ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章5話 ロイ、伝えられる。(1)



 帰宅――城に帰宅するというと変な感じがするが、とにかくロイとヴィクトリア、そしてクリスティーナが帰宅ならぬ帰城をすると、ロイの部屋には4人の美少女がソファに座って待機していた。
 4人とは言わずもがな、シーリーン、アリス、イヴ、マリアのことである。

「ど、どうしたの、みんな? そんな真剣な表情かおをして……」

 思わず、ロイは部屋に入ってほんの数歩目の段階で立ち止まり、そして不安がってしまう。ボク、なにかみんなを怒らせたり、悲しませたりしたかな、と。
 無論、少しだけとはいえ動揺を覚えて足を止めてしまったのはヴィクトリアとクリスティーナも同じで、2人も、ロイの少し後ろで顔を見合わせていた。

「ロイくん、ヴィキーちゃん、クリスさん。大切な話があるから、とりあえず、そんなところに立っていないで、ソファにでも座ってほしいの」

 そんな3人に着席するように促したのはシーリーンだった。
 で、3人は言われたとおりに、シーリーンたち4人が座るソファとは対面のソファに、大人しく座る。

「クリス様……、これはいったいどういうことですの……?」
「さ、さぁ……、正直、わたくしにもサッパリ……」

 小声で、シーリーンたちに聞こえないようにやり取りをするヴィクトリアとクリスティーナ。
 それを同じソファに座っていたからという理由で耳にしてしまったロイは、2人に思い当たる節がないのなら、この雰囲気の原因はボクかな……? と、考えて、そして、シーリーンたちに切り出そうとする。

「それで……大切な話ってなにかな?」

 すると、シーリーンが大きく深呼吸する。
 重大な発言をする前に、自分を落ち着かせているのだ。

 シーリーンは思い返す、今までのことを。自分も、アリスも、ロイという少年から数えきれないほど大切なモノを与えられてきた。例えば、シーリーンはロイとジェレミアとの決闘で。例えば、アリスはロイがレナードと共闘したアリエルとの決闘で。加えて、ロイとレナードの昇進試験で。
 ゆえに、恩返しするべきだった。

 一方で、イヴとマリアだって、今までロイに守られてきた。別荘では魔物からイヴたちがそれを守ったが、それ以外では、常に全員、ロイの庇護を受けていた。リザードマンが街に潜伏していた時も、ロイが実際に死んでしまった大規模戦闘の時も、あのまま魔王軍の侵攻が進めば、イヴやマリアたちにも充分被害が及ぶ可能性があったのに、ロイがそれを未然に防いでくれたのである。

 ならば、ここにいる4人の想いが1つなのは必然だろう。

「ロイくん」

「……は、はい」
「シィたち、七星団の入団試験を受けようと思うの」

「は?」
「っていうか、今日の学院の帰り道に、もう申し込み用紙を提出してきちゃった」

 シーリーンはロイから目を逸らさずに告白する。
 次いで、ロイがシーリーン以外の女の子、アリス、イヴ、マリアに順に視線をやると、3人も頷いてシーリーンの宣言を肯定した。

 一方で、ヴィクトリアとクリスティーナも驚いている。ヴィクトリアは目を大きく見開いて、クリスティーナの方は口元を両手で覆っているではないか。

「ウソ、じゃないんだよね……?」

 と、ロイは喉の奥からなんとかそんな言葉を絞り出す。
 すると、今度はシーリーンではなくアリスが口を開いた。

「ウソじゃないわ。それに、特に私は前々から言ってきたじゃない。ロイが七星団を続けるなら、私もすぐに入団してみせる、みたいなことを」
「それに、わたしもお兄ちゃんには話したはずだよ? セシリアさんに誘われた、って」
「まぁ、口だけで理想を言い続けるのと、実際に行動でその意志の強さを証明するのとでは、重みが違いますからね。実際に申し込み用紙を提出した今、それを聞いて弟くんが動揺するのも納得できます」

 確かに、彼女らの言うとおりだった。
 だが、詳しく確認しておかねばならぬことは、他にも存在していた。

「まず……一番初めに疑問に思ったことなんだけど、アリスとイヴだけじゃなくて、シィと姉さんも入団試験を受けるの?」
「うん、もう守られているばかりじゃイヤだから」
「そのとおりですね。弟が今まで頑張ってきて、妹も今から戦場に立つというのに、姉だけが安全なところで指を咥えて眺めているだけなんて、情けないですからね」

 と、ここでアリスが、実は今まで自分の隣に置いていた、1冊のパンフレットを、ソファとソファの間にあったテーブルの中央に開いて、ロイたちに見せてみる。
 言わずもがな、王国七星団の入団案内だった。

「準備がいいね」
「ええ、ロイってこういうのを端から端まで、全部読み通すタイプだと思って、今のように説明する時のために用意しておいたのよ」

「お兄ちゃんは例外だけど、入団するのにも、いろいろな方法があるんだよ」
「その中には、学生を続けたまま入団する方法もありますからね」

「もちろん、シィたちが選んだ方法もそれだよ」

 言われてみれば、ロイが七星団に入団したのは、いわゆる徴兵という形だった。パンフレットを読み、申し込み用紙を出して、試験に受かって入団したわけではない。
 ゆえに、ロイよりもシーリーンたちの方が、今では入団試験の情報に詳しいのである。

 で、自分の情報不足を補うために、アリスに差し出されたパンフレットを読むロイ。
 そこには当然、入団の方法が記されてあって、例えば、ロイに当てはまる徴兵制度、シーリーンたちが選んだという学院に通いながら入団する制度、もちろん、七星団に自ら志願して、かつ、学院とかに属さない普通の入団制度もあった。

「そういえば、珍しいよね、軍事力を持っているのに、学院に通いながら在籍できる組織なんて。少なくとも、ボクの前世では聞いたことがないな。もちろん、ボクが知らないだけ、ってこともあると思うけれど」

「当たり前ですが、七星団、他国でいうところの軍人に求められるのは、戦うことだけではありませんわ。究極的には戦いを勝ちやすくするため、という結論には達してしまいますが、魔術の基礎理論や体育の講義はもちろん、社会の教科を学ばなければ、グーテランドと魔族領の歴史が見えてきません。科学の教科を学ばなければ、戦う相手がどういう生態で、どこに心臓があってどこに脳みそがあるのかがわかりません。数学を学ばなければ兵士の配分も上手くできませんし、そもそも、国語を学ばなければ文字も読めません」

「必然でございますね。七星団の団員にも教養は必要。むしろ、力は強いけれど勉強ができない、という方は、足手まといでさえあります」

「クリス様の言うとおりですわ。とにかく、グーテランドの方針といたしましては団員にも教養を、ということで、シーリーン様たちがお選びになった、学院に通いながら入団する、という制度もあるんですの」

「一応訊くけれど、そもそもそれらの教養を七星団が教えるって選択肢をあるんじゃない、ってツッコミはなし?」

「そうですわね。ロイ様のご指摘も理解できますわ。ですが、勉強は勉強を教えるための機関に、戦闘は戦闘を得意とする機関に、下手に門外漢が口出しするよりも、プロフェッショナルに任せた方が物事は上手くいきますのよ? もちろん、締結しておりますから、互いにプロフェッショナル同士をコンサルタントとして呼ぶことも可能ですが」

 なんか、そういう考え方は、前世の日本よりもしっかりしているなぁ、と、思うロイだった。
 確かに、物事を専門家に任せた方がいい、というのはロイも理解している。現に、前世の日本以外の国の部活では、教員ではなく外部の専門家を呼んで指導している、という話も多いぐらいだ。というか、それがほとんどで、外国からしたら、教員が部活の指導をするなんて信じられない話らしいが。

「なら、入団方法についてはアリスに先回りされたからいいとして、次の質問なんだけど……」
「なにかしら?」


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