ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章8話 不審者、そして不意打ち



 同時刻――、
 場所は七星団の要塞から遠く離れた、魔王軍の王国隣接ライン戦線の作戦会議室。
 そこには魔王軍の幹部である死霊術師、つまりネクロマンサーが座っていた。
 死霊術師の男を一番奥に座らせて、その右と左の両方に、U字型のテーブルの外側を囲むようにその側近が座る。

「スパイは上手いこと、ソウルコードの改竄かいざん者の守護者と、改竄者本人、つまり、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクと、その妹のイヴを切り離せたようだな」

 死霊術師は嗤う。
 彼の発言を補足するように、その側近が付け足した。

「はい、現在、ロイ少年は七星団の要塞の内部におり、その妹のイヴ少女は彼の別荘に、姉や友人やメイドたちといるそうです」
「――上々」

 ここまでは別に問題がない。
 むしろ比較的スムーズに事が運んだというものだ。

「では、作戦の概要を改めて確認する」
「「「「「――――」」」」」

「仮に今回の作戦が上手くいったとしても、次に控えている大規模侵攻を止める、というのは断じてない。それを踏まえた上で、今回の目的はロイとイヴを殺害することにある」
「「「「「――――」」」」」

「前回の会議ではロイに対して、不用意に藪をつつくな、蛇が出るぞ、と、言ったが、こうしてイヴと距離を上手く離してしまえばどうということはない。覚醒する恐れはないだろう」

 自分たちの知らないところで自分たちを殺す計画が企てられている。
 こんなに恐ろしいことは人間の生涯で滅多にないだろう。
 だが、そのような相手方の恐怖を知っていても意に介さず、死霊術師は続けた。

「重要度はロイよりもイヴの方が上だ。ロイを殺すよりも、守護者がいなくなったイヴを今のうちに殺しておく、という感覚で作戦に臨んでほしい。――フッ、当たり前か。実際に本物の姫というわけではないが、姫を狙っているのにその騎士を倒して満足してしまっては、本末転倒もいいところだ」

 つまり、イヴを殺してロイを殺さない結果がありだとしても、その逆、ロイを殺してイヴを殺さない結果は認めない、と、こういうことである。
 だが、今回の作戦において、敵側の登場人物がロイとイヴの2人だけであるはずがない。

「紛れ込ませたスパイのうちの1人にロイの相手をしてもらい、その隙にイヴを殺す手はずだが、あの別荘にはロイとイヴに近しい者たちも、今、滞在している」

 と、ここで、死霊術師の側近が彼に訊いた。

「その者たちはどうしますか?」
「かまわん、殺せ」

 ついに、今ここに、ロイとイヴだけではなく、シーリーン、アリス、マリア、リタ、ティナ、そしてクリスティーナにも、魔王軍の魔の手が及ぶことが確定してしまった。

 しかもなにが最悪かといえば、このことをシーリーンたちは一切知らず、ゆえに、ロイがいなくなって寂しい思いをしているとはいえ、別荘で比較的平穏な日常を過ごしている時に、唐突に、魔王軍が襲ってくるということだ。

 つまり、完璧な不意打ち。
 要するに、装備的にも、精神的にも、戦いに対する備えがない状態で抗わなくてはならない。

「作戦決行は本日の深夜、日付が変わった瞬間だ」
「「「「「了解」」」」」

「その瞬間に、ロイの方には七星団にいるスパイを押し付けて、別荘には遠距離アサルト魔術で火を点ける。ケース・バイ・ケースだが、あるいは倒壊でもかまわない。とにかくイヴを殺せ」
「「「「「了解」」」」」

「さぁ――宴を始めよう」

 …………。
 ……、…………。

 それから数時間後のことである。

 イヴが別荘のリビング、その薪をくべられた暖炉の前で、リタ、そしてティナとトランプをしていると、急に、脳に直接、イヤ、という感覚が湧き上がった。

 視覚は目の前のリタとティナを映しているし、聴覚は少し離れているところで話しているシーリーンとアリスとマリアの声を拾っているだけ。嗅覚はこの別荘の新築ゆえの木の香りを拾っているし、触覚は手に持ったトランプのカードと、座っている床の質感を伝えてくるが、別にただそれだけ。不快な感覚に陥る要素はない。味覚に関していえば、なにも飲食してないから、なにも感じない。

 まるで第六感のごとくなにかが脳にクル感覚。
 怖気、寒気、吐き気、不快感、そのどれもが中途半端なのに無視できないレベルで膨れ上がる。

「クリス」
「はい? なんでございましょうか、お嬢様?」

「……お外に、不審者がいるよ」
「「「「「「…………えっ……?」」」」」」

 イヴの指摘に他の6人は呆気のない声を重ねた。
 しかし、イヴは情報の追加をやめない。
 その追加された情報は、ここにいる全員にとって、等しく、最悪のモノである。

「この感じ……きっと、魔王軍の魔物だよ……っっ」
「ほえ!?」「――ッ」

 シーリーンが可愛らしい声を上げた瞬間、彼女の隣にいたアリスが索敵の魔術を発動させる。
 アリスのその様子を、他の全員は真剣かつ不安そうな表情で見守るばかり。
 で、次の瞬間、アリスの顔に明らかな戦慄が走る。

「え、ええ……本当にいたわ、この別荘の敷地内に4人の不審者が……。幸いにも、敷地内の木の陰にいるだけで、別荘の中には侵入していないけれど……」
「普通の来客なら、やましいことがないのなら、普通にドアをノックするものでございますよね?」

「それに、普通の来客なら、木の陰に隠れませんからね……」
「い、一……度…………、……に、4人……も、一、斉に来、客……とい、……、うのも、変、だと……、思……いま、す」

 声が震えているアリスに、疑問を呈するクリスティーナ。
 マリアの声にはわずかな不安が滲んでいて、ティナに至っては完璧に泣いてしまう一歩前だった。

 そして、その別荘の中の様子を遠視の魔術で覗く輩が4人。
 言わずもがな、魔王軍の魔物だ。

 高い腕力を誇るオークが1体、テクニックタイプのゴブリンが1体、いかにも物理攻撃が効かなそうな人型スライムが1体、そして暗殺者、つまりアサシンのクラスが1人。

「意外だな、気付かれたようだぞ」

 と、ゴブリンは底意地が悪そうに歪んだ笑みを浮かべる。

 魔術による念話だった。

 それに反応したのは、この4人の中でリーダー格のアサシンだった。

「問題ない。隠れていたのは相手に戦いの準備をさせないためだ。今回の作戦の最高司令官もそのように言っている。究極的には、相手に準備をさせないなら存在がバレてもかまわない、と」
「ならどうする?」

 と、太くて重い声でオークがアサシンに問う。
 そしてアサシンは――、

「決まっている。存在がバレてもまだ準備できていないのならば――ッッ、今のうちに戦闘を開始すればいいだけのことだッッ! 往くぞ! 灼熱の窯に溺れる燃える罪人! 焼かれて、爛《ただ》れて、焦げ尽くして、その先の虚無に刮目せよ! いつか完全に燃え果てるまで、その魂に烙印を! 【絶火、アブソルートフランメ・ウィ・エイン・焦がすシャルラハロート・ブルーメン・緋華の如くディ・デン・ヒンメル・ヴァーブレンツァ】!」

 ――アサシンは、木組みの別荘に向かって火属性の魔術を撃った。


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