ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章13話 シャーリー、終わらせる。
試験終了後――、
ジェレミアの気絶と同時にシーリーンと彼の足元(ジェレミアの足元は地中にあったが)に複雑な幾何学模様の魔術陣(恐らく召喚陣だと思われる)が展開され、それが淡い光を放ったと思った刹那、目の前が網膜を灼くような純白で覆われたあと、2人は山の入り口の馬車道まで戻ってこられた。
シーリーンに知る由はなかったが、これはベティの疑似空間転移である。
次いで、なにが起こったのかを知るために、シーリーンは周囲を見回してみる。
すると、そこにはすでに、アリス、イヴ、マリアがいて、帰還したシーリーンの姿を見ると、いても立ってもいられなくなり、思わず3人は彼女に抱き着いてしまう。
で、使っていた魔術は全て解除したので、3人分の重さを肉体強化なしで受け止められるわけがなく、尻餅をついてしまうシーリーン。
「シィ!? 大丈夫だった!? ケガしてない!?」
と、アリスが涙目でシーリーンに確認する。本当に心の底から、シーリーンのことを心配していたのだろう。学院でなくても風紀の乱れを許せない。もちろんそれもあるだろうが、なによりもそれ以上に、シーリーンとアリスは、今では親友だったから。
するとシーリーンはこそばゆそうにはにかんで――、
「うんっ、大丈夫だよ? そりゃ、戦闘試験だからダメージは受けたけど、逐一ヒーリングで治したし」
「よかったよ~、シーリーンさんが無事で~。試験はまた受け直せばいいだけだよぉ~」
「んっ?」
と、イヴがおかしなことを口にして、シーリーンは首を傾げる。
「試験は残念でしたけど、本当に、心の底から、無事に帰ってこられただけで満足ですからね。ぐす……」
「んんっ?」
マリアもおかしなことを口にして、シーリーンは少し間抜けな声を出してしまう。
その間にも、イヴはシーリーンに頬擦りして、マリアは感極まって涙を流していた。
が、やはりなにかがおかしかった。
特にイヴの発言の、試験はまた受け直せばいいだけだよ、のあたりとか。他にはマリアの発言の、試験は残念でしたけど、のあたりとか。
あれ? あれ? もしかして、アリスもイヴちゃんもマリアさんも、シィが負けたと勘違いしている……? と、シーリーンが気付いて訂正しようとした、その時だった。
「あれ? そういえばジェレミアは?」
と、ようやくアリスがシーリーンから離れて、立ち上がって、忌々しいジェレミアを確認するために周囲をキョロキョロする。
次いで、イヴもマリアも、アリスと同じく立ち上がって、クソ外道の姿を確認しようとした。
普段の彼の性格、言動を鑑みれば、嫌味の一言でも言いにきそうなのに、今のところそれはない。それがどうも釈然としなくて、アリスが不思議がっていると――、
彼女の背後から――、
「回収――彼はここ」
「ちなみに、ジェレミア殿は気を失っているのであります」
「ふぇ?」 と、振り返るアリス。
「結論――今回の試験、ラ・ヴ・ハート様が勝って、イ・トゴート様が負けた」
2人の七星団の女性、シャーリーとベティが4人に近付いてきて、前者は襟首をつかんで引きずっていたジェレミアを、ポイッ、と、4人の前に放ってしまう。
唖然とするアリスとイヴとマリア。
シーリーンが本人曰く大丈夫で、ジェレミアの方が気絶している。
そしてトドメに、シャーリーの試験官としての発言。
それが意味するところは――、
「シィ!? あのジェレミアに勝ったの!?」
「すごいよ! わたしでも幻覚をキャストされる前に決着を付けるしか、勝ち目がなさそうなのに!」
「まさかとは思いますが、発動前に決着を付けるのではなく、本当に【幻域】を攻略したんですかね!?」
「あわわわ……っ、みんな、少し食いつきすぎ!」
シーリーンは戸惑ってしまう。だが、それが妙に嬉しかった。
で、照れくさくて少し受け答えできなそうだった彼女に代わって、アリスの質問に答えたのはシャーリーとベティだった。
「代弁――試験官として改めて明言するが、間違いなくラ・ヴ・ハート様はイ・トゴート様を倒した。もちろん、不正はない。ラ・ヴ・ハート様の合格はほぼ確実で、逆に、イ・トゴート様の入団はかなり難しいモノとなるでしょう」
「知りたそうでありますから、余談ではありますが話しますが、シーリーン殿は【幻域】の発動前に決着を付けたのではありません。真っ向から……というわけではありませんでしたが、戦術を駆使して、自力……というわけでもありませんでしたが、計画、計算して【幻域】からの脱出に成功したのであります」
「ウソ!?」
「ホント!?」
「今夜はパーティーですね!」
大はしゃぎするアリス、イヴ、マリアの3人。
それぐらい、時属性の適性も、空属性の適性もない魔術師が、幻影魔術から脱出するのは偉業なのである。
「いやいや! そこの、えぇ、っと……」
シーリーンは謙遜しようとして、けれども謙遜するのに必要な情報が足りなくて、初対面で名前を知らなかったベティの方に視線を送る。実は言葉を交わさず、互いに相手の顔を確認しなかっただけで、ロイの死者蘇生の時、二人は、ほんの数m離れているだけで、同じ空間にはいたのだったが……。
「ん? 自分でありますか? 自分はベティ・フレン・ドラ・ヴァーメイカーであります」
「ベティさんが言ったように、脱出したのって、真っ向からでも、自力でもないんだよ? 全然たいしたことじゃないって!」
シーリーンは両手と首を横にブンブン振って謙遜した。
しかし、その否定をさらにベティが否定する。
「そんなことないのであります。むしろ特務十二星座部隊の自分から見ても、間違いなく快挙。謙遜するのは、自分のことを褒めてくれる仲間に失礼でありますよ?」
「えっ?」
「うむ?」
「特務十二星座部隊?」
「肯定であります」
「ベティさんが?」
「肯定であります」
「すみませんでした……っ! なんか気軽に引用してしまいまして!」
ズサ~~ッ、と、シーリーンは物凄いスピードで後退る。
しかしシャーリーもベティを楽しそうに微笑んで――、
「気にしないでいいのであります。あんな鮮やかな逆転劇、七星団の上の階級の団員でも、やろうとしてできることではありません。シーリーン殿は、胸を張っていいのであります」
「~~~~っ」
「特に魔術をキャストするのではなく、解除することで逆転するというのは見事な発想でありました。正直、自分とシャーリー殿でさえ、ジェレミア殿に勝つには発動のバリエーションが肝になってくると踏んでいましたが、いやはや、逆に解除のバリエーションを上手く扱うとは……。自分たちでさえ、これは勉強になると思ったほどであります」
「――――あ、ぁ」
「肯定――はっきり言うが、私めだったら時間を止めて勝てるし、星の序列第3位、空属性の魔術に長けているルディ・セント様も遠距離からの広範囲攻撃で勝てる。無論、ヴァーメイカー様も召喚獣を使役した広範囲攻撃で。でも、私めには空属性の適性が足りなくて、ルディ・セント様には時属性の適性が足りなくて、ヴァーメイカー様にいたっては両方足りなくて、【幻域】を【零の境地】で無効化することはできない」
「――――スン、ぐす」
「結論――特務十二星座部隊の私たちめでも、幻影魔術をキャストされたら、なにも準備していなかったら一巻の終わり。それなのに、貴方様は【幻域】を攻略した。これは誰にでもできることではない。今、ここに、特務十二星座部隊、星の序列第4位、シャーリー・ドーンダス・クシィ・ズンの名において保証する。――貴方様は、強い」
心に直接沁みる言葉だった。
胸を打つ響きだった。
今ここに、シーリーンは報われたのだ。
シーリーンが嬉し涙を流しながら惚けていると、再度、アリスが彼女に抱き着いて――、
「すごいじゃない、シィ! イヴちゃんに続いて、特務十二星座部隊のお墨付きよ!」
「――シィが? ――ロイくんじゃなくて? ――アリスでもなくて?」
「そうよそうよ! シィが強いのよ! シィがすごいのよ!」
まるで我が子のようにアリスはシーリーンのことを褒めながら抱きしめる。
感動するぐらい、愛おしくて、微笑ましい光景だった。
「まぁ、最後に一言だけ、勘違いされたままだと今後に関わるので言うのでありますが」
「は、はいっ!」
「真っ向からでも、自力でもないことは、決してダメなことではありません。むしろ、魔術師ならばそちらの方が評価の対象であります」
「追加――魔術師ならば、魔術のパワー、発動のスピード、手札の数よりも、魔術のテクニック、発動の仕方、手札の切り方を重要視するべき。今回の貴方様の戦いは、まさに対【幻域】の教本と言っても過言ではない」
「ほえ!? 調子に乗らないように、って釘を刺されると思ったのに!?」
「まさかの追加評価だよ!」
そして――、
十数分後――、
まだ試験終了していないペアがあったので――、
試験終了したみんなが待機している山の入り口で――、
「んぁ……、あ? あ? んんっ?」
「感知――無事に起きたようでなにより、イ・トゴート様」
ジェレミアが意識を取り戻して、上半身を起こすと、そこには1枚の紙を持ったシャーリーがしゃがんでいた。
「…………っ、シャーリー様!? し、試験は!? 試験はどうなったのですか!?」
「自明――イ・トゴート様はラ・ヴ・ハート様に完敗した」
「いや! 違う! あれはシーリーンの運がよかっただけだ!」
「嘲笑――運がよかったのは貴方様の方。ラ・ヴ・ハート様が怒りに任せて貴方様の顔面を踏み付けたから、首の骨を折って気絶。回収してすぐヒーリングできたが、彼女様が【魔弾】をヘッドショットしていたら、ヒーリングする間もなく死んでいた」
「あ、あんなのはオレの実力じゃない! シーリーンがズルしたんだ! もう一度、シーリーンと試験を――……」
ジェレミアが駄々をこね始めた、その時だった。
轟ッッッ! という音だけで凄絶とわかる攻撃音がその場に木霊して、ジェレミアは恐る恐る背後を確認する。
そこには、いつの間にかクレーターができていた。
「……っ、【魔術大砲】の、少なく見積もってフィフスキャスト……ッ!?」
「否定――今のは少し威力を強めただけの【魔弾】にすぎない」
「なん……っ、だと……っ!?」
ジェレミアのワガママを完璧に封じたところで、シャーリーは今まで持っていた1枚の紙を彼の目の前でピラピラさせる。
「それは……っ」
「確認――私めと貴方様は、行きの馬車の中で一緒だった。そこで貴方様はこの紙を私めに寄こした。【幻域】の使い手の戦闘は珍しいから、アーティファクトで録画して、教材にしていいですよ、って。ラ・ヴ・ハート様の許可、サインは、試験が終わったあと、自分の所有物になるからどうにでもなる、って」
「あ……、あああ……っっ」
「追加確認――貴方様のサインは馬車の中で受け取った時にすでに書かれてあった。そして、ラ・ヴ・ハート様は貴方様の所有物にはならなかったが、お願いしたらサインしてくれた」
「お願いです! 返してくださいッッ! それには、オレの調子乗った姿が……っ! なのに敗北が……っ! 惨めな姿が……っ! それを父さんに見られたら……っ!」
「却下――正直、同じ女性として私めもかなり貴方様に苛立っている。これはありがたく頂戴して、今後、恐らく他の対【幻域】の教材が現れるまで、末永く参考資料として使わせてもらうが、協力、感謝する」
言うと、シャーリーは契約書を持っていた手とは逆の手で、アーティファクトをチラつかせる。
完璧に因果応報だった。
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