ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章11話 第1特務執行隠密分隊、初戦闘を始める!(2)



「【絶光七アブソルート・レーゲン、……ッッ!?」
「甘い」

 言わずもがな、【絶光七色】の速度は光速、イヴたちが暮らしている惑星を1秒間で7周以上できるスピードだ。人間に躱せる道理はない。否、竜人や幻想種にだって躱せる道理はないだろう。
 竜の飛翔よりも速く、天使の福音よりも疾い。
 喩え死霊術を使い世界に対して自らの肉体を加速させたところで、この近距離、この位置関係、躱せるわけがないというのが条理というもの。

 だが、眼前のクリストフは【絶光七色】を回避してみせた。
 当然、現在、間違いなくイヴはクリストフの背後を獲っていた。彼が彼女の視線、目が向いている方向を把握して、事前に【絶光七色】の射線から外れるのは不可能と断言できる。

 で、イヴの光速魔術を回避したクリストフは、肉体強化の魔術をキャストして、近場の建物の屋根に跳躍した。

「イヴちゃんの【絶光七色】を回避した!?」
「そんな……っ、ありえませんよね!?」

 翻り、シーリーンとマリアは新手の敵、クリストフの援軍との攻防の最中、隙を伺い、それができると跳躍してイヴの近くに着地する。
 さらに一方、シーリーンとマリアに先刻、【炎斬の剣】で強襲した新手の敵は、同じく跳躍して、別の建物の屋根に移動していたクリストフの傍に着地。

 これで、アリス以外、両陣営の各全員が1ヶ所ずつ集まったことになる。
 そして、道路にいる自分たちを見下すように建物の上にいる2人を睨み付けるように、イヴは『とある推測』を披露した。

「なるほど、だよ……。『人間の肉体が光速で移動すること』と『人間が光速に届くこと』は決して同義じゃない、ってことだよ……」
「ど、どういうことですかね、イヴちゃん……?」

「簡単なことだよ。例えば詠唱するだけで、この惑星から100億光年先の惑星に瞬間移動できる魔術があったとするよ? でも詠唱するのは人間の口なわけだから、魔術師本人の口の動きが光速を超えないと、一連の魔術動作は光速に届かない」
「ご名答だ、イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク。陸上競技と一緒だよ。走り始めた瞬間とタイムが測られ始めた瞬間が同時なのではなく、銃声が鳴ったほんの一瞬後、スタートダッシュを切ろう、と、思ったわずかな時間もタイムに含まれる感じと同じさ」

「つまりあいつは、【光化瞬動】でわたしが光速移動したあと、よし! 背後を獲ったから、【絶光七色】で殺そう! と、考えている隙に、サイドステップで射線から外れた、ってことだよ。言わずもがな、人間の思考、脳みそのシグナルの速度は光速じゃないから。ついでに指の動きも」
「そう、そして――」

 すると、クリストフは自分の手のひらに闇の球体を召喚した。
 単純だが、破壊力はそれなりにある闇のアサルト魔術である。

「位置関係を誤ったな、諸君。おれを建物の上に立たせた時点で、その建物ごと、その住人が人質になるとは考えなかったのか?」

 まるで煽動するように、クリストフは召喚した闇の球体を、足元の建物に向ける。そして魔力を追加で充填して、その球体の規模を大きくする。
 あれは紛うことなく魔王軍の闇属性魔術だ。距離はゼロ距離、速度は未知数。どう考えたところで、なにも対策を打たなかったら、建物が倒壊して、中にいると推測される人たちが死ぬ。

 しかし、イヴは笑う。

「なら、撃ってみればいいんだよ。ただし、わたしがなんの対策も打っていないと思うなら、ね」
「なら撃とう」

 売り言葉に買い言葉だった。イヴは挑発する感じでクリストフに言い、彼の方も彼の方で、撃てと言われたから撃った、と、言わんばかりに渾身の闇魔術を建物に撃つ。

 刹那、爆音。
 大気中の魔力が轟々と燃焼されて、闇よりも暗い黒煙が揺らめき、屋根に積もった砂埃が正しく塵芥のごとく宙に舞う。比喩表現でも誇張表現でもなく、事実、人が死に、蟻1匹すら生き残らない殲滅の黒色。

 が――、

「今だよ! シーリーンさん! お姉ちゃん!」

「なら! シィは新手の方を!」
「イヴちゃんはわたしと一緒にクリストフの方を!」

「了解、だよっ!」
「な――っ!」

 攻撃と同時、3人は各々に標的を決め、一斉にこちらに走ってきた。
 間違いなく肉体強化の魔術をダブルキャストかトリプルキャストしている。十中八九、自分たちに会話をしかけたのは、肉体強化の魔術を多重キャストするために時間稼ぎ、だったということだろう。

 速攻を挑むように迫りくるシーリーン、イヴ、マリア。

 クリストフは焦燥感に駆られながらも、しかし確実に周囲の建物を確認する。
 結果、倒壊していたのは、戦闘が開始されるきっかけとなった、自分の初手、【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】を撃ち込んだ、アリスが未だ下敷きになっている宿屋だけだった。

 なぜ気付かなかった……ッッ! と彼は自分で自分を罵った。
 実に単純、まさに明快。
 つまり――、

「今さら気付いた!? お前は2回もわたしの【絶光七色】を回避したよ! でも、お前を通りすぎてそのまま直進した【絶光七色】は、なにも壊していない! 【絶光七色】の延長線上にある建物は、なにも倒れていない!」
「こいつ……っ! 建物を光属性魔術で保全したまま戦っていたのか!?」

 考えてみれば当然ことだった。
 否、考えるまでもなく当たり前のことだった。

 イヴたちは王国に平和をもたらそうとする七星団の団員。そしてクリストフたちは王国の恐怖の深淵に叩き落そうとする魔王軍のスパイ。
 この両陣営が大規模な魔術を使い殺し合うのに、平和を守る側の人間が、戦場の周囲の建物に気を配らないなど本末転倒。

「イヴちゃん! わたしの指を見てください!」

「指?」
「わたしが指で指示したタイミング、そして方向に、【絶光七色】を撃ってください!」

「了解、だよっ!」
「では――、まずはそこ!」

 まずは牽制だろうか。マリアがクリストフの頬すれすれに光速魔術を撃つように、イヴに指示を飛ばす。

 けれど、クリストフは余裕を持ってそれを躱した。
 先刻のイヴの一撃でさえ、彼は避けてみせたのだ。ならば、マリアが逐一狙う箇所を指で差して、それをイヴが確認して、それでようやく発動する今回の光速魔術が、クリストフに命中する可能性はゼロに等しい。
 今回のマリアのやり方は、ワンテンポどころかツーテンポもスリーテンポも遅れている。

 だが、それはマリアの作戦のうちでしかなかった。

以前280話、お父さんに『それで、マリアは今、高等教育でなんの研究をしているんだ?』と訊かれて、不貞腐れつつも、きちんと『――、魔術開発の研究ですね。新しい魔術を生み出したり、既存の魔術の強化や軽量化、効率化を計算したり、そもそも、声による詠唱とも、脳波による詠唱破棄とも違う、別の魔術の発動方法を考えたりするのがメインですね』って言葉にしてしまいましたからね! そろそろ、わたしがただ漠然と学生生活を送っていたわけではない、と、証明するタイミングですね!)

 一方で、シーリーンは――、

「ぐぬぬ……っ! 【魔弾ヘクセレイ・クーゲル】! 【魔弾】! 【魔弾】!」

 全力で敵と距離を取りながら、振り返りつつ、後方に初心者向けのアサルト魔術を撃ち続けていた。
 走るシーリーンに、一応【魔弾】を避けながら彼女を追う新手の敵。
 彼は敵だというのにすごく呆れていて、同時にすごく心配するように――、

「お前……、まさかそれしか使えないのか?」
「バカにしないでほしいもん! 他にも4つ魔術が使えますぅ!」

 言いながら、さらにシーリーンは【魔弾】を撃ち続けるも、一向にそれは敵に当たらない。少なくともノーコンというわけではなかったが、明らかに敵に動きが【魔弾】と同じぐらい速かったのだ。

「えぇ……、敵ながら少な……」
「えい! 【聖なる光の障壁】! 次にもう一度、【魔弾】!」
「いやいや……、なんどやっても同……、ッッ!?」

『じ』と最後の一言を口にしようとしたところで、彼の後頭部に【魔弾】が命中した。

 一言で言ってしまえば、跳弾。
 シーリーンは自分の攻撃が避けられると予め諦めてしまって、それを踏まえて、敵の背後に魔術防壁を展開し、入射角度を調整して、跳ね返った攻撃が敵の後頭部にヒットするように計算したのだ。

 そして、シーリーンの攻勢はこの程度で終わらない。

「続いて【聖なる光の障壁】をあなたの頭蓋骨の内側に沿うように展開! 往くよ! 【魔弾】バージョン・脳内ピンボール!」

 シーリーンは敵の頭蓋骨の内側に沿うように展開した魔術防壁に、反射という付属効果をプラスした。結果、一度脳内に入ってしまった【魔弾】は、頭蓋骨を割って頭の外に出ようとしても、その直前に魔術防壁により跳弾。さらに跳弾した延長線上の頭蓋骨を割って頭の外に出ようとしても、さらに跳弾。

 必然、脳みそというステージで、【魔弾】は縦横無尽にピンボールの真似事をすることに。

 これを受けて無事な生き物など、まず、いるわけがない。
 眼前の男の脳みそは、絶対にぐちゃぐちゃになっているはずである。

 が――、

「~~~~、ふぅ~~、魂のストックが6つ減ってしまったか……」
「やっぱり、使ってくるよね、死霊術……ッッ」



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