ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章7話 売り言葉、そして買い言葉(1)
遥か上空、アリシアは無感動な表情で、一撃で100を殺すSランク魔術を撃ち続けた。
比類なき攻撃力を誇る彼女の魔術は、まさに人智の超越の体現。攻撃力、速度、発動に用いる技術、及び知識の全てが絶対的な魔術を同時に25にも届くほど使う彼女、特務十二星座部隊の【金牛】は、もはやエルフを辞めていると言っても過言ではない。
破滅的にして壊滅的にして殲滅的にして絶滅的な暴虐の権化が、絶望の限りを尽くすべく敵軍のトップに一切の容赦も躊躇いも慈悲もなく、大気中の魔力を空にするように大量に消費しながら降り注ぐ。
翻り、5つの戦場で唯一ここだけに姿を現した魔王軍幹部、死霊術師は哄笑しながら特務十二星座部隊、星の序列第2位のオーバーメイジの超々々高等な技術、知識を要求される神の御業にも等しい魔術を迎撃し続けた。
弩々ッッッ!!! 駕アアアアアッッッ!!! 轟オオオオオオオオオオッッッ!!!
恐竜、古竜、神竜の時代、想像を絶する隕石が天高くから轟々と大気を唸らせ、地上に終焉そのものを顕現させたというが――、
――アリシアはその光景と同じほど、視界の限界まで広がる蒼穹に、世界の終焉さえ連想させるような魔術による戦略級の攻撃力、否、森羅万象を破滅し尽くす絶望力を誇る大弾幕を幾重、幾層にも展開させた。
隕石の雨ならぬ、それに匹敵する、否、それさえも凌駕する大魔術の豪雨。
地下深くに眠るマントルよりも熱い業火の砲弾を10揃え、その近くにあっても溶けない絶対零度を維持したままの10mにも近しい氷塊を、同じく10展開。同じく10並べられた普通なら酸素を奪い、術者を含め、様々な要因で周辺の生命を悉く殺戮し尽くすはずの、撃てば疾風迅雷よりも重ねて3重は速い轟々と音を鳴らすプラズマの渦。そしてトドメに一部、視界に映るはずの空さえ拒む地面の津波。
この竜さえ屠る全てを以って、戦略級複合大魔術、天空御手星穿尽。
「面白いでしょう? 笑いなさい――――」
「――――ああ、笑うしかないな、こんなの」
やはり無感動にアリシアは告げ、死霊術師は嗤って応えた。
戦術、戦略、及び戦争そのもの、その王国の繁栄の中で最も血生臭い営みを、笑わない魔術師は事もなげに三拍子、一流を超えて超一流の領域まで極めている。
殺し合いの前の場外乱闘がなければ、死霊術師はすでに身体の細胞を一片も遺さず死んでいるだろう。畏怖とも敬意とも区別が付かないが、笑うなという方が無理な話だ。
嗚呼、先刻の2人のそれは、至極当然の売り言葉に買い言葉で、そこに一切の躊躇いはない。互いの反応は余分なモノ、不純物が1つもないほど純粋で、その殺意は透明。
天よりも視界を覆い、地よりも強大な存在感を誇示するその戦略級の大魔術は今――、
――いざ、嗤う死霊術師を蹂躙する。
刹那、先刻よりも鼓膜を超して脳に直接響く轟音が大陸全土に木霊した。
震災と呼べるレベルの地震よりもさらに大陸、惑星の寿命を豪快に削り、天を裂き、遠く離れた海さえ割るような極限の一撃必殺。エルヴィスの戦略級聖剣術、星面波動にも匹敵する規模、衝撃のアリシアの魔術は、ウソ偽りなく世界を壊す。
目にした者に絶望よりも熱く、死という一種の救済よりも深い、自分の認識できる範囲を超え、『なにも感じないということ』だけ感じるという、形而上学的な虚無を刻々と脳に直接与えるそれは、紛うことなく神々の領域だった。
だが、しかし――、
「――なにを笑っているのですか?」
「これは異なことを。貴様が笑えと言ったのだろう?」
一言では表現できず、代名詞を使わないと絶望してしまいそうな『あれ』を真正面から受けて、だが、死霊術師は無傷だった。そして挑発するように、死霊術師は嗤いながら、アリシアに向かい人差し指をクイクイ、と、軽薄に動かす。
つまらない塵芥を見下すのさえやめて、アリシアは瞑目する。
同時に、死霊術師の方はより色濃く嗤い、獣のように犬歯を剥き出しにした。
刹那――、
音もなく、アリシアと死霊術師の姿は霞むほどの残像を置き去りにして瞬動をこなす。
そして次の瞬間には、蒼穹にアリシアの魔術と、死の匂い、闇属性の魔力粒子を浮かばせる死霊術師の魔術が、七色に、あるいは闇色に、閃き、瞬き、雲に穴を穿ち、遠方の山脈に爪痕を刻む。
シャーリーほどではないとはいえ、恐れ多くもアリシアは星の序列で時属性の魔術に長けている彼女を凌いでいる。実力が上で、適性で劣っても知識では負けを知らない。
ゆえに、アリシアが時属性の魔術で加速できるのも当然を超えて必然だ。
世界に対して加速した身体が、身体に対して減速した世界を縦横無尽に翔け巡る。時間という神域に存在する概念さえ魔術で愚弄し、だが、アリシアは人間やエルフが手を出してはいけない領域の魔術に手を出したのにも関わらず、淡々と、機械的に、死霊術師の繰り出す魔術を悉く迎え撃った。
翻り、死霊術師は今まで殺してきた、人間に限らない魂を惜しみなく消費し続けて、本来自分には到達し得ない魔術を強引に発動し続ける。熾烈にして凄絶の2人だけの魔術の世界。闇の道に身を堕としたとはいえ、死霊術師もまた充分に最強の一角であった。
傍から見れば落雷よりも刹那的な攻防だった。光とそれに関連する物理法則すら無視する魔術の応酬。時間と空間すら呆気もなく超越して、アリシアも死霊術師も、己が身体から純度の高い殺意と、視覚化さえされそうな魔力を爆発的に放ちながら、互いにギラつく双眸で殺人のための魔術を、繰り返した数を忘れるほど撃ちまくる。
アリシアは片腕が千切れるたびに再生させ、死霊術師は頭部が飛ぶたびに貯蓄しておいた魂で復活する。そして再度、死霊術師の魔術を躱し損ねて頭部を一部欠損させるアリシア。対して、アリシアの魔術を防御したが、その魔術防壁を壊されて大量の血液を流す死霊術師。しかし、やはり2人は再生して、この程度では死なない。
「ナァ、特務十二星座部隊の星の序列第2位、【金牛】のアリシア・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー」
誇張抜きに命懸けの戦闘の最中、死霊術師は軽薄な感じで敵軍の師団長の名前を呼ぶ。
呼ばれれば応えるのは必定だ。眼前の死霊術師に尽くす礼はないが、だが、彼はアリシアが反応しない、と、大方の予想を付けている。
気に喰わない。反応しないと思われているなら、是非、反応してやろう。
ゆえに、アリシアは人を殺す威力の魔術を撃ちながら、まるで散歩の時みたいにフラットに会話に挑む。
「殺し合いの最中になんですか?」
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