ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章1話 クリスティーナ、初々しい。(1)
当然、魔術でもキャストしない限り、同一人物が複数の場所に存在するなんてありえない。
つまり、シーリーン、アリス、イヴ、マリアが学院の中庭で決意を固めていた時、彼女らが別の場所、今、ロイとヴィクトリア、そしてなにかあった時のために同行しているクリスティーナが歩いている、王都のメインストリートには、いるわけがなかった。
そう、今、ロイとヴィクトリアは、認識阻害の魔術をキャストして、お忍びデートしたいたのである。
ロイは紺色のズボンに、ブラウンの襟付きシャツ。
一方、ヴィクトリアがゴスロリ調の服を着て、スカートを履いて、まるでお人形のようなファッションをしていた。
さらに一方、クリスティーナはハイウェストの紺色のロングスカートを履いていて、上は白のブラウスで決めており、かなり上品な感じに仕上がっている。
言わずもがな、お忍びなので、ゴスロリが庶民的か否かは謎だが、ヴィクトリアはドレスなんかを封印して、クリスティーナも、目立つのでメイド服は着ないことにしたのである。
「少し、シィたちに申し訳ないな……。隠し事をしているみたいで」
「別に事後報告しても大丈夫ですわよ? やましいことをするわけではありませんもの」
「でも、デートしているのは事実だから怒られそう……」
「もうっ、わたくしとデートしているのですから、もっとわたくしのことを考えてくださいまし! その……、……っ、ほんの少しだけ、ヤキモチを焼いてしまいますわ!」
「まぁ、そうだね。このデートには、きちんと、出会うのがみんなより遅かった分の遅れを取り戻したい、って理由があるし」
燃えるような琥珀色の空の下、ふと、ロイとヴィクトリアは歩きながら、ようやくここで互いに互いの手を繋いだ。
いわゆる恋人繋ぎというヤツだ。
「あっ、わたくしのことは無視して大丈夫でございます♪ わたくしはあくまでも護衛。まぁ、ご主人様よりかなり弱いのですが……ともかく、ご主人様と王女殿下の逢瀬に介入する気はございませんので」
と、パーフェクトメイドさんスマイルを浮かべるクリスティーナ。
まるで陽だまりに咲く健気なタンポポのように親しみやすい笑みだった。
しかし、ヴィクトリアは子供っぽく頬を小さく膨らませて――、
「お断りですわ! 確かに、本来これはわたくしとロイ様のデート。クリス様の同行は、わたくしが王女で、どうしても外出の際に護衛が必要だったからですわ。でも! どのような事情であれ、一緒にいるのだから、仲間外れはいけないことだと思いますの! ねっ、ロイ様もそう思いませんこと?」
「そうだね。それに、いつもはシィやアリス、イヴは姉さんと遊んでいて、クリスはメイドだからか、少し控えてくれているけれど、せっかくだから、今日はクリスともいつもより仲良くなれたら、なんて思っているんだけど……迷惑かな?」
「い、っ、いえ! 滅相もありません! そ、それでは、えへへ……、僭越ながら、非常に僭越ながら、わたくしも……、その……、で、でで、デート……に、加わらせていただきます」
頬を乙女色に染めてはにかむクリスティーナ。
そして直接ロイと手を繋ぐのが躊躇われたのか、彼の手ではなく、服の裾を、いじらしくチマッ、と、彼女はつまんで、そして恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
が、ここでロイはいったん、クリスティーナの手をピッ、と、振りほどいて、しかし、改めて彼女と恋人繋ぎをしてみせた。
ハッ、と、顔をあげるクリスティーナ。
そんな彼女にロイは――、
「ほら、こっちの方がデートっぽいでしょ?」
「~~~~っ」
クリスティーナは赤面しながらも、コクンッ、と、小さく頷く。
「にしてもロイ様、いきなり手を繋いで、拒絶されたらどうするおつもりでしたの?」
「いやいや、先にボクの服の裾をつまんだのはクリスだし、だから大丈夫かな、って」
「ぐぬぬ……、論破されてしまいましたわ……」
そんなやり取りをしながら、3人は仲睦まじく王都のメインストリートを闊歩する。
が、その途中で、ヴィクトリアはあることに気付いた。
なぜか、クリスティーナの顔が、未だに赤いままなのである。
(恐縮している、って感じではありませんわね。顔は強張っていない、むしろ、少し嬉しそうにニヤけておりますし。でも、やはり顔はほんのり赤いまま)
そして、ヴィクトリアはついに察してしまう。
が、別にそれを咎めるわけでもなく――、
(まぁ、アリス様が以前、ロイ様を好きという気持ちが同じなのに、わたくしのロイ様を好きという気持ちを理解できないはずがない、みたいなことを仰いましたが、それと同じですわね。わたくしもロイ様のことをお慕いしておりますのに、クリス様のロイ様をお慕いする気持ちがわからないわけありませんわ)
次いで――、
(それにしても、身分差の恋ですわね。でも、それも仕方がないことですわ。いけないこととわかっていても、それを凌駕してしまう魅力がロイ様にはあるんですもの。外見だけではなく、内面も、優しいですし、明るいですし、親しみやすいですし、カッコいいですし)
続いて、最後に――、
(けれど――、――、まだ、自覚はないようですわね)
そう、ヴィクトリアが察したとおり、まだ、クリスティーナには、自分がロイのことを愛しているという自覚がなかった。
そして、なんでこのタイミングでクリスティーナのロイに対する恋心が表層化したかといえば、当たり前だが、クリスティーナは今まで、ロイとデートしたことがなかったからである。言い換えれば、今日が初めてのデートということだ。
初めて、主人とメイドではなく、男の子と女の子として街を歩いたのが、今日なのである。
「ロイ様」
と、思い立って、ヴィクトリアはロイにあることを訊いてみようとする。
「なに?」
「今日のわたくしたちの服はいかがですか?」
「あっ、ゴメン、言うのが遅くなっちゃったね。すごく似合っているし、すごく可愛いよ」
「具体的には?」
ニヤニヤしながらヴィクトリアは追求する。好きな人を困らせてイジワルしたかったのだろう。
それに、ロイは困ったような笑みを浮かべた。彼の方も彼の方で、好きな人にイジワルされて嬉しかったのだ。
「まず、銀髪とゴスロリは相性がいいよね。それに、髪だけじゃなくて、ヴィキーは色白だから、黒い衣装とコントラストになって見栄えがすごくいいと思うよ。だから似合っている。なおかつ、スカートの下にはパニエを履いているのかな? だから花が咲くようにスカートがふんわりしていて乙女チックだし、フリルやレースアップなんかも女の子らしいよね。だから可愛い」
「~~~~っ」
照れくさい、恥ずかしい、赤面してしまう、なのにすごくすごく、顔がニヤけるぐらい嬉しすぎる。
とある『考え』があってこのようなことを訊いたのだったが、それにしたって、ロイの答えは完璧すぎた。どのような人生を送ればこのような回答ができるのか。
今の答えをタイムロス皆無で喋り始めるのもおかしいし、さらに途中で詰まってしまわないのもおかしいし、さらに、スカートの中に少しとはいえども言及しているのに、まったくイヤな感じに聞こえないのがすごすぎる。
もう、ヴィクトリアは今日も、ロイが好きで好きで好きで、大々々好きで仕方がなくなってしまう。
叶うのならば、今すぐ彼の胸に飛び込んでしまいたかった。
が、なんとかそれをこらえると、ヴィクトリアは次に、クリスティーナに視線をやる。
「コホン、わたくしのことを褒めていただけるのは嬉しいですが、今、ロイ様がデートしている相手は、わたくしだけではありませんことよ? もう1人、お褒めになられた方がいい女性がいると思われますが」
「~~~~っ、わ、わたくしもでございますか!?」
なんと、突如として会話の矛先がクリスティーナに向けられた。
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