ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章8話 ただいま、そしておかえり
蓋を開けたロイの死体が入っている棺、そこから少し離れた周囲に立つ3人の特務十二星座部隊に所属する女性たち。
彼女たちは今、礼拝堂に集まって着席している全員(無論、国王であるアルバートを含む)から過剰に注目され、その上で失敗が許されない上に、超々々高度な技術と知識が要求される魔術を発動させるというのに、余裕さえ感じさせるような雰囲気で、魔術発動前、最後のやり取りをする。
「いや~ん♡ セッシー、マジで頑張らばらないとな~っ! 死者を甦らせるんだから」
と、星の序列第6位、【処女】の称号を持つ48歳の枢機卿、セシリアがきゃぴきゃぴした感じで、他の2人にかまってほしそうな独り言もどきを口にした。
その死者を生き返らせるにはあまりにも軽いノリのセシリアに対し、反応するのもやはりロイの棺を囲むもう2人に他ならない。
「セシリアさん、もうちょいお口に気ぃ付けたらどうですん? 失敗する気はさらさらありまへんですけど、国王陛下がご覧ですよ?」
「そのとおりですぅ。――、まぁ、ではぁ、そろそろ始めますかぁ」
星の序列第10位の【磨羯】、占星術師のイザベルがセシリアをジト目で睨み、次いで、星の序列第12位の【双魚】、枢機卿のカレンがついに「始めますか」と口にした。
厳かな雰囲気が支配していた礼拝堂の中で、唯一、主にセシリアのせいで多少は明るかった壇上に、しかし今、一瞬で張り詰めた空気が広がる。
「にぱぁ、往くよ――ッッ」
凄絶にセシリアは白い歯を、ニ――ッ、と、剥き出しにして笑う。右の手を前方に突き出して、そして5本の指を限界まで広げるように開く。ここは礼拝堂とはいえども屋内だ。だというのに、彼女の周囲には風が吹き、想像を絶するほど美しい桜色、水色、翠、パステルイエロー、ライトブラウのグラデーションを誇る長髪は優雅ささえ感じるほど風に揺れる。
「了解やで」
「わかりましたぁ」
セシリアに倣うようにイザベルとカレンも、勢いよく、バッッ、と、右手を前方、ロイの死体が入っている棺の方へ突き出した。
刹那、魔力の粒子が可視化され、轟々と力強く唸りながら、しかし見る者全ての心を奪うほど綺麗に、煌々と瞬きながら、ロイの棺、次いで、それを囲む3人の特務十二星座部隊を中心に、軌跡で円を描くように動き始める。
それを見ていたシーリーンたち7人、否、そこに集まっていた全員が、自分でもよくわからないのに、強制的な感動で涙を流すほど、その魔術を発動する過程の光景は、淡く、儚く、美しく、この世の現象とは思えないほど幻想的だった。
「「「――――ッ、天空にまします我らの神よ。常世全ての祈願りを束ね、夢の終焉わりを告げる夢の如き開始まりを、いざ、此処に降臨らせ給え。繋げるは離別を迎えた二つ。愛すべき魂が抜けた人形。慈しむべき身体を脱した霊魂。七つの星の並びが紡ぐ星座より、重ねて幾星霜も無限の遥か上空、そこにまします神様の赦しが叶うなら、我は彼の王家の血筋の者に、繰り返すこと二度目の生命を与えん。我ら大地の民は奇跡が重すぎると奇跡への理解を拒絶み、だがしかし天空に幾度となく手を伸ばす愚者であらせられます。せめてその中でも唯一無二、愚者には非ず、高潔なる霊魂と健やかなる肉体を持つ彼の者に、嗚呼、どうか、赦しを、赦しを、至高の赦しを。またの名を、大いなる世界の意思、万象の真理、宇宙の根源、そして集合無意識と呼ばれる神様に、塵芥が故に御名さえ定義められぬ我が、太陽よりも灼熱く、天空よりも崇高く、溟海よりも深淵く、大地よりも絶大きい願望いを捧げさせていただきます――――これを以って悠々と詠唱を締め括り、さぁ、発動せよ――――【聖約:生命再望】ッッッ!!!」」」
シーリーンも、アリスも、イヴもマリアも、リタもティナもクリスティーナも、一様に放心するほどの感動を覚え、逆を言えば今の彼女たちの心の中に、感動以外、他の全てはなにもなかった。
例えば、シーリーンは目の前の光景を見て、銀世界の白夜に架かる虹を連想した。
例えば、アリスは目の前の光景を見て、晴天なのに雨が降っている世界で、朝日がその雨粒に乱反射して煌めく架空の景色を連想した。
例えば、イヴは目の前の光景を見て、夜空に浮かぶ星々の繋がり、つまり星座が、万華鏡のようにクルッ、クルッ、と、千変万化の移動を見せる想像上の夜空を連想した。
例えば、マリアは目の前の光景を見て、空が地面にあって、海が空に浮かぶ、空と海が逆さまになった世界で、水平線ではなく、言うなれば空平線に夕日が沈み、空にある海が燃えるように赤く染まる現実には存在しない景色を連想した。
例えばリタは――、
例えばティナは――、
例えばクリスティーナは――、
そのように、彼女たちだけに限らず、ここにいる全員が、意味不明なんてレベルではない、自分の頭の中身を疑うような心象風景を連想し、しかし、架空の景色よりも、目の前の魔術儀式が行われている光景の方が綺麗だと思い、誇張表現でも比喩表現でもなく、徐々になにも考えられなくなっていく。
架空の景色よりも目の前の現実の光景の方が綺麗。
そんな信じられない事実を呆気《あっけ》もなく認めてしまうほど、セシリア、イザベル、カレンの行う魔術は麻薬じみているのである。
ここにいる全員が一斉に想う。
この光景が夢なら覚めないでほしい。
7色に瞬き、閃き、輝き、そして煌めく魔力の粒子は礼拝堂の空間の全てを満たして、どこからともなく癒しさえ覚える風は吹き、永遠とさえ思えた時間が一瞬で終わりを迎え、ついに、嗚呼、ついに、3人の特務十二星座部隊の女性は右腕を、ゆっくりと、下ろした。
(これが――、特務十二星座部隊の枢機卿と占星術師――――)
シーリーンが放心しながらも、しかし、懸命に眼前に立つ3人を見て思う。
あのぐらい魔術が上手くなれれば、もしかしたら――と。
そして――、
ついに――、
数分後――、
「あ、れ……? んんっ? あれ? なんだこれ? 身体を動かすのに力を込める必要がある? やけになにかを考えることができるけど――……」
「ロイくん……っ」
「ロイ!」
「お兄ちゃん!」
「~~~~っ、弟くん!」
「…………っっ、シィ!? アリス!? イヴと姉さんも、どうして!?」
少しだけ驚くも、しかしすぐに、流石、今回が初めての甦りではないロイは、シーリーンたちが泣きじゃくりながら自分に抱きついている現状を把握して、自分は生き返れたのか、と、自覚した。
だが、彼はもう一度驚くことになる。
なぜならば、自分が身体を棺から起こした瞬間――、
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
と、地に響き空に木霊すほどの大歓声が、礼拝堂を強く震わせたのだから。
なにごとかと思うロイ。改めて自分の現状を再度、動き始めたばかりの頭で整理してみると――自分は今、棺から上半身を起こしている。シーリーンたち7人は恐らく、もともとは座っていたと推測できるが、自分が意識を取り戻したことで、居ても立っても居られなくなり、大勢の人が集まっているのにも関わらず、壇上に上がってきてしまったのだろう。壇上の右側にはヴィクトリアやアルバートをはじめとするグーテランドのお偉いさん方が座っており、左側には特務十二星座部隊の面々が。
結局、ロイにはなぜ自分が起き上がったことで歓声が湧くのか、理解できなかった。
しかし――、
「ロイ様――おはようございますわ」
「ヴィキー?」
「唐突ですが」
「うん、なに?」
「ロイ様が死んでいる間に、あなたとわたくしは結婚いたしましたの」
「…………」
本気でなにを言われたのか理解していない様子のロイ。当たり前だ。君が死んでいる間に君と私は結婚したよ! と、誰かが誰かに言ったとして、理解できる方が頭にダメな部分がある。
ゆえに、ロイはもはや言葉、言語を口から出すことすらできなかった。
「あれ? ロイ様? 聞こえまして?」
「えっ、いや……、聞こえたけれど……、えっ、どういうこと? 誰か説明してくれないかな?」
と、ロイが少しばかり挙動不審な感じでキョロキョロすると、ヴィクトリアは仕方がない、というよりは、確かに今の自分の発言だけでは不充分だった、と、内省し、彼に事情を説明した。
そしてヴィクトリアの説明が終わると――、
「ボクが王族? いや、まぁ、ヴィキーと結婚したってことは、必然的にそうなるんだろうけど……。あと、ならさっきの歓声は? 新しい王族が誕生したから……っていうわけじゃなさそうだけど……」
ロイが少々、訝しむように小首を傾げる。
するとヴィクトリアの説明の間にロイから身体を離していたシーリーンが、心配そうにロイに訊く。
「ロイくん、大丈夫? もしかして、生き返る時に記憶の一部を失くしちゃったなんてことは……?」
「どういうこと、シィ?」
「覚えていないの、ロイ? あなた、魔王軍の幹部の1人を討ち取ったんでしょう。言ってしまえば――」
と、シーリーンから発言のバトンを(勝手に)受け取ったアリスは、少しだけ、感慨深そうに、タメを作る。そして、やわらかい微笑みをたたえて、ロイから1mmも視線を逸らさずに――、
「――ロイは王国の英雄なのよ」
「…………っ」
「英雄の凱旋に湧かない騎士も魔術師も、この場には1人もいないわ」
アリスがそう言った瞬間、再度、礼拝堂に集まっていた七星団の団員たちから、建物が震えるほどの歓声が湧く。無論、ロイの王族入りを気に食わない者たちも中にはいたが、それは七星団の団員ではなく、主に貴族や大臣たちだ。
あぁ、そうだ、と、ロイは歓声湧く礼拝堂の一番前で感慨にふける。自分は魔王軍の幹部の1人を倒したのだ。もうあれから数日経っていると推測できるのに、ようやく、ロイはその事実に実感を伴うことができた。
そう、あれは夢ではなかったのだ、と。
「そういうこった、ロイ。よかったじゃねぇか、王族なんてなろうとしても、簡単になれるモンじゃねぇぞ」
湧き上がる歓声の中、ふと、いつの間にかそこにいたレナードが、ロイに話しかけてきた。
そこでロイは先刻のヴィクトリアの説明の中にあった、レナードがいわゆる現代知識を使って自分とヴィクトリアの結婚を合憲、合法にした、という内政チートを思い出す。
無論、その説明は誰にも聞かれないように、過剰すぎるほどの小声で行われたのだが。
「あの……っ、先輩もありがとうございました。でも、ボク、先輩に現代知識なんて教えた覚えが……」
「ケッ、別に俺はそそのかされたっつーか、まんまと誘導された、口車に乗せられただけだよ。礼なら俺よりも、テメェと同じ記憶を持っている魔女にでも言うんだな。そいつは大層、テメェのことを心配していたようだからよォ」
「えっ、それって――」
「ところでよォ、ロイ、今回は、まぁ、勝ち負けの問題でもねぇが、俺の勝ちっつーことで文句ねぇよなァ? 勝ちっつーか、貸し1つ、ってことでよォ」
唐突にもレナードは、嗚呼、やはりロイに対して挑発的な口調で、勝ち負けの結果をハッキリさせようとする。そもそも、いつ勝負なんてしたのか? 勝利の定義と敗北の定義はなんなのか? ルールはどのようなモノだったのか? ロイの頭の中でそのようなことが次々に思い浮かんでくるが――しかし、ロイは困ったように笑ったあとに、一言。
「そうですね。勝負なんてした記憶はないんですけど――」
「――――」
「確かに、ボクは今、先輩に対して敗北感を抱いています。よりにもよって、先輩に借りを作ってしまったんですからね」
「なら、アリスの件と今回の件で、互いに1勝1敗だな」
困ったように微笑むロイ。対してレナードもいつもの好戦的な獣のような笑みではなく、快活で、誰しも好感を抱きそうな笑顔で応える。
たったそれだけのやり取りで満足すると、レナードは早々に壇上を下りた。背中を向けながら、片手をあげてヒラヒラ振って。そして流石に礼拝堂の中央の道は歩かなかったものの、一番外側の通路を歩いて、数秒後、礼拝堂を出てしまう。
ロイはその背中を、心地よい敗北感を抱きながら眺めていた。
そして――、
数分後――、
レナードの退席がキッカケとなってか否か、今回のような出来事は王国史上、初めてのことだったので、流石につつがなく進行し、つつがなく終了というわけにはいかず、多少はグダグダしてしまったが、しかし、問題は特になく終了した。
あとは彼と彼女らに、久々の再会を喜ぶ時間を与えてあげよう。
そのようなアルバートの配慮により、今、礼拝堂に残っているのはほんの数人。
ロイ、シーリーン、アリス、ヴィクトリア、イヴ、マリア、リタ、ティナ、クリスティーナだけ。
いくらなんでも、ずっと棺から上半身を起こしているだけの状態ではいられなかったので、ロイは礼拝堂の席に座り、その周囲に女の子たちが集まっている状態だった。
シーリーンとイヴあたりがロイに再度、抱きつこうとしたが、シーリーンはアリスに、イヴはマリアに、「病み上がりだからロイ、弟くんに体力を使わせたらダメ」と制されたのは別の話ということで。
「さて、ロイくん? ロイくんはシィたちに、いろいろ言うべきことがあるんじゃないかなぁ?」
好きな男の子を困らせたい、イジりたい、けれど嬉しくて涙が零れてしまいそうな、そんな2つの想いを一緒くたにした言葉にできない微笑みをたたえて、シーリーンはロイに小首を傾げて訊いてみる。
ふとロイがシーリーン以外の女の子にも目を向けてみると、やはり、他の女の子たちもシーリーンと同じく、ロイからの言葉を待っていた。ほしがっていた。そして、願っていた。
「うん――、そうだね」
言うと、ロイは自分を落ち着かせるために深呼吸して、次いで、シーリーン、アリス、イヴ、マリア、リタ、ティナ、クリスティーナ、ヴィクトリアの順番で、ゆっくりと、穏やかに告げ始めた。
「シィ、約束を守れなくてゴメンね? きっと悲しませたと思う。泣かせちゃったと思う。女の子に対してひどい思いをさせちゃって、本当にゴメン。――そして、本当に、また会えてよかった」
「まったくだよ、ロイくん。いつかちゃんと、この埋め合わせはしてもらうからね?」
シーリーンはこともなくロイのことを、しょうがないなぁ、と言わんばかり許す。
確かに、ロイの訃報を聞いた時は絶望したが、しかし、一度絶望したから、それを引きずって許してあげない、というのは、シーリーンにはどうもしっくりこなかった。
簡単な感情論だ。
好きな人が帰ってきた。嬉しい。
ならば、シーリーンにとっては、それが全ての免罪符なのだろう。
「アリス、死ぬのを許さないって、せっかく言ってくれたのに、結局死んじゃって、本当にゴメン。あと、結婚も愛し合うことも2人じゃないとできないって釘を刺されたのに、結局、一時的にといえども1人しちゃって。――もう絶対、君を1人にはしないから」
「言ったわね? 確かに私、今、聞いたわよ? 今度からは、約束を口癖で終わらせないこと。いいわね?」
アリスだってシーリーンと同様にロイのことを許す。シーリーンの許しの一番の源になっているのが嬉しさならば、アリスの許しの源になっているのは、きっと、感慨深さというモノだろう。
この再会に、アリスは目頭が熱くなるほど感動しているのだ。
きっと人は、そしてエルフも、なにかイヤなことやつらいことがあっても、そして最終的には絶望しても、感動すればそれを乗り越えられるように、もしかしたらできているのかもしれない。
それこそ、今のアリスのように。
「イヴ、そして姉さん、長い間、待たせちゃったね。きっと、現実の時間よりも、体感時間の方で、長く、長く。こうしてまた家族で揃うことができて、心の底から嬉しいって思う。でさ、嬉しいって思うこと=反省が足りていないっていうこと、っていうのはわかるけど、嬉しがったらワガママかな?」
「ワガママじゃないよ! 私も嬉しいよ」
「でも、確かに反省は足りていない感じですね。イヴちゃんとお姉ちゃんに悲しい思いをさせたこと、きちんと反省してくださいね?」
イヴは笑顔なのに泣いていたし、マリアの方だって、微笑んではいたものの、目じりに透明な雫を浮かべている。
イヴはロイがこの再会を嬉しがることを、ワガママではないと言ってみせた。きっとそれは、確かにマリアの言うとおり反省が足りていないかもしれなかった。だが、離別の知らせを聞かせて悲しませたことと、離別があったから再会もあったということは、決して同義ではないのだから、もしかしたら、本当にワガママではないのかもしれない。ワガママというのは自分勝手ということで、しかし今、イヴもマリアも、この再会を嬉しがっている。言わずもがな、3人で同じ感情を抱くことを自分勝手とは、ワガママとは言わないはずだ。
「リタ」
「ぅん?」
「お肉、準備していた?」
「あぁ~~~~っ、忘れてた!」
「リ、タ、ちゃ、……ん、……こうい、う……場……面……な……の、に、そういう、やり取……り、で、いい……の?」
「こういう感じが、一番センパイとアタシらしいからな!」
「ティナちゃん」
「は、はい……っ!」
「心配かけてゴメンね? 例のボクに話したかったこと、今度、必ずきちんと聞くから」
「~~~~っ」
まるでリンゴのように赤面するティナ。ロイと再会できた嬉しさか、あるいは例の話したかったことについて言及された恥ずかしさか、自分でもよくわからない感情で、彼女は瞳を熱っぽく潤ませた。
「クリス――……」
と、ロイが言葉を続けようとしたところで――、
先手を打つようにクリスティーナは――、
「ご主人様? 先に発言を失礼いたしますが、メイドに対して謝罪の言葉は不要でございます。ご主人様が帰還なされてメイドが言う言葉は古今東西、お変わりございませんし、帰還なされたご主人様がメイドに言う言葉も老若男女、お変わりございません」
「そうだね」
「はい」
「ただいま、クリス。ようやく、この言葉を君に言えた」
「はいっ、お帰りなさいませ、ご主人様!」
満面の笑みでクリスティーナはロイにおかえりの挨拶を告げる。これでようやく、ロイは本当に戻ってこられたんだ、という気持ちになれた。日常に帰ってこられた。平和な世界に帰ってこられた。みんなのもとに、ついに、帰還できた。そう思うと、ようやくロイは自分自身に(今回の戦いは終わったんだ――)と言い聞かせることに成功する。
そして――、
「そして、最後にヴィキー」
「な、なんですの?」
「一応、ボクの方からも意思を示さないとね」
「?」
「ボクも、ヴィキーとの結婚に、イヤなところなんて1つもない」
「今それを言うんですの!?」
「うん、だってボクは約束を守れなかったのに、ヴィキーはボクとの約束を守ろうとしてくれたでしょ? ヴィキーのそういうところが、ボクは、好きだから。尊敬できるから」
これで、全員に、伝えるべきことを、きちんと、ロイは伝えられた。
ロイも、彼を囲む8人も、みな一様に優しい気持ちになって、どこかくすぐったい感じになってしまう。けれど、それが全然、イヤではなかった。
ロイは結果が全てで過程なんてどうでもいい、という考えをしている人間ではない。
だが、そんなロイでも、終わり良ければ総て良し――なんて、そんな言葉が、今、この瞬間、なんとなく好きになった。
8人8色の優しくて、見ているこちらまで幸せになるような笑顔を浮かべるシーリーン、アリス、ヴィクトリア、イヴ、マリア、リタ、ティナ、そしてクリスティーナを見て、ロイが思うことは――ただ1つ。
(あぁ――、ボクは人間として壊れているらしいけど――、このみんなの微笑みを見て優しい気持ちになれるなら、ボクは壊れているけど人間なんだ――。そして、そして、そして――)
ロイの中にとある想いが芽生える。
彼女たちとなら、ボクはきっと直れるはずだ、と。
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