ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章2話 一騎当千、そして星面波動(2)



 エルヴィスが無事なのは必然の結果にすぎない。
 実に自明。一騎当千の騎士に対し100をぶつけたところで、その足掻きは無駄に終わる。事実、エルヴィスを殺し尽くすなら彼の言うとおりこれの10倍は必要だった。

 繰り返せば惑星に穴が空く、そんな一撃をこの師団長は悠然に、受けた上で耐える。

 敵前逃亡したいほどの敵前にして、現実逃避したいほどの現実。
 例え、理性を失い、知性を捨て、感情を奪われ、主である死霊術師に仕組まれたとおりにしか行動できないグールだとしても、流石にこれにはどう足掻き、どうもがくかなんて、対応も満足にできるわけもない。

 翻り、エルヴィスはグールの軍勢に高らかに吼えた。

「今のは『一騎当千の守り』! 遥か遠くの我が心の故郷、王都の城壁よりもさらに固く、特務十二星座部隊の連中が使う生半可ではない【聖なる光の障壁バリエラン・ハイリゲンリヒツ】よりもなお厚い、守りに特化した聖剣の使い方! さて! 魔王軍に属する生きる屍たちよ! 慈悲はない。次はそろろそろ――――本気の攻勢を覚悟しろッッ」

 即ち、今までのエルヴィスは戦うことに、敵を撃ち滅ぼすことに真剣ではあったが、しかし全力を全開していなかった。

 エルヴィスは一度、少し離れた周囲にしかグールはいないのに、少なくとも数秒後には攻撃を受けるという範囲にはグールは存在しないのに、己が聖剣で、なにもない虚空に回転斬りを撃ち込んだ。
 そしてかなり離れていたグールさえも、彼我の距離なんてものを嘲笑うかのごとく、一切気にも留めないで、竜巻のごとき暴風圧で、文字通り一掃、ただ『一』度、しかしそれだけで悉く『掃』討する。

 今ここに、準備は整った。
 エルヴィスは聖剣を構える。上から下に振り下ろすため天に掲げるようにではなく、先刻の回転斬りのためのような抜刀術のようにでもなく、なぜか、聖剣の切っ先を地面に添えた。

 一瞬で広がる張り詰めた空気。

 エルヴィスは自分の気迫、圧力で、自分の肌の表面が痺れる感覚に溺れた。
 嗚呼、この感覚だ――、と、エルヴィスは自分で自分にプレッシャーを与える感覚に満足を表した。言ってしまえば、この感覚は、自分で自分にプレッシャーを与えることに成功することは、即ち、自分が今、ベストコンディションである最上の証明。

 瞬間、エルヴィスは聖剣の柄に万力を込める。大木のように太く、岩石のようにゴツゴツしい剛腕と、そして剛脚。前者に血管が浮き出てはち切れんばかりの腕力を注ぎ、後者は靴越しだというのに足の握力で地面に、まるで樹木が根を張り巡らせるように固定、踏ん張りを効かせた。

 ギラつく双眸が見据えるのは、ここら辺の暴虐の限りを与えたグールではなく、さらにその深奥、グール陣営の奥の奥、グールに指示を下す総大将がいると思しき箇所。

 往くぞ――、と、エルヴィスは一度だけ瞑目して、深呼吸する。
 進め、進め、進め。前へ前へと突き進め。彼は自分自身に唱えた。万が一、億が一、どこまでも無限に続く数の彼方の一の可能性にも敗北が許されない戦争において、やはり万が一にも自分が負ける想像はできない。それは充分にいいイメージだ。

 イメージするのは、いつだって勝利の丘で聖剣を天に掲げている自分の姿。
 進め、進め、進め。前へ前へと突き進め。と、エルヴィスは内心で繰り返す。
 そして面白い、と、口元を緩めた。

 王国に栄光を! 国王陛下に勝利の報告を! そして――自分自身に凱旋を!

 刹那、カッッ、とエルヴィスは開眼した。
 精神統一が終わると同時に、此度こたびの大規模戦闘におけるエルヴィス師団が相対していたグール陣営の尽力も、また、終焉を向かえるだろう。

 叫べ! 謳え! 吼えろ!
 星々の遠方まで声を張れ!

 その技の名は――、



「ッッッ! 戦略級聖剣術、星面波動ッッッ!」



 技の名を告げると同時、大陸全土がまるで人間の血脈のようにドクンッ、と、跳ねる。
 ただ、エルヴィスは切っ先を地面に添えたまま、上から下にではなく、下から上に轟々と聖剣を振り上げた、本当にただそれだけ。

 ただそれだけであり、だがしかし、それだけで充分だった。
 戦術は1対1で生きるモノであり、例えばロイが戦闘の最中にエクスカリバーのスキルを使い試行錯誤することなのに対し、戦略とは、個人個人だけに変化を与えるモノではなく、戦時中のマップにまで影響を及ぼすモノ。

 現段階で、いくらロイ、加えてレナードが死力を尽くしたところで、軍事的な地図を変えるような威力の斬撃は放てない。

 だが、今のエルヴィスの『これ』は断じて違う。

 誇張抜きで、物理的に世界を変える斬撃。
 石を投げれば海に波紋が広がるように、発音すれば空気が揺れ声になるように、それと同じ要領、感覚で、エルヴィスは星の表面、遥か空から見た陸地に波を打ち立てた。

 土の津波がまるで土砂崩れのようにグールたちを無残にも、無慈悲に飲み込んでいく。
 相手が巨人でも、古竜でも、もしかしたら、この男には敵わないかもしれない。
 地響きが木霊し、地鳴りが轟く。

 世界の終焉よりも破滅的で、加えて、これが収まっても惑星は残るゆえに、いつか遠い未来、仮にもとの地形に近付けることを考慮した場合、気が遠くなるぐらい絶望的。

 人型の天変地異。人型の破壊と崩壊。――人の形をした蹂躙という概念。

 土の津波の発生源。
 そこに立っていたのは間違いなく英雄だった。

 これを見れば、例え誰であろうとエルヴィスが英雄であることを否定できない。

「マジかよ……、これ……ッッ」

 と、そこでエルヴィスの背後からレナードと、師団の他の団員も到着する。

 先刻、エルヴィスがレナードに語ったことを有言実行するように、戦闘開始の直後、エルヴィスはまるで風のように突撃していって、今のような状況になったのだ。

 やはり、上が先に往かないと下は付いてこない、と、背中で語るように。
 そして最初にグールと接近してから、エルヴィスは自分のペースで突き進み、配下に「オレが先陣を切るから、攻撃を躱した敵兵、加えてオレの攻撃に耐えた敵兵を駆除してくれ!」と命じたのだ。

 で――、
 エルヴィスの行動の後処理染みたことをレナードたちが終えて追い付いてみせれば――このような感じ、というわけである。

 レナードは目を見開く。同時に、一瞬とはいえ呼吸を忘れる。

 エルヴィスは味方で、どう考えても敵ではない。
 だというのに、前方に広がる自分との実力差を認めれば、絶望さえ生温い。

 目の前で、自分の師匠は風にマントをはためかせて、勝利の喜び、余韻をしみじみと噛み締めるように感慨深そうに立っている。
 なのに、なぜかレナードはエルヴィスに話しかけられず、情けない話、向こうから話しかけてくれるのを待つだけだった。

「――レナード」
「……ッッ、は、はい!」
「オレが命じたとおり、遠視の魔術を使って見ていたし、聞いていたな?」

 レナードは戦々恐々としながら、自分でも、こんなの俺じゃねぇ……ッッ、と、自覚しながら、小さく、しかし繰り返しコクコクと、頷いた。
 その反応に満足したエルヴィスは――、

「師匠として弟子に望むが、お前には『これ』を目指してもらう」


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