ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章6話 返信、そして皮肉な話(2)



「……――アリスからは、まぁ、私は待っているだけの恋人になるつもりはないわ。今すぐには無理でしょうけれど、今後、今回の徴兵が終わってもロイが七星団に残るつもりなら、私もできる限り早く入団するわよ、って」

 瞬間、レナードは思わず真顔になる。完璧に呆気を取られた。
 レナードは無言のまま、なにを言うかを、どんな反応をすればいいかを考えて、静かに、しかし鬼気迫るほど真面目に、ロイに確認をしようとする。

「オイ、それ、テメェが言わせたんじゃなくて、アリスが自分の意志で言った、っていうかペンを走らせたんだよなァ?」
「そうですよ……」

 答えると、ロイも、レナードも、数秒間、無言状態になってしまう。
 どうしてこうなったのか。百歩譲ってこうなったのを認めるにしても、こうなった以上、次にどうするべきか。2人とも本当に困った表情かおになって、アリスの気の強さ、というか、なにかを実行する時に本当に実行しそうな意志の強さを再確認するはめに。

「「ハァ……」」
 溜息を重ねるロイとレナード。

 確かにロイもレナードもアリスの意志をできる限り尊重したい。だが、ロイは現在進行形でアリスと恋人関係にあるし、レナードも、他人ひとの恋人を無理矢理に奪うのは、本人らしく表現するならダセェ、と、思っているから、完全に諦めて新しい恋をしようとしているが、以前まで好きだったのは自明のことなので――、
 要するに――、

「現在進行形で好きな女の子」
「昔好きだった女子」

「そんな女の子に戦場にきてほしくないですよね?」
「当たり前だ。アリスらしいといえばらしいが……」

 軽く絶望する2人。そもそも、言葉にしなくても現在進行形で好きな女の子、あるいは昔好きだった女の子に戦場にきてほしくないのは当然だ。もはや明言するのは蛇足というレベルで。
 戦場にきたら死ぬ可能性がある。死なずとも、100%、大なり小なり身体に傷が付いてしまう。例え魔術でヒーリングできたとしても、痛い思いをした、というトラウマチックな記憶は残ってしまうのだ。

 ロイも、レナードも、そんなのはクソ喰らえだった。
 だがしかし、ここでロイとレナードが嘆いても、ここにはいないアリス本人を交えないことにはどうしようもないだろう。ゆえに、この話は一旦、終わりを告げる。

 が、ロイにも、レナードにも、あと1つだけこの話には続きがあった。

「ロイ、わかっていると思うが――」

「そうですね。究極的に、アリスがそれを望んでいるなら、ボクは彼女の入団を拒んだりしない。仮に拒むとしたらそれはボクたちのエゴだけど、翻り、入団するのは本人の自由ですから。でも、もし仮に入団したなら、ボクは死力を尽くしてアリスを守る」

「ハッ、いい覚悟だ。ピンチになったら手ェ貸してやるよ」

 挑発するように、レナードはロイに意図的に上から目線で言ってのける。
 翻ってロイの方も、そんな時がくるといいですね、と、煽るような視線をレナードに送った。言外に、先輩の出番なんてあると思っているんですか、と、バカにしているのだ。

 このようなやり取りを彼らは出会ってから何度も繰り返しているが、2人にとって相手に攻撃的になるのは、もはや呼吸と同じぐらい自然体なことなのかもしれない。
 いや、事実そうなのだろう。呼吸が必要ない人間が想像できないように、日常会話なのにケンカ一歩手前ではない2人は誰にも想像できないのだから。
 ゆえに、これからもこういう展開は必ずあるだろう。

 ……これでも初対面の時と比べたら仲良くなった方なのだが。

「それで最後にシィなんですが……」
「そういえば、俺のことが気に喰わねぇテメェにしては、俺を焦らすためにアリスを最後にするんじゃなく、シーリーンのことを最後に持ってくるんだな」

 と、レナードは肉を食べつつロイを一瞥した。恐らく、レナード本人的にはそこまで深く考えて、深い意味でそう言ったのではないだろう。

 しかし、ロイはそれを重く受け取った。
 一瞬だけ交錯する視線。そこには意味深な感じが含まれている気さえする。

 そして、ロイは一度食べるのを中断して、限りなく真面目な声音で――、

「……シィには、ロイくんに言いたいこと、伝えたいことはたくさんある。でも、それを全部手紙になんて書かないよ。ロイくんが帰ってきたら直接言うからね、って、書かれました」

「――――」

「シィはわかっていたんでしょうね、送ったのがどういう手紙か。いや、たぶん、全員わかっているけれども、シィが一番、わざわざ手紙にこんなことを書いちゃうほど、心苦しかったんでしょうね」

 戦場で兵士が死ぬかもしれないなんて自明のことだ。それを考慮しているからこそ、ロイは形が残らない声、アーティファクトによる念話ではなく、形の残る手紙で、せめて1回でもやり取りをしようと考えた。手紙なら、自分が死んでも死んだあとに、一方的とはいえ擬似的なコミュニケーション、会話の真似事ができるから。

 それがひどく虚しいことだというのは、ロイだって重々承知している。だが、それでも最終的にこういう状況で手紙を書いてしまうのが、ロイという人間の本質だった。

 そして、今度はレナードがロイのことを意味ありげに見る番に。
 クソが、なんて辛気クセェ顔をしてやがんだ。
 と、レナードは内心でロイのことを放っておけない感じになってしまう。

「ケッ、折角のメシ時だってぇのに、胸くそわりぃ」
「そうですね……」

 レナードがそう言っても、ロイは未だに落ち込んだ雰囲気のままだ。
 クソくだらねぇ。やってらんねぇ。マジで呆れた。と、レナードはそう心の中で悪態を付くも、しかし、自分が最後まで残しておいた肉の一番美味しそうな部分をロイの皿にフォークで放る。

 自分の皿にレナードの肉が放られたのを知ると、ハッ、と、ロイは目の前の彼に視線をやった。無論、そこには一番食べたかった肉をロイにあげたのに、かなり無愛想ではあるものの、未だ残りの肉を食べているライバルの姿が。

「先輩……」
「うるせぇ、黙れ、クソが、死ね」

 有無を言わせないレナードの態度に、思わずロイは苦笑してしまう。
 笑ってしまった、死ぬほど不器用だが励まされてしまった、他ならぬこの男に。

 ロイにとってそんなのは一生の屈辱である。この屈辱を晴らすには、もう、どう考えても、いつか自分と同じぐらいの屈辱をレナードにも与えるしか他にない。
 自分に与えられた屈辱を、相手に与える同等の屈辱で打ち消すしかない。

 ならば――そのためには生き残るしかないのは自明の理だ。
 これも含めて大屈辱だ。ロイは、やり方が下手とはいえ、まさかシーリーンたちよりも手短にレナードに生きることを促されるなんて、と、わずかに、やはりここでも死ぬほど気に喰わなかったので、憤るのではなく、笑う。

 次いで、ロイはレナードに――、

「そういえば、先輩もボクからの手紙いります?」
「抜かせ。俺とテメェが交わすのは、言葉でも手紙でも、握手でも友好でもなく、頭が痺れるような剣戟だけで充分だ」

 ロイは心底皮肉だと笑った。皮肉すぎて憤るのを忘れて、一周して、レナードを小バカにするように、だが、楽しそうに笑う。
 一方で、レナードはガラにもないことをした、と、内心で後悔しつつ、さらに残りの肉を食べ進めた。

 嗚呼、だが――、
 ――肉をもらったロイも、あげた側のレナードも、やたら肉を美味しく感じる夕食になった気がした。


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