ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章5話 ティナ、お墓参りをする。(2)
「なぜスポーツ選手にはなろうとは思わないんじゃ?」
「その、苦手、だから……」
「苦手だからなろうとしない。その気持ちはワシにも大いに理解できる。それどころかワシは、人には向きや不向き、それぞれの才覚に見合った領分というモノが存在するから、苦手なモノは一切しない。苦手なモノから死ぬまで距離を置く人生、というモノも、別に否定する気はない。ただ、ティナよ」
「――――はい」
するとニコラスは一度、大きく息を吸って――、
そして時間をかけてゆっくり吐いて――、
教師が学生に言い聞かせるように――、
「戦争を嫌っている以上、ティナに戦争の才能はない」
「そんな、こと…………を、言った、ら、ほとんどの、人に…………、常識的な人、なら、誰しも、戦争の才能…………、が、ない、ことに、な、りませんか…………?」
「そうじゃ、それで正しい。だから重要なのは、戦争の才能がないことではないのじゃ」
「――――」
「進むと決めた以上、苦手なモノにも向き合う覚悟が必要なんじゃ」
それがニコラスの考える道理だった。
えして、人間は人生のどこかでは必ず、数回は苦手なモノと向き合わないといけなくなる。
小説家を目指す者に乗馬を教えてなにになるのか?
騎士を目指す者に数学を学ばせてなにになるのか?
しかし、小説家を目指す者だって、小説だけで生きていけるわけではない。執筆に必要ならば、乗馬はもちろん、魔王軍の領土に密入国、なんてこともあるかもしれない。騎士を目指す者だって同じだ。戦争と数学は切っても切れない関係性にある。
万象は繋がっている。
他の全てに関係していない概念なんて、この世界にはなに1つないのだ。
だから、ニコラスの語るように、決めた以上、苦手なモノにも向き合う覚悟が必要、ということになる。言わずもがな、好きなことでも、苦手なことと関連していることがあるから。好きなモノを楽しんでいる過程で、苦手なモノを習得しなければいけなくなる可能性もあるから。
「ティナ、老いぼれからのアドバイスじゃ」
「はい」
「ワシはティナに戦うな、とは、言わんよ。まぁ、親や先生、友達がなんて言うかは知らんが。だが、まぁ、そうじゃな……」
「――――」
「ティナはまだ気が弱い。ゆえに、自分を支えてくれる仲間を作るのじゃ」
「そう、ですか? ワタシは……その……、前衛よりも後衛……、サポート要員、の、方、が、向、い、て、いる……、と、自、分では、思っていた、ん、ですけど……」
「それは傲慢と偏見じゃよ、ティナ」
流石にティナはそれに反論できなかった。
論破されたからではない。自分は正しいことを言ったと思ったのに、それを傲慢と偏見と断言されて、言葉を失ったからだ。
「確かに、戦闘行為にはえして、前衛やら後衛やら、騎士やら魔術師やら、役割というモノが存在する。だが別に、後衛だけがサポート、魔術師だけがサポート、そう決まっているわけでもない。後衛、魔術師がサポートに回りやすい、という傾向があるだけで、前衛、騎士だって、戦闘では後衛、魔術師のことを考慮している。戦争には気遣いが必要不可欠なのじゃよ」
戦争には気遣いが必要不可欠。そんな言葉、ティナは初めて聞いた。彼女の中の価値観が変わりそうなほど、意外性に富んだ2つの単語の組み合わせだった。
ティナが思うに、戦争とは野蛮なモノだった。いかなる大義名分を掲げたところで、所詮は殺し合いだったから。無論、殺すのは敵で、味方を殺すなんて基本的にはありえないことだが、それでも、戦場で血に塗れながら剣を振り魔術を撃っている戦闘員の姿を想像すると、ティナは味方であっても気遣いが必要なのかなぁ、なんて、今までは考えていた。
いや、ティナが勘違いしていただけで、本当は逆なのだ。
戦争ほど他者に対する気遣いが必要な行為もないというのに、と、実際にニコラスは考えている。
「よく言うじゃろ、1人はみんなのために、みんなは1人のために、って」
「…………ぁ」
「ワシの言うサポートというのは、援護射撃やヒーリングのことではない。気遣い、配慮、思いやり、仲間に対する優しさのことじゃよ。最近、軍人はロジカルであるべき、なんて言う団員がかなり多いし、それを否定することもないし、ワシじゃって、軍事力を持つ組織の上層部の人間として、時と場合を熟慮して、論理的に立ち回るべき時はそうしているが、いやはや、ワシはどうも、感情的な軍人らしい」
「――――」
「結局、戦闘で一番大事なのはそっちなのではないか、なんて考えが捨てられんのじゃよ」
「ニコラスおじさん……」
「まぁ、なんじゃ? あるんじゃよ、戦にも作法というモノが」
すると、ニコラスは踵を返す。
そしてティナの前を通りすぎると、その彼女は――、
「その……、お帰り、ですか?」
「ガッハッハッ、すまんのぉ! さっきも言ったが、会議があるんじゃよ。それも特務十二星座部隊が全員集合なんていう、堅苦しくて、重厚感が半端ない会議が。それじゃあ、ティナ、また会える日まで」
「はい……、その、さようなら、です」
ニコラスが歩みを止めることはなかった。
夕日が沈みゆく王都の墓地に残されたのは、戦うことに対して悩んでいるティナひとり。
すると、ティナはニコラスが帰った方ではなく、クラウスが眠る墓の方に、どこか寂し気に、物憂げに視線を向けると――、
「――おじいちゃん、ワタシの周りで、ワタシの友達は戦っています」
ティナは言う。
「――ワタシは、その……、どうしたらいいんでしょうか?」
ティナは語る。
「――ワタシは弱いけど、みんなの役に立てる日はくるのでしょうか?」
ティナは話す。
そして最後に――、
「――おじいちゃんは、魔王軍の幹部に殺されたんですよね? その人は今、どこで、なにを、しているんでしょうね? ワタシは、その人を、許せないです……」
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