ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章3話 リタ、正義のヒーローごっこをする。(3)
いや、そもそもそういう次元の話ではなかった。
第1に、リタは子供で、女性の方は大人だ。
関節技は人間である以上、抗えないのはいいにしても、流石にそれは両者の腕力が比較的拮抗していればの話。5歳児が関節技をキメたら、30歳の男性でも身動きを取れなくなるというのか? そんなわけがない。
今の女性に当てはまるならば、強引に立ち上がって、リタを振り払い、振り下ろせばいいだけの話なのだ。
だというのに、女性がいくら肉体強化して力を込めても、それを拘束しているリタの腕は微動だにしない。
第2に――、
「なぜ死霊術のことを知っている!?」
「ぅん? それは、なぜ、魔王軍のスパイは全員、敵の霊魂を掌握して現地で仲間を増やしたり、敵国の墓地を利用してゾンビ集団を操作したりするために、死霊術が必修科目になっていることを知っているのか? ってこと?」
「…………ッッ!」 と、表情に狼狽を滲ませる女性。
余談ではあるが、これこそが、クリストフに死霊術が使えて、ツァールトクヴェレでシーリーンたちが戦ったスライム、ゴブリン、オーク、アサシンに死霊術が使えない理由だった。
前者はスパイ、一方、後者は普通に軍人で、敵国に潜り込んでいたものの、工作員ではない。イヴの殺害がすめば帰還する予定のヤツらだった。
それはともかく、リタはまるで、わかってないなぁ! と言いたげに嘆息して――、
「言ったじゃん、魔王軍に縁がある、って」
余裕綽々の態度で、リタは女性に関節技をキメ続ける。
しかし、女性は内心で喜んでいた。このバカは、未だにこちらのことを舐め腐っている、と。
確かにリタの腕力は桁外れだ。十中八九、本気を出せばさらに強いパワーを発揮できるはずだろう。
だが――ッッ!
(今ここで、普通の肉体強化に加えて、霊魂を使った実力強化を施せば……ッッ)
その時だった。
ゴギ……ッ、という、不気味な音が女性の関節から鳴ったのは。
なぜか、女性の関節がありえない方向まで稼働して、そのまま女性はリタのことを振り払う。
それと同時に女性は再度、【そこに我はいない、故に咲き誇る純黒の花】を展開。
土煙を舞わせ、大気を切り裂き、暗黒の花弁でリタを牽制しつつ、女性は痛みに耐えながら立ち上がり、リタからバックステップで距離を取る。
言葉にすれば簡単なこと、意図的に関節を外してリタの拘束を無効化しただけだ。
無論、外れた関節は霊魂を消費すればいくらでも元通りにできる。
(もちろん、関節を外しただけじゃ、あのパワーバカイヌ耳野郎の拘束から逃げることは不可能! だから全ての霊魂を使ってあの女のパワーを上回った! いくらあの女にまだ余力が残っているといっても、こっちのこれは、厳密には肉体強化ではなく実力強化! 肉体も含めて、魔術のパワーや速度さえ底上げできる!)
これで終わりにする。
言外にそれを伝えるように、女性は【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】を展開した。
しかし――、
漆黒の長槍を飛ばす前に――、
土煙の中からナニカが高速で飛び出してくると――、
轟――ッッッッッ!!!!! という破砕音が木霊して――、
「バ~~~~カ、考えもなく舐めプなんてするわけないじゃん。これは駆け引きだぜ? アタシはあえて舐めプしたフリをしてあんたに関節技をキメる。すると、あんたはけっこうな確率で、霊魂を大量に消費すれば、あたしの腕力を上回れると考える。なぜならば、霊魂を節約するよりも、アタシに勝つ方が、王都から撤退するという目的に即していて、つまり、優先順位が高いから。そしてそのまま、アタシは舐めプしているから、その間に決着を付けようと画策。翻り、アタシはその状態、霊魂を大量に消費しているタイミングで、たった一度でもあんたを殺せば、大幅にストックを削れる、ってね?」
「ゴボ……ッ、ウヴェ……ッ、腹に穴が……」 と、吐血する女性。
「やっちゃったね~。ほとんどの霊魂を実力強化に回さないで、少しでも別のことに使える霊魂を残していたら、ここから回復できたのに」
言いながら、リタは女性の腹を貫通していた腕を乱暴に引っこ抜く。もう死んでしまうとはいえ、女性の臓器が傷付くのもおかまいなしに。
結果、地面に倒れこんで、ドサ……、という音を立てる女性。
無論、身体、腹部には穴が空いてしまい、断面からはグロテスクな物が覗ける。
今ここに勝敗は決した。
最後に、リタが皮膚感覚の1つである魔力覚を鋭敏にして女性から魔力反応を探ろうとしても、徐々に弱くなっていく肉体強化の類以外、特になし。
霊魂については死霊術を使えないリタにとって数が判別できないモノであったが、しかし、霊魂を消費して、それを魔力に変換したモノなら、リタにも判別が付く。
それを踏まえてこの状況、死に際に至っても魔力反応が特になし、なのだから、こちらの思惑に乗ってしまい、霊魂を全部使ってしまったのだろう。
霊魂を魔力に変換したくても、変換するための霊魂がない状態。
「あんた……、っ」
「ん?」
「いったい…………、いくつ……、肉体強化を……」
女性が最期にそれだけは訊きたい、と、目で訴えながらリタに訊く。
するとリタは今にも死体になりそうな女性を見下ろして――、
特に敵とはいえ人を殺した罪悪感もなさげに――、
「ハンドレッツキャスト」
「は?」
つまりそれは、リタの肉体強化を無効化するためには、【零の境地】のハンドレッツキャストが必要ということ。そんなのは机上の空論だ。現実的に考えて、リタの肉体強化を少しでも減らせる方法はあるが、完璧に無効化する方法は、少なくとも女性には皆無と断言できる。
そして、二度と再生できない死の間際に、女性は直感した。
こいつは特務十二星座部隊、具体的にはエルヴィスぐらいに匹敵する可能性がある、と。
ロイやイヴよりも比較にならないほど強い、と。
「いやいや、あまり褒められたことじゃないんだけどさ? アタシ、かなり魔術をキャストするのが苦手なんだよね! 魔術師学部の学生なのに! まぁ、苦手なのは魔術だけじゃなくて、勉強全般なんだけど……。でね? やっぱりアタシには、身体を動かすのがあっているなぁ、って、昔から感じていたんだけどさ? あと、すでに死んじゃっているけど、おじいちゃんもこの戦い方をしていたから、やっぱり『血』っていうか『遺伝』なんだけどさ? その行き着いた先がこれ」
そこまで言うと、リタはもうすぐ死に、誰かに発見されるまで放置され、そのあとは通報されるはずの女性に背を向けて――、
そのまま後処理も特にしないで歩きだし――、
最初に女性からもらいかけた金銭を拾ってもう一度クレープを買おうと考えながら――、
「――体躯竜域の強み」
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コメント
Kまる
リタが強かった…だと…