ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章8話 イヴ、ベッドの上で不安を打ち明ける。(2)


「それで……イヴはどうしたい?」

 と、ロイは慎重に、言葉を選んでイヴに訊く。
 意図的に、七星団とか、入団とか、そういう言葉を使わなかったのだ。

 対して、イヴは無言。
 ゆえに、少し待ってから、これ以上待ってもイヴは言葉を出せない、と、判断したロイは、やはりなるべく言葉を選んで、彼女の意思を尊重するように彼女に言う。

「もちろん、ボクはイヴに戦場に立ってほしくない。イヴは、大切な妹だから。でも、ボクがそれを言うのが間違っている、っていうのも自覚している。なんたって、イヴにとってボクは唯一無二の兄さんなのに、戦場に立って、しかも一度は本当に死んでいるからね。なのにボクがよくてイヴはダメ、って主張したんじゃ、矛盾が発生しちゃうし」

「うん……」
「だからボクはイヴの意思を尊重するけれど、1つだけ言えることがあるなら、怖いならやめておいた方がいい」

「結局は戦えないから?」
「違う、精神が、心がすり減っちゃうからだよ」

 その言葉には、学生の発言とは思えない、常軌を逸した重みがあった。
 流石はロイと言ったところか。まだ中等教育の上位の学生とはいえ、実際に敵を殺して、最初から死んでいるとはいえ、グールに限って言えば100体以上を斬り伏せて、死に物狂いで戦場を駆けて、そして最終的には本当に死んで……これは、実際の戦争を経験しないと出すことが不可能な凄みだった。

 彼の実体験がものを語っている。
 要は、心がすり減ったら、すぐに死んじゃうよ、と。

「でね、イヴ?」

「……、うん。なに、お兄ちゃん?」
「正直に言うと、ボクだって七星団に在籍しているけれど、四六時中、心が平穏ってわけじゃないんだ。当たり前だよね。ボクは騎士――言い方を変えれば兵士なんだから」

「なら……」
「それでもボクが不安に押し潰されていないのは、心を犠牲にしてでも、守りたい女の子たちがいるからなんだ」

「――――」
「当然、イヴもね」

「――わたしも?」
「うん。だからイヴも、もし、自分の意思で戦うことを選ぶのならば、戦う理由だけはきちんとしておいた方がいい。ありきたりだけど、戦闘経験者が口を揃えてその重要性を何回も語るから、それはありきたりなんだ」

 すると、イヴは無自覚に表情かおに陰りを落とした。
 セシリアが口にした2つの提案。センサーの件は即答できたのに、なぜ、入団の件は即答できなかったのだろう、と、イヴは自問自答する。ロイも、マリアも、優しいから急かすような真似はしなかったので。

 センサーの件に即答できた理由は簡単だ。
 大好きなお兄ちゃんの役に立ちたかった、と、イヴは答えを自分の中に持っていたし、事実、セシリアにもそれを説明している。

 一方で、入団の件の方だが……イヴはなんとなく、ロイの話を聞いて、その答えを得たような気がした。
 言葉遊びのようではあるが、即答する理由がなかったのではない。即答できない理由があったのだ。

 その言葉遊びに気付いた瞬間、イヴはゆっくり、そして彼女にしては珍しく、落ち着いた声音で語り始める。

「……、……、……お兄ちゃん、お姉ちゃん。わたしはね? さっきも言ったけれど、自分でも知らなうちに強力な魔術を覚えていたことが怖いんじゃないんだよ。厳密には、自分のチカラが大きいことの方が、よっぽど不安なんだよ」

 大きなチカラには責任が付きまとう、とは、よく言ったものだ。
 恐らく、イヴは子供ながらも、なんとなくそのことに気付いているのだろう。

「そして考えてみたんだよ。それを怖いと思ってしまう理由を」

「答えは見つかった?」
「うん……、たぶん、チカラの大きさが重要なんじゃなくて、チカラの使い方がわからなくて不安なんだと思ったんだよ」

「チカラの使い方?」
「確かに、わたしの持っている才能は光属性のモノだけれど、光属性だからって、人を守るためのモノばかりじゃないんだよ。【絶光七色】のように、簡単に人を殺せる魔術だってあるんだよ」

「それは、そうだね。それは、少なくともボクには否定できない」
「だから、1歩でも間違えたら、人を傷付けちゃいそうで、不幸にしちゃいそうで、それが……、その……、不安なんだよ……」

 すると、今まで黙っていて、ロイに成り行きを任せていたマリアが、唐突、今まで隣に座っていたイヴのことを抱きしめた。

 イヴの顔がマリアの女性らしい豊満な胸にうずまる。
 イヴの身体がマリアの女性らしい丸みを帯びた身体に包まる。

 まるで慈愛という概念を具象化したかのような光景に、ロイは思えた。

「大丈夫、イヴちゃんはチカラの使い方を間違えたりはしませんからね?」

「お姉ちゃん……?」
「人を傷付けちゃいそうで不安、不幸にしてしまいそうで不安。それはイヴちゃんが優しい女の子っていう証明ですからね? 優しくなければ、そんな不安なんて抱けませんからね」

「確かに、そうかもしれないけれど……」
「だから、大丈夫ですね。優しい心を持っていれば、自然と使い方も優しいモノになっていきます。逆に、チカラを得て舞い上がっている人こそ、他人を傷付ける使い方をしている傾向にあると思いませんか?」

「――――」
「無論、今は比較的落ち着いているとはいえ、戦時中ですからね。七星団に入団したら、敵を倒すこともあると思います。けれど、その根源にあるのが、国や大切な人を守りたいという想いなら、それは正しいチカラの使い方です」

「――――」
「まとめると、不安を覚えることが、チカラの使い方を間違えない、最上の証明なんですからね?」

 言い終えると、マリアはイヴの頭を優しく撫でてあげた。
 で、イヴの頭を撫でながら、ふと、マリアはロイの方に視線を向けて、彼に可愛らしくウィンクしてみせる。

「ハァ……、いいところを姉さんに全部持っていかれちゃったな」
「クス、ゴメンなさいね? どうしても、言っておくべきだ、伝えておくべきだ、って突き動かされてしまったもので」
「まぁ、ボクと姉さんはイヴの意思を尊重するとしても、あとは父さんと母さんの許可が必要かな? 王都に滞在している時に訊いておければよかったけれど、後悔、先に立たずか」

 と、ここで、マリアの腕の中でイヴが身をよじって――、

「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「ん?」「なんですかね?」
「話、聞いてくれてありがと! セシリアさんの提案を受けるか否か、もう少し考えてみるよ!」

 そして、そのまま、この日の夜は3人で寝ることになった。
 イヴが真ん中で、右にはロイ、左にはマリアという、イヴを挟むような形で。


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