ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章2話 リタ、正義のヒーローごっこをする。(2)



「――【闇の法王が下す罪の罰】!」

 刹那、闇よりもおぞましい暗黒の魔術砲弾が、イヌ耳の少女に迫りくる。先刻、衝突しかけたばかり、ということもあり、彼我の距離は本来、魔術よりも剣や槍の方が速いほど接近していた。

 正真正銘、撃った瞬間に当たるような間隔。

 畢竟、彼女の闇の魔術がイヌ耳の少女に激突する。爆音を轟かせて、純黒の光を瞬かせ、闇の瘴気で大気を侵し、これを総じて殺人魔術。
 一般市民と思われる少女に、これを躱すすべもなければ、当たってもなお生きていられる術などなおさらない。

 しかし、魔王軍の女性は高速バックステップを繰り返して、爆心地から距離を取りながら首を静かに横に振る。
 それは早計だ。彼女は衝突の寸前まで、自分に気取られなかったナニカだぞ、と。

「お~っ! だいぶ強い攻撃を使えるじゃん! これは今までのヤツらよりも楽しめそう!」

「…………っ、無傷、か」
「ここが路地裏でよかったねぇ~? ここなら基本的に邪魔は入らないし! まぁ、爆音を聞いて、誰かが七星団に通報するかもしれないけど」

「それは困るな。早々にお前を殺させてもらうしかなさそうだ」
「アタシも困るんだよねぇ……、なんせ――」

 すると、イヌ耳の少女は凄絶に――、
 好戦的な双眸を妖しくギラ付かせて――、
 犬歯を剥き出しにして、肉食獣のように獰猛にわらうと――、



「アタシも魔王軍にゆかりがある人間、じゃなくてクーシーだからさっ」



「ッ!? 魔王軍に、縁がある、だと?」
「うんうん!」

 酷く動揺する魔王軍の女性。眼前の少女が言っていることが真実ならば、本来、自分たちは味方同士ということになるからだ。額には汗が滲み、背中には戦慄がはしる。
 だが、女性はこの眼前のイヌ耳少女のことを、今ここで衝突しかけるまで、一切、なにも知らなかった。王都に潜入している魔王軍のスパイの顔と名前は全員分、頭に叩き込んでいるから、それは変な話だというのに。

 いいや、知っていてもいなくても、所詮は同じこと。眼前の獣は先刻、言葉にしたばかりではないか。ここなら基本的に邪魔は入らないし、と。これは紛うことなく交戦の意思の表れ。
 ゆえに、慎重に慎重を重ねて、まるで薄氷を踏むように女性は眼前の少女に問う。

「お前、名前は?」
「リタ・クーシー・エリハルトだぜ!」
「聞いたことがないな。まぁいい、時間稼ぎはここまでだ」

 瞬間、ゴッッ!!! と、リタの足元が崩壊する。
 それと同時に顕現するのは、まるで黒色の薔薇ばら花弁はなびらを連想させる幾重いくえ幾層いくそうにも咲き乱れる漆黒の刃。
 以前、アリシアがロイとのお遊びで使った【そこに我はいない、ヴァールハイト・故に咲き誇る純黒の花ドゥンケルハイト・ブルーメンブラット】という闇属性の魔術だ。

 黒色、舞踏、乱舞、乱舞、乱舞。
 会話で時間稼ぎして、地中から距離を詰めていたその漆黒の花にも酷似した刃は、縦横無尽にリタを八つ裂きにしようと攻勢を仕掛ける。

 その魔術の刃は変幻自在にして百花繚乱のごとし。
 それは本来なら、人体、否、石造りの建物でさえ微塵に刻むことが可能の斬撃だ。
 が、リタは特に気にした様子もなく、まるで天気がいい日に散歩するみたいに、敵との距離を歩いて詰めていくだけ。

「ん~、ちょっぴり弱いかな? まぁ、遊んであげるよ。アタシを殺すならあんたのことを舐めている今がチャンスだぜ?」
「舐めプレイ? 調子に乗りやがって……ッッ」

 今度、女性が発動したのは【絶火、アブソルートフランメ・ウィ・エイン・焦がすシャルラハロート・ブルーメン・緋華の如くディ・デン・ヒンメル・ヴァーブレンツァ】だった。
 轟々と燃え盛る真紅。見た目はまるで煉獄のようで、温度は太陽の近隣さえも連想されるほど灼熱。熱をたっぷり含んだ大気によって、それなりに離れている女性の色白な皮膚にさえ汗が滲んだ。

(いかにあいつが頑丈だろうと、クーシーである以上、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐くという呼吸をしないというわけにはいかない! なら、広範囲の炎属性の魔術によって、酸素を奪って、さらにその上で二酸化炭素、いや、一酸化炭素中毒に貶める!)

 しかし――、
 刹那、ゴッッ! というなにかが破砕した音が響くと――、
 広範囲の炎撃からなにかが勢いよく飛び出してきて――、

「酸素を奪うのはいい作戦だけど、残念。ぶっちゃけ、軽く跳躍すれば一足で脱出できるんだよね」
「な……ッ、背後に!?」
「そ・し・て!」

 女性が完璧に振り返りきるよりも先に、リタは女性を背後から組み敷いた。
 そして女性ごと、リタは地面に倒れこむ。

「ガァ!?」

 苦悶に歪む魔王軍の女性の顔。まるでサディストを興奮させるためだけの表情、という言葉がピッタリ当てはまるほど、彼女の表情には激痛の色が呈していた。それはまるで、敵国の領土で捕まったら、女性はこうなるのが当たり前、と、言わんばかりの顔色である。

「死霊術の弱点の1つは関節技。殺しても再生する、かといって、普通に動きを止めたんじゃ、霊魂を消費した実力強化で戦況を覆される。拘束を解かれる。だから、あんたがいくら強敵でも人体の構造には逆らえない、と、考えて、アタシを窒息死させようとしたように、アタシも、いくら実力強化しても人間である以上、抗えない間節技をキメさせてもらう」


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