ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

4章2話 恋人と婚約者と妹、そして戦う覚悟(2)



 一方で、別荘ごと内部にいる住人たち焼死体にしようとしたアサシンは、自分の炎属性の魔術を維持したまま、並行して別の衝撃魔術を撃ち込んでいた。その都度、大気中の魔力を崩壊させるような、まるで巨人の突撃のように圧倒的な衝撃波が周辺を蹂躙する。

 冬ということで白い雪が深々と降っていて、足元には雪が数十cmも。

 しかし当然、炎の周辺約10mはその灼熱によって一切の目に見える水分がない状態に。

 また、アサシンに命令されたオーク、ゴブリン、人型スライムも、自分が有する殺人級の魔術で結界を壊そうとしていた。
 爆音に次ぐ轟音に次ぐ破壊音に次ぐ衝撃音。世界中の戦争の全ての音をこの一ヶ所に集中させたかのような絶望的な大音量。例えるならば、空気の振動だけで人を殺せるようなボリュームだった。

 まさに圧倒的にして一方的。攻撃は最大の防御の極致。

 このままこちらのペースなら、相手をジリ貧に追い込んで、自分たちの勝ちだ。

 自分たちの勝利をアサシンが確信した、その瞬間だった。

「なんだ、あれは……?」
「――――ッ」

 と、オークが野太い声で疑問を抱く。他のゴブリンとスライムも、似たような感じだ。
 しかしアサシンは違う。その、相手側の行動の意味を、真に正しく理解していた。

「キャハハハハハ、内側じゃなくて、炎の外側にもう1枚結界張ってどうすんだ!?」

 耳障りな声で哄笑するゴブリン。
 しかしアサシン――、

「違う、これで数秒後、炎は無効化される……っ」
「「「…………ハ?」」」

 3体同時に間抜けた声を出すオークとゴブリンとスライム。
 だが、事実、バッと全員で別荘の方を確認すると――、

「バカな――っ!?」

 ――3人は信じられなかった。しかし厳然たる現実として、別荘を囲んでいた炎は消滅する。

 そして、別荘の中から3人の少女が姿を現した。
 真意がわからない助言をしたリタは含まれていない。
 ロイの帰りを待つために戦うことを決意したシーリーンとアリスとイヴだった。

 3人は別荘から出てくると早々、音響魔術でどこが発生源か特定できない声を聞く。

『やるじゃないか、2枚の結界を作って、その隙間に炎を閉じ込めることにより、酸素不足を発生させて鎮火させるなんて』
「ちょっとうるさいよ」

 刹那、超新星爆発が発生した瞬間のごとき神々しくも暴力的な光がイヴの右手の平から放たれる。
 イヴが自分の少し斜め後ろに、詠唱破棄された【絶光七色アブソルート・レーゲンボーゲン】という超高等の光属性の魔術を撃ったのだ。それと全く同時のタイミングで、弩々々々々々々ッッ! と、神竜の咆哮のごとく世界に終焉をもたらすのではないか、と、錯覚するぐらいの轟音が、繰り返すこと7回響いた。

 Sランクの光属性魔術【絶光七色】――。その効果は、世界に存在する無限の光の性質を、たった1つの閃光に収束させて撃つというモノ。ヴァンパイアは日光に弱いし、知能が低い獣は火の光に怯え、雷の光は魔王軍に限らず人間などにも恐怖を与える。そのような世界に存在する幾千億の光の物理的から、魔術的から、精神的まで、全ての効果を持った万能の閃光を撃つという絶技であり、理論上、その七色の光を以って殺せない魔物はいない。

 そのSランク魔術を見て、敵はもちろん、味方であるシーリーンとアリスですら、刮目して額から汗を流してしまう。この少女はあまりにも神様の寵愛を受けすぎている、と。

 恐らく光属性の魔術の取り扱いなら、将来的にアリシアですら余裕で上回れるだろう。

 が――、

『遅い遅い、全然遅い。それでは、どれだけ強くて凄い魔術だとしても、いつまで経っても私に当たらないぞ』

 なんと光速の攻撃をアサシンは躱していた。次いで余裕綽々な声でイヴのことを煽る。

 だが、イヴはもうアサシンの挑発に乗らない。ただ静かに、無言で、睨むように周囲を見回すだけ。

 が、そんな挑発には乗らないものの、アサシンを消滅させることに集中し出したイヴの代わりに、この現状で一番気遣いの心を忘れていなかったシーリーンが叫ぶ。

「クリスさん! 結界の再構築をお願いします! マリアさんはティナちゃんのことを任せました! リタちゃんは、最終防衛ラインをお願いね!」

 叫ぶとすぐに別荘には結界が展開される。
 少なくともシーリーンはこの判断に間違いはないと思う。ティナは戦える状況ではないし、リタは悪い言い方になってしまうが、怪しい。クリスティーナは別荘の結界を維持するべきだし、彼女のブラウニー種としての特性上、家を出てしまえばスキルを使えないときている。そして、万が一、内部に侵入された場合、マリアの出番。

「さて、やるわよ、シィ」
「うん、アリス」

 先頭に立っていたイヴと並び立つように、シーリーンもアリスも前へ出る。その足取りに迷いも躊躇いも存在しない。彼女たちの心の強さを祝福するように風は吹き、満天の星々が綺麗な冬の夜に映える2人の金髪は、夜風に遊ばれてサラサラとなびいた。
 その宝石を溶かして糸にしたかような金髪と、空から降る雪の純白は、想像を絶するほど美しく、まさに神話に登場する戦女神のごとく。

 周囲には樹木だけで、隠れているのだから当然だが、一見しただけでは敵の姿は確認できない。だというのに、殺気は身を焦がすほど鮮烈にどこかから放たれている。
 敵の姿が見えないのに常時、殺気をぶつけられるのは非常に恐怖を感じることだろう。

 だが、それでも3人は正面の木々を睨み付けた。

 そうだ、そうだ、そうだ、と、愛する少年の帰還を待ち望む少女たちは繰り返し心の中で強く唱える。絶対にこの別荘を失うわけにはいかない。
 王都の寄宿舎にも同じことを言えるが、七星団の要塞との近さを考えれば、ロイが戦い終えて真っ先に帰ってくるとしたら、ここを置いて他にない。ならば、ロイが帰ってくるところを彼の不在中に失うなんて言語道断だ。

 私たちは『ここ』で待つ、最愛の少年の帰りを。

 だから待っているだけではダメだ。待つために戦わなければ。
 守らなければならない。傷つけられるわけにはいかない。

 なぜならば、約束したから。
 ロイは彼女たちに生きて帰ってくることを望まれて頷いた。
 だというのに、帰ってくる場所を壊されたら、本当の意味で帰ることができないではないか。

 いざ、開戦の狼煙のろしを上げよう。

「往くよ、シーリーンさん! アリスさん! お兄ちゃんが頑張っているなら、わたしたちも頑張らないと、だよ!」
「うん!」「当然ね!」

 決意を固める3人。彼女たちのに迷いはない。愛する恋人のため、愛する婚約者のため、愛する兄のため、少女たちは世界一透明な瞳をしながら、三者三様の覚悟をその胸に宿す。

 ロイはもちろん、自分たちだって死ぬわけにはいかない。
 自分たちも死なずに、別荘も守って、ロイが生きて帰ってくる。
 それが唯一無二のベストエンディングなのだ。

 一方で――、
「さぁ、饗宴きょうえんの時間だ! 魔王様のため、ソウルコードの改竄かいざん者を抹殺しよう!」
「「「――了解ッッ」」」

 魔王軍の連中も戦いの前口上を終わらせる。

 刹那、オークがゴッッッ、と、まるで大砲の弾のごとき速さで左側から突進してきた。よく観察すると、オークがいたと思われる地点にはまるでクレータのような凹みがある。積雪だけではなく、その下の土まで宙に舞い上げるほどの衝撃。そう、オークはただのスタートダッシュの一歩目で地面を抉るほどの脚力を振ったのである。

 オークは明らかにパワータイプの戦闘を仕掛けてくるように思えた。しかし、パワータイプであることとスピードタイプであることは、決して矛盾しない。両立は可能だし、むしろ、両立できない方が困難である。
 パワータイプとは筋力が段違いということ。そして脚の筋力が絶大ならば、それはスピードタイプとの両立を意味する。破壊力を充分に備えていて、かつ常人では及びも付かない速さを誇る。それは正真正銘、暴風の具現のような攻勢であった。

 畢竟、まるで地鳴りのような衝撃を以って、オークが3人を肉薄に。

「アリス!」
「わかっているわよ!」

 シーリーンが一番左側にいたアリスに対して一喝する。
 瞬間、左に向き直ったアリスの目の前に突然、超々巨大な横長の長方形のクレータが出現する。クレータは出現したあとも積雪ごと地面を沈ませ続けて、その魔術でオークを捕らえることに成功する……かと思われた。

 しかし――、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

 野生的で獰猛な雄叫びが別荘のある丘全体に木霊す。
 瞬間、オークは突進しながらアリスの展開した魔術をほんの30cm目の前にして、常人なら筋肉が縦横無尽に千切れるほど無茶苦茶な、強引なサイドステップを1回踏んだ。

 結果、オークは時速100kmに迫る勢いで突進していたのに、直角に、それもノンストップで曲がりきる。

 それでオークは90度で曲がったあと、己自身の反射速度の限界に挑戦するかのごとく、1秒と待たずに跳躍して、全身に遠心力を加えるように身体を捻り、回して、その岩石のように筋骨隆々な剛腕を一番近くにいたアリスに振った。


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