ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章6話 エルヴィス、そして彼の聖剣(1)



 翌朝――、アリシア師団がかまえている地点から、南に十何kmも離れた地点、エルヴィス師団にて。
 集合はすでに終了しており、そこに集った万の位に届きそうな師団の一員たちは、口を堅くつぐみ、開戦のときをただ静かに、しかし冷たくはなく熱く、無言で待っていた。

 師団の最前線に立つのは、特務十二星座部隊の星の序列第5位、【獅子】の称号を国王陛下から授かった聖剣使い、エルヴィス・ウォーウィナー・ライツライト。
 また、彼の横には同じく聖剣使いであるレナード・ハイインテンス・ルートラインも並んでいた。

 団員たちは寡黙を貫いているものの、レナードというエルヴィスにとって唯一の弟子に、興味と関心の視線を送っていた。

 ある者は、お手並み拝見、と。
 また、ある者は、頼りにさせてもらおう、と。
 さらに、また、ある者は、面白い、と。

 レナードがまだ学生であることはほとんどの団員が知っているはずだが、しかし、この場に立った以上、しかも最前列な上にエルヴィスの真横に立っている以上、学生ということは関係なく、むしろそこには小さいとはいえ、だが確かな憧憬の灯があった。

 団員はみな、一様にエルヴィスに魅せられている。
 ゆえに、そのエルヴィスから唯一の弟子として実力を認められたレナードにも、多くの者が魅せられた。

 聖剣使いだから実力が伴っていなくても特別扱いされる? 愚問だ。
 聖剣使いだからこそ、その聖剣に見合う実力が伴わないとバカにされる。要は、貴様にその聖剣は重すぎる、と。

 事実、そのようなことをレナードに言おうとした団員も少なからずいた。
 そして、エルヴィスもそれを止める気はなかった。

 しかし、レナード本人がそれを封じたのである。
 他ならぬ、本人の背中から放たれる純度の高い透明な殺気によって。
 そのようなことを言えば返り討ちにする、と、言わんばかりに。

「エルヴィスさん――、本気ですか?」

 学生の身でありながら、その背中に大きな期待の視線を向けられている中、レナードはそれに気付きつつも、(これぐらいの期待の視線じゃ、まだまだ、全然喜べねぇ)と、特に浮かれることもなく、隣に立つエルヴィスに訊いた。

「――『師団長が特攻を仕掛けるから、全員はあとに続け』なんてなァ」
「不服か?」

 エルヴィスは遠くを見て、レナードに視線を向けないまま、一言だけ応えた。
 だがそれは、応えであって答えではない。

 嗚呼、言外に、答えは、本気か否かは、言わずともわかるだろう、と、その獲物を追いかけ始める1秒前の獅子のような張り詰めた雰囲気が伝えていた。

 対してレナードは、それは確かに、訊くだけ野暮だった、と、自嘲気味に苦笑する。
 さらにエルヴィスはレナードの苦笑を耳にして、好戦的に口元を吊り上げ、満足気に頷いた。
 それは純粋な反応だった。

「言わずもがな、オレはこの師団における最大火力を誇る最大戦力だ。なら、それを惜しみなく使うのは道理というモノではないか? 陣営における最強を戦場に投入しないなど、それこそオレは不服だ」
「違いねぇ。だが、問題はそこじゃねぇ」

「ほう?」 と、愉快そうに前を見据えながら相槌を打つエルヴィス。
 翻って、レナードは一瞬、目を伏せる。そして逡巡。それはなにを言うか、という内容を考えたそれではなく、言っていいのか否かを考えたそれに他ならなかった。

 そして意を決し、目を開き、呼吸を整えてエルヴィスに告ぐ。

「なぜそこまでわかっているのに、最大戦力に師団長なんて役職を与えたんですか?」
「わからないのか? それが理想だからだ」

 まるで世界には空間が存在する。世界には時間が流れている。その程度の当たり前をわざわざ説明するように、エルヴィスは軽く、事もなげに自然体で返した。
 そこには自分の発言に対する一抹の不安もなく、同時に、一片の曇りもない。

「――――」

 ゆえに、だからこそ、レナードは黙る。そこにはエルヴィスに対しての促しがあった。
 エルヴィスはレナードのことを弟子として認めたが、今はその逆で、エルヴィスはレナードに試されている。返事の如何いかんによっては、エルヴィスの師としての器にヒビが入るだろう。上に立つ者としての格に傷が付くだろう。

 上等。
 弟子が師匠を試すとはいい度胸だ、と、エルヴィスはレナードに好感を抱いた。師匠に弟子を試す権利があるのならば、逆に、弟子が師匠の、師匠としての存在を試す権利があっても然るべきだろう。

 なら、それに異論はない。
 エルヴィスはレナードに試されてやることにした。

「陣営における最前線に立つ最大戦力が師団長を務める。確かに、それはハイリスクな人選だ。見栄えがよく、格好が付くが、しかし、それが倒れた時、死んだ時、その陣営は壊滅的な被害を受ける」
「ハッ、当然ですね」

 師匠に対して、それも特務十二星座部隊の一員に対して、限りなく無礼にもレナードは嘲るように肯定した。2人の会話を耳にしていた最前列の師団の団員なんかは、今にも卒倒しそうな感じでヒヤヒヤする。

 しかし、心配は無用だった。
 エルヴィスは『それ』を理解して、得心しているので、レナードに何気なく返す。

「だが、先刻も口にしたが、理想的でもある。言い換えるなら、非常に物語的だ」
「――――」

「組織の頂点が最前線に立ち、数千の敵を悉く斬り伏せる。勇猛果敢の体現にして、不屈不撓ふくつふとうの具現。で、だ。それが数々の屍の山を築き、流血の海を越え、だが、自分は死なずおのが聖剣を晴天に掲げ生還した時――身震いするほどの歓声が湧くだろう」
「――――」

 レナードはなにかを言おうと思った。口にしようと考えた。けれど、なにを言葉にしたところで、今のエルヴィスの主張の肯定にも否定にもならないと思い知る。
 呆気を取られたというほど間抜けではなく、しかし、今のエルヴィスの主張には間違いなく自分にはできない発想が含まれていた。
 今の意見は、レナードよりもロイの方が共感できるかもしれない。

「見栄えがよく、格好が付く。ただそれだけであり、それだけで充分だ。理想的であるがゆえに、オレの後ろに続く団員たちはこぞって前へ、前へ、と、突き進む。オレ、特務十二星座部隊のエルヴィスのように自分もなりたい、と、憧憬の火が灯る。自明の理だとは思わないか? 上が動かなければ下は付いてこない」
「博識だな」
「違う、ただの経験だ」

 レナードの評価をエルヴィスは一蹴する。
 博識なんて知的なモノではない、と。もっと原始的で、もっと非論理的で、しかし、知識とは違い、手に馴染むような感覚が教えてくれる根拠のない、だが信頼できる持論だ、と。

「なぁ、レナード」


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