ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章6話 ナイショ話、そして可能性(2)



 ついに、ロイはこのように切り出す。

 例え学生だったとしても、ロイはアリシアとエルヴィスから一定の信頼を受けている。
 そんなロイが改めて前置きをして、他ならぬ特務十二星座部隊の自分たちに伝えておきたい話がある、と、そう言うのだから、2人とも、喋るのが怖くなる感じではないものの、真面目な表情かおになって、視線でロイに続きを促した。

「ボクは、もともとこの世界の住人ではありません」
「――は? ロイ、その……大丈夫か?」

 いがみ合っているとはいえ、この突拍子もない発言に、あのレナードでさえロイのことを、言葉を選ぼうとして、しかし最終的には一部言葉を濁して、心配してくる。

 だが、アリシアとエルヴィスはそんな心配なんてしていない。
 むしろ、逆、だった。

「レナード、黙れ。これは、今日一番で重要なことになるぞ」
「うふふ、さぁさぁ、面白くなってきましたわね」

 あの生意気なレナードを、黙れ、と、たった2文字で黙らせるエルヴィス。
 かの有名な聖剣使いにそう睨まれて、流石のレナードだとしても注意されたとおりに黙るしかない。
 翻って、アリシアは先刻までとは打って変わり、微笑みを浮かべたままだったが、まるで全てを見透かすようなで、ロイのことを推し量る。

 そんなオーバーメイジとキングダムセイバーを対面に、ロイは語るべきを語った。

 …………。
 ……、…………。

「――と、以上が、ボクの持っている情報の全てです」
「マジ、かよ……」

 ありありと愕然をその表情に呈しながら、レナードは動揺を滲ませた声音で呟く。
 で、アリシアはますますにこやかになって、エルヴィスは静かに目を瞑って腕を組む。

 それで、いくらかの時が経っただろうか。
 誰も喋らないがゆえに、かなり長く感じたその時間、その流れを再開させたのは、瞑っていた目を開き、組んでいた腕をほどいたエルヴィスだった。

「まず、最初に言っておきたいことがある」
「はい」

「よくオレたちにそれを伝えてくれた。不安もあっただろう。緊張もあっただろう。だが、それでもオレとアリシアを信頼して秘密を打ち明けてくれたことに、オレは最上の礼を述べる。ありがとう」
「私も似たような感じです。ロイさんが明かしてくれた秘密は、誇張抜きに世界の根底に関わる情報です。今後、魔王軍と戦う時、どのような形になるかはわかりませんが、きっと、役に立つことでしょう」

 友達ならともかく、七星団の人間にこのような秘密を明かすことを、今まで躊躇っていたロイ。あまりことを大きくしたくなかった。七星団、つまり国王直属の団体の人間に伝えたら、本気で王家や貴族や七星団の上層部が混乱すると思った。

 これを察して、2人ともロイに優しい言葉を告げる。

 が、2人が優しい雰囲気を出していたのは、そこまでだった。
 次の刹那、アリシアもエルヴィスも、物事を慎重に考える、まるで政治家のような双眸を浮かべる。自明だ。特務十二星座部隊のメンバーにはかなり強い発言力がある。それに所属する2人がこの情報をどうするかは、非常に繊細なことだった。

「さてさて、エルヴィスさん。私はこのことを、特務十二星座部隊の他の誰にも公言せず、貴族や大臣はもちろん、七星団の最上層部にも秘密にしておいた方がよろしいと思いますわぁ」
「そうだな、仮に誰かに公言するとしたら――議論する間もなくエドワードだけだろう」

 瞬間、エルヴィスはレナードに視線を送った。
 対してレナードもそれに頷く。
 無論、それは、お前も決して今のことを誰にも言うな、というアイコンタクトである。
 つい先ほどまで疑い半分だった彼も、もう、信じざるを得なかったのだ。

「アリシア――」
「わかっております、エルヴィスさん。ロイさんが告白している最中に、すでに私が持ちうる最高の音響を司る魔術を発動して、このナイショ話は誰にも聞かれないようになっています」

「そうか、なら次にロイ」
「は、はい!」

「お前がもともとこの世界の住人ではない。その神様の女の子とやらに転生させてもらった。この事実から派生する全ての事実、これについてオレたち以外に誰に話した?」
「恋人、婚約者であるシーリーンとアリス、妹と姉であるイヴとマリア、イヴの友達でボクのことを本物の友達と思ってくれているリタって女の子とティナって女の子、最後に、ボクの身の回りのお世話をしてくれるメイドのクリスティーナで全員です」

「そうか」
「あと――ボクが自分から告白したわけではありませんが、国王陛下には、隠していたのに看破されました」

「看破された、か。それは逆に幸運かもな。基本的に情報の伝達は一番下の人間から、中間の人間を通過し、大臣なんかの上層部を経て、国王陛下に届くようになっている」
「そうですわね。で、下から上に情報が流れるにつれて、その流れるべき情報は中間の人間や、上層部の大臣によって取捨選択されます。これは長年続いている組織の体制であり、断じてダメというわけではありませんが――」

「――ああ、これに関して言えば、中間の人間や大臣をふっ飛ばして、直接、国王陛下に届けられて一切の文句なしだろう。あのお方は聡明だ。オレたち以上に、この機密事項を丁寧に扱ってくれること間違いない」
「だからこそ、私とエルヴィスさんがしくじるわけにはいきませんねぇ」

 すると、エルヴィスがロイに視線を合わせてきた。

「ロイ、わかっていると思うが、もうこれ以上、今のことは誰にも喋ったらいけない。自慢したくなる気持ちもわかるが、先ほど自分で挙げた7人以外に、もう友達が増えても喋ってはいけない」
「はいっ、わかりました」
「同様にレナードも、だ」
「ああ、わかりました」

 すると、今度、エルヴィスは腕を組んで目を瞑るのではなく、肘をテーブルに付き、片手で口元を隠すような姿勢になった。まず間違いなく、再び考え事をしているのだろう。
 正直、このエルヴィスが考え始めたタイミングで切り出すのは気が引けたが、腰が引けつつも、ロイは彼に訊いてみることにする。

「あの、エルヴィスさん」
「ん? どうした?」
「伺いたいことがあるのですが、ボクがこれ以上、友達っていうか知り合いが増えても今のことを広めてはいけない、っていうのは充分理解できます。でも、なぜ他の特務十二星座部隊のメンバーにも隠すのですか?」

 瞬間、エルヴィスの顔に陰りができる。

「簡単なことだ。ロイの妹、イヴが察知するまで、特務十二星座部隊、その中でも光属性最強のカーディナルであるセシリア、次いで、運命や神の意向ですら感知できるイザベル、彼女らでも魔王軍の闇の魔術の残滓に気付かなかった」
「つまり、私たちは出し抜かれた、ということです」

「ぅん? えっと……それは、先ほど、あの円卓の間で話し合って、すでにみんなが痛感したことですよね?」
「なら、ロイ、ついでにレナード、お前たちに簡単なクイズを出そう」

「「クイズ?」」 と、ロイとレナードの声が重なる。

「特務十二星座部隊が出し抜かれたということは、特務十二星座部隊と同じレベルの魔術師が存在しているということだ。では――、ここで問題、以上の条件を踏まえて、特務十二星座部隊レベルの魔術師に心当たりは?」

「あ……、それって……」
「おい……待てよ……」

 ロイとレナード、彼らは2人揃って絶望した。
 そんな少年たちに、エルヴィスは努めて冷静に言い放つ。

「あくまでも可能性の話だ。オレの伝えたいことが正しい可能性もあるし、間違っている可能性もある。つまり、両方、どちらの可能性も捨てきれないということだ。それを前置きした上でのことになるが――」

 一回、エルヴィスは息を深く吸って、深く吐いた。
 自分自身すらも落ち着かせるような動作をして、エルヴィスは答え合わせを。

「――簡単な理屈、特務十二星座部隊レベルの魔術師は、特務十二星座部隊の中にいる」


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