ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章4話 幼女の姿、そして伏線回収(1)



 十数日後――、
 アリシア師団は要塞からの移動を完了させて、戦場の最前線に辿り着いた。
 今は夜だが、いよいよ翌朝には大規模戦闘が始まるはずだ。

 そんな中、ロイは1人で師団長の自室、とは名ばかりのテントにくるように、と、アリシアから指示を受けた。無論、直接ではなく伝令兵の人を経由してだが。

 そしてロイが指示どおりにアリシアの待つテントに行くと――、

「幼女の姿なんですね……」
「ふふっ、まぁ、いつも大人の姿、本来の姿でいると魔力の消費が激しいもので」

 そこには戦場に似つかわしくない幼女が椅子に座っていた。

 実のところロイは、ガクトと殺し合う少し前に食堂でレナード、エルヴィスの2人も交えて話した時とか、十数日前の遠征の挨拶の時とか、最近は大人バージョンのアリシアばかり見ていたから、このエルフは謎の事情で普段は幼女化していることを忘れていた。

 最初に出会った時は大人ではなく幼女だったのに、いつの間にかイメージが逆転してしまっている。

「もしかして、流石にこのような展開ですし、事情を話す気になったのですか?」
「ええ、国王陛下にもロイさん限定で箝口令かんこうれいを無視してもいい許可をいただいております」

「国王陛下が……? 陛下は法律に例外があってはならない、と、考えている聡明なお方だったはずですが?」
「はい、ですから、ロイさんは現時点で私にとって、私の事情を知らないと不便が生じるレベルの側近、ということになっておりますわ。おめでとうございます。本意ではないかもしれませんが、これであなたは特務十二星座部隊の一員の側近ですよ?」

「…………」
「ロイさん? どうかされましたか?」
「なるほど、陛下が法律に例外を作ったのではなく、アリシアさんが法律の抜け穴を衝いたわけですか」

 と、ロイはジト目でアリシアのことをジト~、と、軽く睨む。
 だがアリシアは知らぬ存ぜぬという表情かおで微笑むだけ。
 しかしすぐに、コホン、と、咳払いして、そして気を付けして立ったまま、ロイはアリシアに問うた。

「では、師団長、僭越ながら説明していただけると幸いです」
「一言で言えば、封印、されているのですわ」

「封印、ですか?」
「私は以前、魔王軍のトップである魔王と直接、相見えたことがありますの」

「…………ッッ」

 どこまでも規格外な女性だ、と、ロイの身体はゾクッッ、と、震える。
 しかも、2人が出会ったこと自体、驚愕の対象だが、アリシアは魔王と出会って生き延びているし、魔王も、魔王軍が機能している以上、生き延びているはずで、アリシアと出会っておきながら生き延びていることになる。

 アリシアでも魔王を殺しきれないようだし、世界征服を本気で考えていて、それを実行する実力を持つ魔王ですら、アリシアを殺せない。

 遥か彼方にクラ……ッ、と、聞いただけで意識が遠くなるような話だった。

「私から見ても魔王は本物の最強でしたわ」
「? アリシアさんから見ても、って……?」

 アリシアは紛うことなくこの世界で最強、少なくとも強者つわものを世界中、この惑星の全ての国から集めても、上から5位以内には入るはずだ。そのような彼女が、自分ではなく魔王を本物の最強と称するその意味は、要するに――、

「私が2人か3人いれば互角の殺し合いもできたでしょうが、1対1では、生き残ることを最優先にセーフティを確保しながら、ちまちま小規模のヒット&アウェイで、すぐに回復できる程度のダメージを刻むことしか出来ませんでしたわ」

 ――その意味は、要するに、アリシアよりも魔王の方が強いということ。
 それは絶望なんて生温い現実ではない。絶望の度合いがあまりにも強大すぎて、相対的に見て自分の感情が矮小すぎて、なにも感じない、虚無と同義だ。現実味がない、という言葉にすら現実味を見出せない現実である。

「――ちなみに」
「はい? なんでしょうか?」

「小規模、というのはアリシアさんと魔王の基準で、ですよね?」
「ええ、そのとおりですわ」

 事もなげにアリシアはニコっ、と、肯定する。
 対してロイは額に冷や汗をかきながら訊いた。

「ボクの基準、あるいは村が滅ぶとか街が滅ぶとか、そういう単位に変換すると……」

「ロイさんが1000人前後集まってようやく戦いとして成立するでしょう。そして、村や街や地方都市とかに換算するとなりますと……そうですわねぇ、地方都市が焦土になるレベルですわねぇ。無論、人的被害がない村とか街から数十km離れたところでやりましたし、一撃で焦土になるわけではなく、何回も魔術を撃ち合って、終わったあとに確認してみれば、いつの間にか焦土になっておりますわねぇ、というレベルですが」

「そういえば、なんか以前、新聞で読んだ気がします……、そんな感じの記事……」

 何事でもない、当たり前のようにアリシアは教えてくれだが、誰がどこをどう考えても当たり前ではない。ロイが読んだ新聞によると、それは空から見て地形が大幅に変わるような戦闘で――訂正――人数が少ない、というか2人だけだがもはや戦争で、言わずもがな、ロイが住んでいた村でもかなり大きく話題になった記憶がある。

「それで、本題に戻りますが、途中で魔王が私に、実力を大幅に封印する魔術をキャストしてきたわけです」
「それで、その幼女の姿に?」
「そのとおりですわ」

 と、どうやら端的に説明すると、以上がアリシアの幼女の姿の経緯らしかった。
 ヤバイ、と、ロイは自分の語彙力の低さを自分でなじった。だがそれ以外に適切な感想が思い浮かばない。アリシアに封印をキャストする魔王もヤバイし、実力の一部を封印されても生還するアリシアもヤバイ。
 それを聞いてロイは「ふむ……」と、数秒だけ考え込んだ。

「それで、2つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
「ええ、ご自由にどうぞ」

「以前、ボクがアリシアさんのお父さん、つまりアリスのお父さんでもあるアリエルさんと花嫁略奪騒動を起こしてしまった時、アリシアさんは幼女の姿が家族には見せられない~、みたいなことを言っていましたよね。それって――」
「簡単なことですわ。特務十二星座部隊は王国最強の集団。その上から2番目の実力者でさえ、敵軍のトップに先ほど説明したような戦闘しか仕掛けられず、最終的には実力を封印された。そしてそのままではジリ貧と判断して戦略的撤退、要は尻尾を巻いて逃げた。――そのようなことを、家族とはいえ七星団に所属している団員以外に打ち明けられますか?」

 ロイは反論できなかった。アリシアの説明した事実は王国の全国民に深い絶望、激しい動揺、強い狼狽を与える。そして七星団の団員、ロイの前世で言うところの自衛隊員、あるいは外国の軍人は、例え家族であっても機密事項を話してはいけない。

「私が負けたという事実は、極論かもしれませんが、しかし現実でもありえるレベルで、七星団を少なからず敗色濃厚ムードにするはずですわ。だから、絶対に隠しとおす必要がある。当然、一方的にこちらが説明を聞かせておいて恐縮ですが、ロイさんにも守秘義務を要求しますわね」
「――――」

「それで、2つの質問はどのようなものでしょうか?」
「今ここで話したことを、ボクに説明する気になった理由をお伺いしても?」

 すると、アリシアはもちろん、と、言わんばかり姿勢を正した。
 そしてゆっくり、そしておっとり語り始める。


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