ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章8話 行軍前夜、そして2人の夢
「よォ、ロイ」
「先輩も夜の散歩ですか?」
「ああ、なかなか寝付けなくてなァ」
「先輩でもそういうことがあるんですね」
ヴィクトリアの自室を出たあと、ロイは少しだけ夜の散歩をすることにして、その途中にレナードとバッティングする。
なんとなく、今夜はいがみ合うような雰囲気、そして気分ではなかった。
仲良しごっこをするつもりもなかったが……。
ロイもなぜか、ヴィクトリアと別れてから真っ直ぐ集団寝室に戻る気になれなかったし、レナードもどうやら似たようなものらしい。
2人は合流すると、それっきり無言になり、行く当てもなくぶらついていたら、いつの間にか温泉街の夜景が見えるデッキまで辿り着く。
ロイは柵に腕を乗っけて夜景を眺め、レナードは柵にもたれかかるようにして、夜景を楽しまないものの、ロイの隣に並んだ。
「いよいよ明日だな」 と、レナードが白い息を吐きながら言う。
なにが明日なのか、そんなこと2人にとって確認するまでもない。
ロイはそれに答えず、そんなロイにレナードは肩をすくめる。
デッキは建物から一部分、突出するようにできている屋外なので、気温そのものは寒いし、それとは別に北風は冷たいし、夜だから当然のように暗い。が、まぁ、今夜ぐらいは一緒にいてもいいか、と、ロイもレナードも、そこにい続けることに。
「明日の朝――」
「アァ?」
「――ボクと先輩は集合する場所も違いますし、時間も違いますよね?」
「そうだな」
レナードの返事にはいつものような刺々しさはなかった。
むしろかなりレナード本人が感慨深そうに、同時に淡々としていて、それが言葉にも宿ったような感じさえする。
だが、いつもと違うからといって、それを指摘するのは野暮というモノだ。
ゆえに、ロイもレナードと同じぐらい、感慨深そうに、しみじみと、会話を続ける。
「ワインがあれば飲みたい気分ですね」
「クソが、男が2人きりで酒飲んでどうすんだよ」
相手を悪く言う単語を使うレナードだが、今、そこに覇気はない。
「ボクの知る限りでも、男2人で酒を飲むことはありますけどね」
「そういうことがありえない、って言ってんじゃねぇよ。女がいねぇと虚しいからやめよう、って言ってんだよ」
「先輩って、微妙に童貞を拗らせているっていうか、女の子に憧れていますよね」
「ハッ、テメェは肉食系のはずだが表面上、草食系だから知らねぇが、普通、俺ぐらいの年の男子なら、女の子に憧れるモンだろ。ちげぇか?」
「いや、まさか、それであっていますよ」
――閑話休題。
「俺、前にテメェに言ったよな? 俺はキングダムセイバーになりたい、って」
「そういえばそうでしたね」
「あの目標は今でも変わってねぇ。なってみてやりたいことはたくさんあるし、それがなかったとしても、単純に憧れる」
「――――」
「それで、一度訊いてみたかったんだが、ロイ、テメェにはそういうの、ねぇのか?」
レナードに問われて、ロイは静かに、深く、その答えを考える。
いや、考える必要はなかった。最初から答えは用意されていたから。
でも、なぜかその答えが自分でもわかってしまうほど、今、改めて思うと、現実味がないというか、具体性がないような気さえする。
言葉にすれば、なにかわかるだろうか、と、ロイは一先ず答えてみることに。
「最強に、なりたいですね」
「――ロイ、実際は違うんだろうが、1つ、年上として助言してやる。今回だけな」
「――――」
「たぶん、テメェは今、自分の夢に現実味がないと思ったはずだ。少なくとも、俺はそんなふうに察した。なら、簡単に問題は解決する。現実味がないなら、適当な現実に存在する物や人を基準にすればいい。具体的じゃねぇなら、最強とかじゃなく、この世界に形を持っている単語を使えばいい。俺の場合はキングダムセイバー、とかな」
その助言をありがたく受け取って、ロイは改めて考えてみることに。
この先輩は、一見、粗野に見えて頭が良い。
一方で自分は、一見、繊細に思われているはずだが、頭で考える前に、身体を動かしたり、今の場合なら、言葉として口を動かしたりしてしまう。
だが、と、ロイは今だけでもレナードのやり方を参考にしてみようと考えた。
「――いつか」
「アァ?」
「――いつか、絶対に、アリシアさんやエルヴィスさんを超えてみたい」
「――――」
「笑わないんですか?」
「笑わねぇよ、他人の夢を」
それで会話は終了だった。
レナードはロイを残して早々に屋内に戻ろうとする。
しかし、ロイはレナードのあとを追わない。追いかけない。
なんとなく、まだ1人で夜景を見ていたいのだ。
このまま別れてしまいそうな2人。
だが、最後にレナードが――、
「またな、ロイ」
「ええ、また」
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