ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章4話 手紙、そして質問



 2週間後――、
 この14日間、ロイは本当に七星団の一員として生活を送った。

 早朝に起床して、素早く手短に朝食をすませ、そして始まる軍事的な訓練。ロイは新しい小隊の隊長と相談して、エクスカリバーを使わずに訓練に臨むことにしたのだが、それはロイが思っていたよりも遥かに過酷なモノであった。

 昼食時は50分間だけ自由時間になっているが、そこでロイはヴィクトリアと一緒に彼女の部屋でランチをすませる。また、たまにはレナードとも。

 で、午後ももちろん、演習を長時間こなす。午前が各々の技量を磨く対人戦闘の訓練なら、午後は集団戦闘を想定した軽い模擬遠征だった。
 無論、軽い、と言っても七星団の基準で、だ。ロイは正直、自分が強くなっていく過程だと思っているから心底楽しかったが、一般人なら開始5分でつらいと感じ始め、15分で音を上げるだろう。

 次いで夜、その日の訓練が終わるのは20時で、そこから晩御飯を食べることになる。

 この14日間、ロイは当然だがずっとこれをこなしてきて――、
 ――そして今、ロイはヴィクトリアの部屋でレターセットと睨めっこしていた。

「なにを書いているんですの?」

 と、テーブルを貸してくれたヴィクトリアが、ひょこ、っと、ロイの背後から彼の広げたレターセットを覗き見る。浴室でお湯と魔術で身体を綺麗にしたばかりだからか、まるで花のような上品な匂いがロイのことをドキドキさせる。

 しかも――ヴィクトリアはパジャマ姿。
 急に部屋に邪魔したのは自分の方だから文句を言うつもりは一切ないが、無防備といえばどこからどう考えても無防備だし、ドキドキするな! と、言われても絶対に無理な話だった。

「手紙だよ、シィ、アリス、イヴ、姉さん、リタちゃん、ティナちゃん、クリス、彼女たちに1通ずつ」
「へぇ、全員まとめて、ではなく各々に1通ずつですの? 律儀ですわね」

「今回は特別だからね」
「特別? でも、毎晩アーティファクトを使って念話していますわよね? わたくしも混ぜてもらっていますし。それなのに今夜は手紙? 念話の方が手っ取り早いですわよ?」

「うん、それはわかっているんだ。でも――」

 ロイは寂しそうに、悲しそうに、わずかに顔を下に向けて、表情に陰りを見せた。
 念話は、形として残らない。手紙は、例えば失くさない限り、奪われない限り、送り主ともう2度と、永遠に再会することが叶わなくても、形として残り続ける。

 七星団では『そういうこと』を考慮して、前日の支給品配布の時、リストに書いて頼めば翌日の同じ時にレターセットを無料でもらえるようになっていた。

 ヴィクトリアも、年相応よりも幼いといっても、そのことは知っていたので、ギュ――、とロイのことを背後から抱きしめ、耳元で――、

「ダメですわ、ロイ様……っ、そんなことを考えては――」
「なら、ヴィキーは手紙を書くな、って言いたいの?」

「――――」
「ゴメン、イジワルを言ったね」

 背後から抱き付くヴィクトリアが、ロイの首にそっと回した白百合のように白くて綺麗で華奢な両手、それに彼も同じくそっと、自分の手で触れた。

 ――なんて寂しい雰囲気なのだろう。

 そう思うと、ロイも、ヴィクトリアも、すぐに切り替えるように身体を離して新しい話題を繰り出すことに。

「そ、っ、それで、手紙にはなんて書くんですの?」
「考え中だけど、全員に個別に、挨拶、近況報告、いつもボクと仲良くしてくれたことへのお礼、そして再会の約束、って構成でいこうと思う」

「無難ですわね、あるいはシンプル・イズ・ベスト」
「あはは……、まぁ、奇をてらってメチャクチャな手紙になっても困るし……」

 困ったように笑うと、ロイはいよいよ手紙にインクを走らせ始める。
 ヴィクトリアも、先ほどはなにをしているのか気になったから覗き見たが、なにをするのか理解したので、これ以上、書く内容まで覗くつもりはないらしい。

 テーブルを借りてロイが手紙を書いている一方で、ヴィクトリアはベッドで寝転び始める。

「ねぇ、ロイ様」
「ぅん?」

 ロイはテーブルに向かったままで、ヴィクトリアに返事する。

「ロイ様にとって、シーリーン様ってどういう女の子なんですの?」
「――守りたい女の子、ボクの生きる理由だ」

「なら、アリス様は?」
「――支えてくれる女の子、ボクが生きていられる理由だ」

「どこが違うんですの?」
「ボクはシィに対して、守りたい、つまり、彼女のためなら戦うこともいとわないと想っていて。一方で、アリスはボクのことを支えてくれる、つまり、直接的ではなく精神的でも、戦うことを手伝ってくれる」

「――――」
「シィが生きる理由でも、アリスが支えてくれなきゃ、ボクはきっと戦えない。アリスが支えてくれても、シィがいなきゃ、戦えることには戦えるけど、その戦いに意味はなくなる。ボクの人生は空白なモノになると思う」

 ふと、ロイの口元に笑みが浮かぶ。
 ヴィクトリアに訊かれる前に、もっと早く、気付ければよかったのに、と。

 七星団学院に入学してから、シーリーンとアリスと出会ってから、まだ半年も経っていない。だというのに、もう、2人はロイの心にこんなにも深く、存在を刻んでいた。

 自分でも意外と思うほどに、ロイは2人のことを大切だと、今、再確認できた。
 もちろん、普段から彼は自分の恋人たちのことを大切に想っていたが、それでも、まさか自分の生きる理由と、生きていられる理由にまでなっているなんて、自分でも信じられないほど、しかし、一回信じてしまえば笑みが浮かぶほど、ビックリである。

 なんでそこまで想うようになったのだろう、と、ふと、ロイが考えてみようと思うが、すぐにやめた。

 好きな人に告白されたら嬉しい。
 好きな人が傷付いたら悲しい。

 仲のいい友達と遊んだら楽しい。
 でもケンカしたら、少し怒るかもしれない。

 そして、出来事と、出来事に由来する感情にプロセスはない。

 だから――、
 ――ロイは2人が大切だから大切と想える、と、そこで結論付けた。

「なら、ロイ様にとって戦いってなんですの?」
「生きることだよ。生きることは常に、全身全霊の真剣勝負だからね」

 シーリーンは、前回の魔物との戦いで、生きることは戦うこと、と、言い張った。
 一方でロイも、今、戦うことは生きること、と、言い張った。

 もしこの場にシーリーンが揃っていたら、きっと互いに笑い合うぐらい、2人は恋人としてもそうだが、それ以上に、仮に恋人としてではなくとも、親しい人・フーリーとして一緒に生きる上での相性がよかった。

 きっともう、ロイとシーリーンの互いに対する想いは、世間一般の恋人に対する想いさえ超えているのだろう。

 ゆえに、ロイは心の中で呟く。
 実戦に赴く前に、そのことに気付けて本当によかった、と。

「なら、イヴ様は?」
「ボクのことを励ましてくれる妹、上を向いて、生きるのを頑張ろうと思う理由」

「なら、マリア様は?」
「ボクのことを癒してくれる姉さん、下を向いた時、生きるのを諦めないと思う理由」

「ぅん? それはアリス様の支える、と、似ている気が――」
「いや、違うよ。アリスはボクを、まぁ、少し言い方が変になっちゃうけど、生かし続けてくれる。そこに、変化を与えるのがイヴと姉さんなんだ」

「そう、なんですのね――」

 ハッキリ断言すると、イヴとマリアの間に、ドラマチックなイベントはない。

 シーリーンを救う時と、アリスを救う時、ロイは2人とって白馬の王子様のような活躍を見せた。が、イヴとマリアに、これからのことは不明だが、ロイは現時点でそういう活躍を見せていない。

 でも――よくいるではないか。
 見ているだけで、近くにいるだけで元気になれる人。
 喋っているだけで、そばにいるだけで癒してくれる人。

 簡単な話だ。イヴとマリアが、ロイにとって理想的な家族だった、というだけのこと。

 だから、劇的なイベントがなくても、そういうふうに想うことができる。
 だって、家族なら、互いに元気にし合って、癒し合うのが理想的だからね、と、ロイはヴィクトリアにバレないように口元を緩めた。

「それで、ですわ、ロイ様」
「それで?」

 ロイが感慨に浸っていると、彼をハッ、と、させるようにヴィクトリアが呼ぶ。

「優しい雰囲気になっているところ申し訳ありませんが、ここまでの話は、実は前振りにすぎませんの」
「そうなの!?」

 軽くショックを受けるロイ。
 それに対して少し、クスクス、と、微笑んだあと、ヴィクトリアはベッドの上で寝転んだ体勢から起き上がり、ロイに真面目な顔を向ける。

「今、わたくしはシーリーン様、アリス様、イヴ様、マリア様のことを訊きました」

「うん」
「なら、今度はわたくしについて答えてくださいまし」

「――――」
「ロイ様の親友であるわたくしは、あなたにとってどういう女の子なんですの?」

 訊かれて、ロイは考える。
 シーリーンとアリスと出会ってから半年も経っていないが、それ以上に、ヴィクトリアと出会ってからの方がより、かなり短い。

 恋人なのはシーリーンとアリス。家族なのはイヴとマリア。
 そして、ヴィクトリアは友達。

 以前、ロイはレナードに「アリスはボクの友達だ!」と叫んだのに、結局そのアリスと恋人になった。でも、ヴィクトリアの場合、彼女の方がロイのことをロイ以上に友達と認識していて、友達であることに頑なだ。

 それに気付いた瞬間、ロイの中で答えの方向性が決まる。
 結果論、あとから気付いたらそうなっていただけだが、シーリーンとアリスに対する印象が恋人らしいモノになったように、イヴとマリアに対する印象が家族らしいモノになったように、ヴィクトリアに対する印象は、やはり友達らしいモノにするべきだろう。

 恋人の2人が生きるために必要で――、
 妹と姉がそれを彩り豊かにしてくれるなら――、
 それを踏まえて友達に求めるモノは――、

「ヴィキーは、ボクにとって、ボクと並んでくれる女の子だ」
「並んでくれる、ですの?」

「うん、友達として、ヴィキーには一緒にいてほしい。隣にいてほしい。なにか嬉しいことがあったら一緒に嬉しがって、喜ばしいことがあったら一緒に喜んで、でも、泣きたくなるようなことがあったら、それを2人で半減させるような――喜怒哀楽をともにするような女の子、かな?」
「プラスのことを2人で感じて倍にして、マイナスなことを2人で感じて半分にする、ってことですわね。ふふっ、いかにも友達って感じがしますわ!」

「まぁ、かなり昔どこかで読んだ本の受け売りっぽくなっちゃったけど、でも、うん、それが紛うことないボクの本心だ」
「別に受け売りでもかまいませんわ! それが、本物なら」

 ベッドの上で発育良好な大きい胸を張るヴィクトリアに、ロイは微笑ましくなって、事実、微笑み返す。

 対してヴィクトリアはかなりご機嫌な感じになった。嬉しそうに笑顔を浮かべ、かと思いきや、今度は楽しそうにベッドに寝転んで、ふかふかの枕をギュ~~、と、抱いて右から左にゴロゴロする。

 よほどロイの答えが気に入ったのだろう。
 で、少ししてベッドの上で悶えるようにゴロゴロするのをストップすると――、

「にしてもロイ様、意外と出会ったばかりの友達に、友達ではなく親友と言っても差し支えないようなイメージを望むのですわね」

「え!? いい意味でだけど、一番友達に幻想を抱いているヴィキーがそれを言うの!?」

「いい意味で幻想を抱いているって、どういう意味ですの!?」

 ロイが突っ込むとヴィクトリアはプンプン、という擬音が頭上に見えそうなほど、可愛らしく幼い感じで憤慨する。

 でも、ロイはヴィクトリアに言い返されてガーン……としているが、ヴィクトリアの方は、これはこれで友達らしいやり取りですわね、と、言葉にも出さないし顔にも表さないが、しかしロイに対する好感度を上げた。

 やはり、ロイと一緒にいると楽しい。
 やはり、ロイと接すると自然と笑みが浮かぶ。
 そんな乙女心を知らず、ロイはヴィクトリアのツッコミ兼質問に答えることに。

「どういう意味、か……。一言でいうなら無垢ってことかな?」
「褒められているはずなのに、バカにされている気がしますわ」

「いや、本当に褒めているんだよ? 少なくともボクの認識では」
「そうなんですの? ふむ、なら、ロイ様の問題ではなく、単純にわたくしが無垢ではなく、もっと大人になりたいと思っているのが原因ですわね」

 どうやら声に込められた言外のニュアンスを察するに、ヴィクトリアは少なからず、自分のことを幼いと思っていて、大人になりたい、正確にいうなら精神的に成長したい、と、考えているらしい。

 それは立派なことだとロイは思う。
 自分自身の至らないところを自覚して、それを克服しようと思うのは、人間として素敵な在り方だろう。ヴィクトリアはそれをどうやら無自覚でやろうとしているようだ。

「? こっちを見てどうしたんですの?」
「いや、ヴィキーは素敵な女の子だなぁ、って」
「~~~~っ、突然なんなんですの!? 恥ずかしいのは禁止! ですわ!」


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