ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章2話 全裸、そして秘密(2)



「正解――ありがちな魔術設定だが、時属性の魔術で状況を再現する際、貴方様の脳から貴方様の記憶を読み取った。要するに、私めは貴方様が本来この世界の住人ではないことを知り、前世での事情も理解し、オーセンティックシンフォニー様と、ライツライト様、2人に口止めされていることもわかっている」
「――――ッッ」

 盛大にやらかした……ッ、と、ロイは思わず歯嚙みする。あれほど2人に念を押されたのに、まさかわずか3日で1人とはいえバレてしまうなど、大失態もいいところ。
 自分のことを助けてくれて、たった1人でヒーリングしてくれたシャーリーを疑いたくはないが、エルヴィスの言うことを信じるなら、彼女だって魔王軍の一員であるかもしれない可能性を否定できない。

「察知――貴方様は今、私めが魔王軍の一員であることを疑っている?」
「えっ、それは……ッ」

 流石、特務十二星座部隊の一員。他人ひとのことをよく観察している。
 シャーリーは空色の瞳でジィ……、と、ロイのことを見つめる。

 だが感心している場合ではない。彼女は言ってしまえば元上官(ガクト)の上官の上官の、そのまたどこまでも続く上官の最終地点に立っている女性なのだ。

 そんな女性を相手に疑っていることがバレたら、要するに上官を信頼していないことになる。
 軍事力を持った集団でそれは致命的だ。

 そのようにロイが恐れをなしていると――、

「惜しい」 と、シャーリーは呟く。

「? ……惜しい、ですか?」
「肯定――その話題に挙がっている魔王軍の一員は特務十二星座部隊に匹敵する魔術の技量を持っている。そしてライツライト様は、特務十二星座部隊と同等のレベルを持っているヤツの条件に一番簡単に当てはまるのは特務十二星座部隊のメンバー、と、持論を展開した」

「それが一体……?」
「疑問――私めを疑うのは理解できるが、なぜ、そこまで頭の回転が届くのに、オーセンティックシンフォニー様を疑わない?」

「アリシアさんを疑う!?」

 それはロイにとって、アリス、つまり婚約者の姉を敵軍の上層部の一員として見做す、という意味があった。そんな発想、できるわけがない。人間は仮に、家族が犯罪者になったらそれを信じられないように、友達が逮捕されてもそれをなかなか認められないように、自分にとって都合の悪い事実には目を向けたがらない。

 だとしても、その発想はあんまりだ、と、ロイは以降、言葉を失った。

「解説――七星団の中に潜伏している魔王軍の幹部は、特務十二星座部隊の中で一番光属性の魔術に長けている【処女】のヴ・レッシング様と、運命などを感知する能力に長けている【磨羯】のルスフィア様すらも欺いた。つまり敵は彼女たち以上の魔術師と想定できるが、私めが星の序列第4位なのに対し、オーセンティックシンフォニー様は星の序列第2位。疑って当然」

「それは、そうかもしれませんが……ッ」

「追加――私めは貴方様の記憶を覗いたから知っている。貴方様は彼女と戦った際、自分の目で闇属性の魔術【そこに我はいない、ヴァールハイト・故に咲き誇る純黒の花ドゥンケルハイト・ブルーメンブラット】を見たはず」

 まさかあの戦闘がここにきて重大な意味を持つなんて、あの時のロイなら想像すらできなかっただろう。

 Aランクの闇属性魔術を詠唱破棄して、あそこまで自由自在に使うことができる。
 確かに、ロイは実際の適性数値を知らないが、かなり高い闇属性の適性を持っているのだろう。

「なら……シャーリーさんはどうしますか?」

「? どう、とは?」
「ボクの記憶を覗いたならわかるかもしれませんが、アリシアさんとエルヴィスさんはボクの事情を知っています。それで、シャーリーさんはアリシアさんとエルヴィスさんを信頼しますか?」

「――――」
「あの2人に、自分もロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクの事情を知ってしまった、と、秘密の共有を持ちかけますか?」

「理解――貴方様は自分がどうなるのかがわからなくて怖いのですね?」

 ロイは別にアリシアとエルヴィスの2人のことを信頼していないわけではない。むしろ特務十二星座部隊の中で一番信頼を置いている2人だ。
 だが、自分の知らないところで、自分の抱えている事情が国を揺るがしかねない事件を引き起こすかもしれないのだ。だからこそ、シャーリーが指摘するように、2人が知っていることよりも、自分がどうなるかがわからなくて怖い。

 ロイは同年代の他の学生より、よほど強いメンタルを持っている。
 だが、自分の存在たった1つで王国最大の組織の上層部が揺れるなど、不安でしかない。そう、怖いというよりも不安なのだ。
 今さらかもしれないが、他人に、迷惑がかかりそうで。

「心配――だから私めは貴方様に1つ提案する」

「ボクが心配だから、ですか?」
「肯定――まず回答から言うが、私めはオーセンティックシンフォニー様とライツライト様に秘密の共有を持ちかけない。2人には、私めが貴方様についてなにも知らない、と、勘違いしてもらう」

「はい、それで続きは?」
「理由――先刻、私めは、なぜ私めを疑うのにオーセンティックシンフォニー様は疑わない? と、疑問をぶつけたが、実のところ、貴方様の気持ちは充分に知っている。記憶を覗いたから。ゆえに、貴方様が無理だというのなら、私めが代わりに2人をマークしておく。これならば、貴方様は心苦しく思う必要はないし、特務十二星座部隊の中で特定の誰かをマークから外しておく、という事態も回避できる」

 瞬間、シャーリーの自室に静寂が下りる。
 互いに無言を貫いた。ロイはなんて返事したらいいかわからなかったから。シャーリーは彼の返事を待つことにしたから。

 数秒後、ロイが口にしたのは提案に対する答えではなく、純粋な疑問だった。

「シャーリーさんは、それでいいんですか?」
「嘆息――貴方様はもっと自分本意な判断をした方がいい。これも同じように記憶を覗いたから知っているが、貴方様は他人の顔色を窺いすぎている節がある。訂正――厳密には、他人に気遣うことが自分の本意になっている。だから自分本意な判断をしていると言えばしているが、より自己中心的な本意が望ましい」

「――――」
「回答――私めは別にそれでいい。私めは大人よりも子供を信じるようにしている。くみするようにしている。なぜなら、大人は子供ではないから」

 大人よりも子供を優先する。理由は大人=子供ではないから、と、シャーリーは語るが、少なくともロイはその言葉を信じてみようと思った。ロイは転生しているから、もう精神年齢はもしかしたらシャーリーを超している可能性があるかもしれないし、そもそもこの身体での年齢も15を超えている。子供という表現は間違っているかもしれないが、しかし――、

 ――恐らく、シャーリーにはシャーリーなりの考えがあって、そう言ったはずなのだ。

 だからロイはそれを聞いて返事を決める。

「ありがとうございます、ボクのために、仲間を疑ってくれて」
「不服――か、勘違いしないでほしい。あくまで私めは貴方様があの2人を疑うのが不可能そうだから、自分でマークした方が合理的と判断しただけ。貴方様のためではない」

 …………。
 ……、…………。

「ところで、シャーリーさんが裸なのは理解したんですが、なぜボクまで裸なんですか?」
「自明――私めにも死にそうな貴方様を助けたい、という優しさがあったが、それと同時に研究材料として見返りがもらえるなら一石二鳥と考えた」

「見返り? すみません、いつか必ず用意しますんで……」
「否定――見返りならすでにもらっている」

「へ?」

 言うと、今まで2人はベッドの上で会話していたのだが、ふいにシャーリーはベッドから下り、立ち上がり、近くにあったテーブルの上に置かれたシャーレをロイに見せる。

 シャーレ……ロイの前世で小学生や中学生が理科の実験で使う透明な皿のアレだ。

 で、その中には見た感じプルプルの白濁液が入っているではないか。

「性交――いわゆる睡眠姦。実際に私めの女性器に貴方様の男性器を挿入したわけではないが、魔術を使い射精、夢精してもらった」
「ハァ!? 頭おかしいんじゃないですか!?」

 ロイにしては珍しく自分によくしてくれた他人のことを悪く言ってしまう。
 いや……、だが……、この反応は仕方ないだろう。
 しかし、シャーリーはわずかに面白くなさそうに――、

「むっ、失礼――私めのヒーリングは本来ならかなり高価。それこそ、娼婦が1回身体を売るぐらい。結果、私めがヒーリングをキャストした回数だけ貴方様に射精させるのは必然。安心していい。ヒーリング以上の回数は射精させてない」

「えぇ……そういう問題じゃないんですが……」

「説明――もともと違う世界の住人のDNAやソウルコードを分析できるなら、血液でもよかったが、ヒーリングの対価に血を流させるのは本末転倒と判断した。唾液や鼻水や汗でもDNAは分析できるが、しかしソウルコードの分析は難しい。で、考えた結果、精液が一番合理的と判断した」

 …………。
 ……、…………。

「最後――フェイト・ヴィ・レイク様に大切なことを言い忘れそうになった」
「大切なこと?」

 そして、ロイが服を着てシャーリーの自室からそろそろ出ようとすると、唐突、自分の背中越しにシャーリーは真剣な口調でロイのことを一旦、止める。
 で、ロイが振り返ると、シャーリーはまだ裸だったものの、心底悲しそうな声音で――、

「前提――今から伝えることは、貴方様の戦いに対する心構え、スタンスに始まり、剣を振り魔術を使うその全て、戦いの最中に行う全ての行動、観客がいた場合、周囲から見た評価、そして戦場で生き残る可能性や、最終的には逆に死ぬ可能性にまで言及することになる」

「えっ――?」

「結論――貴方様は知的生命体として終わっている」


「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー208148

    主人公成長し無さすぎ。こんなん成長チートでも何でもない。このペースじゃあと1000話くらいはクソ雑魚のままの話が続く気がして萎える。題名から成長チート抜こうか(^^)

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