ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章5話 竜人、そして空属性魔術



 そして、その奇跡の存在である幻想種と肩を並べるぐらい生物であることを超越しているのが、他ならぬ特務十二星座部隊、星の序列第3位の【双児】ロバート、つまり竜人。

 幻想種が奇跡的な存在だとするならば、竜人は神秘的な存在。
 神秘、なんて言葉を使うから竜に、そして俺様を自称するロバートの粗野な感じに似合わないが、要するに、それとは神性を保有した生物だった。

「つまらねぇなぁ、オイ。――詠唱破棄、【繰り返したダス・エンデ・消滅のデァ・ヴィデホルン・果てはアウスレーション・イッツ・ディ・空っぽのヴェルト・デァ・世界リーラ】」
「「「「「~~~~~~ッッ!!」」」」」

 眼前に広がる魔物の大群に、ロバートは心底見下した感じで吐き捨てる。

 敵は1万を優に超えるだろう。
 敵の大半はこちらの小隊長クラスの実力者だろう。

 つまり――興醒め。

 言葉を紡いだ瞬間、ロバートが相対していた敵軍の5%が、細胞の1つも世界に遺すことなく虚無に還る。5%というから大した攻撃ではないように思えるかもしれないが、しかしそれは致命的な間違いだ。

 1万を超える敵軍の5%を、たった1度の魔術で原子すら残さず消滅。
 単純な話、これを20回繰り返すだけで、ロバート師団はロバートだけで勝利することができる。

 その事実に、ロバートの遠く背後に控えていた、エルヴィス師団の場合と同様に、先陣を切るロバートが逃した魔物を討つことを命じられた師団の団員たちは、目を見開き、バカみたいに口を開き、声を失い、時の流れさえ忘却した。

 眼前の光景は現実か?
 前方に広がっている蹂躙は夢ではないのか?
 白昼夢にしては悪夢すぎないか?

 そのように、師団の団員たちは現実の世界に、夢を見ている最中のような浮遊感さえ覚えざるを得ない。

 無論、師団の団員たちの中には、何回も、中には十何回も、ロバートの『これ』を見続けてきた騎士や魔術師も多い。だというのに、毎度のように驚愕に震えるのは、単純明快な理由で、何回目撃しても同じ反応しかできないから。同じ反応をすることしか考えられないから。

 嗚呼、だってそうだろう、と、師団の団員たちは一様に思考を揃えた。

 人間は睡魔が襲ってきたらいつかは寝る。
 では、睡魔が今後、死ぬまで一生襲ってこなくなることはあるか?
 朝、一時的に睡眠に飽きることはあっても、一夜ごとに結局は寝るのではないのか?

 それと同じだ。
 ロバートの魔術は空間に作用する以上に、本来そういう効果がないとしても、結果的には見た者全てに本能的な恐怖を与える。

 簡単な理屈だ。
 人間は世界そのものと比較したらあまりにもちっぽけな存在なのに、目の前の男、王国最強の一角を担うオーバーメイジは、紛うことなく世界に、空間そのものに干渉を挑んでいるのだ。怯えない道理がどこにもない。怖がらない道理もどこにもない。

 存在の大きさが違う相手と接した時、人間は無条件で心が屈服を示すのだろう。

 例えば、子供が見知らぬ身長が高いか、肩幅が広い大人を見たら、よくわからないが少し怖さを覚えるように――、
 例えば、どんなに人間に優しい、と、評判が良くても、初対面なら人間は竜に理屈ではない、もっと衝動的などうしようもないクオリアを覚えるように――、
 ――ロバートは、視界に入れることすら躊躇った方が身のためと言えるほどの、そう、本来なら曖昧にしか定義できない『存在感』というモノを、常に、確かに放っていた。

 きっと、ロバート本人にしても、抑えようと思っても抑えられるようなモノではないのだろう。

「――っと、やらかした。俺様ほどの実力があるんなら、戦場の自然にも気を配って戦え、なんてクソがクソを漏らしたような要求が出てたんだったな。特務十二星座部隊とはいえ、戦闘集団である以上、参謀司令本部からの命令には従わねぇとなぁ」

 レナードのような口調で、同じくレナードのような発言をするロバート。

 だが、レナードとロバートには明確な違いがいくつもあった。
 レナードが敵に向けるのは純粋な敵意だ。王国に属する騎士として、敵に、極めて正常に敵意を向け、そして聖剣を振るう。

 翻り、ロバートが敵に向けるのは、敵意ではなく殺意だ。敵意と殺意は似て非なるモノで、例えば、蟻を意図的に踏み潰すのに、殺意はあっても敵意は必要ないだろう。

 そう、ロバートは敵軍の全てが蟻と認識できるほど、己が魔術に対して絶対的な自信を誇っていた。
 レナードとロバート。前者が不良なのに対し、後者は戦闘狂。前者が粗野なのに対し、後者は危険。前者の戦いに挑む姿勢が死に物狂いなら、後者の戦いに挑む姿勢は傲慢の極致。

 だが、ロバートはそれを自覚している。
 その上で、自信に満ちているから、加えて結果も残しているから直そうとしない。

「仕方がねぇ――詠唱破棄、【ウンターツ・空間ラオム・創造シャーフン】」

 ロバートが言い終えると、世界が切り替わった。
 いわゆる『階層』が通常のそれから乖離を見せた。

 目に見える光景に一切の変化は見受けられないが、しかし、この亜空間の中で殺し合えば、例えロバートが先刻の【繰り返した消滅の果ては空っぽの世界】を、実際にできるか否かは置いといて、無限に撃ち込んでも、本来、人間が生きている空間にはなに1つの損傷は発生しない。

「さぁ――往くぜ? 国王陛下に捧げる栄光の下準備だ。現実で悪夢を見せてやるよ。詠唱破棄! 【繰り返した消滅の果ては空っぽの世界】! トリプルキャスト!」

 なにも浮かんでいない虚空に、なにか魔術によって物質が発生したわけではない。だが、まるで曇りガラス越しに世界を覗くように、空中に3ヶ所、途中から向こう側が歪んで見える領域は目覚めた。その歪んで見える箇所と、正常に見える箇所の境界線から察するに、3つのソレは極めて滑らかな球体を呈している。

 大きさはまさに大型の竜のあぎとでも収まらないぐらい巨大。

 ス――ッ、と、ロバートが荒々しくも、音楽会の指揮棒を掲げる指揮者のように、右手、右腕を空に掲げ――そして振り下ろす。
 刹那、――――――――――――!!! と、聞こえない爆音が轟いた。透明な爆発が視界を奪った。その爆撃は無味無臭なのに、酷く苦くて、酷く火薬臭がする。

 敵の陣営は、やはり万の位に届く戦力を整えてきているというのに、その虚無という存在を撃たれたことにより、暴力に次ぐ暴虐に次ぐ壊滅に次ぐ殲滅に次ぐ、絶望というのには攻撃的で、戦意喪失というのには憤慨を覚えるソレに、ただ、ただ、死ぬ。

 死体の山なんて殺した数を数えるのに便利な物は残らなかった。
 鮮血の海なんて殺した量を量るのに都合がいい物も残らなかった。

 だが、確実に、敵を殺し尽くしたという現実、事実、真実は遺る。

 背後では師団の団員たちが戦慄を堪えようとして、殺そうとして、しかし失敗する。

 彼らは――、

 ――残党を殺せ。
 ――戦意喪失していても首をねろ。
 ――一応、索敵しておけ。
 ――万一、俺様の攻撃に耐えたヤツがいれば後始末を任せる。

 そのように命じられたが、だがしかし、そのことを思い出すのに、かなりの時間を要したのは言うまでもない。


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コメント

  • 紅月

    最近思ったんだけどさ、
    エクスカリバーって折れないんでしょ?だから体に巻きつけて戦えばきずつかないんじゃね?

    4
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