ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章1節 シーリーン、どうしたらいいかわからない。(1)
馬車で王都の城壁から外に出て、もう15分以上経った。
1台の馬車に乗れるのは御者を除いて4人程度で、かつ、組分け自由だったので、シーリーン、アリス、イヴ、マリアは同じ馬車に乗ることに。
窓から外の様子をうかがうと、徐々に鬱蒼とした木々が無造作に生い茂ってきて、本格的に山に突入し始めたのだろう。
嗚呼、ジェレミアと同じ馬車にならなかっただけ、幸いか。
「……やっぱり、納得できないわ」
「アリス?」
「シャーリーさんが言っていたでしょ? シィの試験の相手をジェレミアから変えることはできない――ッッ! その上で、シィは合格したければ、他の受験者と違い絶対に戦闘テストに勝たないといけない――ッッ!」
苛立ち交じりにアリスが大きな声を出す。
その苛立ちに、大きな声を出す以外のやり場がなかったのだ。
「アリスさん、落ち着いてくださいね? 親友のために怒れるのはアリスさんの美徳ですが、それでも、アリスさんのそれは感情論。対して、出発前にシャーリーさんが仰ったのがロジックですからね」
「……っ」
「実際の戦争では、相手を自分で選ぶことができない。もしかしたら、自分のトラウマのような魔物と相対することもある。なのに試験で、シーリーンさんはジェレミアが苦手だから対戦相手を変えてください~、というのは、非常にナンセンスですね」
「でも……っ」
「むしろ、アリスさんが言えば言うほど、このシーリーンという女の子は、トラウマに限らず、恐怖と向かい合った時に屈してしまう可能性が高い。ひいては、戦場で戦意喪失する可能性が高い。――なんて、判断される可能性もありますからね?」
「それ、シャーリーさんが言ったことと同じじゃないですか……」
「ええ、彼女の言い分には1つの文句の付け所もありませんでしたからね」
「…………」
不機嫌になるアリス。
だが、マリアにも考えがあった。
例えば、国王陛下が社会の厳しさを説くのと、若年無業者が社会の厳しさを説くのとでは、どちらに説得力があるだろうか?
恐らく、ほとんどの人が前者と答えるだろう。
マリアの考えはそれと同じだった。アリスと親しいマリアがそれを言うのと、アリスと話すのが初めてのシャーリーがそれを言うのとでは、当然、前者の方がアリスも受け入れてくれやすい。
ゆえに、マリアは多少自分に対して不満を抱かれても、彼女を納得させるために、シャーリーとまったく同じことを、口を変えて言ったのだった。
「でも……それにしてもだよ? ジェレミアはシーリーンさんが不登校だった、ってことを知っているし、シーリーンさんが5つしか魔術を使えない、っていうのも、バレちゃったよね?」
「…………」
「ブラフ、駆け引きができないよ……?」
「…………」
イヴの言葉にシーリーンは沈黙しか返せなかった。
そして無言を貫くしかないシーリーンに、他の3人の視線がどうしても集まってしまう。
「……、だからでしょうね、貴方様が合格したければ、他の受験者と違い絶対に戦闘テストに勝たないといけない、なんて、シャーリーさんが言ったのは」
「どういうこと、お姉ちゃん?」
「使える魔術が5つだけ、というのは、平均と比べると恐ろしく少ないですからね。いくら試験が勝敗無関係の、善戦の度合い、実力の誇示を重視しているといっても、流石にこの数では、いくら善戦したところで、実力不足を指摘され――十中八九、不合格でしょうね」
「それは……、その……、みんなシィに気を遣って言わなかったけれど、前々から気付いていました……」
「あぅ、気付いていなかったのはわたしだけだよ……」
これがアリスが抱いていた『とある心配』、『シーリーンだけに当てはまる心配・事情』の正体であった。
もちろん、アリスもマリアも、シーリーンに気を遣ってそのことを言わなかったが、指摘しなかった理由はもう1つある。
単純に、シーリーンが一番、自分のことだから、それを理解しているから、という理由だ。自覚していて、自分でもマズイと思っていることを、他人から改めて注意されたら、大半の人は、わかっている……っ、と、苛立つし、シーリーンに当てはめるなら、彼女は必要以上に悩んでしまう。苦しんでしまう。
「まぁ、シーリーンさんの場合、実はジェレミアが相手でなくとも絶対に勝たなければならなかった、というのは置いておいて――とにかく、使える魔術が5つだけでも実力を誇示するためには、明らかに使える魔術が2桁の相手を5つだけの魔術で上回る必要があるわけですね」
「難しい、よね……」
シーリーンが弱音を零す。
ほんの数日前に、アリスが言ったことだが、この七星団の入団テスト、アリスも、イヴも、マリアも、シーリーンの参戦を反対しているわけではない。ただ、死んでほしいわけでもない。
それと同様に、反対しているわけではないが、ジェレミアと戦って、心を壊してほしいわけでもないのだ。
「シィ……」
「ただでさえ難しい試験にはなるだろうなぁ、とは思っていたんだよ? それなのに、その相手がジェレミアさんだなんて……」
「「「…………」」」
「シィの使える魔術でジェレミアさんの幻影魔術、【幻域】を突破するイメージなんて、全然湧いてこない……っ」
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