ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章13話 ゴメンね、そして大好きだったよ(1)



「制限時間はおおよそ9分ッッ! 今ここに、ボクの往く道が、最強への過程で途切れたとしても――ッッ、最強に至れなかったとしても――ッッ、せめて! 間違っていなかったことだけは証明する――ッッ!」

 今にも泣きそうな、けれど振り切れたような叫び。
 悲しそうで切なそうな、けれどそれらを振り払ったような想い。

 ギラつかせた双眸の深奥に、メラメラと熱い闘志の炎、燃え盛る死ぬ気の焔を揺らめかせ、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクは塵芥よりもズタボロの身体で戦場を駆ける。

 それは一片の迷いもない決意の表情。常世とこよ全ての善をその背中に背負い、聖剣使いにして魔剣使いの少年は、やはり、常世全ての悪を担う魔王軍に討ち挑む。

 もう、なにも怖くない。
 生還できる希望は遠方に消えて、最愛の人たちとの再会は泡沫のように弾け、人生を懸けても最強には至れず、もうすぐで聖剣使いのまま死ねたというのに、聖剣使いから魔剣使いにその身を堕とし、約束は闇に消えた。

 それでも、まだ、女神からいただいたこの命、確かに彼の、中にある!

「魔剣の波動オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

 ロイは群れをなすグールをチカラに任せて、嗚呼、殲滅に次ぐ殲滅。
 蝋燭ろうそくの灯が、消える一瞬前に最後の燃え盛りを魅せるように、ロイは自分の持てるチカラの全てを以って、眼前に広がる幾千のグールの軍勢を、悉く蹴散らし続けた。

 ロイが魔剣エクスカリバーに流し込んだイメージは、合計で3つ。
 そもそも、エクスカリバーに魔剣のイメージを流し込んで、魔剣化。
 魔剣らしく、使い手の寿命、霊魂を喰ってそれをチカラに変換するイメージ。
 最後に、やはり魔剣らしく、使い手の意識を残したまま、身体の支配権を奪われ、勝手に自らの身体を使われるイメージ。

 これを総じて、束ねて、ロイは今、血の匂いがする風を一身に受け戦場に立っていた。

「目には目を! 歯には歯を! 王国に仇なす闇のチカラには、それと同等の闇のチカラを!」

 ロイが宣言した9分という制限時間には、きちんとした根拠がある。
 体感だが、ロイがグールに噛まれたせいで彼自身もグール化するのに、残りの所要時間は10分ほどだ。畢竟、それを過ぎてしまうと、間違いなくロイは魔王軍の一員に成り下がってしまう。

 だから、グール化してしまう前、10分よりも少し前に、エクスカリバーに自分の本来の寿命、霊魂を全て喰らわせて、身体ではなく心まで闇堕ちする前に尽き果てる。

「「「「「愚オオオオオオオオオオ……オオオオオ……オオウウウ……ッッ!!!!!」」」」」
「邪魔だッッ! ボクに、道を開けろッッ!」

 光の方向か、闇の方向か、その方向性は違えども、絶対値は同等の聖剣の波動ならぬ魔剣の波動――――ではなく、ただの剣圧で暴風を荒れ狂わせ、自分の周辺にいた30は下らないグールを薙ぎ払う。

 消滅とまではいかずとも、竜巻さえ彷彿させる剣技を魅せて、グールたちはその腐敗した四肢と胴体を崩壊させながら埃のように吹き飛ばされていく。

 太陽の光が反射して煌きを魅せる純銀のような魔剣の腹。
 閃くように風さえも切り裂く魔剣の切っ先。

 ついに300は超える敵軍の兵士を討ち終えて、しかし、魔剣使いの少年はさらに100体は、いざ、尋常に斬り伏せるべく、気が遠くなるほど魔剣を振りかざした。

 暴力というには澄み切っていて、戦闘というには清々しい気持ちのそれに、ロイという死に際の少年は、信念の執行と名付ける。

 いや――、
 本当はロイも、今自分がしていることが、信念というほど固い決意めいた感じでもなく、執行というほど義務感に駆り立てられているモノではないということぐらい、初めからわかっていた。

 それでも、ロイはまるで、彼の知る由はないが、星面波動を撃ったエルヴィスのように強く、未来を改変したシャーリーのように上手く、空間を消滅させて敵を討ったロバートのように凄く、数十分で戦闘を終焉に導いたベティとフィルのように速く、覚醒した無意識の中で、誰の目から見ても信じられないことに、あの特務十二星座部隊と引けを取らないほど、剣を振るい、敵を討つ。

 彼の周囲にいた師団の仲間たちは現実を疑った。ロイが今、手にしているのが魔剣ということは一切関係ない。一時的なモノだとしても、この少年の凄絶さ、気迫は、ついに特務十二星座部隊にも手を届かせる。

 そんな魂が震えるような勇姿を見せつけられたのだ。

 ならば必定――、
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」

 アリシア師団の団員たちは、騎士も魔術師も、年齢も性別も関係なく、ロイの戦う姿を見て雄叫びを上げた。

 ロイの戦う姿が、最前線の騎士たちに勇気を与え、それが後方にも伝播して、アリシア師団に活気が戻る。そう、戻り始める。

 寂しいことに、ロイの戦う姿に勇気付けられたのは、実はほんの数人だったかもしれない。だが、その数人が別の十数人に、もう一度、剣を振り魔術を撃つ意志のチカラを与えた。そしてその十数人は別に数十人に、勝つのは俺たちだ! という、強い気持ちを与えて、それを繰り返し――今――アリシア師団は厄介の極み、魔王軍の幹部、死霊術師が指揮を執るグールの軍勢に立ち向かう。

 当然――、
 アリシア師団の先頭で剣を振り続けるのは――ッッ、

「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクを舐めるなァァァッッッ!」

 瞬間、両陣営による残った戦力を全て投入した総力戦が始まる。
 数千のアリシア師団の団員が一人ひとり、自分が英雄であることを証明するように突き進み、幾千のグールの軍勢が死霊術師に尊厳を奪われたまま進軍する。

 上空から見下ろしたら、さぞかし圧倒的な光景だろう。今までの戦いで生まれた死体の上で、その同胞が殺し合い、さらなる死体の山を、流血の海を生ますのだ。阿鼻叫喚すら生温いその地獄で、七星団の団員たちは必死の想いで命の灯を燃やす。

 その中で、寿命を魔剣に喰われ続けているロイは――、

(グゥ、ッッ、制限時間は残り5分! 考えろ! 考えろ! 考えろ! どうやって戦いを終わらせる? どうやってまだ数千体も残っているグールを倒す? 目の前の地獄を終わらせないと、死んでも死にきれない!)

 ロイは戦いながら考える。
 普通に考えるなら、グールを全員、無力化する方法は確かに存在する。
 グールを操っている死霊術師を倒せばいいだけの話だ。

 だがそれは口で言うほど簡単な作戦ではない。
 死霊術師は今もなお上空でアリシアと殺し合っているし、その中に飛び込んでいくなんて、覚悟的には、ロイなら可能かもしれないが、しかしそのすぐ数秒後には、実力的に2人の魔術の余波で墜落してしまうだろう。

 仮に2人の戦闘の中で30秒か1分ほど滞在できたとして、さらに奇跡的に死霊術師に一撃を浴びせて、奇跡を重ねるようにその一撃が致命傷になり死霊術師を殺したとしても、嗚呼、彼はどうせ、ストックしている魂でよみがえ――、っっ、

(待てッッ、魂をストックしている!?)

 その時、ロイがとある作戦を閃く。
 死霊術師は魂をストックしている。当然、闇属性の魔術の一種である死霊術を使って。今、自分の左腕はグールに噛まれて、蠢くように闇のチカラが侵食している最中だ。エクスカリバーという聖剣は魔剣に変わり、思い返すのはガクトとの殺し合い。

 前述したように、この戦いで、この争いで、死霊術師は魔王軍にはあって王国七星団にはない長所を生かすことにした。戦争で自分たちにはあって相手にはない武器を活用するのは定石だから。

 そしてその長所、武器とは、魔王軍には死霊術が許されているということ。

 死霊術師がそのようなことを考えたことを、ロイは知らないだろうが――、
 ――彼も、それを同じことをしようと決意する。

 アリシア師団にはあって、魔王軍にはない長所とは、即ち、魔剣になったばかりのエクスカリバーに他ならない。これはどこにも出回っていない情報だ。

 そしてこの作戦は――エクスカリバーの使い手であるロイにしか思い付かないし、必定として、彼以外に実行できる者はいない。自明だ。エクスカリバーが魔剣になるなんて、ロイも含めて全員想像できなかったし、唯一、ロイが想像できたのも、皮肉にも、グールに噛まれたおかげだから。

「ハハ……、ボクはどれだけ自分の剣を蔑ろにするんだ……」

 自嘲するようにロイは空を仰ぎながら乾いた笑みを浮かべる。
 その視線の遥か先、青い空と白い雲の間隙では、現在進行形で、アリシアと死霊術師が常軌を逸するほどの殺し合いに身と心を興じていた。

 ああ――、本当に――、アリシアさんはすごいなぁ――、と、ロイは心にぽっかり穴が空いたように漠然と思う。心が、心象風景が、むなしいのに、白いのに、なぜかロイはそのことに感極まった。

 で、次の瞬間には振り払うように意識、気持ちを切り替えて、グールが群れる前方に走り出す。そう、駆け出して、止まることをしらない。

 今までの戦闘を振り返ってみると、アリシア師団には上空の殺し合いの流れ魔術が1つも地上に落ちてこなかった。

 これは即ち、アリシアが師団の上空に魔術防壁を展開しているということ。
 ならまずは、魔術防壁が展開されていない地点まで進む必要がある。

 そして決死の覚悟で、死力を尽くし、夥しい吐血で制服を汚しながら、血涙で視界を濁らせながら、そこまで辿り着くと――、

「制限時間……ッッ、残り、2分ッッ!」

 上空では先刻と同じく2人が戦っている。アリシアも死霊術師も瞬動をこなし、地上から見ると、アリシアは七色に、死霊術師は闇色に、遠い空中で点滅しているようにしか視界に映らなかった。

 だが、それだけでも充分に驚嘆に値する。遠くから様子を窺っても魔力が可視化して奔流が観測できるなど、アリシアも、死霊術師も、間違いなくこの世界の上位数%に入っている最強なのだ。

 ロイはアリシアに向かって大声で――、

「アリシアさん! 準備してくださアアアアアアアアアい!」


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