ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章3話 口付け、そして疑問



「あぁ……少し疲れた……」

 と、発言どおり少し疲れた感じを表情かおに浮かべながら、ロイは七星団の要塞の廊下を歩く。
 シャーリーとのやり取りを終わらせたあと、ロイは要塞の右から左、上から下へ移動しまくって、目を覚ましたことを報告すべき人たち全員に、その報告をして歩き回った。

 そして今、彼はグーテランド王国の姫、ヴィクトリアの部屋を目指し歩き、事実、その扉の前に辿り着く。
 言わずもがな、彼女にも報告すべきだから。

 扉の前には門番ならぬ扉番がいたが、彼らはロイがヴィクトリアのお気に入りと知っていたので、アポイントメントがなくても軽い身体調査だけで入室を許されることに。
 で、部屋に入るとヴィキーが――、

「ロイ様……っ!」
「わっ、ヴィキー!?」

 入室すると早々、ヴィクトリアはロイの胸の辺りに抱き付いて、そのまま床、絨毯に押し倒した。ふかふかな絨毯とはいえ倒れ込んで痛かったものの、「よかったですわ……。本当に、よかったですわ……」と嬉しそうに泣くヴィクトリアを見て、ロイはそんな痛みなんて我慢しようと思う。

 ヴィクトリアのたゆんたゆんな胸がロイの胸部に押し付けられる。
 ヴィクトリアの片脚がロイの脚を開かせるような位置にある。
 でも今はそういうのを気にするような時ではない。

 流石に抱きしめ返すのは躊躇われたので、ロイはせめてそのまま、ヴィクトリアの気が済むまで抱きしめられたままに――

 …………。
 ……、…………。

「ヴィキー、泣き止んだかな?」
「ぐす……誰のせいで泣いたと思っているんですの!?」

 数分前と同じく涙目ではあるものの、嬉しさの笑みではなく、不機嫌、と、いうよりも、不服そうな表情を浮かべるヴィクトリア。

 今は絨毯の上で押し倒され、あるいは押し倒している体勢から転じて、ベッドの上で2人並んで座っているが……なぜかヴィクトリアはロイとの距離をほとんど詰めて、友達といえども異性同士なのに、なかなか離れてくれない。

「ヴィキー」

「今度はなんですの?」
「ゴメン、こんなにもキミのことを泣かせてしまって。心配させてしまって」

「まったくですわ」
「そして、それを踏まえてありがとう」

「――――えっ」
「お礼なんて言われて、もしかしたらヴィキーは、自分が泣いたことがそんなに嬉しかったんですの!? なんて、不愉快に思うかもしれないけど、でも、なんていうか……、泣いたことが、泣かせたことが嬉しかったんじゃなくて、泣いてくれたことが嬉しかったんだ」

「ふんっ、言葉遊びですわね……」

 ぼやくヴィクトリア。彼女はつまらなそうにすると、しかしそれなのに、ロイの手と自分の手を繋いだ。ロイは少し手を引いてしまったが、完璧にそうする前に「手を引いたら許しませんわよ」と制されてしまい、それは失敗に終わる。

 ヴィクトリアという女の子は、姫という身分である以上、ある程度は仕方がないが、いわゆる箱入り娘だ。

 そして今までの出来事からわかるとおり『友達』というのを少し間違えて覚えている。
 しかし、だからといって友達の重要性を知らないかといえば、断じて否だ。

 むしろ逆。
 ヴィクトリアは友達であるロイのことを大切に想っているからこそ、手を繋ぐ、という行動に出た。

 まるで仲のいい5歳ぐらいの子供が、手を繋いで走るように。
 まるで仲のいい5歳ぐらいの子供が、怖いから手を繋いで寝るように。

 大人ぶった人が聞けばその程度……、と、軽く見るかも知れないが、大人から見て軽い分、しかしそこには子供ではないにしても、大人になりきっていない少女特有の無垢さがあった。

 それに気付いてロイは少し自分を恥ずかしく思う。
 シーリーンが純粋で、アリスが真面目、イヴが無邪気でマリアが穏やか、リタが元気でティナが夢見がち、そしてクリスティーナが物腰柔らかだとするなら、ヴィクトリアは無垢なのだろう。

 無垢。
 つまり、ロイは手を繋がれてシーリーンとアリスに引け目を感じたが、本来、そんな必要はない。むしろ邪魔と言っても過言ではない。
 なぜなら、手を繋いだ側であるヴィクトリアが、恋愛的な意味を一切考えず、仲のいい友達と寂しさを覚えたから手を繋ぐ、という意味でそれをしたのだから。

(今回は、ヴィキーじゃなくてボクが間違えたか……)

 前回、ヴィクトリアがロイの前で裸になって彼に指摘されたが、今回は立場が逆転した。
 ヴィクトリアの行動はなにも間違っていないし、ゆえにやめる理由も、諭される理由も1mmもない。

 以上が、今のヴィクトリアを見てのロイの感じたことだった。

「まったく、ロイ様は女の子を泣かせて嬉しく思うなんて、イジワルですわ」

 ヴィクトリアは子供っぽく頬を膨らませ、上目遣いでロイのことを不機嫌そうに、男性からしたら可愛らしく睨む。

「うん、ゴメン」
「でも、許して差し上げますわ」

 だが、ロイが静かに謝ると、ヴィクトリアはすぐに百合のような微笑みを浮かべる。
 そして、一点の曇りもなく許す。

「だって、謝られたら許す、それが、仲良くするということでしょう?」
「すごいね、ヴィキーは。それを実際にできる人はほとんどいないと思うのに」

「そうなんですの?」
「確かに仲良くするというのはそういうことだと、少なくともボクは賛同するけど、そもそも謝罪が必要な事態になったら、相手と仲良くしたくない! って、思う人も世界にはいると思うよ?」

「そう思ってしまうから、仲良くする必要がない。ひいては、謝られても許す必要がない、ということですわね?」
「まぁ、そうだね」

「その思考は、わたくしにも充分に理解できますわ。場合によっては共感もできます。世界にそういう悲しいケースが溢れているということも重々承知。事実、わたくしもいつかそういう展開に巻き込まれることも、否定はできません」
「――、うん」

「でも、今回は、わたくしが、ロイ様を、許すと決めた――今、この2人だけの世界で、それ以外の事実が必要ですの?」

 言うと、ヴィクトリアは仲のいい友達にするように、ロイに再び抱き付き、今度は彼のことをベッドに押し倒した。
 次いでロイの胸部にスリスリ、と、頬ずりする。
 で、数秒後――、

「なるほど、ですわ」 と、ヴィクトリアは上半身を起こす。
「ぅん? なにが、なるほど、なの?」

 どうやら、ヴィクトリアはロイに抱き付いてなにかを確認したようだ。その、なにか、というのがロイにはわからなかったので、彼はヴィクトリアに一応訊いてみるも、なぜか彼女は何度も、うん、うん、うん、と、自分だけ納得した感じで頷くばかり。
 そして――、

「まぁ、まだロイ様にお教えするには早いですわね」
「えっ!? なにが!?」

「ヒミツですわ♪」
「えぇ……な、なら、せめてヒントを……」

 するとヴィクトリアは可愛らしく人差し指を口元に立てて、上を向いてなにかを考え初めて、5秒、10秒、15秒、それぐらい経ってからロイに、なにかを企んでいる女の子の笑みで――、

「わたくしはロイ様と友達、いえ、親友で、絶対に、100%恋人ではない。それがヒントですわ」
「よ、よくわからない……」

 どこからどう考えても答えに辿り着けそうになかった。そもそも、今のヴィクトリアの発言に対して、これはヒントか否か? という問いを仮に出されたとしても、答えられる自信がない。
 だが、ロイが困っているのが嬉しいのか、ヴィクトリアは楽しそうにクスクス、と、からかうように口元を手元で隠して上品に笑む。

「なら、2つ目のヒントですわ」
「よ、よろしくお願いしま……す?」

 なぜか疑問形になってしまうロイ。

 一方で、動揺ではないにしても、間違いなく混乱しているロイに対して、ヴィクトリアは「では、両目を瞑ってくださいまし」と、促して――、
 本当に彼が目を閉じたのを確認すると――、
 チロッ、と、赤い舌で自分の唇を舐めてから――

 ――チュ、
 と、頬に、とはいえ、彼に口付けをした。

 嗚呼、ますます意味がわからない。


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