ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章9話 シーリーン、完全に幻影魔術をキャストされる!(1)
それから10分が経った。
ジェレミアは全力でシーリーンを追う。
逆に、シーリーンは全力でジェレミアから距離を取った。言わずもがな、【幻域】の効果範囲に入らないために。
そして、走りながらシーリーンはずっと背負っていたバッグの中身を頭で再確認する。
数は置いておくとして、バッグに入っているのは――きちんと水が入った水筒、携帯食料、マッチ、サバイバルナイフ、コンパス、そして最後に地図。
(以前……ッ! シィがスライムさんと戦った時……ッ! 『水中なら魔術の詠唱はできないし、詠唱破棄だって、声じゃなくて脳波で魔力に振動、波を立てるという性質上、相当な集中力を使うよね? しかも今魔術を使うとしたら、空中ではなく水中の魔力に波を立てる必要があって、当然、普段とは要領が違う』って、そう説明した! つまり! 逆を言えば! 相当な集中力を持っていて、要領さえつかめば、空気ではなく水を振動させて魔術を発動させることも可能なはず――ッッ! 水中にだって、魔力という素粒子は漂っているから――ッッ!)
シーリーンの考えていることは正しい。
しかも今は水中にいるのではなく、普通に地上にいる。
走っているとはいえ、水中にいながら水中の魔力に波を立てるよりは、数倍以上も簡単だった。
つまり――ッ、
(空気に向かって詠唱するのではなく、水筒の水に向かって詠唱する!)
水筒の蓋を開け、『とある魔術』の詠唱を水に向かって行うシーリーン。
そして詠唱を締めくくると、蓋を閉じ、水筒を地面に投げ捨てる。
シーリーンのこの行いにどのような意味があるのか。なぜ空気ではなく、わざわざ水筒の水を使って詠唱したのか。その意味がわかるのは、追跡するジェレミアが水筒の真上を走り抜こうとした、その時だった。
疾――ッッ!
と、水筒が破裂して、中から透明で、先端が鋭利な『棘』が放たれる。
「なにぃ!? 串刺しだとぉ!? 魔力の反応は一切しなかったのにぃ!?」
幸運なことに、ジェレミアは棘が発生した瞬間に、真横に飛び込んで難を逃れたが、その際に足を少しだけ挫いてしまう。
ヒーリングをキャストすればなにも問題ないレベルの負傷だったが、そのタイムロスのせいで、シーリーンはさらに遠くへ。
で、ヒーリングを終えてジェレミアが追走を再開すると――、
(小癪な真似を! 魔力の反応がなかったのは、魔術の発生源が水筒、つまり、密閉された空間の中だったからだ! そしてあの『棘』の正体は【聖なる光の障壁】のトリプルキャスト! 魔術防壁という超硬い壁を、三角錐のようにして、その先端をオレに向かって射出するなんて! 完璧に暗殺者の手口じゃないか!)
ジェレミアは苛立ちで奥歯を軋ませる。
そしてさらに10分後――、
「なんだ? ……パチパチと変な音がするし、熱くなってきたぞ?」
違和感を覚えるジェレミア。
彼がどうしても気になって背後を確認すると――、
「シーリーンのヤツ……ッ! いつの間に山火事を起こしやがったァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
ジェレミアは慟哭する。
そしてすぐに答えに行き当たった。
先ほどの水筒攻撃の時だ。
自分がシーリーンを追っているという構図上、シーリーンが火の点いたマッチを山に落としても、そのほんの十数秒後にジェレミアが気付き、水の魔術で鎮火できる。
だからこそ、一見殺人クラスの攻撃を使い、その派手さ、威力で、この攻撃が本命、と、思わせておいて、実のところそれはフェイク、注意を逸らして本命は山火事という仕組み。
(オレがシーリーンを追っていたのに、これで山火事がオレを追うような形になってしまった! クソがァ! いくら亜空間、管理されているといっても、山火事なんて普通起こさないだろう!)
一応、いくつか火を消すための魔術をジェレミアは持っている。例えば水の魔術。例えば結界のように使えば酸素不足を発生させられる【聖なる光の障壁】。
だが、それはなんの意味も持たない。
単純に、山火事の規模が大きすぎて、ジェレミアの魔力が足りないのだ。
そして、さらにさらに10分後――、
「アアアアアッッ! あのクソ売女! いつまで逃げる気だい!?」
ジェレミアは怒鳴る。
だが、粗野な言葉とは裏腹に、一応、流石は七星団学院に通っている魔術師ということもあり、頭の中は冷静だった。
現に今も、論理的にシーリーンを倒す方法を考えている。
(オレがシーリーンを倒す方法は簡単に思い付く。単純に、【幻域】をシーリーンにキャストしてやればいい。他には【魔弾】を撃つとか、肉体強化したまま殴ったり蹴ったりするとか、まぁ、方法は多々あるが――、まずはシーリーンに追い付かないことには始まらない)
確かにジェレミアは今、肉体強化の魔術をトリプルキャストしている。
推測ではあるが、対してシーリーンはダブルキャスト。普通に考えたら10分や20分で追いつけるのが道理だろう。
だが、シーリーンは走りながらトラップを仕掛けてくる。
そのたびに近付いた分の距離がもとに戻る、あるいはさらに広がるのならば、もう、肉体強化の魔術をフォースキャストかフィフスキャストするしかないだろう。
当然、【零の境地】を使うという手もあるが、あれは対象を目視していないとキャストができない。
となると――、
ジェレミアに残されている手は――、
「んっ、待てよ?」
なぜこんな簡単なことに気付かなかったのだろうか。
【幻域】も【零の境地】も、対象を目視しないと使えない。
逆を言えば、対象を目視さえしていれば、他には詠唱が必要とか程度の条件しか存在しないのだ。
「遠視の魔術を使っても、シーリーンが透明じゃない【聖なる光の障壁】をキャストしてくるし……いや、それ以上に木々が邪魔だ。遠視の魔術はその名のとおり遠視するだけで、障害物を透過するわけじゃないからねぇ……。なら――ッッ」
ジェレミアは走りながら、真正面に右手を開いた状態で突き出す。
次いで――、
「飛翔する天竜の翼は風を斬り、泳ぐ水竜の鰭は水を斬る。ならば斬撃を生み出す上位存在は竜を置いて他になく、いざ、我が腕に竜の一部を顕現させ給え。天竜の翼の如く、水竜の鰭の如く、我もここに斬撃を飛ばす。【竜、咆哮波動の如き飛剣】!」
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