ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章8話 第1特務執行隠密分隊、初任務に挑む!(1)
その日の夜――、
日付がギリギリ変わる前――、
王都の外れにある宿屋の一室を監視するように――、
「うぅ……、初任務、緊張する……」
トイレから帰ってきたシーリーンが、椅子に座ろうとしながらお腹をさする。
すると、マリアは心に沁みるほど優しい声音で気遣った。
「大丈夫ですからね、シーリーンさん? 改めて人数を確認してみてください。敵は1人でこちらは4人。そして、敵はこちらに気付いていませんけれど、わたしたちは向こうに気付いていますよね? と、いうより、まだ敵は宿の一室どころか、宿の前にも到着していませんからね。なによりも、戦闘は本当に最後の展開で、あくまでも、わたしたちのミッションは盗聴です」
「りょ、了解……」
改めてになるが、今回の第1特務執行隠密分隊の任務は盗聴。実は今回のターゲットが魔王軍のスパイということは100%確定しているらしいので、あえて泳がせて、魔王軍本部に連絡を取らせ、それを盗聴して情報を得よう、という計画だった。
「はい。それでは、索敵の結果を」
「えっと、敵は1人で、宿から東に200mの地点にいて、徒歩で宿に向かって進行中。武装は見える限りなし。ただし服の中に忍ばせている可能性は考慮すべき。魔力反応もありません」
シーリーンとマリアの2人は、スパイが一般国民を装って滞在している宿、その道路を挟んで対面の宿の一室で、件のスパイの様子を伺おうとしていた。
シーリーンが椅子に座っているのは前述のとおりで、マリアの方は、窓の一部を魔術で切り取り、四角形の穴を空け、その窓の近くにセットしたテーブルに寝転び、いつでも魔術狙撃の伏射ができるような体勢を取っていた。
もちろん、部屋に灯りは点けておらず、シーリーンのトイレは、今回の作戦前、最後のトイレだった。
シーリーンの役目は周辺の警戒で、使っている魔術は、前回の試験のために覚えたばかりの索敵魔術。これなら、覚えている魔術が極端に少ないシーリーンでも完遂できそうだったのである。
一方、マリアの役目は魔術による狙撃。無論、彼女本人が語るように、戦闘は最後の展開だ。あくまでも、マリアのこの準備は、万が一の時のためのモノに他ならない。
「さて――、コホン、アリスさん、こちらマリア。聞こえていますかね? どうぞ」
と、マリアは伏射体勢を維持したまま、アーティファクトに口と耳を当てて、その向こう側にいるアリスに呼びかけた。こういう時、魔術による狙撃は、スコープを覗き続ける必要がないから便利だった。無論、マリアは現在、遠視の魔術を自身にキャストしている。
で、すると、すぐにアリスからの応答がある。
『こちらアリス。聞こえています。用件をお願いいたします。どうぞ』
「シーリーンさんの索敵魔術によると、敵は1人で、宿から東に200mの地点にいて、徒歩で宿に向かって進行中。武装は見える限りなし。ただし服の中に忍ばせている可能性は考慮すべきですね。魔力反応もありません。わたしはいつでも狙撃できる状態で、シーリーンさんの方も、任務を怠っていませんね。どうぞ」
『1人、東に200m、徒歩、見える範囲に武装なし、魔力反応もなし、ですね? 了解です。私とイヴちゃんもすでに配置に付いております。盗聴と狙撃任務の9割は我慢と待機と言いますし、このまま警戒をよろしくお願いいたします。どうぞ』
「了解、通信を終了しますね? どうぞ」
『了解、通信終了』
すると、アーティファクトの向こうから一切の音が聞こえなくなる。宣言どおり、通信が終了したのだ。
次いで、マリアはスパイが潜伏先として利用している宿の一室、その隣の一室に視線を向けた。
そこに、アリスとイヴが待機しているのだ。
シーリーンの役目が索敵魔術による周辺の警戒であるように、マリアの役目が万が一の時ための狙撃であるように、アリスとイヴにも役目があった。
アリスの役目はこの作戦の本命である盗聴。
翻り、イヴの役目は新兵最強の光属性魔術の使い手ということで、アリスの護衛。
アリスもマリアと同様に狙撃魔術が使えたし、マリアもアリスと同様に盗聴魔術が使えたが、隊長であるマリアを前線に出すのは合理的ではない、と、みんなで判断し、畢竟、アリスが盗聴を受け持ち、マリアが狙撃を受け持つことになった。
「ま、マリアさん……」
「はい? なんですかね?」
と、任務中ではあったが、過度に緊張しているシーリーンをほぐすために、柔和な微笑みで応じるマリア。
そんなマリアにシーリーンは緊張しながら言う。
「シィたちって、今、魔術をキャストしていますよね? 敵がスパイ行為に特化しているなら、200m離れている地点でも、感知されてしまうんじゃ……」
「クスッ、大丈夫ですからね? わたし自身とシーリーンさんには、わたしが魔力反応を消す魔術をキャストしていますし、アリスさんたちの方だって、アリスさんがわたしと同じ魔術をキャストしていますし」
「確かに、作戦会議をした時、その説明は受けましたけど……」
シーリーンはこの説明を忘れていたわけではない。
だが、忘れていないことと、不安を覚えないことは、別に同義ではないのだ。
「それよりも、ほらっ、任務に集中しましょうね? 敵は今、どこに何mの地点にいますかね?」
「は、はいっ、東なのは変わらず、おおよそ75mの地点です。ここを中心に半径1kmに、他の敵影はなし。魔力反応もありません」
「了解ですね♪」
そして、あとはアリスがアーティファクト越しに言ったように、我慢と待機の時間だった。
喉をゴクリ、と、鳴らし生唾を呑み、過度に緊張している様子のまま、索敵魔術をキャストし続けるシーリーン。そして、マリアはいつでも狙撃魔術をキャストできるように備えたまま、魔力反応を消す魔術を自分とシーリーンにキャストし続ける。
また、2人に知る由はなかったが、向かいの宿では、アリスがすでに盗聴を開始していて、いつでもスパイが帰ってきて、魔族領にある作戦司令室と通信してもいいように備えていたし、イヴだって、いつでも【絶光七色】のフィフスキャストを撃てるように待機していた。
ジリジリするような時の流れ。神経を擦り減らすような場の雰囲気。
そのような状況の中、シーリーンは周囲を警戒したまま、脳内で今回のスパイの情報をよみがえらせる。
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コメント
ノベルバユーザー298925
第1部隊だからスパイの可能性が高い対象が載っているリストがまわされているのだとしても調査対象の段階で敵認定してるのにすごく違和感がある
颯爽
作品楽しませていただいてます‼
あの、今回の題名、次回が(2)なのに、異なっている、かと……
差し手がましいこと、申し訳ありません
ペンギン
毎日投稿ありがとうございます!これからも頑張ってください!