ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章8話 特務十二星座部隊の【金牛】、そして魔王軍幹部



「さて、みなさん! 魔王軍を殲滅する覚悟はよろしいでしょうか? 七星団に所属しているみなさんならご存知でしょうが、全滅は敵軍の3割を殺すこと。壊滅は敵軍の5割を殺すこと。ならば必然的に、殲滅とは敵軍の10割を殺し尽くすことに他なりません!」

 通常、特異な例を除いて考えるならば、戦闘行為において陣営の半数が戦闘担当で、残りの半数が後方支援という配分はそこまで珍しくない。そして、自軍と敵軍は正面から向かい合うように戦うのだから、後方支援の半数より、前線に立つ戦闘担当の半数の方が先に傷付きやすい。
 ゆえに、全滅という陣営から3割、どのような理由であれ戦線離脱する現象は、大体、戦闘担当の6割程度の消滅を意味して、後方支援は消滅しないことも、やはり珍しくない。

 だが、アリシアは言った――『殲滅』と。
 戦闘担当や後方支援の割り振りは関係ない。敵は敵でしかなく、それ以上でも以下でもなく、しかしそれだけで殲滅、殺すのではなく、殺し尽くす理由としては充分すぎるほど充分。

「朝の輝き! 空の青! 屍の山を築くにはとても清々しい日和ひよりです! 存分に剣を振り、存分に魔術を撃ち、その先には勝利があり、そして、勝利以外にはなにもありません! ですが、それだけで実に充分だとは思いませんか!? 王国に! 七星団に! 魔王軍との膠着こうちゃく状態なんて必要ですか? まして、敗北なんて知りたいですか? 否。否っ! 否ッッ! 勝利の美酒は七星団にあり! 祝宴のステーキは王国にあり! 国王陛下に献上するのは常世とこよ全ての常勝無敗の報告! 自明でしょう! 勝利を報告するためには、まず、報告するための勝利が必要です! 騎士の剣に眩いばかりの輝きあれ! 魔術師の魔術には、太陽のごとき光があれ! 私は、この日、この場所で、みなさんが私のあとに続いてくれることをとても嬉しく思います!」

 常勝の魔術師は高らかに晴天に声を張る。
 アリシアという女性らしい美しく、高く、弾むように軽く、艶やかな大人っぽくて、上品な、決して雄々しくあるわけがない声だけで傾国級の美女とわかる声。

 だがそれは、幾千億の英雄の雄叫びにも勝る戦争の唄のように、それを聞いていたロイは感じた。

 それを耳にしただけで、身体は高ぶり、魂は、精神は昂ぶる。
 上々どころの騒ぎではない。その演説は、陣営を鼓舞するならば最上にして至高のまるで軍歌だった。

 嗚呼――、
 だからこそ――、

「それでは、全軍突げ――――、っ、ッッ、ッッ!」

 ――だからこそ、その演説が唐突にも『銃声』で途切れたならば、陣営の動揺を誘うのは必然でしかなかった。

「――――は?」 と、ロイは声を漏らす。

 刹那、そこは耳が痛いほど静まり返る。
 そして一瞬遅れて、絶叫が地上に、晴天に、木霊した。

 目の前で起きたことを認められないぐらいの激しい動揺が、自分は今、どうするべきか考え始めても思考が全然まとまらないレベルの狼狽が、そこに集っていた全員、騎士も魔術師も問わず万人に音よりも早く伝播する。

 ロイですら、アリシアが銃弾で撃たれた瞬間、呆気に取られた。

 当然だ。
 ここに揃った七星団員のほとんどは殺し合いに参加したことがあり、敵も味方も問わず死体だって何回も見たことがある団員だって多い。
 しかし、アリシアは師団長にして、1人で5000体近い魔物、あるいはそれよりも多くの魔物を殺し尽くせる特務十二星座部隊の一員なのだ。

 余談だが、魔術ではなく銃弾を撃ったのは、彼女に感知されないためか――。

「~~~~ッッ…………ッッ!」

 と、言葉にもならない激しい苦悶を、凄絶な表情かおで漏らすアリシア。
 アリシアの左胸からはドバドバとおびただしい量の血液が噴水のように流れる。そして左胸からだけではなく、桜色の艶やかな唇からも色鮮やかな紅が零れていた。早々に、彼女の足元には大量の血溜まりができるではないか。

 それだけでも最悪なのに、それ以上に悪いことに、嗚呼、そう、あれは間違いなく、心臓に届いていた。

 その事実は誰の目から見ても明らかであり、それがますます、陣営の焦燥を絶望的なまでに増長させる。

 ロイから少し離れたところで犯人と思しき男性が地面に組み伏せられ捕まっていたが、しかし、言わずもがな、アリシアが撃たれた現実は変わらない。

 だが、アリシアは――、

「ゲホ……、っ、ッッ、ガッッ、ゲホッ……ッッ、ガハ…ッッ、~~~~ッッ、落ち着いてください、みなさん! たかが心臓に穴が開いただけです!」


 ――信じられないことに、心臓を撃ち抜かれても言葉を話せるぐらい生きていた。

 いつもの落ち着いていて上品なアリシアからは想像できないほど、荒れて掠れて嗄《か》れたような懇願に似た叫び声が飛ぶ。自分のことは気にするな、と。

 無論、無傷ではないにしても、一応喋ることができて、絶望している団員たちを落ち着かせようとできる余裕すらアリシアにはあった。

 むしろ、統率がなくなりつつある団員たちよりも、アリシアの方が余程、普段の美しい声は汚くなっているものの、冷静さを保っていられている。

 瞬間、ロイは敬意とも畏怖とも取れるような、自分の内側から発生する衝動を覚えた。
 この一連の出来事はロイが理解できる、頭で処理できる現実の範疇を、あまりにも軽々しく、遥かに超えている。それはもう奇跡すら超える、想像ではなく世界にとっての埒外《らちがい》だった。

 一方で、アリシア本人は――、

(――――っ、あらあら……弾丸が、物理的な弾丸そのものであると同時に、魔術的に、撃たれた者の魔力を大幅に激減させるアーティファクトでもあるようですわね。撃って殺せればそれでOKで、殺せなくても通常なら相手の魔術を完全封殺できる。2重の構え、というわけですわねぇ……。撃たれたのが私というのが、不幸中の幸いでしょうか?)

 ――心臓に穴が開いたことを考慮すれば、比較的、平常心を保っていた。

 言わずもがな、心臓に穴が開いたという事実そのものをピックアップしてしまう団員が多いのもアリシアは理解しているが、それに伴う痛みだってないわけではない。そう、ピックアップされないだけで、彼女の身体には今もなお激痛が走っているのである。

「師団長ッ! 大丈夫ですか!?」
「ええ、まぁ、なんと――」

『か』と、言おうとした瞬間、再び、アリシアの視界は大きく揺れた。

 そして同じく再度、団員の絶望は膨れ上がる。
 意味がわからない者がほとんどだった。こんなの唐突すぎる、こんな現実、急展開すぎる、と、考えることを放棄した者がほとんどだった。そして残った者でさえ、いくら考えても自分のすべきことを見つからなかった。

 ここにいる全員、ロイも含めて全員が、まるでチープな演劇を観客席から漠然と眺めているような感覚に陥る。つまらないという意味ではなく、現実味を帯びない、シリアスなはずなのになぜか他人事のように感じる、という意味で、現実はどこか残酷なほど白ける。

 ロイはその比喩表現を思い付くと、なんて皮肉が利いた表現だ、と、この場には相応しくない感想を抱いた。

 そう、どんなにチープでも、観客は演劇に混じれない。
 つまり、アリシアになにかをしてあげようと思っても、考えが及び付かない。

 嗚呼、今度はアリシアの頭が撃ち抜かれたのだ。
 撃ち抜かれた箇所からアリシアのぐちゃぐちゃになりかけている脳みそが覗きかける。吐き気を催すほどの醜悪グロテスク。紛うことなく頭蓋骨の一部が砕けていて、その穴からは例に漏れず紅よりも紅い想像を絶するほど綺麗な鮮血が止めどなく流れ続ける。

「師団長!? 師団長!? ~~~~ッ、アリシア・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー様!? お気を確かにッッ!」

 ロイも顔を覚えている副師団長がアリシアの近くに寄る。
 そして、アリシアは――、

「ゲホッ、ガハッッ――今度は脳みそですか。……、……、追い給え。羊を喰う狼のように。兎を狩る獅子のように。追走せよ、追行せよ、追跡せよ。何処までも、何処までも、逃げる者が果ての果てまで逃げるなら、我が魔術も果ての果てまで追い翔けろ。【追い翔ける我が必殺のメイン・トード・剣にしてシュヴェーアト・アルツ・槍にしてシュペーア・ウンド・弓矢アルツ・プファイル】」

 詠唱を行うアリシア。
 完了すると、彼女の身体から、切っ先が鋭く尖った剣先にも、槍の先にも、弓矢のようにも見える自由自在のトゲのような物が轟々と放たれて、風切り音とともにどこまでも突き進んだと思いきや、特定の団員の真上で止まり、その団員を串刺しにした。

 手応えで殺したことを確信すると、アリシアは魔術を解き、自分の弱さを嘆く。
 心臓に魔術師としての実力を封印される弾丸を撃たれ、魔術を使う上で最も重要な器官である脳にも穴が空いたとはいえ、この程度の魔術ですら詠唱破棄できない、発動させるのに詠唱が必要だなんて、アリシアにとってはもはや屈辱ですらあった。

 だが、アリシアは反省するのを後回しにする。
 今はますます統率を取りづらくなった陣営をなだめるのが先だ、と。

「ガハッッ……、ゲホッゲホッ、落ち着いてください! 頭を撃ち抜かれたぐらいで私は死にません! 私、は……、あれ……、おかしい……です、ね……」

 確かに、心臓に穴が空いてもアリシアは死なない。弾が脳を貫通してもアリシアは死なない。その結果、大量出血してもアリシアは死なない。

 だが、死なないことと具合が悪くならないことは同じではない。
 流石に、いくらなんでも、アリシアは少しばかりダメージを負いすぎた。
 足がふらつく、視界がぼやける、眠たくて眠たくて、今にも意識が飛びそうになる。

 そして、その時だった。

『いかがかなものだろうか、我の用意した対戦相手に対するプレゼントは?』

 どこからか、音響魔術をキャストした声が聞こえてくる。
 声に色があるならば、その声は黒色だろう。声に匂いがあるならば、その声は血の匂いをしているだろう。冷たさで人を殺せるぐらい冷血な声音は、例え七星団の団員たちが戦闘、殺し合いに慣れていたとしても、本能的に恐怖を刻んでくる。

 師団の中でも特筆に値する実力者には声だけでわかる。
 この声の主は、連隊長~旅団長クラスの実力者だ、と。

「まさか――、魔王軍の幹部……ッッ」
『ご明察と言いたいところだが、これだけの現実が揃っていれば、想像に難くない、か』

 嘲笑うように死霊術師は肯定する。敵側からすれば自分たちの思惑どおりにことが進んだというのに、死霊術師だけあって感情が死滅しているのか、その声に喜びも、果て邪悪ささえなかった。
 ただ、ただ、本人に意思がなくても耳にした側が勝手に、邪悪さではなく、不気味さを覚えるだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

「どうやってスパイを潜り込ませたんですか!?」
『あいにく我は死霊術師、ネクロマンサーでね。もともとは本当に七星団に所属していた連中を殺して、姿形はそのまま、霊魂を掌握した状態で返してあげたのさ。だが、それも今回の作戦の下準備にすぎない』

 アリシアは応えない。なにかを熟考するように、口の端から血を流しながら、声の主がいるであろう遠方を鋭い双眸で睨むだけ。
 だが、それを見越し、彼女の思考さえ先回りするように、死霊術師は冷たく説く。

『説明しなくともいずれわかることだから今語るが、貴様らが今から戦うのは我がすでに霊魂を掌握している魔物の死体だ。死んでいるがゆえに、これ以上殺しても意味はなく、しかし死んでいても動き続ける』

「――なるほど、私の【絶滅エクスキューション・ディス・福音エヴァンゲリオン】を封じるために」
『今度こそ、文句なくご名答だ――斬撃でも打撃でも刺突でもなく、魔物の死体の一部分しか破壊できない他の魔術でもない、大規模な消滅の魔術、【絶滅の福音】。これを使われては例え死体の軍勢でもすぐに決着が付いてしまうからな』

「――――」
『前へ出ろ。師団長が自ら先陣を切れ、特務十二星座部隊の星の序列第2位、【金牛】のアリシア・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー。我は貴様でなければ倒せないし、貴様も我でなければ倒せない』

「フフッ、ご冗談を。本来ならば私の圧勝だからこそ、あなたは場外乱闘、まぁ、乱闘というほどでもありませんが、正面衝突する前に、スパイにこのような命令をくだしたのでしょう?」
『卑怯と罵るか? 卑劣と貶めるか? それもよかろう。そんなつまらない愚痴が、貴様の最期の演説のシメになるのだからな。こちらとしては、勝てば官軍負ければ賊軍を言い張るだけだ』

「面白い挑発です。その面白さに免じて、あえて便乗して差し上げましょう」

 言うと、ようやく魔力の乱れがそこそこ落ち着いてきて、平常時に近しい状態に戻ってきたのか、アリシアは幽鬼のようにフラッ、と、立ち上がりながら、心臓と頭に空いた風穴をヒーリングで塞ぐ。
 そして次の瞬間、アリシアは轟々と地面を抉る竜巻のような音を響かせながら、威嚇するように身体中から魔力を放つ。

「心臓にはアーティファクトを撃ち込まれ充分に魔術を使えない状態。次いで、魔術を使う上で最も重要な器官である脳にも一度、風穴が空いた直後。――これで負けたら、あなた、相当恥ずかしい、と、思い知るでしょう」

『――――』

「羞恥心で自殺する準備はよろしいですか?」


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