ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章7話 内政チート、そして結婚制度
数日後、シーリーンとアリス、イヴとマリア、リタ、ティナ、そしてクリスティーナは七星団の要塞の大規模礼拝堂に集まっていた。七星団の団員の中には、ファンタジア教や竜の聖書教など、宗教が統一されているわけではないが、神を信じている団員も多かったので、礼拝堂があるのも別に不思議ではない。
で、7人が七星団の要塞に久しぶりに呼び出された理由と言えば――、
「ねぇ、アリス……、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクに関する大切な儀式があるから来てください、って言われて、こうしてやってきたけど……」
「大切な儀式なんて……シィだって、もう理解しているでしょう?」
泣いてはいないものの、アリスは沈痛な面持ちでシーリーンに応える。ロイの訃報が届いた日から今日まで、散々泣いて、喚いて、もう今となっては涙も声を枯《か》れて嗄《か》れたのだ。もはや心が痛みになれて、なにも感じなくなってしまっているのだろう。
いわゆる、今のアリスは目が死んでいる状態だった。
元気なんて言葉は遥か彼方に置き去りにして、幸福という概念をどこかに忘れ、もし許されるのならば、自分もロイのあとを追おうか本気で数回考えるほど病んでいる。
しかしシーリーンはアリスの返事に、さらに返事を重ねずに――、
(確かに――普通に考えたらロイくんのお葬式のはずなんだけど、なんか違和感が――)
ふと、シーリーンは周囲を見回す。
自分たちはロイに特に近しい者たちとして、礼拝堂の一番前の席に座ることを許されていた。中央に近い順に、マリア、イヴ、シーリーン、アリス、リタ、ティナ、そしてメイドの身分であるクリスティーナが最後に。
マリアは年長者として必死に気丈な感じを装っているも、しかし身体が悲しみでわずかに震えている。また、イヴに至っては今日になってもまだ、ロイの死を受け入れられていない。
リタはまだ精神的に落ち着きを払っていたが、その落ち着いている分、隣で泣いているティナに気を配ってあげていて、同じくリタとは反対側の隣に座っているクリスティーナも、ティナの背中を撫でてあげていた。
だが、特筆すべき点は別にある。
(なんでロイくんのお葬式だけ別枠なんだろう?)
別に、シーリーンは落ち着いているから、そのような疑問を抱いたわけではない。むしろ逆だ。意識的に別のことに、ロイ以外のことに気を向けて、ロイの葬式という現実を、あまり頭の中に入れたくなかったのである。無論、シーリーンにとっては無自覚だろうが。
で、シーリーンはすぐに、なぜロイの葬式が別枠なのかの答えに行き当たる。
(そっか――、そう、だよね――、ロイくんは魔王軍の幹部をやっつけたんだし――。でも……)
どうも、それだけでは腑に落ちない。
具体的に言うならば、なぜか礼拝堂の雰囲気が葬式らしくないのだ。確かにロイに近しい人たちは自分たちだけだが、それにしても、ここに集まった他の人々は彼の死を悲しんでいる気がしないのだ。
そして、シーリーンは状況を探ってみる。
ここに集まっているのは言わずもがな、基本的には七星団に縁のある者たちだ。例えば壇上の席には国王陛下であるアルバートもいるし、ヴィクトリアの姿もあった。また、シーリーンは名前を知らなかったが、壇上の一角には12人の男女がいて、その人数から(もしかして、あの人たちが特務十二星座部隊?)と、断言はできないものの、漠然と察することもできる。
次いで、壇上から視線を、顔だけ振り向いて背後にやるも、七星団の制服を着た人ばかり。加えて、別の一角の席には貴族らしき人たちの姿や、グーテランドの大臣らしき人たちの姿も。
(なんか……お葬式にしてはそわそわしているような?)
ここでシーリーンは考えを次の段階に移す。
仮にここに集まった人たちの大半がそわそわする理由があったとして、なぜ、七星団に縁はないものの、仮にも参列を許された自分たちにはその理由が伝えられていないのだろうか。
シーリーンはいろいろと可能性を模索してみるも、結局、その答えには辿り着けなかった。
と、その時である。
「よォ、アリス――」
「は? えっ!? レナード先輩!?」
「オイオイ、アリス、少しは声を慎んでくれねぇか? あと、シーリーンと、ロイの妹と姉貴も久しぶりになるなァ」
レナードの突然の登場に、大きな声を上げてしまったアリスを始めとし、シーリーンとイヴとマリアも、一瞬だけとはいえ悲しみを忘れて驚いてしまう。当然だ。4人は今、レナードが七星団に所属しているなんて知らなかったのだから。
「えっ……と、とりあえず席に付いたらどうですか?」
と、アリスが配慮してみるも、レナードは首を横に振った。
次いで、真剣な表情《かお》で、いつもの乱暴な口調ではあるものの、ふざけた感じは一切ない落ち着いた声音で返す。
「いや、別にすぐに終わる予定の話だから立ったままでいい」
「そ、そうですか……。それでお話って――」
そのように、アリスが言葉を続けようとした瞬間のことだった。
――――――――――――ッッッ! と、ここにいた全員に無音が聞こえた。無音が聞こえるという意味不明な現状を体感して、アリスは思わず戦慄する。否、アリスだけではない。シーリーンたち他の女の子6人も、一様に表情に狼狽をみせた。
アリスはこの感覚を知っていた。以前、実の姉であり、特務十二星座部隊のアリシアに興味本位で、止まった時の中を動きたい、と、お願いして、それを叶えてもらった時の感覚に酷似しているのだ。
世界に流れていた時が止まった。多かれ少なかれその事実に気付き、各々ハッ、とするシーリーンたち女の子7人。改めて、確認するように慌てて立ち上がり周囲を見回すも、ここに集まった99%の者たちが微動だにしない。
動いているのはわずか数人――自分たちとレナードと、ヴィクトリアとアルバート、そして特務十二星座部隊の中でもアリシアとエルヴィスだけ。
続いてついに、唐突に時の流れが止まったのにもかかわらず、冷静さを保っているレナードが、この一連の流れの全てを知っている雰囲気を身にまといつつ、シリアスに口を開いた。
「アリス、それにシーリーン」
「「は、はい……っ」」
「それとロイの妹と姉貴」
「……なに?」
「はい、なんですかね?」
返事する4人。レナードがなにを考えているのかは依然、不明のままだが、しかし、シーリーンもアリスも、イヴもマリアも、4人一様に返事だけはきちんとする。言わずもがな、おっかなびっくりではあったものの、絶対に返事すべきと直感したからだ。
逆に、ここで返事をしなかったら、一生モノの後悔をする。そんな直感さえ4人は覚えていた。
「以前、ロイのやつから聞いたことがあったんだが、確か、特にシーリーンは、条件付きではあるがハーレムを許しているんだったよなァ? そしてその条件っていうのは、ロイが複数人の女と付き合っているだけって状態で関係を完結させず、女同士も仲良くしたいから、全員で1つの恋人グループってことにしたいから、現時点のハーレムメンバーが新規のメンバーのハーレム入りを許可すること、だったか?」
慎重に言葉を選んでいる感じのレナード。本当に彼は今、熟考に熟考を重ね、さらにその上にできる限りの配慮に配慮を乗せて、訊きたいことはきちんと訊くが、シーリーンたちが極度に不愉快にならないように、まるで綱渡りのような会話を広げる。
対して、そのレナードの以前からは考えられない態度に基づく発言に対して、答え合わせをしたのはシーリーンとアリスだった。
「むぅ……シィたちの関係を、そんなふうに無機質な言葉っていうか、説明口調で片付けられると不満なんですけど」
「悪ぃな、シーリーン。だが、この確認は大切なことなんだ」
「なら、シィに代わって私がお答えしますが、そのとおりです。現に、私がロイの恋人になった時も、シィに許しをもらいました。と、言いましても、むしろシィは乗り気でしたが」
薄々、アリスは今もレナードが自分のことを好いている、という事実に気付いていた。
だがだからといって、自分とロイの恋人事情を、よりにもよってこの場所、この雰囲気で誤魔化すということはしない。
アリスはレナードのことが不良だから少し苦手ではあったが、だがレナードの強さは認めている。それも、騎士としての武力を意味する強さではなく、こういう場合に元・好きな女の子から、その子と、その子の恋人の関係性を耳に入れても、落ち着いて話を続けられる心の強さを。
ゆえに、そんな心が強いレナードを相手に、少し前まで自分に好意を寄せていた相手だから曖昧に応えるというのは、レナードの心に対する侮辱だとアリスは考えたのだ。
結果、こうしてアリスは返す言葉を意図的に、選ぶような真似はしなかった。
「なるほどなァ――なら、それを踏まえて4人に訊きたいことがある」
「? なんでしょうか?」
と、この中で一番レナードと対等に話せるアリスが訊く。
すると、レナードの隣に壇上の席に座っていたヴィクトリアがやってきた。同時に、アルバートと、アリシア、エルヴィスも。
「お姉様……ッ」
「久しぶりですわねぇ、アリス」
先ほどから視界には入れていたものの、まさかこうして会話できる距離まで近付けるとは、否、近付いてくるとは思いもしていなかったので、アリスはわずかに身をブルッ、と、震わせつつも、実の姉を呼ぶ。
対してアリシアもアリスに応えるも、だが、それよりも重要なことがあるので、言うべきことを、ヴィクトリアは一度深呼吸してから口にする。
即ち――、
「突然、申し訳ございませんわ――。わたくし、ヴィクトリア・グーテランド・リーリ・エヴァイスは、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク様のことをお慕いしておりますの」
目を逸らさず、真正面を見据えながらヴィクトリアは告ぐ。
ウソを吐いてはいけない。誤魔化してはいけない。装ってはいけない。ヴィクトリアは心の中で繰り返し強く想いながら、自分の恋心を、自分でも否定できないほど誠心誠意、正々堂々と伝えたつもりだった。
この気持ちにウソはない。
だから、躊躇う必要はどこにもない。
今のヴィクトリアは、誰の目から見ても、本気が伝わるような表情《かお》をしているではないか。
一方で――聞いて、理解して、受け入れると、シーリーンは静かに目を伏せて、アリスはヴィクトリアのことを真正面から見つめる。互いに視線を逸らさない。マリアは全てを察して成り行きを見守り、流石にイヴだけは驚いている感じ。
そして数秒後――、
「そう――」 と、アリスは優しく呟いた。
怒っている感じも悲しんでいる感じもそこにはない。
ただ、強いて言うならば、逆に穏やかな感じだった。まるで聖母のように、女神のように、ヴィクトリアの告白をそっと包み込むような相槌で、そして次の瞬間には慈しむように微笑んでくれる。
「怒りませんの? わたくしのことを」
「だって、ヴィキーさんの気持ちは私にもわかるもの。私はロイが好き。ヴィキーさんもロイが好き。ここが一緒なのに、同じなのに、これでわからないなんて方がおかしいじゃない」
微笑んだあと、少し照れくさそうにはにかみながら、アリスはヴィクトリアを認める。
そしてシーリーンも、ヴィクトリアに対して頷いてみせた。
恐らく、いや、絶対に、ヴィクトリアはロイの外側だけで彼を好きになったのではない、という確信が、なぜか2人の中にはあった。ロイの外側ではなく中身を好きになったヴィクトリア。シーリーンもアリスも、そんな彼女とならば、いい関係が築けると思う、と、思ったのだ。
加えて、仮にまだロイが生きていた場合、彼女なら、ヴィキーなら、ヴィクトリア・グーテランド・リーリ・エヴァイスなら、自分たちとは別のナニカをロイに与えてあげられる、とも。さらに言うならば、ロイのことを悲しませることがない、とも。
そして最後にもう1つ。ヴィクトリアには人を見る目がある。そんなヴィクトリアがロイを見て、今まで接してきて、彼を好きになったのだ。彼を認めたのだ。そんな一国の姫に認められるロイのカノジョ2人である自分たちが、ここでヴィクトリアを拒むなんて、カノジョである自分たちと連動して、カレシであるロイの女の子を見る目までマイナス評価がいくこと必至だろう。要するに、ロイはこんな器量が狭い女の子を選んだのか、と。
(なら、もう――)
(これで異論はないわね――)
と、ここでレナードが区切りの良さを覚えて再度、話を続けた。
その話の内容とは――、
「なら、話は早ぇなァ――早いとこ、ロイとお姫様を結婚させて、【聖約:生命再望】をキャストしてロイを生き返らせようぜ」
「ほえ!?」「ふぇ!?」
「ぅん!?」「えっ!?」
「およ?」「先輩を……っ」
「生き返らせる、でございますか!?」
発言の順番はシーリーン、アリス、イヴ、マリア、リタ、ティナ、クリスティーナの順番だったが、最後にクリスティーナが締めくくると、レナードは好戦的に笑いながらさらに続ける。
「王族が亡くなった時、国民の混乱を回避するために、条件付きではあるが亡くなった王族を生き返らせる魔術、【聖約:生命再望】――、チビッ子たちはともかく、アリスとロイの姉貴、メイドは知っているだろ?」
実を言うと3人の他にシーリーンも知っていたのだが、それは本題に関係ないので、シーリーンは黙っていることに。
「待ってください、先輩! それはつまり、ヴィキーが、いえ、ヴィクトリア王女殿下という一国の姫が、ロイとはいえども死体と結婚するということですよね!?」
「察しが早くて助かる――そのとおりだ。ロイを生き返らせるにはロイを王族にしないといけない。しかし、当のロイはすでに死んでいる。なら、お姫様には死体と結婚してもらうしかねぇ」
「ひぅ……っ」
そのあまりに常軌を逸している発想に、気弱なティナが小さいとはいえ悲鳴を上げた。
一方で、シーリーンとアリスはロイの恋人として、ヴィクトリアの覚悟を知ろうとする。
「本気なの、ヴィキーちゃん?」
「当然ですわ。むしろ、シーリーン様とアリス様こそ本気ですの?」
「えっ?」
「――――」
「――死んだからといって、お二方のロイ様への愛が消えるわけではないではありませんか。シーリーン様も、アリス様も、ロイ様の外見ではなく、心を好きになったのですわよね?」
「当然っ!」
「ええ、そのとおりよ」
「わたくしも同じですわ。だからこそ、周りからおかしいと思われるのは百も承知、それでも、わたくしには結婚したい相手がいるのですの」
そこで、話は2度目の区切りを迎えた。
しかし、すぐに話は再開を迎える。具体的には、リタの発言によって。
「でも――水を差すようで本当に心苦しいけど、死んじゃった人とどうやって結婚するんだ?」
「安心しろ、ワン子。すでに俺がこの国の結婚制度で、間違っていないにしても足りていないところをまとめて、論文にして、大臣に提出した。これで俺もロイと同じぐらい、王国の歴史に名を残せるかもなァ」
「「「「「「「は?」」」」」」」
レナードが言うと、今まで控えていたエルヴィスがシーリーンにとある紙束を手渡す。
「これは……?」
「オレも正直驚いている。レナードはロイから聞きかじった知識だけで、ロイの前世の水準の結婚制度を言語化して、論文にしてみせたらしい。で、ロイの前世のフランス? や、タイワン? という国では、死者と結婚することも条件付きではあるが認められていて、それを参考に我が国でも認めることになった。無論――」
「――余も国王としてこれを認めた。別段、憲法、あるいは法律を破っているわけではないからな。むしろ王国の社会水準、社会学的な成長を一気に押し上げてくれたがゆえに、大義ですらある」
「ロイ曰く、こういうのを内政チート? って言うらしいが、まぁ、それはいい」
ふと、レナードはアルバートに試すような視線をやる。
「――最後の確認はアリスでもシーリーンでもお姫様でもなく、国王陛下にしたいのですが、よろしいですか?」
「かまわん」
「俺が訊くのも大変おかしな話ですが、まぁ、確認のためご容赦ください。国王陛下から見て、王女殿下が勝手に結婚相手を選ぶのはいかがなものでしょうか? 相手が死者ということは関係なく、そもそも、王女殿下という身分なのですから勝手は許されません、という意味で」
「問題ない」
即答だった。アルバートはまるで悩んでなんていないのだろう。
一応、レナードはあとで問題が発生するとややこしいので、しつこいとは知りながらアルバートに追求することに。
「理由は?」
「余には国王として人を見る目が宿っていると自負している。そして、余の人を見る目を凌駕する、さらなる人を見る目を宿しているのがヴィクトリアだ。なら、親としても、そして当然、国王としても、ヴィクトリアの判断に異論はない。ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクと結婚すれば、ヴィクトリアは女性として幸せになれる上に、国にとっても有益と、余は判断している」
「一石二鳥ってやつですね――、なら、これで確認すべきことは全て確認できたなァ」
ニヤッ、と、レナードは笑ってみせる。
瞬間、シーリーンの目から一筋の涙が頬を伝った。
アリスは感極まって口元を両手で押さえ――、
イヴはレナードになにを言われたのか、嬉しすぎて逆に理解できず――、
マリアはその場で笑みを浮かべながらへたり込んで――、
リタは満足そうに目を伏せて――、
ティナは盛大に泣きじゃくりながら服の裾で目元をこすり――、
クリスティーナはみんなにバレないように鼻をすすった。
そして最後にアルバートが厳かに口を開いた。
「件の魔術【聖約:生命再望】には、七星団の精鋭魔術師が100人以上必要だが――問題ない。今回の大規模戦闘では前線に出なかった分、『彼女ら』にやってもらおう」
そして数秒後、止まった時の中で動くことを許されていたシーリーンたちがもとの席に座りなおしたところで、アリシアが魔術を解除して、再び、時は動き始めた。
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コメント
ペンギン
おー!すごいアイディアですねw
絶対に思いつきませんでした...w
ありがとうございます!