ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章6話 シーリーン、心が壊れ、る……?(3)


「なん、で……?」
「んぁ?」

「なんで……、えぐっ……、ジェレミアさんは……、スン、スン、~~~~ッ、七星団の……、ぐすっ……、入団試験に?」
「ふぅ、オレはロイのせいで評判が地に落ちたんだよねぇ。貴族なのは変わっていないのに。たった1回負けただけなのに。男友達もいなくなったし、女の子もオレを遠ざけるようになった。特に女の子の方は最悪でねぇ、このオレの方からホテルに誘っても拒絶するんだぜ?」

「そ、それが……、なんで入団に繋がるんですか……?」
「理由は2つある。1つは七星団に入団して、ロイの評判をあらゆる手段を使って落とすこと。オレは本来、ロイよりも優秀だからねぇ。ロイに言い訳の余地を与えないために、いずれオレが挙げる戦果と、今までのロイの戦果を比べて、それで、やっぱりロイは大したことないな! ジェレミアの方が優秀だな! って、周囲の認識を変えるやり方でもいいし。例え言い訳の余地を与えても、代わりに疎外感を与えるために、貴族という立場を利用して、いろんな団員の事情に圧力をかけ、ロイと関わらせないようにする、っていうのもアリだ」

 完璧に間違っていた。

 まず魔王軍の幹部を倒すというのは、特務十二星座部隊の一員でも滅多に挙げることのできない戦果だ。大隊長クラスはもちろん、連隊長クラスの団員でさえ、魔王軍の幹部を討つことは、運に恵まれないとまず不可能である。
 無論、ジェレミアでも無理なことは言わずもがな。

 加えて、ロイに疎外感を与えるというのも不可能だった。なぜならば単純に、ロイはすでに貴族どころか王族だから。

 が、今に限って言えば、ジェレミアの発言の間違いなんて、特に意味を持たない。
 間違っているか否かなど関係なく、耳にしただけで、シーリーンは怯えてしまうのだから。

「それで……、ぐすっ……、2つ目の理由は?」
「父さんの意向でねぇ。田舎者に負けて家の名前に傷を付けたから、それを帳消しにするほどの偉業を達成して、汚名返上しろってさ。あとは、まぁ、一種の罰かな」

「罰……」
「ア――ッハッハッ! 父さんもバカだよねぇ! オレは幻影魔術を使える天才なんだぞ? こんなの全然、罰のうちに入らないと思わないかい? この試験はもちろん、入団しても楽勝だよねぇ!」

 哄笑するジェレミア。
 完璧に軍事力を持つ組織というモノ、いや、それ以上に人生というモノを舐め腐っていた。彼の頭の中ではともかく、現実でそんなに上手くいくわけがない。仮に合格しても、むしろ彼の普段の態度は、上官や先輩に反感を買いそうだったから、他の人の普通よりも厳しい生活が待っているというのに。

「さて」
「…………ッッ」

「ご主人様を騙そうとしたお仕置きだ。幻影魔術をキャストする。逃げるなよ? いや、脚に穴が空いているから逃げられないか」

「あ……、ぁ……、っ」
「映せ、映せ、鏡に映せ。現実を幻想に、世界を虚像に堕とす術。その世界には夕日もなく、晩餐もなく、楽器もなく、香しい花もない」

 瞬間、ジェレミアの周囲に時属性の魔力と空属性の魔力が渦巻き始める。
 魔力とは本来、目に見えるモノではなく、魔力覚という皮膚感覚の1種で認識するものだ。

 しかし、目の前のジェレミアは違った。
 あまりも濃度が高い魔力は唸るような音を木霊し、魔力は術式となり、術式は魔術となり、魔術は、いざ、煌々と瞬き現実を侵食する。

 泣いても相手の劣情を煽るだけで、ってやめてもらっても、それ以上に酷い未来しか待っていない。助けてくれる人などどこにもいず、救いなど絶無の一言。願いも祈りも戦場ではなんの役にも立たず、勇気など闇に消えた。
 悪夢よりも残酷で、地獄よりも悪辣。一切合切の希望など、反転して同じ絶対値の絶望と化し、希望を夢見る分だけシーリーンは否応なしに絶望を強く意識する。

 それはジェレミアにとって極上の餌。
 シーリーンの冷や汗も、涙も、血も、そして絶望も、彼にかかれば所詮、舌の上で転がすためだけのモノにすぎない。

 絶望の楽園で悪名高い幻影のウィザードはわらい――、
 そして今――、

「…………っ、詠唱破棄! 【聖なる光の障壁】!」
「誰の温もりも感じぬまま、偽りだけを感じ給え。【幻域】!」

 間一髪のところだった。
 ほとんど条件反射で魔術を発動したシーリーン。
 そのほんの一瞬あとに詠唱を締めくくったジェレミア。

 そう、【幻域】が完成する前に、シーリーンの【聖なる光の障壁】が展開を完了したのである。

 が、それはただの【聖なる光の障壁】ではなかった。

「なんだ!? この純白の【聖なる光の障壁】は!? 透明じゃないだと!?」

 突如、目の前に現れた圧倒的な白壁。まるで天使の羽のような純白ではないか。
 本来の【聖なる光の障壁】はガラスのように透明なのに、目の前のこれは向こう側を見せてくれない。向こう側の匂いはもちろん、音さえも遮断されていた。

「なるほど――、馬車の中で【幻域】対策をしてきたようだねぇ。いくら五感で捉えられる範囲が【幻域】の有効範囲とはいえ、人間の感覚の80%以上が視覚だ。聴覚は7%だし、嗅覚にいたっては2%。そして視覚の感覚器である眼球は光を脳内の信号に変えて、生き物に光景を見せてくれる」

 つまり――、
「光の障壁ならぬ、光に対する光の障壁……。魔術防壁の特性が拒絶である以上、色を付けるよりも、光を拒絶する方が本来の用途にあっているからねぇ。まぁ、手鏡かなにかから着想を得たか? そして音、つまり物質の振動も遮断している……。ハァ、これじゃあ【幻域】をキャストできないねぇ」

 目の前を壁で覆われて、音も聞こえない。匂いもしないし、舌か肌で直接、触れないとなにも感じてくれない味覚と皮膚感覚は論外だ。

 実質、ジェレミアの【幻域】は眼球に頼りきりである。耳と鼻が活躍する機会といえば、背後や真上など、人間の絶対的な死角に【幻域】をキャストしたい相手がいる時だけだ。

 と、珍しく自分の弱点を認めたところで、彼はあることに気付く。

「普通では珍しい効果を【聖なる光の障壁】に付与して、その上で、この城壁のような大きさ。なら――【風打の槌ハンマー・フォン・ヴィント】!」

 弩ォオオオ……ッッ! と、古竜が唸るような音を木霊させる圧縮された風の槌が、いざ、魔術防壁に勢いよく叩きつけられて、結果、地響きのような轟音を響かせて魔術防壁は崩れ砕けた。

 ジェレミアは気付いたのである。
 シーリーンの実力を考慮するに、このぐらいの特殊効果を付与させたならば、本来の耐久性は失われているはずである、と。

「さて、どれどれ……チッ、逃げたか」

 破壊した壁を超えてみても、そこにシーリーンの姿はなかった。
 恐らく、否、絶対に脚をヒーリングしてみせたのである。ヒーリングなんて早熟なら5歳以下の子供でも覚えられる初歩中の初歩魔術だ。いくら不登校だったシーリーンでも覚えているのが普通だった、と、ジェレミアは改めて考える。

「正直、いい手だったよ、シーリーン。【幻域】には詠唱が必要。けれど、【聖なる光の障壁】は詠唱破棄がたやすい。確かにそれなら、スピードという一点に置いて、たった一度とはいえ、キミでもオレを超えられる」

 ジェレミアは決めた。
 これは避妊なんてしてやらない、と。


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コメント

  • ペンギン

    だ!か!ら!ジェレシアやめろ!

    1
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