすぎたせいで、魔術の狙いを定めるのに時間がかかったがな。が、それも無事に終わったことだ。2対1だぜ? どうする? 自殺するか? 俺様たちに殺されるか?」
そう、ロバートの言うとおり、これで完璧に2対1だ。しかもロバートはもちろんだが、シャーリーも時間逆行の魔術をキャストしたので『一応』完璧な無傷。
一方で【土葬のサトゥルヌス】はズタボロだった。
ならば当然――、
「やだなぁ……、撤退なんてカッコ悪いこと……」
「アァ!? 逃げれると思ってんのか!?」
「もちろん、ほら」
と、言うと、【土葬のサトゥルヌス】はその場から消失し始める。まるで人型の色が付いた霧が晴れるように、徐々に大気に溶けて透明になっていくように。
シャーリーの作戦が至極単純なら、今の【土葬のサトゥルヌス】の行動も至極単純。要するに王都に滞在している間、永続的に脱出用の魔術を脳内にストックしていた、ということだろう。
「1つ、シャーリーとやらにいいことを教えてあげよう」
「…………ッッ、察知――察しているから言わなくていい」
「つれないねぇ……、まぁ、お察しのとおり、さっきの別の世界線から別の現実を持ってくる魔術を見ただろ? 要するに――」
「回答――魔王は私めたちよりもよっぽど強い、ということ」
「正解だ。それじゃあ、また会える日まで、ってことで」
別れの挨拶を告げると、完璧に【土葬のサトゥルヌス】は姿を消した。
残されたのはシャーリーと、彼女の応援に駆け付けたロバートだけ。
「チッ、どうせ用意周到に撤退の準備をしていて、無駄に終わるとわかっていたから邪魔しなかったが……、……、クソ、空属性の魔術は使われていないな。空間転移の真似事のクセに。これじゃ、魔力の痕跡を少なくとも俺様じゃ追跡できねぇ。オイ、シャーリー、今のあいつから時属性の魔力は感知できたか?」
「否定――今の撤退に時属性の魔力は使われていない」
このやり取りを経て、ようやく2人は地上に降りたった。
が、地上に足を付けた瞬間、シャーリーはガク……ッッ! と、膝から崩れ落ちる。
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