ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章10話 第1特務執行隠密分隊、初戦闘を始める!(1)



 結論を言うと、クリストフに諜報活動がバレたのは、アリスのミスではなかった。
 無論、シーリーンとイヴとマリアのミスでもない。

 確かに一見、アリスが自分たちの魔力反応を消す魔術を自分とイヴにキャストしていて、それにミスがあったから、クリストフに気付かれ、先手を許したように見える。

 だが、違う。
 クリストフは索敵魔術とは別の、アンカー魔術をキャストしていたのである。

 広範囲に存在する不特定多数をぼんやり判別する前者に対し、ただ1人を的確に認識し続ける後者。
 それを、具体的には、魔王軍が常に狙っている状態のイヴに。

 索敵魔術は主に近場の魔力と自分に対する敵意、殺意に反応する。もちろん、術式の編成の仕方を工夫、通常よりも複雑なモノにすれば、別のなにかにも反応するように魔術を組み上げることも可能だが。
 翻り、アンカー魔術は特定の個人の居場所を割る魔術に他ならない。魔力や敵意や殺意に反応しない代わりに、キャストした相手をどこまでも追い続ける魔術だ。
 キャストの一例として、親が少し遠い学校に通う子供にキャストすることもある。

 それで、イヴはソウルコードの改竄かいざん者として魔王軍にマークされていて、実のところ、魔王軍内部で彼女の居場所はすでに情報として共有されていたのである。

 畢竟、運が悪いことに、アリスがいくら痕跡を消す魔術をキャストしたところで、イヴにそれが付着している以上、意味がなかった、ということ。

 無論、イヴならば魔王軍の魔術を感知できそうなものではあるが、そうではない。
 この魔術は魔王軍だけではなく、普通に七星団、いや、それどころか、日常生活でもキャストの頻度が高い魔術だ。
 また、4人に知る由はなかったが、この魔術をイヴにキャストしたのは、魔王軍のスパイではなく、通常の、裏切り者ではない七星団の団員なのである。ただ、魔王軍に与していないまま、命令を絶対順守する魔術をキャストされているだけで。

 とにかく、このような事情が重なり、アリスとイヴは先手を許した。
 しかし――、

「ほぅ? イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク、確かに君は無傷のようだが、他はどうだい? アリス・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニーは今も倒壊した宿の下敷きで、他の利用客なんかは、すでに死んでいるかもしれないよ?」

 挑発するように、身長の都合もあるが、とにかく見下して語るクリストフ。
 双眸は冷ややかで、口調は軽薄。
 しかし逆に、イヴはそれに嘲笑で返そうとする。バカにするような態度を取られたのだ。バカにし返すのは当然の反応でしかない。

「ハッ、わたしがそんなことを許すなんて、ありえないよ」

 言われると、クリストフは訝しむ。どこか、あまりにもイヴが余裕すぎたからだ。
 イヴの性格を鑑みると、仲間の死を軽視する傾向にあるはずがないし、まさか、無関係な一般人の巻き添えを許すなんてありえない。

 強がり、虚勢か。
 否、クリストフは首を横に振る。強がりにしては、あまりにも動揺が見受けられない、と。彼女は間違いなく強敵だが、まだ自分の感情を上手くコントロールできる成長段階にはない、と。

「それにしても、お前の今の行動はおかしいよ」
「なんのことだ?」

 まるで天気の話をするみたいに、フラットにイヴは語り始めた。
 対してクリストフはお気楽な態度でとぼけるばかり。

「今の大規模な破壊は、スパイという役割から大きく逸脱した行為だよ? 目立つのは当然で、絶対に近隣の住民や歩行者が、七星団に通報すると言い切れるよ? もしかして、ツッコミ待ちのギャグなのかな?」
「まだまだ子供だね、イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク」

 殊更ことさら挑発するようにクリストフは続ける。
 それを、イヴは『とある思惑』があり、攻撃しないまま聞き続けようとする。

「物事には、常に優先順位というモノが存在する」
「それが?」 と、イヴが不機嫌そうな表情かおで問う。

「シンプルに、俺は予め指示されていたことに従ったまでだよ。なんでもいい、イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクに関連することが発生しそうなら、例えスパイという役目から逸脱した行為をすることになっても、それ専用の別枠マニュアルに従え、という指示にね。要するに、スパイ行為より、君に関する事象の方を、魔王軍は重要視している、ということだ」

「情報ありがとうだよ。お前を殺したあとで、そのマニュアルとやらも探させてもらうよ」
「それだから子供だというのだ。マニュアルは全て頭に叩き込んでいて、本体はすでに焼却ずみだ」

「なら、頭蓋を割って、脳を剥き出し、魔術で記憶を弄らせてもらうんだよ」
「光属性魔術の申し子とは思えない発言だな」

 実にやれやれ、と、言いたげに、クリストフはオーバーアクションで肩をすくめる。
 対し、イヴは【絶光七色】を待機状態のまま指先に宿し、その銃の形を真似るような人差し指をクリストフに向けて――、

「辞世の句はそれで終わりでいいんだよね?」
「それはこちらのセリフだ」

 瞬間、再度、凄絶に凄絶を重ねたような殺し合いが開始する。
 イヴは【絶光七色】でクリストフにヘッドショットを決めようとした。
 結果、大気中の光属性魔力はイヴにより燃え盛るように轟々と消費され、視界は太陽の白熱のように煌々と明滅し、ゴッッ、という天地開闢のごとき爆音を王都の夜に響かせる。

 しかし、クリストフは物理透過の魔術を自分の肉体に予めキャストしていて、それを事実上の無効化。
 クリストフをすり抜けた【絶光七色】が彼の背後の建物に直撃し、爆発を以って砂塵さじんを舞わせるのは必然でしかない。

 ここまでの応酬は、実に0・00001秒にさえ満たない刹那の所業だった。
 そして、そのイヴの魔術による爆発と同時に――ッッ、

「ありのままの世界よ! あるべき姿の真実よ! 魔術による現実の浸食を、どうか赦し給え――ッッ! 魔術師の傲慢を、どうか免じ給え――ッッ! 我は祈る。我は願う。その贖罪により! 一時でも! ありのままの世界を此処に……ッッ! 【零の境地ジィロ・イミネンス】!!!」

 発動するマリアの魔術無効化魔術。無論、クリストフの物理透過魔術に対してだ。
 クリストフの行動がマニュアルどおりならば、イヴたちの行動だってマニュアルどおりだった。即ち、こういう場合、会話でもなんでもいいから時間を稼いで、クリストフを4人で包囲する、という。
 要するに、時間を稼いで配置に付く、というのが、前述のイヴの『とある思惑』ということだ。

【零の境地】をクリストフにキャストしたマリア、及びシーリーンは近場の建物の屋根の上にいた。しかも比較的、クリストフの背後に位置する建物の。どう考えても、クリストフにイヴという化物と対峙しながら、2人のアシストを対処できる道理はない。

 しかし――ッッ、
「マリアさん……ッ、後ろ!」
「えっ!?」

 マリアがクリストフに意識を向けた一瞬、彼女の背後に何者かが突如現れ、「詠唱破棄! 【炎斬の剣シュヴェーアト・フォン・フランメ】……ッッ!」と吼え、畢竟、顕現する地獄の業火のごとき炎の大剣。
 燃え盛る紅は大気中の酸素を瞬々しゅんしゅんと消費して、いざ、マリアの背中に一撃を負わせようと速攻で迫りくる。

 マリアの身の丈を超越えるほどの大きさにして、陽炎が見えるほどの灼熱。
 喰らえば戦闘不能は免れず、例え治癒魔術をキャストしても、マリアの色白な柔肌に、見るも無残な痛々しい火傷の跡が残ってしまうのは必定だ。

 しかし、これは集団戦闘だ。
 ゆえに、シーリーンは自分のことを忘れてもらっては困る、と、黒曜石のごときあどけない黒目がちな双眸をギラ付かせて――ッッ!

「――【聖なる光の障壁バリエラン・ハイリゲンリヒツ】!」
「…………っ!?」

 光属性魔術の天才、イヴではなく、シーリーンの【聖なる光の障壁】ごときで、まず間違いなくクリストフの援軍と思しき人間、つまり、魔王軍の軍人のアサルト魔術を完璧に防御できるはずがない。
 ゆえに、シーリーンは【聖なる光の障壁】を立方体になるように展開。そして、その立方体で【炎斬の剣】の先端を閉じ込める。
 結果、【炎斬の剣】の先端は酸素不足で鎮火して、敵は柄だけの状態になってしまった剣を振るい、傍から見たら間抜けのように、シーリーン、及びマリアを斬りつけられずに空ぶってしまう。

「マリアさん! 【炎斬の剣】、無効化完了!」
「こちらもクリストフの物理透過を無効化完了! イヴちゃん!」

 背中合わせの状態のシーリーンとマリア。
 互いに互いの背後を守っている状態で、マリアはイヴの名前を叫んだ。

「【光化瞬動イデアール・リヒツン・ラオフェン】ッッッ!」
「なっ!?」

 イヴは光属性が得意というだけで、他の魔術はそれほどではない。が、光と時間と空間は密接な関係にある。とどのつまり、光属性の魔術で空属性の魔術の真似事をするなど、実に造作もなく、イヴにとってそれは、児戯に等しい応用だった。
 要するに、自らの肉体を一時的に光に変換して、瞬間移動を果たす。

 約0・0000001秒後、イヴは完全にクリストフの背後をった。
 無論、マリアの魔術のおかげで、今は物理透過もキャストされていない。
 しかし――、



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