ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章1話 最後のやり取り、そして愛の告白(1)
レナードとデッキで会話した翌朝――、
ロイが指示された集合時間の30分ほど前――、
ロイは七星団の要塞の中で1人になれる場所を探して、運よく階段の付近にそれを発見、そこで念話のアーティファクトを使いクリスティーナに発信した。
実のところ、シーリーンとイヴとマリアは寄宿するにあたって学院から支給されているし、クリスティーナもロイ、イヴ、マリアのメイドとして持っているが、アリスは持っているものの家族共用の物で、今回は持ってきていない。リタとティナに至っては個人的な物どころか、家族共用の物もないらしい。
となれば、念話するのはシーリーン、イヴ、マリア、クリスティーナの3人のうちの誰か。
そこで、ロイは一番事務的、と、いうと無機質な言い方になってしまうが、一番メイドであることに努めてくれるクリスティーナに念話することを決定。
「もしもし、クリス?」
『おはようございます、ご主人様』
5秒ほどでクリスティーナは応答してくれた。
まだ完全に日の出前なのに、クリスティーナは眠たさを感じさせないハキハキした口調で返事してくれる。
「ゴメンね、こんな非常識な時間に……」
『いえいえ、問題ございません! それで、ご用件は――』
「――、あと、大体30分で集合時間なんだ」
『…………っ』
瞬間、目で見たわけではないが、ロイはアーティファクトからクリスティーナが声を出そうとして、言葉を詰まらせた感じを聞いた。
ロイが返事したその内容で、クリスティーナはどんな用件で自分の主人が念話してきたのかを全て察したのだろう。
戦場に出れば100%、絶対に死ぬ、というわけではない。
一方で、100%、絶対に生還するということもあり得ない。
だからこそ、どちらにしても、念話することには意味があった。死ぬなら死ぬで親しい人たちの声を聞けるなら思い残したことはなくなるし、生還できるなら生還できるで、戦場で頑張れる。その頑張りが、生存の可能性を上げてくれるかもしれない。
だから戦場に往く前の戦士たちはよく、両親や兄弟や姉妹、子供、そして恋人など、親しい者たちの声を聞きたがるのだろう。
「――クリス?」
しかし流石に、言葉を詰まらせているにはその時間が長すぎた。
そう、アーティファクト越しのロイに知る由はなかったが、クリスティーナは真剣に逡巡していたのだ。
そして悩み悩んで見つけた答えに従い、クリスティーナは――、
『ご主人様、出過ぎたことをお許しください。分不相応なことをお許しください。わたくしは、いけないメイドでございます』
「クリス?」
『傲慢かもしれませんが、ご主人様――お嬢様たちと話す前でもあとでも大丈夫でございます。それでもわたくしにも、会話のお時間をいただけると幸いでございます』
切なそうにクリスティーナは願う。まるで飼い主と離れ離れになってしまう寸前の子犬のようだ。
か弱そうで、いじらしくて、女性としてという意味ではないが、自分に近しくて親しく、メイドの割にはお茶目なメイドとして愛おしい。人、ではなくブラウニーではあるが、とにかくブラウニーとして大切にしたい。
一種の家族愛のようなモノだろうか。
なら、答えは決まっている。
「うん、もちろん、時間は限られているけれど、ボクもクリスとお話したい」
『~~~~っ、あ、ありがとうございます、ご主人様っ』
「あはは、でも、こうして改め、話しましょう? よし話そう! って展開になると、なかなか普段どおりの会話ができなくなっちゃうね。意識することなんてないのに、どうしても意識しちゃって」
『クス、はいっ、そうでございますね』
クリスティーナと、一石二鳥を狙い自分自身の緊張をほぐすように優しい軽口を叩くロイ。それを受けて、クリスティーナは控えめに、しかし明るくアーティファクト越しのロイに微笑んだ声を聞かせた。
すると、クリスティーナはロイにも伝わるほど深呼吸して――、
『ご主人様』
「なにかな?」
『わたくし、クリスティーナ・ブラウニー・ハローハウスロウは、ご主人様であるロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク様のことをお慕いしてございました』
「――――えっ」
突然の告白に、今度はロイが言葉を失う。
なぜなら、その想いを言葉にしたクリスティーナに声音に、ウソ偽りは一切なく、本気で、ロイのことを愛おしく、尊く想っているようなそれだったから。
『あっ、少し言葉が足りなかったようでございますね。今の告白は女性としてではございませんので、悪しからず』
「ビックリさせないでよ!?」
念話の向こうでクリスティーナが嬉しそうにクスクス笑った気がした。
それがすむと彼女は――、
『でも、メイドとして自分のご主人様を愛しているのは本当でございます。宗教の信者が神様を愛しているように、王国の民が国王陛下を尊んでいるように、わたくしは、下に付くメイドとして、上にいるご主人様を、自分の誇りだと思っております』
「――クリス」
『自明でございます。ご主人様が聖剣使いでなかったとしても、ゴスペルホルダーでなかったとしても、普通に他人に優しくて、普通に性格が明るくて、普通に生きている姿がカッコ良くて、身分や功績なんて関係なく、わたくしは、いいご主人様に巡り合えたのでございますから』
「――――」
『以上が、わたくしがせめてご主人様が戦場に往く前に伝えておきたかったことの全てでございます♪ ではお嬢様がたに代わりますね? いってらっしゃいませ、ご主人様』
と、そこでクリスティーナの声が途切れ、向こう側からわずかな雑音以外なにも聞こえてこなくなる。ガサ……、ゴソ……、と、クリスティーナが恐らくイヴとマリアが寝ている寝室に移動しているのだろう。
で、数十秒後――、
アーティファクトの向こうからイヴとマリアの声が聞こえていた。
『お兄ちゃん!』『弟くん!』
急ぐようで焦るような姉妹の声がアーティファクトから聞こえてきた。
言わずもがな、イヴとマリアだ。イヴの方はつらい感じで、マリアの方は悲しい感じ。
そんな2人に、ロイは努めて落ち着いて、意図的に余裕を持った声で――、
「うん、なんか戦場に往く前にみんなの声が聞きたくて念話しちゃった」
アーティファクトの向こうで、イヴとマリアが返事に詰まる。あまりにもロイが自分たちのことを配慮して、心にゆとりがある感じで言ったから、自分たちとのギャップに戸惑ったのかもしれない。
そして、イヴがなにを言うべきか頭に浮かぶ前に、マリアが――、
『弟くん――、1ついいですか?』
「なにかな、姉さん」
マリアは大人が子供に子守唄を歌うように愛おしそうにロイに告ぐ。
翻りロイの方も悟りの境地に至ったかのように、冷静ならぬ温静な声音で相槌を打つ。
『わたしは弟くんのことを、心の底から愛しています。当然ですよね。血の繋がった姉と弟なんですからね。それで――弟くんの方も、わたしと同じですよね?』
「うん、当然だよ、姉さん」
『でも、わたしのワガママかもしれませんが、例え弟くんでも、愛している人を悲しませるのは許しませんからね?』
「うん、わかっている、肝に銘じておくよ」
この弟と姉のやり取りは、どこまでも純粋で、どの言葉にもウソ偽りはなかった。
弟も、姉も、頭で考えて言葉を紡ぐのではなく、心に浮かんだ言葉を、そのまま相手に伝えているだけ。ただそれだけで、それ以上でも以下でもなかった。
『帰ってきたら、いっぱいいっぱい、お姉ちゃんが弟くんのことを甘やかしてあげますからね? 疲れているでしょうから、お風呂で背中を流してあげますし、寂しい思いをした分、添い寝だってしてあげますね?』
「あはは、スキンシップが激しい気もするけど……うん、帰ってきたら、ね」
ロイは困ったように返事をして、でも、最終的に約束を結ぶ。
なら、もう、マリアに言える次の言葉は1つだけだ。
『はい、いってらっしゃい、弟くん。お姉ちゃんはいつまでも弟くんの帰りを待っていますからね? 例えどんなに離れていても、あなたのことを愛しています』
と、そこでコソ、と、いう小さくて、そこまで耳障りでもない雑音が入る。
十中八九、マリアがイヴにアーティファクトを譲ったのだろう。
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