ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章5話 ロイ、休みたい。(2)



「話は聞かせてもらったぞ!」「国王陛下!?」
 バンッ、と、勢いよくロイの部屋に入室したのはヴィクトリアの父、つまりグーテランドの国王であるアルバート・グーテランド・イデアー・ルト・ラオムだった。 また、彼の背後には、今までここにいなかったロイのメイドであるクリスティーナも控えていた。
「ロイくん、そろそろ余のことをお義父さんと呼んでもいいのではないかな?」「えっと……、公私混同はあまりよろしくはないのでは?」「ならば、今は公務ではない、私事だ」
 言われてみればそのとおりで、今、ここは謁見の間でも国民の前でもない。星下王礼宮城の中にあるとはいえ、ロイという個人の自室だ。 そして、アルバートはコホン、と、咳払いすると――、
「先ほど、クリスティーナくんにも確認を取ったのだが、ロイくん、君はあまりにも動きすぎだ。少し休暇を取るといい」「えっ、し、しかし――っ」
「確かに努力することは大切なことだ。だが同時に、ただ漠然と努力すればいいというものではない。計画性のない努力など、子供でもできる。重要なのは、行動開始力、継続力、そして効率の3つだ」「効率……」
「そう、3つのうち、君がどこか忘れているモノである。いいかね、ロイくん? 人は労働、あるいは勉学のために生きているのではない。生きるための1つの手段として、労働、勉学をしているのだ。ならば時に休まなくてどうする」「そうですわ、ロイ様。先ほども、ボクはッッ、今ッッ、猛烈に休みたいッッ!! と、仰ったばかりではありませんか」
「それは誰にも迷惑がかからなければの話で……」「間違っているぞ、ロイくん」
「えっ? と、言いますと?」「1人休んだぐらいで影響が出るシステムなど、システムの方が間違っている。1人休んでも誰にも普通に迷惑がかからないのが、本来のシステム、君の場合は、学院の勉学や、七星団の演習だ」
 アルバートの言うことは精神的にはもちろん、論理的に考えてもそのとおりだった。 私事だとしても、ケガや風邪が原因だとしても、七星団の演習に欠員がでることは多いというわけではないが、たまにある話だ。なのに、それを見越せずに、欠員1人で演習に支障が出るなど、あまりにも致命的な組織の体制だ。
 普通ならば、欠員が少し出てもリカバリーを利かせられるような体制、セーフティーネットがある体制こそが、組織に求められて然るべきである。 で、さらに理詰めするようにアルバートは言った。
「それに、君のゴスペル、〈零から始めるオンベグレンツァト・無限の修練イーブナヌーマァ〉も万能ではない」「あれ? 王様、センパイのゴスペルのこと知っていたんだ?」
「そもそも、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクはゴスペルホルダーです~、って認めてサインを書いて、で、ボクの故郷に手紙を送ってくれたのが国王陛下だからね」「あれは今、我が家の家宝になっているんだよ」
「そ、れ、で、先……輩、ゴスペ……ル……が、万能じゃ、ない、って……」「〈零から始める無限の修練〉の効果は2つ、努力が楽しくて楽しくてやめられなくなることと、成長の余地の上限解放。で、1つめの効果って、簡単に言うと、物理的に人間の構造上、不可能な努力はできないんだ」
「ロイくん、例えば?」「例えば、ボクがまだ赤子の状態だったら、剣を触れないし筋トレもできない。逆に、ボクがおじいちゃんになったら、もしかしたら病気でなにかしらの努力ができなくなる、ってこともある。あとは極端な例だけど、ほら、ボクってレナード先輩と戦った時、腕を斬り落としたでしょ? その場合、片手剣ならともかく、両手剣とか、他には弓矢とかを扱う努力ができなくなるってこと」
「そうなんですの?」「ええ、実際に、弟くんは赤子の頃、物覚えはよかったですけれど、努力らしき努力は一切していませんでしたからね。弟くんが村で天才の器、なんて呼ばれ始めたのは、確か3歳ぐらいからだったはずですし」
「じゃあ、ロイって体力の限界とか眠気とかって?」「あ~、アリス、唯物論って知っている?」
「知らないわ。魔術の新しい理論?」「違う違う。魔術じゃなくて、哲学の一種の考え方。例えばリタ、ボクに、一緒に焼き肉店に行こう! もちろん、ボクの奢りで食べ放題! って言われたら嬉しい?」
「もちろん! ちょ~嬉しい!」「じゃあ、嬉しいってなに?」
「は? なにってなに? えっ? 感情の一種? 気持ち? 心の変化の一例?」「そう、それであっている。で、唯物論っていうのはこの世界に存在する森羅万象は物質でできている、って考え方なんだ」
「えっ? アタシが今言った感情とか心も?」「うん、脳みそは脂質とタンパク質とアミノ酸でできていて、感情は脳みそを走る電気信号にすぎないんだ」
「ロイ!? それって新事実よ!? この世界じゃまだ解明されていない科学なんだけど!?」「あ~、流石はシィのロイくんだなぁ~♡ 本当に頭がいいんだね」
「それで、それが体力の限界とか眠気の有無にどう繋がるんですの?」「体力の限界、いわゆる疲労っていうのは、細胞が傷付いた時、老廃物の発生によって脳に伝わる電気信号なんだ。一方、眠気っていうのはタンパク質が脳内に蓄積されると発生する」
「なるほど、つまり、疲労や眠気に抗うのは、物理的に人間の構造上、不可能な努力、ということか」「国王陛下の仰るとおりです。まぁ、一応、本来、ボクのゴスペルは疲労を感じることさえ楽しく思えて、実際に村にいた時はそうやって剣術に励んできたんですけど、流石に気絶して倒れてしまう前や、気絶しないにしても、身体が不調を訴える前には、徐々に疲れが楽しめなくなってきますね」
「防衛本能ですかね?」「私、聞いたことあるわ、肉体強化する時に、痛覚を遮断してはいけない理由。あまりに肉体強化を多重キャスト、例えばフィフティーンスキャストとかすると、強化された動きに体力が追い付かない。だから体力切れを抑えるために、アラートとして痛覚は残しておくべき、って。それと同じね」
「推測だけど、ボクのゴスペルは脳内の電気信号に作用する能力かもしれないからね。自分のゴスペルで疲れて倒れたら本末転倒だし、神様だってそこらへんは調節していると思うよ?」「そっか! そういえば、センパイって神様と会ったことあるんだよな! ゴスペルホルダーだし」
「それで、ロイくん」「はい? なんですか、国王陛下?」
「いや……、その……、なんだ……、自分で言葉にして気付いただろう? 他ならぬゴスペルを持つ君が疲れを感じているということは、それだけ君の身体はボロボロなんだ。疲労を感じても楽しさに変換されるゴスペルの上限を超えているんだ。ヴィクトリアたちも心配してしまうだろうし、少し休みたまえ」
 アルバートの言うとおりだった。 ロイは他の人より疲労を感じないのに、そのロイさえ少し疲れたと愚痴を零してしまった。なら、他の人なら涙を流すぐらいの疲労かもしれないのだ。 流石にこれはマズイ、と、危機感を覚えると、ロイは少し申し訳なさそうに――、
「そ、それでは、その、お言葉に甘えさせていただきます」「承った。まぁ、ロイくんのことだ。七星団の休みをもらっても、学院には行くのだろうし、本格的になりはしないだろうが、ほんの軽く、剣を握ったり、素振りをしたりぐらいはするのだろう?」
「あはは……、流石に完璧になにもしない、ってなりますと、身体がなまってしまいますので……」「そうだな、そこは認めよう。だが、自分は今、休暇中なんだ、ということを、忘れないようにな」
「はい、ありがとうございます」「そうだな……、休暇は2~3ヶ月もあればいいかね?」
「2ヶ月!?」
 大げさに驚くロイ。 彼に対してアルバートは朗らかに続ける。
「ん? 少なかったかね?」「逆です、逆! 多すぎるんですよ!」
「いや、これで丁度いい。先ほども言っただろう? 話は聞かせてもらった、と。ヴィクトリアも――本来、魔王軍の幹部の1人を倒したのであれば、その後、一生、軍役を免除されてもおかしくないレベル――と言っていたじゃないか」「それはそうですが、2~3ヶ月も有給休暇を取るわけには……」
「ここには特殊な音響魔術がキャストされているから言えることだが、ここは君の前世のニホンじゃない。繰り返すようで悪いが、君は魔王軍の幹部の1人を倒したんだ。有給休暇などグーテランドでは当たり前、むしろそうでない方が異常だし、その有給休暇だって、君なら今日から365日取ったって、誰にも文句は言われないだろう」「ご主人様、僭越ながら恐縮でございますが、確かに剣術、魔術の実力において、ご主人様は特務十二星座部隊のみなさまに及びません。しかし、成果、戦場であげた功績ならば、ご主人様はすでに、特務十二星座部隊の上位と比べても引けを取らないレベルなのでございます」
「然り、それだけ、魔王軍幹部を倒した功績は大きいのだと自覚して、そして誇りたまえ」「わ、わかりました。それならば、ぜひ、2ヶ月か3ヶ月ほどの有給休暇を申請させていただきます」
「よろしい」
 頷くと、アルバートはきびすを返してどこかへ行こうとし始めた。
 しかし、ドアを超える前に少しだけ振り返って、肩越しにロイ――ではなく、『彼女』に伝える。
「そうだ、イヴくん」「? わたし? お兄ちゃんじゃなくて?」「いつでもいい。時間が空いた時に、オラーケルシュタット大聖堂に赴いてはくれないかね?」
 その大聖堂はロイとイヴが初めて王都にきた日に見たことがあったし、実際に暮らすようになってからは、近くに用事があれば通り過ぎるほど身近な建物であった。
「イヴくんのご両親の許可は取ってある。そこで、1人の女性に会ってほしいのだよ」「…………っ」
 その発言に反応したのはイヴではなくロイだった。
 話題のイヴはポカンとしていたが、ロイは知っている。 前回の魔王軍との大規模戦闘の際、ロイが事情を説明するため、特務十二星座部隊の全員が集まる円卓の間に呼び出された時、イヴ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクは、頼りになる可能性がある、という意味で、決して悪い意味ではないが、重要参考人として呼び出しが決まっていたのだった。
 あれが決まってからだいぶ長い時間がかかったが、それは七星団が愚鈍だからではない。 なにかしらの準備があったと見て然るべきだ。
 そしてアルバートが今、それをイヴに伝えたということは、即ち、準備が整った、ということ。
「――特務十二星座部隊、星の序列第6位、【処女】のカーディナル、つまり枢機卿、セシリア・リリカ・ルエ・ピック・ヴ・レッシングが君を待っている」


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