ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章8話 シーリーン、死ぬことを考える、が……。(2)
「――――ッッ、当たり前なことだよね! なんでシィがロイくんよりもジェレミアさんを優先しなくちゃいけないの!? なんでロイくんの影響よりもジェレミアさんの影響の方が強いの!? 【魔弾】を撃とうとする前にロイくんの顔を思い出して気付いた! ジェレミアさんになにかされるかどうかよりも、ロイくんにどう思われるかどうかの方が重要に……ッ、大切に決まっているもん! ~~~~ッッ、イジメっ子に対する恐怖が! 救ってくれた男の子に対する感謝を! 上回るはずがない!」
そしてシーリーンは再度、右手の人差し指に魔力を込めて――、
振り向きざまに――、
「そこ――ッ」
「…………っ」
大気を走る魔力の燐光。
それは木々に隠れて小声で詠唱していたジェレミアの頬を擦過する。
なにをされたのか理解できなかったジェレミア。
そう、この瞬間、生まれて初めてシーリーンがジェレミアに血を流させたのである。
「よくわかったねぇ、オレが隠れて詠唱しているって」
「索敵魔術はこの戦いの間、永続キャストに設定していたからね」
大人しく姿を現したジェレミア。
それを見てシーリーンは少しだけ震えるも、すぐに気を持ち直して震えを我慢し、涙を浮かべながらも、凛とした表情で彼に交戦の意思がある視線を向けた。
「怖くないのかな、このオレが?」
「正直、すごく怖い」
シーリーンは指摘されると、一言の反論もなく、それを認めてしまった。
しかし、こういう場合、続きがあるのが道理だった。
「さっきまで泣いていたし、震えていたし、吐き気もしたし、眩暈もしたし、寒気もしたし、過呼吸にもなりそうになったし、そして、本気で自殺まで考えた。たぶん、馬車に乗る前にトイレに行ってなかったら失禁したかもしれないし、アリスたちの応援がなかったら、恐怖で気絶したかもしれない。それぐらい、怖い」
「困るねぇ……、失禁と気絶は別にいいけど、流石に死体の相手は遠慮したい。温かくなさそうだしねぇ。それで?」
「?」
「まさかとは思うが、この幻影魔術を使えるオレに立ち向かう気かい?」
「気付いたんだもん」
「ハァ? なにに?」
「自殺しようとした時、ロイくんの顔を思い出した。そして気付いたんだよ」
「あぁ! さっきの独り言と同じことかい?」
「それもあるけれど、もう1つ」
すると、シーリーンは大きく深呼吸した。
そして気持ちを落ち着かせてジェレミアのことを真正面から見据えると――、
「重要度とは別に、まだ、シィには、この世界でやりたいことが、たくさん残っている」
「――――」
「まだロイくんと結婚式を挙げていない。子供も授かっていない。新婚旅行にも行っていないし、そして、指輪もまだもらっていない」
「――――ッ」
「生きることは素晴らしいこと! だから! ジェレミアさんよりもロイくんの方が重要というのとは別に! シィは、こんなところ自殺なんてしない、って、思い留まることができた! あるかもしれない未来をドブに捨てるなんてことをしないですんだ!」
「キミィ……ッ」
「別にシィのことを犯してもかまわない! 死ぬよりはずっと上等だから! でも、1つだけ注意してね?」
「なにに……ッ!?」
「あなたがシィに負けてしまう可能性に! 別れ際に、イヴちゃんも言っていた! 心も壊れずに勝利を掴むのが、やっぱりベストなんだ、って! だからシィは目指す! あなたに犯されるかもしれない第1の選択肢でもなく、自殺してしまう第3の選択肢でもない、絶望を越えて、あなたに抗い、幻影を攻略して勝利を掴むという、そんな第2の選択肢を!」
啖呵を切るシーリーンとは翻って、ジェレミアの顔は激怒に染まっていた。
信じられなかった、シーリーンが自分に身体を許してくれないなんて。物事が自分の思いどおりに進まないなんて。
自分は貴族なのに、目の前の女は大人しく寵愛を受けないと言う。
ふざけるなという罵倒がジェレミアの喉元まで出かかった。
両手を血が滲むぐらい握りしめて、地団駄さえ踏んでしまう。
「クソがァ! あまり調子に乗るなよ、シーリーン? 調子に乗れば乗るほど、負けた時、お仕置きがハードになるぞ?」
「それでも、シィは第2の選択肢を諦めない――ッ!」
「できるつもりか、【幻域】を攻略するなんて? 魔術を5つしか使えなく、その中に【零の境地】が入ってなく、時属性と空属性の適性が低いキミが!?」
「できるよ! 最愛のロイくんがやってみせたことを、シィがやってできないなんてありえない!」
「気に喰わないねぇ! 好きな人を思い描いて勇気が湧いてくるなんて!」
「気に喰わなくてもけっこう! 誰になにを言われたって、好きな男の子のために戦うのは、恋する女の子の特権だもん!」
そこまでシーリーンが言うと、以降は張り詰めた空気が広がる。
次に使うのは光属性の魔術だと、互いに察しが付いていた。
ゆえに、光属性の魔術が落ち着いた瞬間――、
「――【聖なる光の障壁】!」
「――【零の境地】!」
言わずもがな、【零の境地】は魔術を無効化する魔術だ。具体的には、魔術Aと正反対な魔力の波長の魔力マイナスAをぶつけて。
ゆえにその魔術は、対象が光属性の魔術なら【零の境地】も光属性、対象が炎属性の魔術なら【零の境地】も炎属性、という構成になるのである。
畢竟、無効化されるシーリーンの【聖なる光の障壁】。
ジェレミアから言わせればワンパターンでしかなかった。無論、【幻域】を防御する方法は限られているから、仕方がないことではあるのだが、戦術を先回りできる以上、先刻のような手が2度と通用するわけがなかったのだ。
しかし――、
無効化されて【聖なる光の障壁】が霧散すると――、
「ハァ!? 2枚目の【聖なる光の障壁】だとぉ!?」
やられた……ッ、大失態だ……ッ、と、ジェレミアは強く苛立つ。自分で自分を罵倒する。まさか2度もシーリーンの逃走を許してしまうなんて。
屈辱だ。羞恥心さえ湧いてくる。
彼女が仕組んだことは子供でも思い付くぐらい単純。先刻、ジェレミアに光を拒絶する【聖なる光の障壁】を見せたから、彼は【零の境地】をキャストしてくると予想。だが、【零の境地】で無効化できる【聖なる光の障壁】は1枚だけだ。2枚以上無効化するためには、その分だけ重ねて詠唱なり、詠唱破棄なりをしなければいけなかった。つまりシーリーンがしたのは、ただ単純に【聖なる光の障壁】をダブルキャストするだけ、という作戦に他ならない。
「クソォオオオ! これは犯したあとに四肢をもぐべきかもしれないねぇ……っ!」
ドン……っ! と、憤怒を発散するように、ジェレミアは透明ではない純白の【聖なる光の障壁】に拳をぶつける。
あくまでも対【幻域】用の魔術防壁ということで、あっけなくそれは崩壊するも、すでにシーリーンの姿はそこになかった。
無論、それは逃亡ではない。
今度こそ、それは戦略的撤退だった。
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コメント
ペンギン
やっと、戦ってくれましたかシィさん!ありがとう!
あとは、頑張ってください!