ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章6話 召喚士、そして【合成天使】
ベティ師団には特務十二星座部隊の一員が2人いた。
星の序列第8位【天蠍】の召喚士であるベティ。
次いで、星の序列第9位【人馬】の錬金術師であるフィル。
師団の団員たちを戦場の中ほど~後方に待機させておき、王国最強の召喚士と、同じく王国最強の錬金術師は最前線でグールを屠り続ける。
「自分、戦いのたびに考えるのでありますが、自分たちさえいれば大所帯の師団なんて、進軍の荷物、必要ないとさえ考えられませんでしょうか?」
ベティはフィルに背中を預けて、四方八方を、例のごとく死霊術師の操るグールに囲まれた状態で、まるで日常会話のように、フラットに訊く。
対して、フィルもまたベティに背中を預けたまま、しかし彼女ほどフラットではなく、例え消化試合染みていたとしても、襟を正し、心底、真面目そうに返そうとする。
「そういうわけにもいかない。今回はどうやら戦闘の規模の割に出張ってこないが、魔王軍の幹部の中には、特務十二星座部隊に匹敵する力量を持つ咎人も多いのだ。現に、すでに最近1回、魔王軍の連中に私たちは出し抜かれただろう?」
「戦闘ではなく、化かし合いとはえい、出し抜かれたのは事実でありますね」
「保険は何重にも備えておけ。魔王軍との戦いに、備えて備えすぎ、ということは万に一つもありえない。最善の結果を目指すためには、常に最悪の可能性を念頭に置いておけ」
「都合の悪い事実から目を逸らすな、と? 万一、自分たちが死んだ場合、部下を連れてこないのはマズイ、と?」
「愚問だとは思わないか?」
「ハッ、同感であります……ッ」
「違いない――お前から左、私から見て右は私が片付ける。逆はベティ、お前に任せた」
「自分の方が星の序列は上であります! 命令しないでください!」
「年と冷静さと人生経験は私の方が上だ――――往くぞ?」
瞬間、2人の姿が残像さえ置き去りにせずに消滅した。
その手品のような光景に、2人を囲んでいたグールたちは、知能が低いゆえに、死霊術師によって組まれた思考回路がフリーズせざるを得ない。
だが、それも束の間。
ベティは王国最強の召喚士というだけあり、自分を召喚獣に見立てて、自分の身体をもといた場所から別の場所に召喚する、ということができるのだ。
翻り、フィルだってロイとの戦いの中で見せた【人体錬成・零式】を使える。要するに、錬金術で自分の身体を一度分解して、別の場所に再構築する、ということができるわけである。
ザッッ、と、2人は再度、地面に両足を付ける。
風に髪をなびかせ、七星団の制服の裾を遊ばせて、特務十二星座部隊の召喚士と錬金術師は一方的な殲滅を開始した。
「詠唱破棄! 固有錬金術! 【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】!」
現時点で、世界で自分しか使えない錬金術の名をフィルは謳う。
これも同じくロイとの戦闘で彼に披露してみせたが、【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】の能力は一定領域内の流体の偏在性を弄るというモノ。
つまり、液体や気体は弄れるが、固体を弄ることは不可能、という制限があるわけである。無論、【絶対領域の支配者がゆえに支配的錬成】以外の錬金術ならば、固体の形を変えることは充分に可能だが、そもそもこの錬金術において特筆すべき点は、『物質を変形させること』ではなく『偏在性を弄ること』にある。
つまり、なにが言いたいかというと――、
「魔力は大気中に漂う素粒子、錬金術どころか魔術における基礎中の基礎。そして私が今キャストしているのは、流体の偏在性を弄る錬金術。――即ち! 光属性の魔力をグールの口や鼻や耳の穴から流し込むことも不可能ではない!」
刹那、グールの身体は爆散した。血が弾け、肉が飛ぶ。フィルを取り囲む100や200は下らないグールの軍勢は、ただ1度の悲鳴すらあげず、フィルが動かした光属性の魔力によって、ようやく真に天に召されたのであった。
この技術は、一般の団員はもちろん、特務十二星座部隊の誰にだって真似できない。
魔術で敵を殺すのではなく、魔力で敵を殺す。
例えるなら、それは大砲と砲弾で敵を討つのではなく、2つの構築要素である鉄(Fe)をそのままの状態で敵を討つようなもの。
まさに、それは錬金術の使い方の1つの到達点であった。
「――どうした? かかってこい、屍。なにを怖れる必要がある? どこに慄く道理がある? ここは戦場、時は戦時中、私たちとお前たちは大陸を二分する勢力の敵同士。殺すか殺されるかの2択を常に突き付け合う間柄だろう? ――嗚呼、殺しにこないというのなら、是非もない、こちらから殺しに往かせてもらう」
それからも、フィルはグールの体内に光属性の魔力を注入し続けて、視界の端から端を腐敗臭のする濁った紅で覆い尽くし、その上には肉が融けて残った幾千にも届く骸が転がるだけ。
湧き上がるような喜びはない。
だが、グールとはいえ敵を1000より多く殺した罪悪感も覚えない。
七星団、つまり軍事力を持った組織の一員として、特務十二星座部隊ということさえ関係なく、与えられた任務、割り振られた仕事を、感動も、感慨もなく、機械のようにこなしていくだけ。
では、こなすことが不可能な状況に陥ったら?
フィルは自問自答する。
嗚呼、その時はただ、自分の方が死ぬだけだ、と、残骸が広がる勝利の平原でなにも感じずに瞑目した。
…………。
……、…………。
一方で、多少離れたところで、ベティの戦闘も終焉を迎えようとしていた。
「自分たちは国家の犬であります! 国王陛下の配下であり、民草のために剣を振り魔術を撃つ戦争の代理人! 王国の領土には一切の流血を残しません! 返り血を浴びて紅に染まるのは自分たち七星団だけで十分を超えて十二分! 必然、汚れて見えるでしょう。穢《けが》れて見えるでしょう。しかし! 自分たちの制服に夥しい血痕があったとしても、王国が綺麗であるならば、それで万事解決! ――ゆえに、この日もまた、殺戮の天使は顕現するのであります! 見えますか!? 聞こえますか!? 嗚呼、これが固有召喚術! 【合成天使】!」
以前、ロイはベティの手袋の手の甲の部分に記された召喚陣を見て、天使を召喚する召喚陣だ、と、戦慄した。だがしかし、ロイは天使の種類までは判別できなかった。
ゆえに、アリシア師団ではなくベティ師団の方に彼が配属されていたならば、さぞ、絶句に次ぐ絶句を覚えただろう。
「どうでありますか? 戦争に勝てるならば、自分は天使だって兵器として扱います」
『それ』は、この世界で宗教に入っている信者ならば発狂寸前の事実だった。
この世界に存在する数多くの天使――各々の強いところを抽出されて、弱いところを削ぎ落され、厳選された部位を繋ぎ合わせて、複数の天使で1つの天使を象っている。
その証明のように、繋ぎ目には何重にも杭と鎖が撃ち込まれており、身体の大きさは部位によってチグハグで、視界に入れているだけで、吐き気よりも強い背徳感さえ覚えてしまう。
【合成天使】という名前ではあるが、これは錬金術をどこにも使っていない。
神話の時代、天使が地上に降りた時、天使たちは普段のままだと人間が本能で認識を拒むから、人間でも認識できる姿になって現れる。
つまり、人間が天使に姿を与えている、と、いうか、理想の姿を押し付けている。
そして召喚術における召喚陣とは、召喚の対象が住む領域に直接設置されたゲートのようなモノ。
ならば、と、ベティは考えた。
ならば天使が普段のままで存在しているエリアに召喚陣、ゲートを設置して、1回、1度の召喚術で複数の天使を召喚しようとする。すると、明確な形状を持たない本来一種の偶像である天使は、ゲートの手前でごっちゃ混ぜになり、そのままゲートを通ると合成されたまま人間が認識できる姿となって、結果、『これ』が生まれる。
正気の沙汰ではない。
狂気の沙汰ですら生温い。
発狂を超える新しい言葉、表現が必要なぐらいイッっている。
キチガイすら頭がおかしい、と、ガクガク震え、犯罪者すら理性を持っているなら、これはしちゃダメだ、と、青ざめる、宗教が広く親しまれている国家ではありえないレベルの前人未到のサイコパス。
「自分は便宜上、この天使をアレス、と、呼んでいるのでありますが――目の前に天使がいるのでありますよ? 跪くか死ぬか程度してもらいたいものであります」
そして、エルヴィス師団、シャーリー師団、ロバート師団に次いで、ベティ師団の戦闘も終わりを迎えた。
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