ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章8話 イヴ、促される。(3)



「アリスさん、どうでしたかね?」
「ウソを見抜く魔術をキャストしていましたけど、ウソの反応は一切ありませんでした。マリアさんは?」

「現代知識についての質問に弟くんが答えられたのは、みなさん聞いてのとおりですが、魔術で逆探知しても、弟くんが通話中にいた場所は、星下せいか王礼宮おうれいきゅうじょうって出てきましたね。シーリーンさんは?」
「うん、シィのアーティファクトにも、通話中、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクって文字が浮かんでいたから、少なくともロイくんのアーティファクトからの着信だったのは間違いないと思います」

「こういう時は、セシリアさんに訊くのがいいと思うんだよ!」

 イヴの言うとおり、それが一番だった。
 むしろこういう事態に直面して、それでも上官に直接の確認を試みないなど、愚の骨頂。
 しかし――、

『セッシーはただいま、特務十二星座部隊の会議中♪ ご用の方は、セッシーの部下にお繋ぎするから、ぜひぜひ、そちらまで~』
『はい、もしもし』 と、男性の声。
「突然、申し訳ございません。わたし、第1特務執行隠密分隊の隊長、マリア・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクと申します」

 文字通り、第1特務執行隠密分隊は隠密にしておくべき分隊なのだが、マリアは電話越しの相手に伝えてもいいと判断した。理由は単純明快、第1特務執行隠密分隊が結成されたそのタイミング316話で、セシリア本人が『ちなみに、セッシーはよく特務十二星座部隊の会議とか、枢機卿の会合でアーティファクトの着信に応答できない時があるんだけど、その時でも、セッシーが直々に調査して、この人なら信頼できる! って判断した団員に繋がるから、安心してね?』と発言したからである。

『はい、確認しました。用件をどうぞ』
「死神の件についてです。死神の出現を、第1特務執行隠密分隊だけ、セシリア枢機卿ではなく、別の団員から知らされました。そのことを訝しみ、情報と、これからの行動に対する指示の真偽を確かめるべく、こうして念話を差し上げました」

『問題ありません。死神の件は本当です。指示どおり、現場に急行してください』
「了解です。疑ってしまい、誠に申し訳ございませんでした。通信を終了します」
『了解、通信を終了します』

 発言どおり、通信を終了するマリア。
 無論、この状況で全てを盲目的に信じるほど、マリアはバカではない。上官に対して失礼だとは思ったが、先刻、アリスがロイにしたように、マリアも今回の念話でウソを見抜く魔術をキャストした。

 しかし、それでもウソの反応はしなかった。
 ならばもう、流石に行動せざるを得ない。
 疑念はやまないが、もう自分たちでは、これ以上の真偽を確かめるすべがないのだから。

「マリアさん。怪しいのは私も同じですけど、これ以上は……」
「そうですね。それじゃあ、イヴちゃん」
「うん、【光化瞬動】で跳ぶよ!」

 刹那、4人が光ったかと思うと、その場から消失した。
 間違いなく、指示されたとおり、武器鍛冶職人のピエールの工房の屋根まで跳んだのだ。それに関して言えば、本当に間違いはない。

 しかし――、

「――本来なら、イヴの『覚醒』は来年の予定だった。が、それを、今回の襲撃に前倒しする」

 ほんの数秒前までシーリーンたち4人がいた市場、そこを俯瞰できる建物の屋上に、その男はいた。手には念話のアーティファクトを2つ持っている。

 見たところ年は40代なのに老人のように髪は白く、双眸は紅い。
 180cmに近い背丈に加えて、服の上からでもわかる引き締まった肉体が印象的だ。

 まるで幽鬼、亡霊のような男だった。世界、現実に、救いようがないほど絶望しているかのように、表情には感情が一切見受けられず、退廃的で破滅的で、しかし感傷的な雰囲気を漂わせている。喩えるなら、彼の周りだけ、空間に存在する色彩いろがセピア色になっていて、時間の流れが止まっているような感じ、とでも言えばいいのだろうか。

 ロイが以前戦ったリザードマン、そしてガクト。彼らは魔王軍の軍人として職務を全うして死んだ。そこには確かに軍務を全うしようとする『真面目』という特徴が見受けられた。
 アリシアが以前戦った死霊術師には、強敵との戦いを楽しんでいる節が見受けられて、強いて彼の人としての特徴を挙げるならば、軍人の割には、リザードマンやガクトと相反して、『お調子者』というふうにでもなるのだろうか。事実、彼が『お調子者』ではなく『真面目』ならば、あそこまでノリノリでアリシアと売り言葉に買い言葉合戦、挑発合いをしなかったはずだ。
 最後に、イヴとマリアがつい先日戦ったクリストフは、どこか軽薄だった。まるで舞台役者のような言葉遣いが印象的だったように思えるし、実際、彼が戦闘中に浮かべていた表情は作り物のようだった。強いていうならば、魔王軍のスパイという自分に陶酔しているかのように。

 しかし、その男はなにかが違った。個性がないというわけではない。なのにその個性とは、個性が薄いという個性。人としての性格・自我がないわけではない。なのにその性格・自我とは、他人の記憶に残るようなインパクトが皆無に等しい性格・自我。目も表情筋も、恐らく心も死滅している。なのに魔王軍に所属している以上、なにかしらの目的、つまり意志を持って活動している矛盾、それを抱えている異端がそこにいる彼である。

 さて、七星団にはもちろん、魔王軍にも階級というモノは存在する。そしてその階級を表すのは、制服の肩章けんしょうに付いている星の種類とその数だ。

 その男の肩章には、星がたったの1つ。
 しかし、通常の魔王軍の制服の肩章に付いている星とは、そもそも形が違った。

 それがなにを表しているのかというと――、



「魔王軍最上層部、純血遵守派閥六人、黒天蓋こくてんがいの序列第6位、【霧】のゲハイムニスが与える。イヴ、試練の刻だ。人類の救済のため、王都の民草には犠牲になってもらい、覚醒せよ。そして、俺はそれを利用させてもらう」



 死体の眼球のように光が差さっていない悲しい瞳で、ゲハイムニスはほとんどの感情が死滅したような声で、独り寂しそうに呟く。
 ゲハイムニスほどの実力者ならば、第1特務執行隠密分隊を欺くなど造作もなかった。

 ウソを見抜く魔術? そんなの、自分自身を一時的に洗脳して、自分でもウソと理解しているウソを、己に真実だと思いこませれば、簡単に攻略できる。
 逆探知して念話の相手の座標を特定する魔術? そんなの、『とある方法』で簡単に攻略できる。

 この日、この夜、セシリアが特務十二星座部隊の会議に出席することは知っていたし、マリアが念話した相手だって、すでに殺しており、彼の念話のアーティファクトを強奪、魔術で声を変えて、再度、マリアと念話したのだ。

 当然、第1特務執行隠密分隊が役立たずというわけではないが、いくらなんでも相手が悪すぎた。ゲハイムニスと駆け引きをするならば、特務十二星座部隊レベルの器が必要だったのだから。

「あとはシャーリーが上手くやってくれれば、全ては俺の計画どおりか」

 言わずもがな、ゲハイムニスが言うシャーリーとは、特務十二星座部隊、星の序列第4位のシャーリー・ドーンダス・クシィ・ズン本人だ。同姓同名の別人でも、影武者でもない。

「しかし、流石に騒ぎに乗じてヴィクトリアを殺すのは難しそうだな」

 少し遠く、星下王礼宮城に視線をやるゲハイムニス。

 比較対象がないと彼の強さがよくわからないだろう。
 例えば前回の大規模戦闘で、一時的にもとの姿に戻っていたとはいえ、基本的には幼女化しており、心臓に弾丸のアーティファクトを撃ち込まれ、最後に脳みそを削られて弱体化していたとはいえ、あのアリシアと互角だった死霊術師。彼でさえ、魔王軍の下級幹部だ。幹部には変わりないとはいえ、その上には中級、上級、そしてゲハイムニスが立っている最上層部がある。

 つまり、これからわかるべきことは2つ。

 魔王軍内部において、ゲハイムニスの上には、もう手で数えるぐらいしか実力者がいない=そのレベルの上層部が出張ってきた。
 そして、王都が混乱すれば、必然的に王女であるヴィクトリアに特務十二星座部隊の護衛が付く=自分でもあの12人を相手にするのは厄介=しかし勝てないわけではない=両者が戦えば、王都には壊滅的な被害が及ぶ、ということ。

「まぁ、いい、今回の目的はイヴの覚醒だけだ。ヴィクトリアの殺害は後回しでいいだろう。悪十字あくじゅうじを出し抜き、『ラグナ』に対して打って出る。黒天蓋には黒天蓋の、俺には俺の、悲願があるのだから」


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