ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章3話 シャーリーとベティ、期待する。



 山に続く馬車道の入り口で、3人の七星団の団員が試験の終了まで待機していた。
 1人は残りの2人の付き人であり、その残った2人のうちの片方はシャーリーで、もう片方は――、

「暇であります!」
「微妙――時間を持て余していることは事実だが、これも立派な仕事の1つ。私めたちにとっては簡単な仕事ではあるが、手を抜く道理はどこにもない」
「もちろんであります! 暇であることと気を抜くことは同義ではありませんので」

 日常会話でもやたらハキハキと受け答えする彼女の名は、特務十二星座部隊、星の序列第8位、【天蠍】のベティ・フレン・ドラ・ヴァーメイカーである。
 普通ならこのような入団試験、試験官は人事の団員が担当するのだが、なぜか、今回に限ってシャーリーが「提案――次の入団試験の試験官は私めが担当したい」と言い出したのだ。

「それにしても、感謝――今日は私めのワガママに付き合ってくれて礼を述べる。ありがとうございます。私めは時属性の魔術が得意だが、空間転移はからっきし。人間を召喚獣に見立てて、別の場所に召喚する疑似空間転移を使えるヴァーメイカー様が同行してくれて、本当に助かった。試験終了後、受験者たちを回収しやすい」
「滅相もありません! たまには次世代の兵士の誕生を間近で見るのも、上に立つ者の義務であります!」
「同意――特に今日は特別だから」

 一般人ならベティの受け答え、会話の相手は相当疲れるはずだが、どうもシャーリーはそのへんに疎かったので、こんなベティとでも自然体な言葉の応酬ができていた。
 が、2人の付き人、2人がこなかった場合、本来試験官を担当していた男性は、2人の会話を聞いているだけで、頭が痛くなったが……。

「そ……っ、それで、シャーリー様、本日の試験が特別という、そのわけは……、っ」

「失敬――あなたにも礼を述べる。ありがとうございました。本当は試験官だったはずなのに、代わりに付き人、試験官ではなく補佐官をやってもらって」
「いえいえ! 例え補佐官であっても、特務十二星座部隊の補佐官であれば、やりがいがあるというものです。どうか、お気になさらず」

「受理――それで話題を戻すが、私めは今回、1組の戦いに注目している」
「あぁ! セシリア様がお目にかけていると噂の、イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクさんですね」

 イヴのことは特務十二星座部隊でも話題になっていた。
 一応、本来ならイヴの取り扱いはデリケートであるため、特務十二星座部隊を始めとする上層部だけで情報を留めるはずが、「あの48歳の【処女】、セシリア・リリカ・ルエ・ピック・ヴ・レッシングが直々に七星団への入団を薦めた!」ということで、この一点だけに関して言えば、七星団全体で話題になるようになってしまったのだ。

 例えば、イヴの兄はあのロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクだそうだ! とか。
 例えば、やはりあの家族、血筋には優秀な子供ができやすいのか! とか。
 例えば、イヴは【絶光七色アブソルート・レーゲンボーゲン】を詠唱破棄できるらしい! とか。

 ゆえに、2人の付き人である試験官、改め、補佐官も、シャーリーの言葉で納得する。

「なるほど、やはり噂は本当だったようですね。シャーリー様が直々に視察にこられるなんて」

 感心したように付き人の男性が言う。
 しかしシャーリーは――、

「訂正――私めが注目しているのはフェイト・ヴィ・レイク様の妹様ではない」
「は? と、言いますと……?」
「回答――彼女と一緒に馬車に乗っていた金髪の女の子の片方、シーリーン・ピュアフーリー・ラ・ヴ・ハート様に注目している。それは、少しフェイト・ヴィ・レイク様の周辺に用事があって、偶然とはいえ、入団テスト用に用意された、受験者全員の身辺調査書の中に含まれていた仲良し4人組のそれを読んだ時から」

 その回答に補佐官は言葉を失った。
 なにを言っているんだ、この女性は……、と。
 と、いうより、そんな名前の受験者を覚えていない、と。

 そしておっかなびっくりという感じで、補佐官はシャーリーに質問した。

「あの……それはなにかの間違いでは? 失礼ながら、そのシーリーンさんという受験者を、私は名簿を確認しないと思い出せませんし、仮に記憶に残るぐらいの受験者だとしても、今回の試験でイヴさんを差し置いて他の受験者に注目というのは……」

 まるで平身低頭という感じで、補佐官はシャーリーに進言する。
 が、それに対する否定は別のところから聞こえた。

「間違いではありません。自分も誰かひとりを注目するなら、イヴ殿ではなくシーリーン殿に注目するのであります」

「ベティ様もですか!?」
「自分もシャーリー殿に誘われて身辺調査書に目を通してみれば、それは感嘆の一言でありました。受験者の身辺調査書を確認すればわかることでありますが、シーリーン殿は前回の大規模戦闘の前に、ツァールトクヴェレでスライムを倒しているのであります」

「あの物理攻撃無効化、身体再生能力を持つスライムを!? いや……、しかし……、それは雷属性の魔術を使えば、まぁ、一応……」
「否定――彼女は当時、使える魔術が4つしかなかった」

「たったの4つ!? それこそなにかの間違いでは!?」
「詳細――彼女が使えた魔術は【魔弾】と【聖なる光の障壁】と【強さを求める願い人】と【優しい光】のみ。雷属性の魔術は1つも覚えていなかった。が、彼女はスライムを温泉の源泉に突き落とし、ゆでて殺すことで撃退に成功。無事に生還を果たした」

「敵をゆでて殺す、ですか……。斬新な殺害方法ですねぇ……」
「拷問や処刑ではよく見かける手段ではありますが、それを命のかかった実戦で思い付き、実行し、あまつさえ成功に導くのは、この自分からしても、簡潔に言うならば驚愕であります」

「は、はぁ……、しかし、最後に1つだけ質問をお許しください」

「問題ありません。どうぞ、であります」
「確かにシーリーンさんの機転は素晴らしいものだったと、聞く限り思いました。しかし、それを聞いた今でも、私でしたらシーリーンさんよりもイヴさんの方に注目します」

「嘆息――まだ言うか」
「いえいえ! もちろんきちんとした理由があってのことです!」

「疑問――それは?」
「なぜならば、単純にイヴさんの方が、少なくとも一見した分だと優秀だからです。もちろん、シーリーンさんを蔑ろにしているわけではなく、誰と比べてもイヴさんが飛び抜けてしまう、という意味ですが」

「一応、そこまでは理解したのであります」
「それで、話を戻しますが、今書類を見ましたが、イヴさんの方が使える魔術の数が多いではありませんか! シーリーンさんが今日の時点で使える魔術が5つで、イヴさんはその倍以上ですよ!?」

 すると、シャーリーは真剣な顔付きになり――、

「質問――使える魔術が5つなのと、その倍以上、仮定として15個なのと、どちらができることが多い? ヒント、この質問は2択ではない」

「は……っ、まさか……」
「気付いたようでありますね。お察しのとおり、そんなの人それぞれなのであります。1つの魔術でできることが5つある人が、5つの魔術を覚えていた場合、できることは25個。一方で、1つの魔術でできることが1つしかない人が、15個の魔術を覚えていても、できることはたったの15個。つまり、自分たちはシーリーン殿に、今回のテストで戦術力を見せてほしいのであります」

「戦術を練る力……、ですか」
「そのとおりであります。自分とシャーリー殿が値踏みした感じでありますと、近年、稀にしか見ないほど、シーリーン殿には1つの魔術で複数の使い道を思い付く発想力が宿っているのであります。自分たちは、そこに期待しているのでありますよ」

「肯定――対戦相手がトラウマの元凶なのは本当に偶然で、少しは同情する気持ちもあるが、恐怖に屈するようでは、戦場でも同じようになって、死んでしまう。――さぁ、スライムの時のように、私めたちにも見せてほしい。圧倒的な実力差を覆す戦術を」


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