ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章9話 ロイ、そして小隊長(2)



 だが、ロイだって機転が利かないわけではない。

「――これは?」

 違和感を覚えたガクトは、高速連続バックステップでロイから距離を取った。

 ガクトは慎重にロイを観察。
 彼我の距離は10mを少し超えるぐらいに離れてしまう。一歩進めば斬ることが可能で、一歩後退すれば敵の剣を避けることが可能の間合い、つまり一足一剣の間合いがこの瞬間、完全に崩壊した。

 間違いなく、今、ガクトはロイの右肩から左の脇腹にかけて斬撃を成立させたはず。
 本来なら、通常なら、傷の深さは10cmを超え、ロイが死に、ガクトの勝利で戦いが終わるはずだった。

 しかし――、

「剣の先が欠けている? まさか――」
「どうですか? 自分の身体の内部に【聖なる光の障壁】を埋め込ませるなんて、普通、思い付かないでしょう?」

「面白い……ッッ、それは自分の脂肪や筋肉に、一時的とはいえ、ワザと異物を紛れ込ませるということだぞ? 発狂するほど痛いはずだが?」
「身体中に激痛が走っていますけど、死ぬよりは上等です……ッッ」

 ロイが仕掛けたことは、言葉にするだけなら至極単純だった。

 ロイは左目が失明した状態で右目に血液の目潰しを受けた瞬間、絶対に追撃がくると確信して、【聖なる光の障壁】を詠唱破棄して脳内にストックしたのである。だがしかし、両目が潰されている以上、ガクトがどこに立ち、自分の身体のどこから斬り始め、上下左右、どちらに向けて斬撃を進めるかは、どう頑張っても推測不可能だった。

 ゆえに――、
 ――身体を少しでも斬られたら、その斬り目に沿うように自分の身体に【聖なる光の障壁】を、斬撃が終了するまで永続的に展開し続ける。

 言葉にするなら、本当にたったこれだけ。
 だが、実際にしてみせるのは狂気の沙汰でしかない。

 口の中に食べ物を入れたり、耳の中に耳かきを入れたりするのとはワケが違う。
 空洞に物を入れるのではなく、脂肪や筋肉という固体の中に別の固体を割り込ませるわけだ。嗚呼、もはやロイは戦いにおける覚悟だけならば、特務十二星座部隊にもあと少しで届くだろう。

 ネタが割れたところで、ロイは戦闘を再開すべくヒーリングを発動しようとするが――、

「――詠唱破棄、【優しい――」
「――ヒーリングなど、させると思ったか? ――【零の境地】!」
「ッッ!?」

 ロイのヒーリングが無効化される。幸いにも会話の最中に右目にかかった血液は拭っただけで事なきを得るからそうしたものの、左目は未だに失明したままだし、【聖なる光の障壁】を解除したとはいえ、身体にはまだまだ内側からトゲが生まれるような激痛が走っている。

 先ほどは死なないために身体の中に魔術防壁を埋め込んだ。限りある時間の中でその選択をしたのは断じて間違いではなかったものの、しかし、これをヒーリングできないのはあまりにも痛手すぎるではないか。

 誇張抜きでロイは絶望していると、風よりも速く、ガクトがロイを肉薄にすべく迫ってきた。そして、自分の剣をロイに向けて構える。

「クソ……ッッ、飛翔剣翼!」
「ほう? 斬撃を飛ばすか?」

 指摘どおり、エクスカリバーから斬撃が飛んでくる。
 言わずもがな、ガクトにとって飛翔剣翼は初見だ。だというのに事前に攻撃の内容を察知していたのは、戦闘を始める前にロイ本人から聖剣の特性と、それで可能な攻撃のほとんどを教えられたからに他ならない。

 畢竟、ロイは初めて見せる攻撃を、難なくガクトに躱されてしまうことに。

「――――ッッ」

 言葉を失うロイ。ガクトが飛翔剣翼を躱したあと、その勢い、速度を殺さないまま高速で左右に動いてロイにフェイントを魅せたからだ。嗚呼、これでは飛翔剣翼を撃ったとしても当てることなんて夢のまた夢。

 ロイは前世の拳銃を思い出す。撃たれたらどう足掻いても躱せないから、トリガーを引かれる前に射線から身体を逸らす、という攻略法が銃にはあり、前世では絶対に不可能だったものの、今のロイならそれはギリギリ可能だった。

 しかし、あくまでもギリギリ、だ。

 だというのにガクトは、あまりも簡単にそれを為してくれるものだ。
 そこにはもはや、時間や体力の余裕すら感じざるを得ない。

 だが、いや、待て、と、ロイはガクトのフェイントの高速さに絶望しながらも、思考を加速し続ける。

(隊長は今、ボクに向かってきている! つまり、どんなに左右にフェイントを織り交ぜたところで、そのサイドステップは最終的にボクの立っている座標に収束を見せるはずだ! なら――ッッ)

 勝つ方法はある。簡単に言ってしまえばどこに攻撃を仕掛けてくるかがわかっているのなら、その地点で待ち構え、そして迎撃すればいい。

 迎撃に使う技は斬撃の四重奏。次元を屈折させて一振りで4つの刃、斬撃を敵に見舞わせる剣術においての1つの到達点。

 ロイの技量が凄まじいというわけではなく、聖剣エクスカリバーのスキルのおかげだが、いかに斬撃の速度に加速に加速を重ねたところで、100%同時に2つ以上の刃で敵を斬るということは絶対に不可能。

 ゆえに、斬撃の四重奏は剣の道を極める者たちからしたら、喉から手が出るほどの技であった。

「死ね――ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク」

 宣言するガクト。幾重にもフェイントを重ねたその身体は、ついにロイのすぐ眼前に到達した。距離にしてほんの1~2mの間。その充分に一足一剣の間合いを成立させている状況で、ロイは――、そしてガクトは――、

「斬撃の四重奏!」
「ハッ、【聖なる光の障壁】!」

 以前にも似たようなことがあった。ロイとレナードが戦った時のことである。その時もロイが斬撃の四重奏を放ち、相手、前回の場合、レナードが【聖なる光の障壁】で4つにも分離した剣の軌跡を防いだことは、ロイ的に記憶に新しい。

 ロイは戦闘において同じ失敗は二度としない。だからこそ――、

(隊長こそボクのことを言えないぐらい甘い! エクスカリバーのスキルを2つ同時に発動する! 斬撃の四重奏に、どんな物でも絶対に斬れるイメージを加算させてもらいますッッ!)

 ロイが自分の成長を誇るように、擬似双聖剣に次ぐ臨機応変さを魅せる。エクスカリバーのスキルの2つ同時発動。結果、斬撃の四重奏はただでさえ相手が騎士だった場合、その騎士にとって厄介極まりないのに、全ての防壁を絶対に斬り伏せる効果まで得てしまう。

 どんなに硬い物でも絶対に斬る能力。それは、剣を手にする者なら誰もが一度は考えるイメージだ。ゆえに、ロイが想像して、エクスカリバーが反映できないわけがない。

 ロイとガクトが、互いに互いの首筋に向けて放った剣の軌跡。

(わずかにボクの方が速い!)
(わずかに我の方が遅い――しかし!)

 万物を100%切断するロイが放つ4つの斬撃。
 それは音速に迫る勢い、切っ先の残像を空中に置く速度で、4方向からガクトの首に狙いを澄まし、刹那、彼が展開した【聖なる光の障壁】に触れ、何事もなく切れ目を入れ始める、が――、

 しかし――、

「――【聖なる光の障壁】を斬るにあたり、少々とはいえ、スピードが落ちたぞ?」
「ッッ!?」

 ロイの全身にゾクッ、という震えが走る。ああ、そうだ、そのとおりだ。100%物を切断することと、切断に時間が必要ないということは、少し考えれば同じことではないとすぐにわかる。
 物を斬り伏せるのだから、物に刃が当たった瞬間、ガクトの言うとおり少々とはいえスピードが落ちるのは自明のことだ。

 つまり、ガクトが狙っていたのは――、

「刺突の四連しれん!」
「な……ッッ!?」

 今のはスキルではない、ただの技術だ。

 常人の動体視力では誤差が判別できないタイムロス。だが逆に、ガクトのような騎士小隊の隊長レベルの動体視力なら違いがわかる剣の減速。

 わずかに遅くなってしまった聖剣が繰り出す斬撃の四重奏に、ガクトが0・3秒の間に各々1回ずつ、総じて4回の刺突を撃ち合わせた。

 それとまったく同時、ロイの手には今まで感じたことのない、我慢しようにも耐えられるわけがない衝撃が伝わってくる。

 畢竟、ロイの手から聖剣が弾かれてしまう。
 宙に弾かれたエクスカリバー。

 ガクトは落下しきる前にエクスカリバーに自分の剣をぶつけ、さらに遠く、あらぬ方向にそれを再度弾いた。言わずもがな、もうロイの手の届く範囲にエクスカリバーはなく、騎士が剣を落とすなど、それはほぼ、敗北を意味している。

「絶体絶命だな、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク。少し考えればわかることだろう。次元を屈折させてエクスカリバーの刃を4つにした場合、その4つに同時に衝撃を与えれば、自分の手にそれを一点に集約した衝撃が襲ってくることぐらい、な」


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