ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
3章3話 シャーリー、そして現代知識(1)
実はエルヴィスが殲滅させたグールの1体当たりの強さは、大体、ロイが以前戦ったガクトと同じか、少し下程度だった。そして、それを踏まえて、すでに死んでいるからこれ以上死なない、という情報が加算される。
畢竟、エルヴィスがいなければ、エルヴィス師団の小隊長クラス以下の騎士、魔術師の6~8割程度、ほぼ確実にやられていただろう。
それほどまでにエルヴィスの身体的、加えて精神的な力は絶大だ。
ゆえに、自明なことが1つある。
「詠唱破棄――【世界から観た加速する私、私から観た減速する世界】!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」」」」」
エルヴィスよりも星の序列が上の特務十二星座部隊の一員は、エルヴィス以上にその存在そのものが絶大ということ。
世界そのものよりも神様に愛された存在。
世界が生み出した何百万人の中に1人しか発芽しない才能。
例えば時属性の魔術を得意とする特務十二星座部隊の星の序列第4位【巨蟹】のシャーリーは、以前、魔王軍の暗殺部隊と戦ったアリスが使った【世界から見た加速する私、私から見た減速する世界】を、詠唱破棄で使える。
しかもそれだけではなく、アリスが自分自身だけに、制限時間付きでキャストしたのに対し、シャーリーは自分が受け持つ師団の前衛の7割に、ほぼ制限時間なしでキャストできるし、現にしている。
「「「「「VAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」
天地を揺るがす咆哮、怒号、雄叫び、勝鬨。
それ、即ちシャーリーの時属性の魔術を証明するように、地上ではシャーリー師団が魔王軍の陣営に、時流操作をキャストされ、常軌を逸した速度、想像を絶する動きで、進軍の足踏みで地鳴りさえ起こし、地震さえ連想するような力強い攻勢を魅せる。
万の位に及ぶ自軍と、同じく万の位に及ぶ敵軍の正面衝突。
圧巻――。荒々しく、雄々しく、攻撃的で、暴力的で、圧倒的で、その光景は、戦争とはいえ人の営みと呼ぶにはあまりにも無秩序のようにさえ見えてしまう。
特に、シャーリー師団の、敵軍にとっての絶望性は、戦争ではなく一方的な殲滅、という言葉選びでさえ優しい表現に思える。
敵からしたらあまりの強さ、異様さに発狂もやむを得ないシャーリーの支援魔術。
相対的に自軍にかかっている時流を加速させているため……例えば10秒間分の騎士の雄叫びが1秒間に圧縮されて聞こえてくる。まるで壊れた蓄音機のように。他に、例えば全体で10m前進するにしても、その分の足踏みが圧縮されて行われるから、誇張抜きに地面が激動する。まるで壊れてガタガタ小刻みに動く玩具の人形のように。
自明。
加速した騎士たちを傍目から見ると、その動きは病的で、狂気的で、魔王軍の魔物からしても、不気味で恐怖を抱くのも仕方ないことでしかなかった。
戦意喪失という言葉すら希望に満ちている感じさえするその現実。
発狂による死の受容さえ、目の前のシャーリー師団から逃げられる分、救済に溢れている感じすらするその世界。
その現実は、その世界は、シャーリー師団、王国、国王陛下に仇《あだ》を為す者たちに一切合切の慈悲も容赦も与えなかった。
「確認――やはり私めたちの方が有利のよう。しかし油断は禁物、か」
魔術を使い滞空しながら、シャーリーは地上の戦況を睥睨した。
今もなお、シャーリーの視線の先では、まるでジオラマのように、1万にも届きそうな自軍と敵軍の戦力が、度重なる暴力と斬撃と魔術を互いにぶつけ合っている。
彼女の言うとおり、シャーリー師団側が魔王軍に対して有利に戦えているのは道理であって、必然と言っても過言ではなかった。
時流操作の恩恵を受けている師団の団員たちから見れば、敵は止まっているも同然だし、逆に敵からすれば団員たちは、みな一様に神速で剣を振り下ろしてくるのだ。
戦々恐々にして、阿鼻叫喚の地獄の具現化。
だが……、と、シャーリーは訝しむ。
遠視の魔術を使い先刻、ここから一番近いエルヴィス師団の方を確認してみたが、推測が当たったようだ。
エルヴィス師団にぶつけられた敵はグールで、翻りこちらは普通の魔物の軍勢。グールもいるにはいるが、全員がそうというわけではなく、オークやゴブリン、スライムやリザードマン、果てはヴァンパイアなんて比較的、高位の魔物さえ見受けられる。
エルヴィスのデュランダルの弱点は、痛覚が存在しない相手だ。
これは流石、特務十二星座部隊に所属しているエルヴィスだけあり、星面波動を使いそのまま上手いこと埋葬したようだが、こちら側は少々対策を考えなくてはならない。
シャーリーだけに限らず、時属性の魔術、特に【世界から見た加速する私、私から見た減速する世界】の弱点は広範囲攻撃だ。ゆえに、ここにぶつけられたのはそれを得意とする魔物たちなのだろう。
シャーリーが1人だけならいくらでも対処法は存在するが、例えばスライムが身体の形を変え、硫酸の津波のように広範囲攻撃をしたら……。例えばリザードマンが、それこそロイが経験したように、灼熱の炎で広範囲攻撃をしたら……。即ち、加速をはじめとして、時間を弄っても回避が間に合わない攻撃に時属性の魔術は弱い。
自分を加速させ、世界を減速させるどころか、時を止めた世界で自分と、自分が指定した個人しか活動できない魔術である【真・絶対零度世界】について、いくらシャーリーでも、指定できる個人は自分を含めて10人だし、停止できる時間は大体20秒前後だ。
だが――、と、シャーリーは蟻を踏み潰す子供のように無邪気に微笑む。
「提案――副師団長にいい話がある」
シャーリーは地上に待機している副師団長にアーティファクトを使って念話をかけた。
一瞬、ノイズ。
そしてすぐ、応答がある。
『いい話ですか?』
「前提――現状は私めたちの有利に戦闘は進んでいるが、どうも決定力に不足している」
言わずもがな、この状態が続けばシャーリー師団は絶対に勝てる。
だというのに、シャーリーは、決定力に不足している、と、口にした。
味方ながら戦慄する副師団長。嗚呼、我が師団の師団長は、時間をかけず、早々に決着を付けたいらしい、と。
『まさか……師団長が最前線に立つと? 恐れ多くもエルヴィス様ではありませんし、彼に相当する信念、持論がないのでしたら、万が一のことも考慮して、あまりオススメいたしませんが?』
だが、副師団長のなかなか肝が据わった男性だった。
エルヴィスほど威圧的ではないにしても、エルヴィスよりも星の序列が上位のシャーリーに対し、否定的な進言ができるなど、余程の戦場を踏破して、自分自身に誇りが身に付かなければ不可能に近い。
限りなく冷たく、極めて静かに、絶対零度のような声音で副師団長は進言を終える。
だが、シャーリーはそれすらも見越して――、
「否定――もっといい話」
『ほう――?』
興味関心を持ったのか、副師団長は含んだような声でシャーリーに続きを促す。
その声には、声に宿る感情には、興味関心の他に、加えて策士参謀のような雰囲気と、冷静沈着で賢しい感じも、物陰からシャーリーを窺うように見え隠れしていた。
「結論――私めの新しい時属性の魔術を使う」
『新しい時属性の魔術、ですか――。しかし師団長、時属性の魔術は、確かに非常に難易度が高く、加えてその分だけ強力ですが、直接的な攻撃力、破壊力は皆無のはずでは?』
それはこの世界、魔術の歴史の中では常識だった。
同時に、それはシャーリーが星の序列第4位で、空属性の魔術を得意とするロバートが星の序列第3位の理由に他ならない。魔術の難易度は同等でも、破壊力、より具体的にいうならば戦争において、より敵を殺す性能に富んでいるのが空属性の方なのだ。
ゆえに、前述のとおり難易度が同等でも、ロバートが星の序列第3位で、シャーリーが星の序列第4位なのである。
しかし、それでも――、
「肯定――既存の時属性の魔術、例えば【世界から見た加速する私、私から見た減速する世界】は加速できるだけで、直接剣を振るうのは腕だし、詠唱を声に出すのは口。【真・絶対零度世界】にしても、停止した世界の中で敵になにも干渉しなければ、【真・絶対零度世界】はなにも敵に被害を与えずに終了する」
『ですが、師団長、あなたは特務十二星座部隊の星の序列第4位、間違いなく、なにか我々には及びも付かない考えがあるのですね?』
「無論――今日、この時、この場所で、時属性の魔術が空属性の魔術に破壊力で劣るという常識を覆して見せる」
『左様ですか。では、どうぞお気に召すままに』
そこでアーティファクトによる念話は終了した。シャーリーはアーティファクトを七星団の制服のポケットにしまう。
次いで、深く息を吸い、豊満な胸を張り、最後には身体を丸めるように吐く。
刹那、玩具の剣を初めて振り回すような子供のように楽しそうな笑みをシャーリーは浮かべる。
思い返すのはロイという聖剣使いの少年。
彼に対してシャーリーは1つだけ不正を働いた。当然、彼に不利益を与えるような不正ではないが、実のところシャーリーは、ロイからヒーリングの対価を、1つではなく2つもらっている。
1つは彼が寝ている間に射精させて手に入れた転生者の精液、ソウルコード。
続いてもう1つの方は――、
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