ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章5話 アリス、そしてゴブリン
約十数分後、イヴとアサシンの戦場から離れた森の中――、
オークを仕留めたアリスとゴブリンは魔術戦闘に興じていた。
森の中をアリスの、脳内に大量にストックされていた魔術が奔る。無属性の魔術の弾丸は淡い燐光を発しながら闇夜を裂くように一直線にゴブリンに向かい、ゴブリンは万物を吸収する漆黒の闇の防壁を築いてそれを完全に防御した。
【必要悪の黒壁】
それは魔王軍バージョンの【聖なる光の障壁】のようなモノである。
「――【雷穿の槍】ッ! 【風打の槌】ッ! 【氷守の盾】ッ! その全てをトリッッ! プルッッ! キャストッッ! つまり! これを総じてナインスキャストッッ!!!」
刹那、アリスの周囲から魔術が撃たれる。黄金色の槍を模した電撃が突如、虚空に顕現して、切っ先をゴブリンに向けて一斉射出。ゴッッ、と、周囲が一瞬、稲光によって網膜を灼くような純白に染め上げられ、さらに次の一瞬、本物の落雷の彷彿させる轟音が森の中に響いた。
が、ゴブリンは3つにも及ぶ雷槍を見事に躱した。
雷の速度は人間、エルフ、ゴブリンの動体視力を優に超えている。
だというのに躱し尽くしたというのは、ゴブリンがアリスの視線を見切って事前にどこに撃たれるかを察知していたからに他ならない。
畢竟、雷撃はゴブリンの身体を黒く焦がすことなく彼の奥の樹木に当たる。
しかし、アリスはそれを完璧に予想。
衝撃によって傾き、次いで完璧に倒れそうになる3本の樹木に【風打の槌】をぶつける。
結果、3本の樹木は倒れる方向をアリスによって掌握され、その樹体をゴブリンに向けた。
「――チィ! 小癪な!」
肉体強化の魔術を自分の肉体にキャストするゴブリン。雷の槍を躱した時と同じ要領で倒れ迫る樹木を回避しようとするも――、
「――氷の壁!?」
ゴブリンが足を動かした先にはアリスが展開した【氷守の盾】が逃亡を妨害するように待ち構えていた。
好戦的に笑うアリス。
(さぁ! どうかしら!? あなたが魔術を妨害する魔術を使えたとしても、そのナインスキャストは技量的に不可能なはず!)
(この小娘!? 時差発動もできる上にナインスキャストまで……ッッ)
不覚にもアリスの技量に舌を巻くゴブリン。
生意気だ、と、ゴブリンは汚らしい奥歯を軋ませた。
まさか自分が本気を出さなければいけないとは。生意気で、図に乗っていて、調子こいでいて、世界の恐さを知らない箱入り娘で、嗚呼、この小娘は戦い終えたあとに、全裸に剥いて、四肢をもいで、強姦して、その金髪と透き通るような白い柔肌を白濁液で汚して、ダルマ状態のままスラムに放置して、失禁させて、充分に鑑賞したあと、最終的には殺して――いや、それでもまだ足りない。
そう、ゴブリンはアリスのような女が心底嫌いだった。
理由は単純、見た目が綺麗だから。上品だから。
その美しさが、自分の小汚い見た目というコンプレックスを刺激してくる。
だから、こういう女を貶めるのが心底面白いと感じるのだ。
だが、性格がクソなのと魔術の技量の高低は関係ない。
ゆえに、ゴブリンは底意地悪く、口元と目元を歪めた。
「――時間がねぇな、詠唱破棄! 【万象の闇堕ち】!」
愚ゥオオオオオオオ…………ッッ……、と、ナニカが唸るような重低音。
告げるとゴブリンの周囲、半径1m以内には変化がなかったものの、半径1mより外に、漆黒のフィールドが出現する。先刻まで夜だというのに積雪の純白が綺麗だった地面は、しかし今、アリスが逃げるよりも早くその一帯を影のような深い黒色に染め上げられた。
そこから這い出ずるのは、細長いどこまでも伸び続けそうな黒い手と腕。
暗黒一色になった地面から悍ましい、まさに怨霊の叫びのような声を耳にして、アリスは脳内でけたたましい警鐘を鳴らすも、すでに両脚はそこから湧き出てくる黒色の腕に絡まれ、手に掴まれた状態で、逃げることは不可。
氷の壁はもちろんのこと、倒れている最中だった樹木さえ、ゴブリンに当たる前に黒色の手に掴まれてしまう。
そして、術者を除いた全てが地面に沈み込む。
「これは――、地獄へ強制的に逝かせる魔術!?」
「キャハハハハハッハ! オレサマのことをただのゴブリンだと侮ったか? オレサマはゴブリンの中でもエリート中のエリート! 闇属性の魔術なら、詠唱破棄でSランクを使えるんだヨォ!」
徐々に闇と化した地面に溺れていくアリス。足は完璧に闇に飲まれていて、今はもう膝上まで完璧に沈んでいる。このペースだと残り1分もしないうちに頭の上まで、全身、黒色に浸かってしまうこと必至だ。
Sランク闇属性魔術【万象の闇堕ち】。これを無効化する手段は【零の境地】以外に存在しないと言われている。この魔術は地面を地獄の入り口に変容させるという効果を持つのだが、それゆえに、地面を魔術による攻撃で破壊しようとしても、その攻撃ごと闇に飲まれてしまう。鳥の獣人である鳥人なら羽をはためかせて空中に逃げられる、と、考える人もいるが、しかしそれでも、飛び立つ前に羽を黒色の手で掴まれてしまうだろう。
現にアリスの脳内にも、この魔術を無効化するストックはない。
アリスは【万象の闇堕ち】を無効化することを諦める。
しかし――、
「この戦い、私の勝ちね」
「アア? なに強がってんだ?」
清々しいほどカッコ良く笑うアリス。この瞬間、彼女は自分の勝利を確信した。
そう、【万象の闇堕ち】を『無効化』することと『攻略』することは同義ではない。
だが、現状はなにも変わらず、徐々に、しかし着実にアリスの身体は沈んでいき、ついに股間、腰、胸部まで影に溺れてしまう。
否、否っ、否ッ! アリスは虚勢を張ったのではなく、待っていたのだ。
一瞬でもタイミングがずれたら取り返しが付かない状況の中、極限的な焦燥感に急かされながらも、心の中で、まだ往ける、まだ早い、まだ大丈夫と、繰り返し唱える。
まるで、自分で自分を強く信じるように。
そしてアリスが首まで飲み込まれた、その刹那、ついに――、
「ストック解放! 【我が居場所を貴方に、貴方の居場所を我に】!」
「――ハ?」
今の自分の実力では1つしかストックできない、もう1つの切り札。空属性魔術。
アリスがストックを解放したのと同時、彼女とゴブリンの居場所が入れ替わった。
結果、アリスはつい1秒前までゴブリンが立っていた【万象の闇堕ち】の中心点、術者のために用意された安全領域に立つことになり、翻って、いつの間にかゴブリンは漆黒に溺れてしまうことになる。
しかも、アリスが狙ったのはそれだけではない。
「ゴブリン――、小鬼――、小さい鬼――、『身長差』を考慮して、私の首まで闇が迫っている状態で居場所を入れ替えれば、あなたはもう、闇に入った1秒目の段階で、全身が飲み込まれるはずよね」
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