ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章7話 エルヴィス、そして彼の聖剣(2)



「――、なんですか?」
「オレが今言ったことを実際に成し遂げた時、レナード・ハイインテンス・ルートラインは、エルヴィス・ウォーウィナー・ライツライトに魂が惹かれないのか? オレの背中に付いてこようと思わないのか?」

 つまりは、団員の多くがエルヴィスのようになりたいと思う中、レナードは例外なのか、と、エルヴィスは確認している。それを、意地悪だな、と、レナードは内心で笑った。

 本当に例外なら、つまりエルヴィスに憧れないなら、レナードは騎士として向上心がないことになる。当然だ。エルヴィスは騎士の頂点の一角。上を向く心というモノが向上心なのに、エルヴィスを見上げなければ、向上心を抱くなんて不可能の極み。

 一方で、実際に向上心があり、エルヴィスに憧れるならば、レナードは論破されたことになる。
 嗚呼――論破はされた。だが、釈然としない。

 ゆえにレナードは――、

「思う。だが――」
「だが?」
「それだけじゃ、満足できねぇ。いつか超えるぞ、その背中?」

 ――ゆえにレナードはエルヴィスを挑発するような物言いをする。
 それに対してエルヴィスは、いい度胸だ、と、言葉に出さずともレナードを褒める。

「なら努々ゆめゆめに覚えておけ。無謀であることと理想的であることは断じて違い、それを踏まえて理想を天高く掲げなければ、人は自分の背中に付いてこない。そして、だとしても、理想だけで人は動かず、世界は変わらず、理想を現実に変えるだけの成果が必要になってくる」
「それが――、キングダムセイバーの矜持、か――」

 静かにレナードは口を開いて言う。
 それを、エルヴィスは厳かに肯定する。

「然り、結果が全てと言う気はまったくない。同時に過程が全てと言う気もまったくない。なら、当然の帰結として、結果も、そして過程も、その両方を充たせばいい。理想とは即ち、王道という過程を往き、勝利という結果を掴むことだ。どうだ? どちらを欠いても理想から外れるとは思わないか?」
「それこそ自明だ」

「なら、問答はこのへんにしておこう。オレの答えを充分に堪能したか?」
「認めざるを得ないですね――。エルヴィスさん、あなたは紛うことなく英雄だ」

 少しだけ、レナードは不貞腐れている感じだった。
 あわよくばエルヴィスに攻撃ならぬ口撃を仕掛けようとしたが、失敗に終わってしまったのだから。

「フッ、そんなこと、言われなくてもわかっている」
「ただ、最後に1つだけ」

「許そう」
「逆に、死んだらどうする?」

 レナードは問う。
 対して、エルヴィスは問い返す。

「レナード、お前はオレが死ぬと思うか?」

「いいや、思わないですね」
「だろ? 0%の可能性を考慮することはできない。『ない』ということを『ある』という前提で進めることはできない。どこかの哲学者が言っていたそれを同じだ。死ぬわけがないのに死んだらどうするか、と、訊くのは、学生の雑談には丁度いいが、今は心底どうでもいい」

「なるほど、わからねぇから追及したいところもある。間違っていると思うから指摘したいところもある。だが――常人には及びも付かないが、それでも、エルヴィスさん、あなたにとってそれは、どこもわからなくないし、どこも間違っていないモノなんですね?」
「そうだな、他人からよく指摘を受けるが、だが、この考え――否――信念を曲げる気はどこにもない」

 そろそろ時間だった。
 ふいに、エルヴィスはマントを翻して敵軍がくるであろう正面から背後に向き直り、今から自分に付いてくる師団の団員たちを、今まで話していた壇上から睥睨へいげいする。

 ――瞬間。
 エルヴィス師団の団員たちの背筋に戦慄にも似た震えと痺れがはしる。

 今、ここに、戦場の心得は完了し、紛うことなき臨戦態勢が整った。1秒にも満たない時間で、だ。ある者はランナーズハイのような、苦しいわけではないが緊張しているがゆえに興奮し、高揚する。ある者は双眸をギラ付かせ、好戦的に犬歯を獣の牙のように剥き出しにする。

 これから戦争が始まる。
 それに一切合切の弱音は必要ではなく、同時に、ただ鬼気迫るような気迫、勢いだけが必要条件でしかなかった。

 1万にも届きそうな自軍の騎士たち、そして魔術師たち。
 その全てに、身命を賭した真剣であること、が、伝播したことを確認して、エルヴィスは言い始めた。

「ここに集った誇り高き騎士たちよ! 誉れ高き魔術師たちよ! 貴様らは、この日、この場所で、死んでも生きても英雄になる! 国王陛下に心臓を捧げ、王国の戦う力を持たない民のために身体を使う! 敵は王国に刃向かう魔王軍! 手加減する理由はどこにもなく、手心を加える道理もどこにもない! 実に上等だとは思わないか!? 手加減も手心も必要ないというのならば、一切の文句も受け付けない完全無欠の圧勝だって夢ではないのだぞ!? 無論、最初から勝利を確信して演説するなど、バカの妄言だ、と、賢しいフリして斜に構える愚者もいるだろう。――しかし! 言いたい者には言わせておけ!」

 そして、エルヴィスは一回、深く息を吸うと、続ける。

「英雄とは! 常に自分の勝利を! 凱旋がいせんを! 栄光を! 自分自身で信じている者だ! 確信とは即ち、確かに信じるということ! ゆえに! 勝利と凱旋と栄光を自分で確信できないヤツは英雄ではない! ならば問おう! 英雄として生きるのと、英雄ではないままその生涯を終えるのと、どちらが血沸き肉躍る!? 愚問だ! 当然前者だ! ならば確信できなくても、意地で確信しろ! それが王道を往く英雄であるということだ! 笑え! 喜べ! えろ! 剣を振るい魔術を撃て! ここをどこだと心得る!? 紛うことなく戦場の最前線で、つまり、勝利という結果の故郷だ! そして、死んでも生きても英雄になれるというのなら、どうせなら生きて帰ろうではないか! その暁には、国王陛下が用意してくれる浴びるほどの酒と極上の肉が待っている!」

 瞬間、全軍が爆音にも似た歓声を上げた。轟音に等しい雄叫びを上げた。
 騎士たちは剣を掲げ、魔術師たちは利き腕を天に突き上げる。

 誇張ではなくその約束された勝利に対する咆哮で、地が揺らぎ、大気に風が発生して、もしかしたらその勝鬨かちどきによく似たそれは天上天下、この惑星ほしの端から端の隅々まで轟々と響き渡るかもしれないほど凄絶。

 我こそが英雄であると主張するように。
 我こそが勝利の体現であると胸を張るように。

 最後に――、



「 往くぞ! 出番だ! デュランダルッッ! 」



 ――という、エルヴィスの聖剣の顕現を以って全軍が突撃を開始する。
 加えて、それから十数分後には、ロバート師団、シャーリー師団、ベティ師団も全軍突撃を開始した。


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