ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章8話 ロイ、そして小隊長(1)
「なんでですか、隊長! なんでボクたちが殺し合いを……ッッ!?」
「言わずとも知れたこと! 我は魔王軍の一員! それ以外に理由などいるか!?」
熾烈に熾烈を重ねた凄絶な剣戟の最中、鍔迫り合いに興じながらロイはガクトに叫び問い、ガクトの方はそれに事もなげに答える。どちらにしても、両者、互いに自分と目の前の男は敵同士。確かに、それ以外に殺し合いに必要な理由はないだろう。だが、その事実を早々に受け入れられるか否かは、別の問題であった。
別に、ロイとガクトはそこまで親しい仲ではない。
だが、まさか自分の騎士小隊の隊長が魔王軍の人間だったなんて、と、意外性というモノは間違いなくロイの心に芽生えてしまっていた。
一瞬、ロイが思考の方に重点を置き、鍔迫り合いに隙を見せてしまう。
刹那、ガクトの剣がロイの聖剣、エクスカリバーを弾いた。
「――クッッ」 と、ロイの表情に焦燥が滲む。
「往くぞ、その命、貰い受ける……ッッ!」
疾ッッ! と、まさに疾風のごとく、ガクトの剣の切っ先がロイの心臓を目指した。
闇夜を斬り裂くような閃く切っ先が高速で迫る中、ロイは脳内で詠唱を唱え――、
「防げ! 【聖なる光の障壁】っ!」
「甘い!」
ガラスが砕けるような音が森に木霊す。
確かにロイの【聖なる光の障壁】はガクトの剣が届くより先に、展開を完了した。
だが、ガクトはそれにあえて、全力で切っ先を突き刺したのである。
そして、魔王軍の人間とはいえ、その程度の行動で騎士小隊の隊長を仮にも務めたガクトの攻勢は終わらない。
「――――いッッ!」
ヒュンッッ、と、【聖なる光の障壁】の破片のほとんど全てがロイの顔面に向かって飛び散った。
遥か雲の上の領域の剣の技量を披露するガクト。即ち、【聖なる光の障壁】に対する自分の剣の入射角、速度、威力を調整して、意図的に魔術防壁の破片を悉くロイの顔面に飛ばしたのだ。
0・01秒でも早く、まるで競り合うように首を動かして顔を横にずらすロイ。
だがそれすらも見越して、ガクトはロイが逃げようとする方向に、彼が実際に顔を動かす前、牽制として【魔弾】を撃つ。
畢竟、ロイは【魔弾】に当たらないために、反射で、思わず顔を動かすのを止めてしまい、顔の半分とはいえ自分で展開した【聖なる光の障壁】の破片を受けてしまうことに。
「ガ……ッッアアアアアア……」
ロイは右に顔を動かしたのだが、【魔弾】の牽制によって動きを止めたのは前述のとおり。
最終的にロイは顔面の左半分で【聖なる光の障壁】の破片を喰らい、要するに結果、失明する左目。
――好機、到来。
ガクトは眼球に破片が刺さった激痛で、一瞬とはいえ集中力を切らしたロイの左側、自分から見て右側に軽快なサイドステップを踏み込む。左目を失明したロイの絶対的死角に潜り込んだのだ。その移動を完了させると再度、剣を構え、自分の限界に挑戦するような自己最高速で眼前の敵を斬り伏せようする。
が――、
「スイッチ!」
「――ッッ」
ロイの利き手は右手で、先刻も彼は聖剣を右手に持っていた。それを知っていたからこそ、ガクトもロイの左側に安心して回り込んだわけだが、しかし、彼が『それ』を言葉として紡いだ刹那、聖剣エクスカリバーは使い手の右手ではなく左手に顕現し直した。
実に小賢しい、と、ガクトはロイに対して攻撃的な視線を送る。
ロイは特別なことはなにもしていないし、聖剣のスキルを使ったわけでもない。
一時的に聖剣を魔力化して、再度、逆の手に顕現し直しただけのこと。
だが――、
――それだけで一時凌ぎには充分すぎるほど充分。
「ダアアアアアアアア……っ」
ロイは回り込んできたガクトに、適当とはいえ聖剣を振う。適当とはいえ彼我の距離を考えれば絶対に当たるだろう、と考えてのことだった。激烈にして苛烈の一振りは轟々と大気を引き裂き、風切り音を鳴らし、ガクトがロイに向けかけていた剣を弾こうとする。
逡巡するガクト。ロイとガクトほどに実力に差があれば、弱者の方、つまりロイが攻撃を仕掛けている間隙に、強者の方、つまりガクトは充分に次の一手を、悠然と、考えることが可能だった。
結果、ガクトは後退しないことにして、空気を斬る音さえ響かせるぐらい速いロイの聖剣を、なんと、目視してから躱すことにする。
しかし、それこそがロイの戦術。
「――躱しましたね、ボクの聖剣を」
手応え、空ぶった感覚で『それ』がわかるのだろう。犬歯を剥き出しにしてロイが好戦的に笑う。
翻ってガクトは――、
「それが?」 と、背筋が凍るような絶対零度の声音で返す。
「なにが言いたいかっていうと、ボクの思惑通りだ!」
叫ぶロイ。――ガクトが自分の聖剣を躱したということは、躱された分だけ相手は時間をロスしたということ。上々だ。そのロスを利用して、ロイは再度エクスカリバーを魔力化して、再度、例のスイッチ、つまり、今度は逆に左手から右手に剣を持ち替える。
自分より圧倒的に強い相手を目前にして、たった今、現時点を以って考え至った戦術。
擬似双聖剣。
所詮それは付焼き刃、だが、だとしても――、
「なるほど、我の隙を衝いて振り向き、自分の生きている方の目に我を入れるように立ち位置を変えたか」
「そう! これならあなたは躱せないはず!」
ロイがしたことは大したことではない。意図的に自分の剣を相手に躱させて、その相手が回避している時間に、自分は剣を持つ手を入れ替え、生きている方の視界に敵を入れるために振り返り、その回転力、勢いを以って先刻、入れ替えた剣で半回転斬りを挑む。
多くの過程を踏むというだけで、技術的には大したことではない。
だが、その一連で重要なのはテクニックの『凄さ』ではなく、流水のような動きの『スムーズさ』にある。
これなら――、
――ロイの言うとおりガクトには躱せないはず。
「先ほども言ったはずだ、甘い、と」
ゾクッ、と、ロイはガクトの言葉を聞いて戦慄する。
自分の今の動きは凄くはないものの、まるで舞踏のように芸術的なスムーズな攻勢。
ガクトに躱せる道理はどこにもない。
だが、ガクトは屍のような目で――嗤う。
「グ……、バカな……ッッ」
ロイは表情に驚愕を呈した。その戦い方は、自分も充分に知っていたはずなのに、否、自分がそれを得意だったからこそ、敵が同じ戦術を仕掛けてくるとは想定外だったのだろう。自惚れていたことに、自分の専売特許と言えるモノだからこそ、自分以外は使わない気がするという甘えた考えがどこにあったのである。
そう、ガクトは意図的にロイの斬撃を受けて肩を斬られた。
瞬間、まるで噴水のようにガクトの左肩から噴き出す紅く大量の血液。
次いで、ガクトはその夥しい量の血液でロイの右目を目潰しした。
「姑息な手を……ッッ」
「戦場で敵を姑息と貶めるのは、負け犬の遠吠えと知れ!」
しかも、ガクトの戦術はそれだけで終わらなかった。ロイに斬られた傷口を早々にヒーリングで跡形もなく治し、両目が使い物にならなくなったロイに対し――、斬ッッ、と、右肩から左の脇腹にかけて深い斬撃を見舞わせる。
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