ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章10話 シーリーン、アリス、イヴ、マリア、決める!(2)
息を呑むシーリーン。
アリスは、ついにこの時がきたのね、と、内心で受け入れて、マリアは最年長者として、自分に直接訊かれるまで、話の成り行きを静かに見守ろうと決める。
そして、イヴはまず、すでに答えを言葉にしているアリスに会話の矛先を向けた。
「と、いっても、アリスさんは――」
「ええ、このとおりよ」
ここは学校だ。当然、勉強に必要な一式をカバンに入れて毎朝持ってきて、放課後になるたびに持ち帰る。
ゆえに、現に今も、4人の椅子の脇には、4人の通学カバンが立てかけられていた。
そして、アリスはそのカバンから4枚の用紙を取り出したではないか。
「七星団の入団試験の申し込み用紙よ。イヴちゃんは、入団する、って、言ったけれど、それは決意の話。まずは試験を受けないことには始まらないわ。で、1枚には私の名前とか住所とかをすでに書いてあって、残りの3枚はイヴちゃんたちの分」
「やっぱり、持っていたんだね」
「個人的な入団する覚悟は、前々から言っていたとおり、すでに固まっていたわ。でも、抜け駆けするような形になるのがイヤだったから、ちょうど、ここに集まった3人にも入団の意思を確認しようと思ったのだけれど……」
「まぁ、普通は訊きづらいですよね。死ぬかもしれない組織に入る気はあるか、なんて」
と、マリアがアリスの発言を先回りして、言葉を濁しそうになった部分を代わりに言ってあげた。
「で、問題はシィよね」
「シィ?」
「シィ、あなた、使える魔術が4つしかないんでしょ? 反対しているから、その根拠を挙げているわけじゃない。ただの事実として、不登校だったから知識も少ない。講義で対人戦闘、実戦演習の単位を取得できたわけでもない。魔術が4つしか使えないのは今言ったとおりだし、かといって、レイピアやサーベル、バスターソードはもちろん、初心者向け、子供用のナイフだって、戦闘行為で使えるほど扱えるわけじゃない。違う?」
「アリス……」
「反対しないのは今言ったとおりよ。でも、死んでほしいわけでもない」
「――――」
「つまりね? シィが試験を受けたいって言うのなら、一緒に申し込むけれど、その判断をする前に、仮に試験に受かって、このまま入団するのは、正直、一言でいうならば、無謀。そのことを、知っておいてほしいの」
別に、アリスはシーリーンのことを突き放しているわけではない。
むしろ、シーリーンにとって過酷な現実を突き付けてはいるが、彼女のことを心配してこう言っているのだった。
無論、シーリーンだって子供ではない。アリスの厳しい言葉の裏に秘められた優しさには気付いている。
そして無言のシーリーン。
そんな彼女に続いて言葉をかけたのはイヴだった。
「言うまでもないことだけれど、徴兵を例外として、試験に受からないと正式な入団はできないよ? お兄ちゃんは戦場で最大級の戦果を挙げたから、例外として正式に入団できただけ。でも、その試験だって充分に過酷なモノになると予想できる。次いで、落ちるのは別に不幸なことだとは思わないんだよ」
「不幸なことじゃない?」
「なんたって、正当に判断されてそういう結果が返ってきただけだからね」
「――――」
「そりゃ、自分から進んで試験を受けて、それで不合格になったら、落ち込むようなことだとは思うよ? でも、実力が足りていないのに戦場に行くよりは、比較してみたら、よっぽど幸せなんだよ。不幸なことというよりは、後悔するようなこと、だと思うよ? もっと試験に向けて頑張っておくべきだった、って」
「――――」
「だから、シーリーンさん。少なくともわたしは無理強いしないよ。だから、断ってもいい。一方で、申し込んで試験を受けても、絶対に合格できる、あるいは絶対に落ちるって断言はできないよ。だから、一度受けてみて、正しい判断は試験管にしてもらう、っていうのでもいいよ思うよ?」
「なにが、言いたいのかな?」
「つまり、重要なことは1つだけ」
「――――」
「――シーリーンさんがシーリーンさんの意思で決めなければならない。他人の意見を参考にするのはいいけれど、それで答えを流されてはいけない。責任を他人に押し付けちゃいけない、ってことだよ」
すると、シーリーンは、フッ、と、口元を緩ませた。
責任を他人に押し付けてはならない? おかしくて笑いが出そうだった。
誰が責任を他人にやるものか。入団に関する責任が全て自分のモノだからこそ、自分は最愛の人のためにここまでやってきたんだ! と、胸を張れるのではないか。
責任だけ他者に押し付けて、リスクのない成果で胸を張るなどしたら、シーリーンはロイに顔向けできなくなってしまう。
ゆえに――、
「ここまで心配してもらってアレだけど、シィの答えは変わらないよ」
「「「――――」」」
「シィも入団試験を受ける!」
「シーリーンさん――」
「それに、ホラ、イヴちゃんもいろいろな可能性、発生しうることをできるだけ提示してくれたでしょ? 例えば、シィが実力不足でも、それはシィの主観だから、正当な判断を試験管さんにしてもらう、とか」
言うと、シーリーンは、えへへ、と、はにかんでみせた。
これで、4人中の3人は決まったことになる。
となると、最後に覚悟を問うべきは、マリアだけだった。
「それで、お姉ちゃんはどうする?」
「――――」
「入団試験を受ける? 受けない?」
実の妹が真剣な目で自分のことを見てくる。マリアには逃げることが不可能だった。
が、そもそも別に、逃げようとは思っていない。
目を逸らすのは『前回』だけで充分だった。
「わたしは、1つ、自分でも情けないなぁ、ってことを、ツァールトクヴェレで経験したんですよね」
「情けないと思うこと、ですか?」
シーリーンの確認にマリアが頷いて肯定する。
前々から、それこそ王都に戻ってくる前から、自覚していたことだった。自分は情けない。自分はカッコ悪い。自分で自分を見ていられない。
一種の劣等感のようなモノだろうか。しかし、その劣等感は、他人に向けられたモノではなく、自分に向けたモノである。
そう、あいつばかり強くて妬ましい! という八つ当たりに近い気持ちよりも、わたしはなんてダメなんだ! という自分を責める気持ちの方が強かった。
もう、見ているだけは、イヤだった。
「魔王軍の手先が弟くんの別荘に襲いにきた時、わたしは、姉は、実の妹が戦っているのに、別荘で指を咥えて傍観しているだけでしたからね」
「お姉ちゃん……」
「もちろん、わたしよりもイヴちゃんの方が強い、っていうのは理解しています。それも、僅差ではなく、圧倒的な差が、わたしとイヴちゃんの間に生まれています」
「「「――――」」」
「それでも、自分で自分を情けないと思ってしまったんですよね。それで、情けないよりも、カッコいい方がいいではありませんか」
「なら――っ」
イヴが身を乗り出してマリアに続きを急かす。
そしてマリアはこの話で決まったことをまとめるように――、
「ええ、わたしも入団試験に申し込みますね。ここにいる全員で試験を受けて、叶うのなら、全員で弟くんの待つ戦場へ行きましょう!」
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