ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章8話 アリシア、気付いていた。(2)



「とにかく、私を貶める、あるいは殺すにしても、ロイさんの方を殺すにしても、やり方が非常にお粗末。より的確な言葉に言い換えるならば、詰めが甘すぎる」
「確かに、わざわざ戦闘前にスパイを2人も使うなんて真似をしているのに、最終的には功績を挙げられてあらへんもんな。アリシアさんは魔術に制限がかかったけれど、ヒーリングで傷を塞いだし。ロイさんも最後の最後で王族になるってやり方で助かったし」

「魔王軍の連中は敵というだけで頭が悪い、というわけではありません。むしろ王国と長年にわたり戦争状態にあり、それでも体制が崩壊していないところを鑑みるに、それ専門の天才や秀才、軍師や政治家も多いと見て損はないでしょう」
「それで? そろそろ話が錯綜さくそうしてきたで?」

 すると、アリシアはコホン、と、幼女の姿に相応しい可愛らしい咳払いをする。
 そして身長の都合で、イザベルを見上げる形で――、

「先延ばしにしていた結論を申し上げますと、私は1つの可能性に行き当たったんです」

「――――」
「即ち、イザベルさんは後方支援として手を抜いたわけでも、まして裏切り者でもないけれど、わざと、なんらかの運命操作をロイさんにキャストした」

「――――」
「恐らく、ロイさんを王族にするために」

 以上こそ、アリシアが出した答えだった。
 すると、イザベルは「ぷっ、っ、あは、はは……」と笑いをこらえきれなくなり、しかしここで爆笑するのはどう考えてもヤバイと思い、なんとか数秒をかけて笑いを噛み殺し、そして落ち着いてからアリシアに言う。

「正解や」

「――――」
「おや? ウチはアリシアさんに、悪意や敵意はあらへんでしたけど、結果的にはハメるような真似をしてしまったんですよ? 実際に殺さないどころか、殺意すら向けないんですか?」

「まぁ、確かに減給されそうになりましたが、私のところだけに魔王軍幹部が現れて、死者が出るのは免れなかった、ということで、結局、お給料は減りませんでしたので。もちろん、階級にも影響はありませんでした」
「――いやいや、そういうことを言っているんやあらへんで。実際に被害が出たか否かは問題ではなく、大なり小なり、なんらかのリスクを想定できて、なのに行動に移した、ということが問題じゃあらへんか? ちゅーか、アリシアさんはともかく、ロイさんには被害が出ていますし」

「私はともかく、アリスたちが知ったなら、どんなにあなたが格上でも殺しにくるでしょうね」
「おっかない妹さんやなぁ」

 と、イザベルはロイにキャストした過程や理由はどうあれ、死をもたらした運命操作しておきながら、愉快そうにケラケラ笑う。
 また一方で、アリシアもロイのことを気に入っているはずなのに、イザベルに対して特に嫌悪感を抱いたりはしなかった。無論、逆に好感を抱くこともなかったが……。

「イザベルさんは、ご自分の占星術に自信をお持ちですか?」
「当然や」

「自分の占星術が失敗するなどありえない、と」
「いや、失敗する可能性は常に付きまとう。それは魔術の基本や。けれどな、失敗することを言い訳に行動を起こさないってーことは、ウチはせーへん。無論、失敗しないように万全を期すのは当然やが」

「だからこそ――」
「――せや、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクに運命操作の魔術をキャストした」

 瞬間、2人の間に風が吹き抜ける。
 そして十数秒の時が流れた。

 アリシアとイザベルは無言を貫く。
 で、だ。

「イザベルさん、あなたのやったことは理解しました」
「ほぅ、怒られなくてひと安心やわ」
「しかし、やったことは理解しましたが、なぜ、どんな理由でやろうとしたのかの説明はまだ、ですよね?」

 すると、イザベルは中央司令部の屋上から王都の青い空を見上げる。
 そしてそのまま――、

「神様からのお告げや」
「…………ッ」

「? どうしたんや?」
「い、いえ、なんにも。ただ、アカシックレコードにずいぶんと簡単にアクセスできるようになったんだなぁ、と」

 必死に動揺を押し殺すアリシア。
 対してイザベルはキョトンと不思議そうな顔をするばかり。

 神様、アカシックレコード、その他には大いなる世界の意思や、集合無意識や、万象の真理や、宇宙の根源と呼ばれている人智と超越した存在。

 それについて、よく研究しているのはイザベルの方でも、親しみがあったのはアリシアの方だった。

 アリシアはそれがしたことを知っている。
 それはロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクを転生させた張本人だ。

 その事実をイザベルは知らないだろうが、とにかく、その本人がイザベルになにかを告げたらしい。
 ならばきっと、そこに間違いはないのだろう。

「それで、神様にはなんて言われたのですか?」
「ただ1つだけ、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクを王族に仲間入りさせろ、とだけ」

「!? 待ってください! ならイザベルさんは――っ」
「ハッハッハッ、なんや、今頃になって気付いたんか? せやで。ウチがロイさんにキャストした運命操作はたったそれだけ。運命操作っちゅーのは、強大すぎて、そこまで融通、小回りが利くモンやないんや。つまり、ウチはロイさんを王族にしたが、その過程にまでは干渉しておらへん」

「つまり、たまたま、ロイさんが死んで、彼を生き返らせるために姫様が彼と結婚したが、他の過程、異なるルートも可能性として存在していた?」
「せや、流石にロイさんが死んだって報告を受けた時は、ウチが失敗した!? って焦ったが、すぐに死んだ状態のままお姫さんと結婚するって聞いて、ひと安心、ってな」

 とんでもないことをしていた自覚が薄いのか。あるいは自覚があっても、それ以上にとんでもないことを特務十二星座部隊の一員として、繰り返しやっているから、感覚がマヒしているのか。
 とにかく、イザベルはどこかぶっ飛んでいる。

 話はつうじるが、その話の端々から、常人なら、住んでいる世界が違う……ッ、と、動揺、狼狽すること必至だろう。
 とにかく、特務十二星座部隊に席を持つこの女を見るのに、一般的な価値観を持ち出すのはナンセンスなことだった。

 いい言い方をするならば、彼女は果てしなく感性が規格外なのだろう。

「ただ、まぁ、前回の大規模戦闘が茶番だった、というわけではあらへん。まず、ロイさんを王族にするという結果が、ウチの失敗がありえないと仮定して、絶対的なモノやったとしても、そのために他の騎士や魔術師の99%が死ぬ、ということも一応、万に一つはありえたわけやからな」
「極論、ロイさんを王族にするために、王国が一度敗北する、ということも?」

「せや。他には、王国が無事、今回勝利した上で、ロイさんが無事に王族になれても、戦争の後遺症で廃人になるとか、そうじゃあらへんでも、戦いで腕とか脚を斬り落として、治せない状態で王族になるとか、そういう可能性も充分にあったわけや」
「それが、過程には干渉できない、小回りが利かない、ということの具体例ですか?」

「せや。さらに言うなら、ロイさん以外の騎士個人や魔術師個人には、数が多すぎて、なにも幸運や幸福をキャストしておらへんから、彼ら彼女らの戦いは茶番ではなく、命を燃やした本物やったし、今までそれとなく否定してきたが、ウチがキャストミスする可能性もあった」
「あまりにもリスクが大きする……というのは違いますね」

「一応、勘違いされても困るから言うんやが、仮に今回、ウチが運命操作を彼にキャストしなかったとしても、縁起でもないこと言うようやが、国なんて負ける時は負けるし、人なんて死ぬ時は死ぬんや。運命操作なんて言うから仰々しいが、ウチの能力は言ってしまえば、子供たちの間で流行っている卓上演技遊戯でいうバフとデバフ。キャストしないよりは、キャストした方がマシやろ?」
「そうですわね」

「それで、結局、アリシアさんはなにがしたかったんや? ただの答え合わせか?」
「まぁ、そんなところですわ」

 アリシアは暫定的とはいえ結論付ける。
 エルヴィスには内緒で、というか、ここにエルヴィスを呼ぶ理由がなかったので仕方がないが独断で。
 イザベルは、どこか、魔王軍のスパイではない気がする、と。


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