ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章9話 問いかけ、そして説明



 レナードと別れたあと、ロイは自分の所属する第37騎士小隊の隊長であるガクトと、要塞の内部で再会した。
 そうして、「君に用事ができた。少し付いてきてくれ」と、隊長であることを理由に命令されて、今、ロイとガクトは七星団の要塞の裏手にある森の入り口を少しだけ入ったところに移動することに。

 辺りは本当に痛いと感じるぐらい寂しかった。

 深夜の森の中は黒よりも暗い。だというのに、地面は一面、土が見えないほど雪に覆われて悲しいほど白い。北夜風に吹かれて森の木々の梢に茂った葉がザアザアと不気味な音を立てる。ロイもガクトも索敵の魔術をキャストしているものの、この時この場所で魔物と遭遇しても、王国の領土内とはいえ、なんら不思議に思えるようなものではない。そのぐらいの本能に直接訴えかけるような怖さであった。ロイなんかは、この世界なら本当に幽霊が出てもおかしくない、とさえわずかに身をブルッ、と1回とはいえ震わせるぐらいである。

 先行するガクトが、ふいに、途中で足を止めた。
 そして、クルッ、と、ロイの方に身体ごと向き直る。

「確認したいことがある。君は、洞窟のような暗闇の中、あるいは、今、夜の森のような闇夜の中、そういうところで視界をハッキリさせる魔術を長時間、使えないらしいな?」
「? はい? え、ええ」
「もう1つ、君の聖剣、エクスカリバーのスキルについてだ」

 一応、今、ガクトが光魔術を使っていて、限られた範囲ではあるが周囲の視界はハッキリしている。つまり、ロイはガクトの顔を見ているし、ガクトもロイの顔を見られる状態にある。

 だというのに、ロイはガクトの目に光を見出せなかった。
 少なくともロイが見る限り、ガクトの目はどこか死んでいた。

「ああ、騎士小隊の隊長として把握しておきたい、ということでしょうか?」
「そういうことだ」

 そういうことなら、と、ロイは自分の目の前にエクスカリバーを顕現させた。
 例のごとく、純白の光を放ち、色彩を付けられた黄金の風を轟々と流しながらの顕現であった。
 ガクトはそれを、死人のような無表情、表情筋が死後硬直を起こしたような無感動な顔で一瞥する。

「誰から聞いているかもしれませんが、ボクのエクスカリバーのスキルは『使い手の持つ、こういう剣があったら良い、強い、素晴らしい、そんなイメージを反映する』という能力です」
「――剣に対する理想を、剣自身が叶えてくれる、ということか」

 冷徹で静か、かつ、重い声でガクトは訊く。
 それに対してロイは流石に――、

「はい」

 ――と答えるしか他にない。
 すると、表情からは一切察することができないが、どうやら納得したらしく、ガクトはフゥ、と、一息吐くと次の質問に移った。

「それで――そのスキル、制限はなにかあるのか? 騎士小隊の隊長としては、できることよりも、できないことの方が知りたい。可能なことよりも、不可能なことの方に注意しておきたい」
「そうですねぇ……スキルの特性上、使い手、つまりボク自身がイメージできないことは反映されません。反映しようにも、元になるイメージがないんですから当然ですが。で、具体的にイメージはビジュアル、つまりパッとした見た目に左右されます」

「ビジュアル?」
「はい、人間って、少なくともボクは、なんですけど、なにかをイメージする時、その光景をイメージすると思うんです。聖剣って聞いて真っ先に聖剣の見た目じゃなくて、触った時の硬さをイメージする人は少ないでしょうし。料理は食べる物ですけど、シチューって聞いたらその味よりも見た目をイメージするじゃないですか。楽器にしたって、バイオリンって聞いたら、その音色よりもバイオリン本体を想像すると思います」

「なるほど、まぁ、人によってそういうのは十人十色だと思うが、君の場合はそうなのだな?」
「はい、だから一口にイメージを反映するといっても、『わかりやすい見た目』であることが重要です。聖剣の波動は見た目、かなり派手ですし、飛翔剣翼は一瞥しただけで斬撃が飛んでいるなぁ、ってわかりますし、同じく一回見ただけで、斬撃の四重奏は次元が屈折して聖剣の切っ先が4つに分かれたってわかります」

「確かにそのとおりだな。なら、追加でももう1つ質問しよう」
「はい」

「エクスカリバーでできる技、その全てを教えてほしい」
「まず、錬金術師の方々が聞いたら耳を疑うかもしれませんが、質量を変えないで重さを変えたり、重さを変えないで形を変えたりもできます。主に重要なのは重さを変えないで形を変える方で、剣を撃ち合っている最中に刀剣の長さを変えることで、トリッキーな剣術ができます」

「剣戟の最中に剣の長さを変える、か。つまり、騎士同士の戦いにおいて、間合いを狂わせるのが容易ということだな」
「そういうことです。あと、今言ったように、斬撃を飛ばしたり、次元を屈折させて刃を4つに分離させたり、剣圧を【魔術大砲】のように撃ったり、――他には、絶対に物を切断できるという効果をキャストしたり、――そして、エクスカリバーに悪影響を与える状態異常の無効化。これは簡単な話で、ニュートラルな状態のエクスカリバーを想像すればいいだけですから、実は一番簡単ですね」

 そう言ってロイが思い出したのはレナードと行った2回の戦いだ。
 あの時、レナードはアスカロンを使いエクスカリバーに異常を起こそうとしたが、ロイは『ニュートラルな状態のエクスカリバー』をイメージして、それを無効化した、ということである。

「それはつまり、エクスカリバーが斬れば魔術でさえ無効化できるということか?」
「あっ、いえ、そこまで便利なモノではありません。呪詛を流し込まれたりしてエクスカリバーの『内部』に異常が起きたらニュートラルな状態に戻せますが、魔力による弾丸とか、爆発魔術とか、魔術による雷撃の模倣とか、そういうのは、エクスカリバーの内部からエクスカリバーにダメージを与えるんじゃなくて、エクスカリバーの『外側』から、エクスカリバーを壊そうとするわけですよね? そういうのは無効化、打ち消しはできません」

「つまり、爆発魔術などを喰らった場合、聖剣が折れなくても使い手である君自身が死ぬ、ということもあるわけだな?」
「残念ながらそういうことになります」

「そして、その類の魔術が有効ということは、剣による斬撃や刺突、そういうのも有効だと推測するが?」
「はい、エクスカリバーのもう1つの特性は絶対に壊れないというモノなんですが、聖剣ではなくボク自身の技量不足で、格上の敵と戦うことになれば、相手の剣に押されたり、捌かれたり、究極的には落としてしまう、ということもあるでしょう」

 と、ここで2人の会話がストップする。
 ロイとしては質問されたことに全て正直に話したつもりだった。

 そして、ロイは今回の会話において、質問される側、つまり受け手である。ガクトから質問がこない以上、どうしても、なにかを追加で言っていいのか多少迷ってしまう。

 翻ってガクトは、口元を片手で隠して、なにかを考え込んでいる。
 その思考は、5秒、10秒、30秒と続き、だいたい1分ぐらいしてから、ついに終了。

 そしてガクトはロイに向かって――、

「よく理解したぞ、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク。魔術師ではないからそこまで精度が高くないとはいえ、ウソを見抜く魔術を使っていたが、その必要もなかったようだ」
「――えっ? なんでそんな……」

 すると、ガクトは腰の鞘から1本の剣を抜いて、告げる。

「では――殺し合いを始めよう」


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コメント

  • ノベルバユーザー366207

    手の内明かしすぎ

    1
  • ペンギン

    あー、やっぱりこうなりますか...
    なんか怪しいなぁとは思ったんですよね...まぁ、仕方ないことですが、とりあえずロイはいつも通り頑張ってください!

    1
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