ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章7話 ニコラス、死神の包囲を完了する。
21時46分――、
死神の包囲が完了した。あとは一斉攻撃を開始するだけである。
東西南北の四方でも、それに北東、南東、南西、北西を加えた八方でもない。流石に手を繋いで円環を作る、とはいかないが、それでも充分に、ほとんど360°から死神を囲っていると言っても過言ではなかった。
広場、建物の屋根の上、木々の梢の上、トドメと言わんばかりに魔術で浮いている空中。住民の避難が完了したエリア全域にて、それならお構いなし、と、言わんばかりに、いたるところで配置に着く七星団の団員たち。
先刻、結界に異常が見受けられ、それに気付いた団員も多々いたが、彼らは仲間を信じているし、軍事力を持つ組織に所属する一員として現実を見ても、他の部隊のやることを気にして、自分たちがやるべきことを疎かにするなどナンセンスだった。それではなんのための配置、役割分担なのかわからなくなってしまう。
ゆえに、結界は結界の担当に任せて必然。
死神を包囲する団員たちに、結界になにかが起きたことによる焦りは特に見受けられなかった。みな一様に、例え焦ってしまっても、それでも冷静さを維持できるように努めている。流石は戦争経験者の集団と言ったところだろう。
それを指揮するのは特務十二星座部隊、星の序列第11位の【宝瓶】、ニコラス・グラァ・ティーチュー・ド・ブラック。
彼は歴戦の猛者だった。若い頃は星の序列第3位まで昇り詰め、数多の戦場、幾重の死線を、例えば今は亡きティナの祖父、元・特務十二星座部隊、星の序列第2位のクラウス・ケットシー・リーヌクロスや、さらにその上、『エドワードの先代の星の序列第1位』と一丸となって駆け抜けた。
彼は今、60年を超える月日を生き、初老と呼んでも差し支えない齢となっている。
通常ならば最前線から退いて参謀司令本部などで活躍する方が適切と言えば適切だろう。
しかし、それはニコラス本人が許さない。
彼の性分は最奥で策を張り巡らせるよりも、最前線で身体を動かす方に傾いていたし、そしてなにより――、
「――死神よ、宣戦布告じゃ! ワシは今生において二度と現れぬほどの莫逆の友、今は亡きクラウス・ケットシー・リーヌクロスに誓った……ッッ! 必ず魔王軍に打ち勝ってみせる、と! 邪魔をするな! 我が道を空けろ! ワシが墓の下で永劫安らかに眠る同胞の悲願を代理し、それに完膚なき終幕を引くまで、貴様に出番は与えない! 不届き者には世界という舞台から退場願うッッ! 柄にもないが、ワシは今、従えているのじゃよ! 国王から預かった選りすぐり部隊を! 騎士が総じて500を超越! 魔術師が総じて1000すら超越! みな須らく玉座を守護する我が同胞! 抜かりはない! 往くぞッッ! 固有魔術、【不浄祓い、またの銘を天罰代理執行術、心身問わず巨悪悉く滅相の方陣】!!!!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………ッッッッッ!!!!!」」」」」
総軍に響き渡る雄叫び。まさにそれは月下に木霊す餓狼の遠吠え、その大合唱さえ彷彿とさせる。いかなる時代、いかなる場所、いかなる敵兵であっても、自軍の士気を高めるのに躊躇う道理はどこにもない。叫びたいだけ叫べばいい。吼え足りないぶんだけ吼えればいい。喉を裂くほど声を張れ。それを咎める仲間はどこにもいない。眼前の死神に、思う存分、我らが心意気を見せ付けるべきであった。
恐らく、死神にそれはつうじない。なにも感じていない、という意味では一緒だが、七星団が弱いからなにも感じないのではなく、そこまでなにかを思う知能がない、という意味で。
しかし、それがどうした、と、ニコラスは一笑に付す。
この咆哮の意味を知らずに消滅に向かうなど、ニコラスからしてみれば憐憫の事柄である。
引き連れた部下を前口上によって鼓舞し、そして部下がそれに応えたあと、ニコラスは己が固有魔術を展開した。
その効果、性質は『敵は弱体化し味方は強化される領域』の展開。ただ、本当にこれだけならあまりにもシンプルすぎて、他の魔術師にも真似事ができるだろう。だが当然、それだけではない。いや、実を言うと本当はそれだけなのだが、ニコラスの固有魔術はその術式の複雑さと、性能の凄さが常軌を逸していた。
重要なのは味方の視界の数と、それに入った敵の視界の数の永遠に続く乗算。
魔術をキャストした味方の眼球を、いわゆる魔眼に変化させ、その視線に敵の弱体化を促す効果を付与するのが第1段階。
さらにその視線にはもう1つ、魔眼の視界に入った敵の眼球を、『視界に入れた敵を強化する魔眼』に変化させる効果を付与させてある。結果、敵から見た敵、敵の視界に入った自軍の兵士たちは強化され、さらにその対象にはニコラスの固有魔術で変化した魔眼も含まれている。これが第2段階。
となると必然、敵はさらに弱体化するのだが、敵の眼球は全てニコラスが掌握して七星団側の物になっているので、弱体化の対象に含まれない。逆に、敵が複数人いてアイコンタクトを取った場合、敵Aの魔眼が敵Bの魔眼だけを強化して、敵Bの魔眼が敵Aの魔眼だけを強化する、ということも充分にありえる。これが第3段階。
七星団を強化する効果を強化された魔眼で、さらにさらに、敵が七星団の団員たちを視界に入れれば、さらにさらに七星団の団員は魔眼と共に強化される。これが第4段階。
そしてこれを魔術が解除されるまで永遠に繰り返すのが第5段階だった。
最後の第6段階は――、
――これを1対1ではなく複数人で同時に行うということ。
「今回は死神が1体だけじゃからのぉ……、十全の効果は発揮できない。が、それでも第1~第6段階の中で、たった最後の1つだけが発生しないだけの話。言ったじゃろ? 騎士が総じて500人以上、魔術師にいたっては1000人以上、合計で1500重以上の弱体化が貴様にキャストされておる」
となると、問題となってくるのはその領域がどこからどこまでなのか、という疑問だが、それが真に障害となるような魔術を、あのニコラスが開発するわけがない。
結論から言うと、領域といっても形は特に定まっていない。これがなにを意味するのかというと、とどのつまり、戦場にいる敵味方を問わない全ての兵士の視界が効果範囲なのである。
ついでに語るなら、魔力切れについても特に心配はない。一種の強化魔術を永遠に乗算させるなんて、気が狂うほどの魔力が必要に思えるが、件の強化には『魔力の運用の効率化』も含まれていて……、それは消費する魔力が徐々に減っていくことを意味していて……、それも永遠に繰り返されて……、いづれはゼロに極限まで近付いていき……、もはやなんでもありと言ってもなにも責められないような絶技である。
「さぁ! いざ尋常に、死神にも寿命をくれてやる! あまり下等生物を舐めない方がいいことを教えてやるわい!」
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