ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章10話 第1特務執行隠密分隊、死を覚悟するしかない。(2)
「 」
「「「「………………ッッ!」」」」
死神は黒いローブを目深に被っていて、その下には本体の骸骨があり、大きな鎌を持っている。だいたい、ほとんどの人が死神と聞けば、そのようなイメージを浮かべるだろう。特にグーテランドでは、ロイの前世の日本以上に、そのイメージが強かった。
しかし上空のそれは、確かにイメージどおりであるが、決定的に違っている。
黒いローブを被っている。
だが、その素材は布ではなく死後の国の黒色の炎だった。死後の国の炎が、たまたまローブという形を取っている。
その下は骸骨だった。
だが、別に人間やエルフの骸骨ではなく、竜の骸骨で、さらに言うならば、骨の材質はカルシウムではなく霊魂だった。
その骸骨は大きな鎌を持っている。
だが、それは物体ではなく、液体でも色が付いている気体でもなく、目に見える虚無が鎌だった。
その情報を、シーリーンたちは知らない。別に死神についての研究を学院でしていたわけではないのだから当然だ。
けれど、本能でそのことをなぜか直感した。
あれはなに……? と、シーリーンもアリスも、イヴもマリアも、みな等しく恐怖した。震えて慄き感性が捻じ曲がる。
その死神に遠近感というモノは適応されないのだろう。視覚で上手く距離を測れない。間合いがわからない。かなり巨大な幻想種が遥か天空に浮かんでいるから、今のように見えている可能性もあるし、幻想種が人型サイズで、この瞬間、ほんの数m真上を漂っているから、今のように見えている可能性もある。
「あ、ああ、ああああ、アリス…………、っ」
「シィ……、シィ、っ…………」
まだ戦ってすらいない。そもそも、死神はまだこちらに気付いてすらいない。敵意や殺意を向けられたわけでもない。
なのに、シーリーンも、アリスも、マリアも、涙が止まらなかった。夜間巡回の前にトイレをすませておかなかったら、失禁していてもおかしくなかった。
闇そのもの、悪という概念にこの中で一番耐性のあるイヴでさえ、目を見開いて、上空のそれを呆然と眺めることしかできない。
「 」
「なに、あれ……? なにも聞こえないけど、でも……、なにか言っている、よね?」
シーリーンの声は間違いなく震えている。涙声と言っても過言ではない。そして、彼女の問いかけには誰も答えられなかった。しかし誰も否定しなかった。
一応、アリスはシーリーンに返事しようとしたのだ。でも、無理だった。自分でもわからないことを他人に説明できるわけがない。
その時、不意にドサ……、という音が路上から聞こえた。
今までは下を確認する余裕がなかった、と、いうより、下を確認しようと考えることさえできなかったが、幸か不幸か、とにかく音が発生したので、屋根の端に一番近かったマリアが、音の発生源を確認した。
そこでは死神を認識して倒れている人がいた。
全員というわけではない。だが確かに倒れている人はいる。
そして倒れていなくても、路上は今の自分たちと同じような状態の人ばかりだった。
「 」
空気を振動させないでなにかを喋る死神。
ふと、死神はようやく地上を見下ろした。第1特務執行隠密分隊が屋根の上にいるのに対し、死神は上空500mぐらいの地点に本当はいる。シーリーンたちのことさえも下に見るような配置だった。
恐らく、命を感知したのだろう。
だから下を向いた。
そして下を向いたら本当に命を発見したのだ。
なら、死神が次にすることなど、1つしかない。
「 minammm殺殺hi冥fffnイイsssメ逝ケ逝逝kkk死h安ンンンン命ggggアii苦kkdU痛ヴァbaammo足イイイminammm殺殺hi救ga虚ssssirrrグvabi黒赤灰天tttreve逝逝qq罰t罪nn精sn…………ッッッッッ!!!!! 」
瞬間、上空に冥府の門が開き、死神が横に鎌を一閃すると、地上は紅蓮の炎に包まれた。
王都炎上。
冥府の門とは、つまり死後の世界への入り口だ。
死体を焼けば灰になる。そして灰は天に昇る。そのことを知ってか知らずか、死神は地上、多くの住民が暮らし、文化を発展させ、高度な社会水準を誇る街、国家において一番国民が集まっており、建物も並ぶ首都に、全てを消滅させ焼け野原に還すかのごとく、炎を放ち、その上で冥府の門を上空に配置する。
まるで灰になった死体を待ちかまえるように。
「ガッ……ァ、ぁ、ぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「イヴちゃん!?」
血涙を流し、吐血し、それでも突然の敵の魔術、いや、魔術を超越えたナニカにも対応するイヴ。可愛らしい女の子のモノとは思えないほど嗄れた絶叫を上げる。光の魔術防壁を展開しているのだが、闇の匂いに敏感ゆえに、死神の攻撃の予兆を感じ取れたのが最後の救いだった。
そんな妹に、マリアはやはり涙を止められず、頬を濡らしたまま名前を呼ぶ。
一方、ようやくハッとして、イヴが守ってくれた周囲の様子を、シーリーンとアリスは確認しようとする。
凄絶の一言だった。
イヴは神に愛されている。そのことを強く認識する光景だった。
目算とはいえ、王都の4分の1の空を埋め尽くすほどの業火なのに、イヴはそれを7割か8割は防ぎきる。
しかし当然、問題がないわけではない。
イヴは今にも脳内に存在する魔術回路を、灼き千切って死ぬような勢いだし、そこまでイヴが全力を出しても、業火の2~3割は地上に届いてしまう。
大火災。
もはやそんな言葉でこの状況を片付けることは不可能だ。
歴史に残るような火山の噴火、それも、1000年に一度レベルの大噴火にも、眼前の一面、視力の限界まで広がるようなこの燃え盛る真紅は匹敵する可能性がある。
これでシーリーンとアリス、そしてイヴの姉であるマリアの無力を誰が責められようか。
こんな絶望、イヴが天才というだけで、基本的には七星団の団員の98%は対処できない。残りの2%は、特務十二星座部隊や、その元隊員や、特務十二星座部隊に所属できていないとはいえ、キングダムセイバーやロイヤルガード、オーバーメイジやカーディナルの階級に立っている強者などだ。
遥か上空に漂う死神。
それは鎌を何度も振って、業火を撒き散らし、イヴの防壁を破壊しようと試みる。
イヴの魔術が限界を迎えるのは時間の問題だった。
言わずもがな、この事態を、第1特務執行隠密分隊がどうにか片付けられるわけがない。
それは絶対である。
覆ることはない。
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