ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章9話 シーリーン、アリス、イヴ、マリア、決める!(1)
アクアマリンの月の31日、月曜日――、
グーテランド七星団学院の放課後の中庭――、
花壇には花と緑が彩られており、道には焦げ茶色のレンガが敷かれている。
そこにはシーリーンとアリス、イヴとマリアが集まって、丸い天板のガーデンテーブルを4方向から椅子に座り囲っていた。
時計回りに、シーリーン、アリス、イヴ、マリアの順番である。
冬の名残もあとを引いている初春の空が、夕日によって燃えるような琥珀色に染まっていく。
西洋の城のような学舎の中庭で、今、とある話し合いが始まろうとしていたではないか。
「それで、イヴちゃん、シィたちが呼び出された理由ってなにかな?」
「なんとなく、マリアさんは知っていそうな雰囲気ね」
と、シーリーンとアリスがまずは口を開く。
この4人が集まっているのにロイがいない現状を鑑みるに、彼に秘密の話、というのは、誰が言うでもなく、すでにここにいる全員の共通認識となっていた。ゆえに、2人、特にシーリーンの発言には、そういうことを言外に問いかけるような雰囲気が漂っていたが、シーリーンもアリスも、明確な言葉にはしない。
「話を始める前に、特にアリスさんに訊いておきたいことがあるんだよ」
「私?」
「以前、アリスさんは言ったよね?」
「なにをかしら?」
「お兄ちゃんが七星団に残り続けるなら、アリスさんも一刻でも早く七星団に入団する、みたいなことを、だよ」
真剣な目でアリスのことを見るイヴ。
そしてハッとするアリス。
次いで、アリスはその目を見返して、そしてイヴの発言の真意をなんとなく察し、やはり、改めて襟を正して、彼女の方も真面目な口調で、自分の想いを偽らずに答えようとする。
そして、シーリーンとマリアだって、2人のやり取りに口を挟むような真似はしない。
「ええ、間違いなく言ったわ」
「その考えは、今でも変わっていないんだよね?」
「当然よ。私は、ロイが好き。好きな人の近くにいたいのは当然でしょう? 例え、それが戦争の最前線だったとしても」
「後悔はしない?」
「しないわ。まぁ、流石にロイは騎士だけど、私は魔術師として入団するつもりなんだけどね」
「――、わかったよ」
すると、イヴは「コホン」と女の子らしく咳払いした。
次いで、深呼吸をしてから眼前の3人のことを見やる。
今、自分が訊いてアリスが答えたように、自分にも訊いて自分で答える。今、ここで『それ』を言ってしまって、後悔しないか、と。怖いならやめておいた方がいいのではないか、と。兄が言っていた、戦うための理由は、きちんとこの瞬間までに見付けておいたのか、と。
それを、イヴは内心で一笑に付す。
愚問だった。
もちろん、死にたくないし、多少は我慢、あるいは魔術で治癒できると言っても、進んで傷付きたいとは思わない。女の子として、兄に見せる肌はいつだって綺麗にしておきたいし、戦うのは比較的に女性よりも男性の仕事、というのが、一般的な通念として、この国、この世界で広がっていることも重々承知している。戦争するのは国の都合で仕方がないにしても、それが喜ばしいこと、もっと積極的にやるべきこと、という認識も、イヴの中には1mmもない。
だが、それでも、兄と同様、戦う理由を見付けたのだ。
ならば、戦わない道理はどこにもない。
「お姉ちゃん」
「はい」
マリアの名を呼ぶ。
彼女はそれに落ち着いて、やわらかく応えた。
「シーリーンさん」
「な、なにかな?」
シーリーンの名を呼ぶ。
彼女はそれに、少し言葉が詰まったが、それでも確かに返した。
「アリスさん」
「なにかしら?」
アリスの名を呼ぶ。
彼女はそれに凛として言った。
そしてイヴは覚悟を決めて――、
「わたし、七星団に入団するよ」
「「…………っ」」
マリアだけだった、イヴの決意を聞いても動じずにいられたのは。
シーリーンはもちろんビックリした、否、より強い言葉の方が相応しいので、そちらを使うとしたら、驚天動地したし、アリスだって、察していたが、実際に言葉にされて、耳にして、それで狼狽を我慢するのは不可能だった。
特に予感していなかったシーリーンが、確認するようにイヴの瞳を見る。
しかし、そこにあったのは不安に揺れるそれではなく、確固たる決意を秘めたどこにも迷いが生じていないそれであった。
「実はイヴちゃん、この前、大聖堂に行きましたよね? 国王陛下にお願いされて」
「う、うん……」
「そこでイヴちゃんは、特務十二星座部隊の枢機卿、セシリアさん? でしたっけ? とにかくその方に、七星団に入団してみないか、って、誘われたらしいですね」
「特務十二星座部隊の人が直々に!?」
いつも凛としているアリスにしては珍しく、マリアの補足説明に大きな声を出してしまう。
特務十二星座部隊の一員に認められる。それはアリスからしてみれば垂涎ものの承認であった。アリスは幼い頃から姉、アリシアのようになりたかったのだ。そしてそのアリシアは特務十二星座部隊の一員。要するに、イヴはもう、セシリアに認められたのだから、アリシアにも認められる可能性があった。
アリスは目の前のイヴが羨ましくて仕方がなくなる。
無論、だからといって逆恨みするようなことはないが。
「それで、改めて、お姉ちゃんたちにも、こうして集まってもらって、訊きたいことがあったんだよ」
「それって――」
流石に、一番状況を呑み込めていなかったシーリーンでも、イヴの言わんとしていることに気付く。
それは――、
即ち――、
「これが本題だよ。3人は、お兄ちゃんが待っている七星団に入団する気はある?」
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