ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章7話 イヴ、促される。(2)



「弟くん、わたしは弟くんから現代知識というモノを教わりました」
『? そうだね。この世界の魔術に応用できるかもしれないから、教えてくれませんかね、って、言われたし……。特に物理学について……』

 そう、実はマリアはロイから現代知識を教わっていた。いや、マリアだけではない。戦うことを決めて、その後、ロイにその決意を伝えた段階で、シーリーンとアリスだって、現代知識を彼から教わることになったのだ。無論、戦場で使える知識も多数あるから。

「相対性理論を提唱したのは?」
『アルベルト・アインシュタイン』

「アインシュタインは特殊相対性理論と一般相対性理論、主にどちらが決め手となり、ノーベル物理学賞を受賞しましたかね?」
『どちらでもないよ。決め手となったのは光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明、だね』

「日本で初めてノーベル賞を受賞した物理学者は?」
『湯川秀樹』

「なにが決め手となり、向こうの年号で何年にノーベル物理学賞を受賞しましたかね?」
『中間子の予想が決め手となり、向こうの年号で、西暦1949年に受賞』

 再度、マリアは黙りこくってしまう。
 そんな彼女にジッ……と真剣に視線を送るシーリーンとアリスとイヴ。
 しかし、マリアは口を閉ざしていても意味がない、時間の無駄と理解すると――、

「弟くん……、その、疑ってしまいゴメンなさい」
『いや、大丈夫だよ、姉さん。むしろ疑わない方こそ、せっかくこの世界でボクたちしか知らない情報があるのに、それを符号に使わなくて心配かな? もう七星団に入団して立派なプロなんだし』

「あぅ!」 と、涙目になってしまうイヴ。

「まぁ、それもそうよね」
「それでロイくん? 今夜発動する魔王軍のトラップってなんなのかな?」

 すると、ロイは再度、深呼吸して――、
 引きずられるように、シーリーンたちも生唾をゴクリと呑み込んで――、

『――死神の顕現』

「「「「……は?」」」」
 と、シーリーンたちはみな同様に呆けてしまう。
 今、アーティファクトの向こうのロイは、なにが顕現すると言った? と。

『確かシィたちもクリストフっていう死霊術師と戦ったんだよね? つまりね? 魔王軍は死霊術師をスパイとしてグーテランドに入国させ、そこで彼らに霊魂を解き放つよう命じて、迷える魂を死者の国に連れていく性質上、絶対にきてしまう死神をおびき寄せようとしているんだ』
「そ、それが……っ、魔王軍の狙い! 既存の状態、以前から打ち終えていたスパイを送り込むという戦略を、見事に再利用していますね!」

『まぁ、ボクたちから見たら現状の再利用かもしれないけど、魔王軍から見たら、最初から決められていたことかな? とにかく、それが今夜、顕現するんだ』
「ろ、っ、ロイくん? し、っしし、死神って、あ、あれだよね? 大きな鎌を持っていて、黒いローブを被っていて、なによりも、『死』という概念を司る一種の神様、っていう……っ」

『うん、ボクの前世でもそういう認識が強かったし、こっちでもその認識であっていてよかったよ……』
「……っ、全然よくないわよ! 相手は一種の神様なのよ!?」

 アリスが叫ぶ。人が賑わう市場ではシャワーほどの注目を浴びる大声だった。
 七星団の団員が大声を出すのはマズイ。国民に、なにかあったのか? なんて、不安を抱かせかねない。
 しかし、ロイも、マリアも、そんなアリスを注意できなかった。

『みんなも、シャーリーさんが幻想種、ってことは知っているよね?』

 幻想種――、それは厳密には生物ではない。
 何回も前述しているが、魔力が波を立てると術式になり、そして、以前、ロイとレナードがアリエルと決闘した時、アリエルの固有魔術の原理をレナードが見破った。簡単にまとめると、自然界に予め存在する術式を集めているだけ、と。

 幻想種はそれをさらに複雑にしただけで、根本は一緒だ。
 世界には、水分を生み出す魔術がある。熱を生み出す魔術がある。炭素を生み出す魔術がある。例えばゴーレムなんかには、限りなく自由意思に近い意思を持たせる魔術がある。それこそ死霊術のように、魂を操る魔術がある。

 それらの術式が奇跡的に一ヶ所に重複して、魔術が人間の形をして生きているように、他人からは見える。
 その現象そのものが幻想種なのだ。

「そして、死神もその幻想種に分類される、ですよね?」
『そう、姉さんの言うとおりだよ』
「どういうこと、お兄ちゃん?」

 いまいちピンとこないイヴがアーティファクトの向こうのロイに問う。
 すると、なんとかロイは動揺を押し殺して、子供を諭す親のように、落ち着いて、子供、つまりイヴにも伝わるように伝えようとする。

『わかりやすく言うとね、特務十二星座部隊、星の序列第4位と同じレベルの敵兵が、王都に突然出現する、ってことだよ』
「うえっ!?」 と驚愕するイヴ。

 声に出した驚きは正直、可愛らしいモノであったが、その実、表情には狼狽と動揺と戦慄が浮かんできており、色は真っ青を呈している。
 イヴだって魔術師としてだいぶ才能に恵まれているが、少なくとも現時点では、特務十二星座部隊には届かない。そしてその特務十二星座部隊の隊員本人たちだって、自分と実力が拮抗している敵と殺し合って、周囲に被害を出さない、なんてことは不可能だ。

 それはつまり――、

「王都から……っ、死者が出るのは免れませんねッッ!」
「…………ッッ、そんなの、もう私たちだけで対処なんて……」

『いや、アリス、待ってほしい。ボクが念話したのは第1特務執行隠密分隊だけだけど、今、セシリアさんが他の隠密分隊にも指示を飛ばしているし、参謀司令本部で作戦が決まり次第、流石に隠密分隊以外の部隊にも情報が公開され、合同作戦が開始されるはずだ。スパイはすでに捕まっているか殺害されているかで、99%対処できているから、もう情報を公開してもリスクは少ないし、なによりも、それほどまで事態は逼迫ひっぱくしている』
「逼迫している状況だけど、だからこそ援軍が期待できる。喜んでいいのか怖がればいいのか、わかりませんね……」

『それにもう1つ、流石に死霊術師に入国を許して、王国の領土内で霊魂を解き放たれる。その結果、死神を呼び寄せることになった、なんて、脅威ではあるけど、引っかかったら間抜けすぎるからね。七星団はそこまで無能集団じゃない。つまり――』
「つまり当然、七星団も対処法をマニュアル化している、ってこと?」

『シィの言うとおり。で、新兵であるシィたちは、そのマニュアルを知らないよね? 事態のわりにだいぶ前置きが長くなっちゃったけど、そのマニュアルに従った作戦をシィたちに伝えるのが、今回のボクの念話の目的なんだ』
「りょ、了解! だよっ」

『イヴは【光化瞬動イデアール・リヒツン・ラオフェン】を使えるよね? それを使って、第1特務執行隠密分隊のみんなで、職人居住区画までジャンプしてほしいんだ。具体的には、職人居住区画5-3-1、武器鍛冶職人のピエールさんの工房の屋根まで』
「ロイ、そのあとは?」

『流石にもう避難は開始されているんだけど、そのピエールさんの工房の屋根に着地したあと、西におおよそ750mの上空に、死神が現れる、っていう予想が出されている。第1特務執行隠密分隊がピエールさんの工房の屋根に待機するように、他の部隊もその死神を囲うように待機する手はずだから、死神の出現と同時に集中砲火、っていうのが作戦だ』
「? 意外とマニュアルってたいしたことないよ? 出現場所を予測して、そこに待機して、あとは集中砲火、なんて」

『あはは……、まぁ、イヴたち第1特務執行隠密分隊に課せられたのはそれだけ、ってだけで、他の部隊や上層部は、さらに複雑で繊細なマニュアルをこなすわけだから、ちょっぴり肯定はできないかな?』

 ともかく、方針は決まった。

『それじゃあ、みんな、気を付けてね?』
「うん!」「わかっているわ」
「了解だよ!」「いってきますね」

 みんなの返事を聞くと、アーティファクトの向こうのロイは通信を終了させた。
 顔を見合わせる4人。シーリーンはどこか不安そうで、アリスは真剣で固くて難しい表情。マリアは思案顔で、あの一番お気楽なイヴでさえ、少し、むむむ……、という感じであった。

 すると、マリアが早々に口を開いて――、


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