ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章4話 ロイ、親の心、子知らず。



 約1時間後――、
 当初の部屋にきた目的どおり、ジュリアスとカミラの2人は、シーリーンとアリスと談笑をして、そしてそれを終えた。

 無論、2人の子供であるロイ、イヴ、マリアの3人も会話に混じったし、先ほどは国王陛下の前で萎縮してしまったが、ヴィクトリアとも、夕食の時より義理の娘として親しげに会話することに成功。

 そしてシーリーン、アリス、イヴ、マリア、ヴィクトリアに見送られながら、ロイはジュリアスとカミラと一緒に部屋を出て、2人に用意された寝室まで案内することに。

 いつの間にか部屋の外で控えていたクリスティーナが「わたくしが案内いたします」と言っても、ジュリアスとカミラが「ロイに案内してもらうから大丈夫です」とやんわり断ったのだ。

 そして件の用意された寝室の前で――、

「ロイ、1つ、母親としてあなたに言いたいことがあるわ」
「? 言いたいことって?」

 訊き返すロイ。特に自分が改まって言われるようなことに、心当たりがなかったからだ。

 しかし、カミラはゆっくりとロイに近付いて――、
 また、ジュリアスの方は別段、カミラのしようとしていることに口を挟まないで――、

 ――パンッ、と、他の人は誰もない廊下に、その乾いた音は響いた。

「なん、で……?」

 呆然とするしかないロイ。
 彼が自分は母親に頬を叩かれたんだと気付けたのは、数秒も経ったあとだった。
 見ると、カミラは悔しそうに涙を一筋、流しているではないか。

「ようやく、誰もいなくなったわね……」

「――――」
「ずっと我慢してきたわ。本当はずっと、再会したら真っ先に言おうと思っていたわ……っ」

「――――」
「……っ、ロイ? 確かにあなたは王国の国民として、誰よりも素晴らしいことをしたと思うわ。敵国の幹部を討つなんて、実際に英雄と褒め称えられても、なんら不思議なことではないと思うわ」

「――――」
「ッッ、でもね? でもね? わたしたちにとって、あなたは七星団の騎士である前に、わたしたちの息子なのよ? あなたの上官は、人である前に七星団の騎士、なんて、わたしたちとは真逆のことを言うかもしれないけれど、わたしたちにとってはそうなのよ」

「母さん……」

 震えた声で、しかし気丈にカミラは言い切った。
 握りしめた拳、爪が痛々しいほど肌に食い込んでいる。
 しかしそれだけで、親なのにロイになにも手助けできなかった自分の無力感を、カミラは上手く発散できない。

「そうだな、ロイ。母さんの言うとおりだ。そして、息子に死んでほしい親なんてどこにもいない。オレも、そして母さんも、お前が一度死んだって聞いた時、膝から崩れ落ちて、自殺を考えるほど泣いたんだからな?」

「父さん……」
「確かにロイは世界のためになることをしたのかもしれない。でもな? 人の親なんて、世界よりも、自分の子供の方が大切なんだ。大きいんだ。重いんだ。ロイがいなくなったら、ロイのいるオレたちの世界はもうなくなってしまうんだ」

「…………っ」
「頼む、ロイ。身勝手なことは百も承知だ。世界よりも個人の方が大切なんて、バカげているのは言われなくなってわかっている。それでも……っ、理屈じゃないんだ。感情なんだ。お前が死ぬぐらいだったら、世界なんて救えなくてもいい。そんな酷いことを、平気で思えてしまうから、親は親なんだ」

 カミラのように泣きはしない。
 声も震えていないし、拳を握りしめているわけでもない。
 だが、それは男親としてのプライドだった。ここで、息子と妻の前で、自分まで情けない姿を見せるわけにはいかない、という、ただ父親として当たり前の強がり、虚勢で、それ以上でも、それ以下でもなかった。

「父さんと、母さんは、ボクに七星団を抜けてほしいの……?」

 なんて、彼にしては珍しく察しが悪いことを、ロイは訊く。
 それに首を振って答えたのは、カミラではなくジュリアスだった。

「そうは言っていない」

「なら――」
「オレたちはロイの親として、ロイにはカッコよく育ってほしい。たくましく育ってほしい。潔く育ってほしい。強く育ってほしい。気高く育ってほしい。だが、死んでほしくない」

「それは、わかるけど――」
「なら、単純だろう? 七星団で活躍すれば、最初の5つは全てクリアされる。あとは、絶対に死ななければいいだけの話だ」

 と、ここでようやく、ジュリアスがニッ、と、笑った。
 ロイがカミラの方に確認の意味を込めて視線を送ると、彼女も、ようやく落ち着いた雰囲気になっていて、静かに頷いて夫の言うことを肯定する。

「まぁ、散々言っておいてアレだが、オレたちだって、七星団で活躍することの凄さを理解してないわけじゃないんだぞ?」
「本当に?」

 と、疑っているわけではないが、軽い確認の意味を持たせてロイが問う。
 すると、今度はジュリアスではなくカミラが――、

「二律背反という言葉、ロイも知っているでしょう?」

 微妙に矛盾ともジレンマとも違うその言葉。
 その言葉の意味は、例えばAと、Aに反するB、その2つは矛盾しているはずなのに、どちらも存在が許容される矛盾のことだ。語弊を恐れずに言うならば、両立可能の矛盾とでも言うべきか。

 つまりカミラは、同じくジュリアスは、ロイに死んでほしくないのに、死ぬ可能性のある職業を素晴らしいと思っていて、ロイには頑張ってほしい、そんな無茶苦茶なことを感じているのである。

 とにかく、カミラから二律背反という言葉を聞くと、ロイは困ったように笑って――、

「ゴメンね、そんなややこしいことにしちゃって」

 一応、謝罪するロイ。
 しかしすると、ジュリアスはロイに近付いて、彼の頭を強引に、しかし親しみを込めて、ワシワシと撫でてあげた。

「気にするな! 子供のことで矛盾を抱えるのは、親にとって当たり前のことだ! ロイはただ、死ななければいい! 生きていればいい! あとは七星団で活躍するにしても、分野を変えてマリアみたいに魔術の研究をするにしても、好きにすればいい!」

「あはは……、姉さんにも最初からそう言ってあげればよかったのに」

「いいのよ、今日、最終的には認めてあげたんだから」

 と、最後にカミラがロイに突っ込んで、3人の会話はひと段落する。

 次いで、ロイは両親が寝室に入ったのを確認して、続いて、廊下を歩き始めてから思いを馳せた。
 やっぱり、最強にならなくちゃ、と。

 最強とは即ち、最も強い、ということ。
 世界で一番強ければ、誰かに倒されるということもないのだから。


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー240181

    すげぇいい親

    1
  • 颯爽

    いい親子だ。ほんとに親子だ。

    2
  • クーファ

    めっちゃ面白いです!
    これからも頑張って下さい!

    6
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